どんな変態にだってクリスマスはやってくる。百歩譲ってそこまでは許すにしても、メローネのような桁外れの変態にガール・フレンドがいて、よもやクリスマスの夜にアジトを離れその女と過ごそうとするなど、メローネ以外の暗殺者チームの男達にとってあってはならないことだった。自らの沽券に関わる話だからだ。
だから皆、口々に去り行く彼の背に罵声を浴びせた。罵声を浴びせたところで彼らの沽券がどうにかなる訳では無かったが、せめて声を上げて一時的にでもストレスを発散するくらいはしないと、精神衛生上よろしくなかったのである。いつものように声を荒げるだけでなく、ビール瓶を投げつけてやりたい気分にまでなったギアッチョだったが、中にはまだ酒が残っているのでもったいないしやめた。そして瓶を勢いよく呷って、残りを飲み干そうとした。
「そもそもよ、おまえにオンナがいるなんて初耳なんだが、一体どこの物好きだ!?痴女だろどうせ!!」
ホルマジオが言った。
「おい、痴女とか言うな失礼だぞ」
「いや、そもそも実体がともなったそれかすら怪しい」
イルーゾォが言った。
「ちゃんとともなったそれだ。オレを二次元の萌キャラにしか欲情できないヤツみたいに言うのやめろよな」
「そうだぜイルーゾォ。こいつはちゃんと、道行く生きてるオンナを見る度に舌なめずりをしているんだからなァ」
ギアッチョが言った。彼は決してメローネの人格をフォローしているつもりは無かったが、メローネには相方のその言葉がフォローのように聞いて取れたらしい。
「そうだ。さすがギアッチョ」
「いや、ちゃんとって何だ。一体何がちゃんとしてるんだ」
プロシュートは思った。ギャングとはいえどもフェミニスト寄りの思想を持った彼にとっては、女を女とも思わず殺しの道具として“消費”してしまうメローネという存在が解し難い。そんな男に何故オンナができるのか、それもまた解し難かった。イルーゾォが、ホンモノの人間では無いのではないか――つまりは、妄想の産物とか、彼の能力で作り出した実体のともなった人型ではあるが人間では無い何かとかだ――と勘ぐるのは最もで、メローネという男に、女を慈しみ愛するなんて感性が備わっているはずがない、というのがチームにおけるメローネという男についての統一見解である。
むしろここまで来ると、その女がどんな女なのかが逆に気になってくる。皆は聞きたいような、聞きたくないような、というどっちつかずな思いを抱き、黙ってメローネをじっと睨みつけていた。
一方のメローネは、なんだかんだイジられつつもガール・フレンドについて探りを入れられるのは嫌ではないらしい。彼は、背後で息巻く男たちに「もう質問はないか?」とでも言うような目を向けた。
「……写真、とかあんのか?」
ホルマジオが恐る恐る聞いた。するとメローネは、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに懐をさぐり、長財布の中から一枚の写真を取り出した。ホルマジオに続いて、イルーゾォ、そしてギアッチョが席を離れ、メローネを取り囲んだ。
そして皆が絶句した。三人の様子を遠目にチラチラと見ていたプロシュートは眉根を寄せた。
「おい。何だ。なんで皆黙って――」
「それじゃあな。早く行かないと、約束の時間に遅れてしまう」
メローネはどこか誇らしげな、そしてとても癇に障る微笑を浮かべた後アジトから出て行った。例の三人はその場で固まったまま微動だにしない。
ペッシがグラスを傾け、注いだシャンパン――に見せかけた炭酸飲料――を一口飲んで言った。
「なんだ、何があったんだ……?」
兄貴に倣って大人しくソファーに腰掛けたままでいようと思っていたものの、こんなことなら写真を見に行けば良かったとペッシは後悔していた。
「人間だった」
ホルマジオが呟いた。メローネが交際しているという女が、ちゃんと人間だったということだろう。
「で?どんな女だよ」
プロシュートの問いを受けても、写真を見た者は皆口ごもったままだった。だが、やっと事実を受け入れる気になったのか、それとも見たものがどんなだったかを口にすることで、何とか事実を受け入れようと必死になったのか、とにかくホルマジオが再度口を開いた。
