暗殺嬢は轢死したい。

 身に覚えのある感覚だ。

 は朦朧とする意識の中でそう思った。“あの時”と違うのは、ステンレス製ではない柔らかな、ベッドとかソファーなんかの上で仰向けになっているということ。裸同然ではあるが、真っ裸にまではされていないこと。それくらいだろうか。

 まただ。また私の危機意識の欠如が、この状況を生んでしまった。以前は何の問題も無いと思っていたのに、今は“まずい”と思っている。それは何故か。

 私が姿を消すと、私の管理を任されているチームの皆の命が危険にさらされるからだ。故にパッショーネの管理から逃れたがっているもう一人の自分を野放しにはできないし、野放しにすれば“彼女”が彼らを傷つけなかねない。それをつい最近、思い知った。皆の命が危険にさらされるなんて絶対に嫌だと思った。

 だから気を付けていたつもりなのに。どうしてこうなってしまったんだろう。

 そこまで思ってから、は目を開けた。ベッドの側に置かれた携行型のランプだけが、ほこりっぽい空間を照らしている。物は少ない。窓から見える外の景色に、他の建物など人工的な物は何も見えなかった。ただ闇に月と星が浮かんでいるだけだ。

 にわかに床が軋みを上げた。誰かがこちらへ歩み寄ってくる。近寄ってきた者の息遣いが聞こえるほどにまで距離を詰められてから、は恐る恐る顔を横へ向けた。

「目が覚めたみたいだね」

 聞こえてきたのは、まるで恋人か何かに語りかけるようなゆったりとした優しい男声。けれどにベッドサイドに立って自分を見つめてくるこの男とそんな関係になった覚えはない。今日――いや、ついさっき初めて会ったばかりの、カレンのフィアンセのはずだ。

「カレン……カレンは、どこ……?」
「なあ、。カレンって誰だ?」
「え……?」

 は何故か目も開けられないほどの虚脱感を覚えてぼうっとする頭をなんとか使って、白のアバルト595に乗り込んだ後に何が起こったかを振り返った。

 何か世間話をしているうちに、私はところで、と切り出して“カレンとはどこで知り合ったの?”なんて話を始めた。ちょうどその頃から、車はカレンに知らされていたのとは全く別の方向に進み始めた。道が混んでいるのを知って、わざと遠回りをしているのかと最初は思ったが、遠回りどころか全く逆の方向に進んでいることに途中で気付いたのだ。

 不審に思って――とは言っても、多分、表にはほとんど焦燥なんかにじみ出てはいなかっただろう。死んでも生き返ることができてしまうという能力は、私から危機意識を根こそぎ持ってってしまったのかもしれない。いくら気を付けていたところで、危機回避能力が体に染み付いていないのだから、ちょっとやそっとの意識改善で簡単に用心深くなどなれないのだな、と反省する――ハンドルを握る男に聞いた。

「どこに向かっているの?」
「ふたりきりになれる場所」
「え?」
「安心して、君と僕が愛し合える場所さ」

 ぞっとした。は慌てて男に名前を聞いた。
 
「誰だって? オレの名前はそんなじゃないよ。……おかしいな。君は知っているはずだろう?」

 絶句してしばらく呆然とした後、は最初に男に名前を尋ねるべきだったと後悔した。
 
「ごめんなさい。……私、何か勘違いしているのかも」

 そう言って、とにかくチームへ連絡を入れなければと思いハンドバッグから携帯電話を取り出すと、ギアに置かれていた男の手がの手首を掴んだ。

「どうするつもりだい?」

 男は微笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。大して抵抗もしなかったせいで――抵抗しないほうがいいとか、そういう冷静な判断をしたわけじゃない。ただ、体が動かなかった。それだけだ――携帯電話を奪われた。そして男は乱暴に車を路肩に寄せて急停車させると、突然の口を手のひらで覆った。その手のひらにはいくらかの錠剤が貼りついていたのだ。一緒に鼻孔も塞がれてしまい、空気を求めて口を開いた拍子にそれらを飲み込んでしまった。

 こうして今に至る。私は無様にも衣服を剥がれてベッドの上に置かれ、鉄柵のヘッドボードに手錠で繋がれていた。

「君は他の子たちとは違っておとなしいよね。それに、しきりにオレの知らない名前を言う。だから、少し疑ってしまって……。本当はこんなことしたくなんかないんだ」

 男はの頬を撫でながら言った。

「あなたは誰なの?」
「君の“客”だよ。オレが君を指名した。君はそれに答えてくれたじゃないか」
「……どういうこと?」

 には男が何を言っているのかが全く分からなかった。こんな男は知らない。カレンのフィアンセでないのなら、一体誰だというのか。客、というのがもしも自分の表向きの職業のことを言っているのならそれこそ覚えがない。

 は自分の軽率な行動を責めた。何故、約束の時間、約束の場所に来た車に「君がかい?」と聞かれただけで車に乗り込んでしまったのか。何故、乗り込んですぐにしっかりと、カレンのフィアンセであることを確認しなかったのか。カレンは今頃心配しているんじゃないか。せっかく料理を用意してもらったのに。彼女はどう思うだろう。せっかく、初めてできた女友達なのに。

