Happy Christmas
(War Is Over)

introduction

 ジョン・レノンは言った。弱い者にも、強い者にも。そして裕福な者にも、貧しい者にも、クリスマスはやってくると。――皆がそれを望むのであれば。

 日頃より人の――神の創りたもうた尊ぶべき人間の――命を奪い生きている、イタリアはナポリを拠点に暗躍する暗殺者たちが、イエス・キリストの生誕――したとされる日――を祝うなど滑稽な話ではある。だが、少しも信心深さなど持ちえない彼らには、クリスマスがキリストの生誕を祝うものだという意識など微塵もなかった。彼らにとってクリスマスとはただの祭りであり、いつもよりも少し豪華な食事ができて、酒が飲めて、無礼講で騒いでいい日という認識しかなかった。そういう訳で、彼らにも世間の雰囲気に呑まれてその日の夜を楽しみたいという気持ちは当然起こった。強く、貧しい彼らも、クリスマスを心待ちにしていたのだ。

 そんなパッショーネの暗殺者チーム――家族同然にアジトで日々を過ごす彼ら――には、暗黙の了解があった。

 聖夜にアジトを離れるべからず。

 それはつまり、クリスマスは家族と過ごすべきであるという掟だ。彼らには、世間一般で言うような“家族”と呼べる親族はいない。当然、彼らも血の通った人間に違いないので、父母や祖父母等の血縁者はいるわけだが、それらには既に縁を切られているか、死んでいるかのどちらかだった。だから彼らにとって、家族とはつまりチームメイトたちである。要するに、恋人なんか作って恋人の家に転がりこむ、なんてことは絶対に許されないのである。

 リゾット・ネエロが、チームにおける絶対の法である彼が決めた訳ではない。別に誰が決めたという訳では無いのだ。クリスマスに女にプレゼントを贈ったり、贅沢をさせてやれる金も無く、モテない――一部を除く――男たちしかいないチームの中で、自然発生的に醸成された暗黙のルールだ。いまだかつて、その掟が破られたことはなかった。

 しかし、今年は様子がおかしかった。

 毎年、この頃を迎えると、銘々に好きな食べ物――近所で美味いと評判のオードブルやパネトーネ、自分たちで簡単に作ったもの――と大量の安酒を準備してリビングへ持ち寄った。準備は概ね一週間前から始める。その準備に、どこかうわの空で参加する者がいたのだ。まるで、アジトでのパーティなど、どうなろうと知ったことではないといったふうに。

 それはそうと、暗殺者チームはやがてアジトにてクリスマス・イヴ当日を迎える。

 ただ一人、アジトからそそくさと抜け出そうとするまでは、いつも通りの平和なクリスマス・イヴだった。

あなたのお名前は?



アジトを抜け出そうとしているのは誰?

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