「美人だったんだよ」
プロシュートは、いや、まさかそんなことがある訳が無いと首を横に振ると、人差し指を突き出してホルマジオへ差し向けた。
「お……おまえの言う美人が、オレにとっての美人とは限らねーからな」
「それはそうかもしれねー。……だが、イルーゾォの顔見てみろ。こいつも、あんな変態野郎にあんな美人のガール・フレンドがいて、オレにそれがいない意味が分からないって顔でゲッソリしていやがる。ギアッチョなんか、沸点突き抜けて逆に白目向いて黙ってるぞ。……まあ、この高飛車おさげ野郎とすぐにプッツンするやかましいモラハラ男に美人のガールフレンドがいないのは当たり前のことだがな」
「……現実を受け入れられなさすぎて、おまえの悪口にすら反応できねーでいるみたいだな」
女の好みはそれぞれだろうが、その三人が皆美人と思うのならオレにとってもそう思える所がある見た目をしているということなのだろう。プロシュートもまた、写真を見に行かなかったことを後悔していた。
そして、ある程度考えることくらいはできる精神状態のホルマジオは思った。
いくら見た目が良くとも、中身までいい女だとは限らない。むしろ、外見がいいのにメローネとしか付き合えないというのだから、一般社会には馴染めないようなクセの強さがあるとか、性格がめちゃくちゃ悪いとか、どうせそんなんだ。
……いや、もうよそう。聖夜を迎えた自分にガール・フレンドがいないからって、メローネのガール・フレンドを扱き下ろして自分の心を慰めるなんて、惨めなことはやめよう。余計悲しくなるだけだ。むしろ、祝福してやるのだ。あんな変態のメローネを愛してくれてありがとう。そして良かったら、来年はメローネでなく、このオレと聖夜を共にしないか?と。
「いつか絶対寝取ってやる」
「ホルマジオが何かサイテーなこと言ってる……!」
ペッシが呟いた。
War is Over
メローネは、アジトから二キロメートルほど離れた繁華街に来ていた。クリスマスとは言えどもある程度の人通りはあった。商売女を連れて歩く男や、連れ立って壁を作るようにして歩く男たちの合間を縫うように、メローネは足早に目的地へと向かう。
店が軒を連ねる大通りから薄暗い小道へと入る。その突き当りがメローネの目的とする場所だった。二階建の家屋の前で足を止め、薄暗い路地に橙色の明かりを漏らす二階の部屋を見上げた。一階は質屋で、建物に向って左側に、二階へと伸びる錆びついた鉄骨階段がある。彼はその階段から例の部屋へと向かった。
階段を登りきるとすぐ向かいに建物の扉がある。ガールフレンド――・――と交際を始めてから、もう幾度と無く訪れた彼女の家の玄関口だ。扉をノックして待っていると、開いた扉の向こうから満面の笑みを浮かべたの顔が覗いた。
「いらっしゃい、メローネ。待っていたわ」
「やあ、。今日この日が待ち遠しくてたまらなかった」
「ええ。私もよ。さあ、入って。夕食の準備はできているわ」
メローネは家の中へ入った途端の体を翻して、彼女が閉じた扉にはりつけにした。片肘を彼女の頭上に打ち付け、熱い眼差しを彼女へ向け、長い舌を唇から覗かせいつもの舌なめずりを済ませると、耳元へ口を寄せて言った。
「なあ、。オレは夕食なんかより、君が食べたい。今、すぐに」
ごくりと喉を鳴らし盛んに滲み出しはじめた唾を飲み下しながら、鼻先をの耳の裏側に差し込んで、ゆっくりと深く空気を吸い込んだ。
「ああ……なんていい香りなんだ、。たまらない。……なあ、いいだろう?」
薄く開いた上と下の唇の間から、唾液が垂れ流れそうになる。メローネはじゅるりと音を立ててまた唾を飲み下した。唇をのそれに近づけて、彼女の答えも聞かない内に目を閉じキスを迫る。だが、すべからく受け入れられると思い込んでいたそれは、の三本の指の腹でそっと遮られた。
「だめよ、メローネ。ごはんはちゃんと食べなきゃ。いつも言っているでしょう?私がそばにいない時でも、三食しっかり食べることって」
はメローネが着ていたコートのジッパーをゆっくりと引き下げ彼の前面をあらわにすると、シャツとズボンの間に手を滑り込ませ、脇腹をまたゆっくりと撫で上げた。
「これ以上痩せてしまったらどうするつもり?」
「……ッ、そうやって、またオレを……焦らすんだな、君は」
「好きでしょう?」
は意地の悪い笑みを浮かべてメローネの体側から手を離すと、後ろ手にかちゃりと鍵をかけ、彼の背後に回りコートを脱ぐよう促した。促されるままメローネがコートを脱ぐと、彼女は入り口の傍に置いたコートハンガーにそれを掛け、そのまま家の奥へと向かってしまった。
メローネの狩猟本能を刺激するように、彼女の纏ったシフォンのワンピースの裾がふわりと揺らいで扉の向こうに消える。彼はまた何度目かもわからない舌なめずりの後、ごくりと唾を飲み込んでの後を追った。
ダイニングテーブルの上には、アジトではまず見ない手の込んだ料理――皆金が無いので自炊はするのだが、マンマ直伝のレシピが頭の中にあるわけでもないので簡単な物しか作らないのだ――が所狭しと並べられていた。ひと際目を引いたのは、テーブル中央に置かれたサルトゥ・ディ・リーゾ――シフォンケーキの型などにトマトリゾットを敷き詰め、間に小さな素揚げにした肉団子やそら豆、チーズなどを挟んでオーブンで焼き上げるシチリアの家庭料理――だ。シチリアだけでなく、これに似た料理は南部から北部にかけてイタリア全土に家庭料理として広まってはいる――パスタやパイ生地で包んだり、中に詰めるものを米でなくパスタにしたりなど色々ある――が、メローネがそれを目にしたのはほとんど初めてだった。
「これ、全部ひとりで用意したのか?」
はにっこりと笑って返答した。
「もちろん。あなたにお腹いっぱい食べて欲しくて」
今日と言う特別な日に、自分だけの為を思って、これほどまでの温かな手料理を用意してくれたというのだろうか。ならばこんなに幸せなことはない。込み上げてきて、メローネは泣きそうになるのを必死に堪えようとした。
「あら、どうしてそんなに浮かない顔してるの?」
「違うんだ、。オレは嬉しくて……」
「……そんなに喜んでもらえるとは思わなかった」
はメローネの頬を愛し気に撫でた後、彼の背を優しく押して椅子のそばへと誘った。
「さっき、夕食なんかよりって言ったの……悪かったな」
「気にしてないわよ。あなたに求められるのだってとても嬉しいんだから。さあ、乾杯しましょう」
向かいの席についたは、テーブルの上のボトルを手に取り、空いた細身のシャンパングラスにプロセッコを注いだ。
暖かな部屋で愛する女を前に手料理を食べ、会話を楽しみながら酒を飲む。片やチームメイトの面々は、隙間風で冷えきったほら穴のようなアジトのリビングで、料理らしい料理もろくに食べないで安酒を呷るのだ。彼らがメローネの今の様子を見れば皆が憤死しそうなものだ。そんな優越感や、を一目見た時から沸き起こり続けている情欲や、筆舌尽くし難い美味な料理を食べて起こる幸福感とで心の中をめちゃくちゃにしながらも、メローネは何とか夕食を済ませた。
夕食を全部食べないとオアズケ状態は解除されない。別にだからと言ってとの食事の時間を義務的に思っていたわけではないし、彼女の手料理は最高に美味かったのだが、彼女本人を味わいたいという思いはもうずいぶん前から変わらないし、それが彼の念頭にあることなのだ。
メローネははやる気持ちを抑えながら、小さなプレゼント箱を取り出した。
「わあ、それなあに?メローネ」
「君にプレゼントだ」
「嬉しい!何かしら……」
紺色の長方形の箱に金色のリボンが巻かれている。はニコニコと嬉しそうにリボンを解き、箱を開けて中を確認した。中に入っていたのは直径三センチメートルほどの銀色の玉二つだった。黒いヴェルヴェットの型枠にはめ込まれたそれをよく見ると、二つの玉は黒いシリコン製の紐でつなげられている。大きなストラップ・アクセサリーのようにも見えるが、まさかメローネがそんなものを女に買って贈る訳がない。そして、一般的な女性であれば、箱を開けた瞬間に小首をかしげるだろう。一体これは何なんだ?と。
だが、は違った。
「わあ!私、これ欲しかったの!」
「純銀製だから、なかなか重くて存在感があると思う。重いから上級者向けだと買う時店主に言われたが、きっと君なら使いこなせると思ったんだ。……会えない間、これをオレだと思って欲しい」
「なんて素敵なプレゼントなの?ありがとう!」
がメローネに贈られたプレゼントとは何なのか。いい加減明らかにしろとお思いだろうからお伝えしよう。
プレジャーボール。女性の膣の中に入れて使用するアダルトグッズである。聞こえのいい説明だけすれば、膣圧改善とかに使うトレーニンググッズだ。もちろん、それ以外の用途で使うこともできる。それこそ、セルフプレジャーのために女性がひとりで使ったりするし、男性が女性の膣に挿入し、オアズケを食らわせてやるとか、そういう使い方だってできる。メローネが後者のような使い方を想定しているかどうか定かでは無いが、とにかく、へのクリスマス・プレゼントは大成功をおさめたようだ。
「で?」
メローネは舌なめずりをして、を熱のこもった視線で見つめた。
「君はオレに、何をプレゼントしてくれるんだい?」
は銀の玉を手に取ると、ストラップを持ってシャンパングラスの中のプロセッコに銀の玉を浸した。
「ああ……メローネ。あなたの唇がとっても甘くておいしいのは知ってる。だけど、そうやって何度も何度も舌なめずりをするの、やめてっていつも言っているでしょう?」
は糖度が高めの発泡酒に濡れた玉を掲げ一番下の玉に舌を這わせ口に含むと、舐った後に音を立てて口から離した。メローネはのエロティックなしぐさに見入っていた。どうしようもない渇望に身を焦がし、せめてもとまた喉をごくりと鳴らして唾を飲み下す。
「そうやって舌なめずりされると、私もあなたが、どうしょうもなく欲しくなるのよ。我慢できなくなっちゃうでしょ」
「我慢なんかしないでいい!はやく、はやくくれ!オレだって、もう、我慢できないんだッ」
「あなたへのプレゼント。……言わなくても分かるわよね?もうずっと前から、約束していたものね」
は椅子から離れメローネの傍に寄ると利き手を差し出した。
「行きましょう。寝室もバッチリ、準備を済ませてあるの」
メローネは何も言えなかった。欲しくて欲しくてたまらなかったものが、今夜やっと手に入る。そんな幸せな聖夜が、長い夜が、これから始まるのだ。幸せで、幸せ過ぎて、彼は何も言えなかったのだ。
「なんだ。メローネはいないのか」
リゾットはリビングに下りてくるなり、酒に酔った皆の前で声を上げた。ほとんど皆が聞いていなかったが、プロシュートだけが彼の声に反応を示す。吸っていたタバコの火を灰皿で消すと、彼の方へ振り向いて言った。
「オンナの家に行くって、もう一時間前に家を出たぜ」
「オンナ……?」
オンナという言葉に、ほろ酔い状態のホルマジオが反応した。
「おいリゾット、知っていたかよ!?アイツ今、ガール・フレンドの家にしけ込んでんだぜ!?ありえねーだろ。帰ってきたら死刑だ、死刑。あんたのメタリカで血祭りにあげてくれ。頼む」
「掃除が面倒だ。却下」
リゾットはいつものお誕生日席、もとい、リビングの上座に腰を下ろすと、並べられたピッツァやらブルスケッタやらには目もくれず、酒に手を伸ばした。
「そのオンナとやら、どんなか聞いたか?」
リゾットがオンナに興味を示すなんて珍しい。ホルマジオは物珍しそうに片眉を吊り上げて答えた。
「写真を見たぜ。それが、すげぇ美人だったんだよ」
すげぇ美人と聞いた瞬間、ギアッチョが手に持っていた空き瓶を部屋の隅に投げて割って喚き始めた。イルーゾォが暴れ出した彼を面倒くさそうに取り押さえにいく。
「風貌は?」
「何だよ、気になんのか?」
「少しな」
ホルマジオがその女性の風貌について話し始めた。髪、肌、目の色を伝え終わり、胸の大きさがどうと話し始めたところでリゾットはもういい分かった、と言った。
「何を気にしてんだ」
プロシュートが言った。リゾットは少しだけ躊躇った後、どうせ明日には忘れているだろうと思い、酒の肴を提供するつもりで答えた。
「……パッショーネが前々から引き抜こうと企てている女がいてな。その女、建前上はただの質屋なんだが、彼女を満足させるだけの金を払えば、どんな情報でも買うことができる。だが、こっちも金が惜しいので、引き抜こうと考えたわけだ」
一聴、メローネのオンナに何の関係も無さそうな話が始まった。だが、何だか引き込まれる話の流れ――夜に怪談の類を聞かされているような雰囲気――だ。憤慨を続けるギアッチョ以外の皆がリゾットの話に黙って耳を傾けた。
「引き抜こうと、情報管理チームの人間がオンナの質屋に赴いた。だが、引き抜きは幾度試しても失敗に終わった。話をしても、いくら金を積んでも効きやしないので、連中は実力行使に出た。すると何の成果も上げられずに手ぶらで帰ってきた男たちが皆、口を揃えて言ったらしい。“ひどい目に遭った”とな。精気をぬかれたようにげっそりとしていて、その後一週間程度使い物にならなかったそうだ。一度情報管理チームのリーダーに、適性のあるものがいるならば協力して欲しいと、女の写真を見せられたことがある。殺しじゃあないなら他を当たれと、オレはその話を一蹴したんだが。……メローネのオンナとやらは、その質屋の女と風貌が一致している気がする」
「精気を抜かれる?適性?……連中は、オンナに一体何をされたんだ?」
「さあな。詳しくは知らん。だが、質屋に行って実力行使をした者は決まって、情報管理チームが情報収集の際拷問するのに使う手錠やら拘束具やら、普段常用していたはずのものに極度の拒絶反応を示すようになったとか」
リゾットの話を聞いていた皆が一様に目を剥いた。そしてホルマジオとイルーゾォの二人がにやけ始め、ホルマジオが言わずにはいられないと口を開いた。
「え、それってもう、何されたか分かりきってるよな?リゾットが口にしないならオレが言わせてもらうが、それ完全にSMプレ――」
「話が過ぎたな。とにかく、これっきりメローネのオンナのことは忘れろ」
「そんな超絶面白そうな話聞かせといて、忘れろはねーだろうがよ、リゾット。アイツ、今頃あのオンナに何かケツへぶちこまれ――」
「浮かれるな」
「ぎゃはははッ!!いや、あの変態ならよォ、適性しかねーだろ!!クッッッソ笑える!!帰ってきたら質問攻めにしてやろうぜ!!てめぇのケツの穴にはどれだけの大きさのモノが入――」
「忘れろと言っているんだ。忘れろ!」
リゾットはメローネにオンナがいると聞いて、何故そんな話を思い出してしてしまったのか。最近、暗殺者チームの者が例の質屋に出入りしていると、情報管理チームの者からリゾットへ連絡が入ったのだ。ただ質屋に用があるだけだろうと思っていたが、まさかあの女とそんな仲になっていようとは。
「――で?メローネに働きかけるように言うのか?あいつの言う事なら、あるいは聞くかもしれねーだろ」
リゾットはプロシュートに言われて、少しだけ考えるような素振りを見せた。
「いや。いくら誘っても気のないオンナを、おまえは無理やり連れて行くか?」
「……いいや。愚問だったな」
メローネもバカではない。むしろ、知能としてはチームの中でもずば抜けて高い信頼の置ける部下だ。オンナにチームや殺しの情報を引き抜かれそうだと察することはできるだろうし、口を滑らせるなんて事はまず無いだろう。――ただしそれは、オンナがスタンド使いで無かった場合に限るのだが。情報管理チームの人間の言うことを信じるのであれば、女がスタンド使いである可能性はとても高い。女一人で複数の男を無力化する能力があるということだ――いや、邪推はよそう。きっと、純粋に(?)愛し合っているだけの関係なのだ。
考えれば考えるほど心配になってくる。メローネが縛られて鞭を打たれる姿が容易に想像できてしまうからだ。そんな心配は、酒を呷って流し込んで忘れよう。リゾットはそう思った。
「――でよォ!きっと今頃メローネの野郎、目隠しなり、拘束なりされながら、黒いあのハタキみてーのでバシンバシンしばかれたり、ケツの穴にバイブつっこまれたりし――」
「メタリカァァアアア!!」
「ぎぁあああ!!」
「さっき掃除が面倒だって言ってなかったか。リゾット」
「……そうだったか?」