 それにチームのみんなに、また迷惑をかけてしまった。いい加減私に嫌気がさしたんじゃないかしら。でも、私に逃げるつもりは無いし、きっとペッシが来てくれるから大丈夫。身ぐるみを剥がされて、バッグもどこかに捨てられてしまったようだけど、ペッシが尾行してくれているはず。

 ペッシ。早く迎えに来て……。

 何をされるのかは分からない。けれど、ベッドに拘束されていい思い出など無い。予想できることといえば、拷問かレイプか殺人行為――チョコラータの時のあれは同意の上だったし、最近までいい思い出とすら思っていた。けれど、今はそれがおかしいことだったのではないかと思い始めている。要は、明るい未来が待っているはずがないということ――だ。

 そして何故か焦燥感を覚えていた。危機意識が完全に欠如していたこれまでの自分にとっては、とても新鮮な感覚だった。何故こんなにも落ち着かない気分なのだろう。きっとこの反応は普通だ。けれど、普通に比べたらまだまだ普通とは言えないのだろう。この男が言うように、私はひどくおとなしい。普通なら、拘束を解けとか、家に返せとか、そんなことを半狂乱になりながら叫ぶのだろうが、殺されたって死にはしないので心から怖がれない。もともと異常な体質だから、異常な反応になるのは致し方ない気もする。

 それに大抵の場合、この状況で暴れていい結果にはならない。手ひどく扱われたくなければ、大人しく男の言うことを聞いていたほうがいい。救いが来るまで大人しくしておくのがベストだ。だから自分が今取っている態度はベストなのだ。それを何故か疑われている? のだが。一体何をどう疑っているのだろう。私は一体、誰と比較されているのだろう。他の子たちって?

 聞こうとする前に男が顔を近付けてきた。男の顔は、体が拒絶反応を示すような嫌悪感を催すようなものではなかった。衛生的に問題があるわけでもないし、臭いがキツイわけでもない。は驚いて口を開けずに、ただじっと男の顔を見つめた。

「君は……普通の子とは違う。だから多分、オレは君のことを怪しむべきだ。君をここでどうこうすべきじゃない。早く、君から離れるべきなんだろう。……だけど」

 男はの耳の裏に鼻先を押し当て首に口付けをした後、ねっとりと唾液を纏わせた舌で舐った。

「駄目だ。我慢ができない。……君に、オレを受け入れてほしい。どうしても、今すぐに」

 どうやら拷問される訳じゃないらしい。痛めつけられて、苦しめられて、血が流れるようなことをされる訳ではないらしい。それなら、この男の言いなりになって、解放されるのを待ったほうがいいに決まってる。

 は元より快楽の誘惑にはめっぽう弱い性分だ。何故こうなったのかと考えるより――考えたところで答えは出ないし、聞いたら聞いたで男の不信感を扇ぐだけだ。下手に喋らないほうがいい――今はただ、理不尽に与えられる快楽に身を任せたほうがいいという結論に、容易に至った。

 誰が相手であろうと関係ない。痛くされないのなら御の字だ。

 無抵抗で従順で、美しく艶めかしいの姿に男はすっかりと気を許す。拘束を解いてあなたに触れさせて、とのの言葉を男はすんなり受け入れた。そして交わりはより濃厚に、深まっていく。次第に、ふたりは愛情も何も無い快楽の海に溺れていった。

 そして助けも何も来ない内に、行為はクライマックスを迎える。

「……ッ、中に、出すよ」
「――え!?」

 は男の言葉を受けて我に返る。

「やめて、やめてやめて! それだけはダメっ……!」
「……そこは、他の子たちと……同じなのか。……ッ、いや、もう……ダメだ……このまま、出すッ」
「あ、ダメ、やめて!」

 はいくら言っても止むことのない律動を受けながら必死に藻掻く。藻掻くが、離れられない。重い、筋肉質な腕が肩を押さえつけていた。腰をずらそうとしても男の腰はしつこく追従してくる。

「あ、ああっ――」

 やがて男は果てた。白濁に包まれた子種を中へ注ぎ込み、鳥羽口を上に向けて、わざと中で滞留させた。そうされたは顔面蒼白になって涙を流す。目尻ににじむ程度の涙ではなく、大粒の涙を両目から、ポロポロと、とめどなく。

「だめ、だめよ……死ななきゃ」
「え? ……何だって?」

 男は虚無の内に聞いた気がしたあり得ない言葉に耳を疑い、顔をしかめた。

「死ななきゃ。死ななきゃいけないの。だめよだって、だめ、だめだめダメ、殺して、殺してお願い。今すぐ、私を殺して、殺して……!!」
「はあ……?」

 男の顔色も豹変した。

「何でそんなことを言うんだ?」
「何で……?」

 何で? そうよ。私はなんで、そんなに焦っているの?

 は自分自身でも分からなかった。自分が何故、ここまで取り乱しているのかが分からない。けれど何故と考えてすぐ、は焦燥に呑まれ、慌ててベッドから抜け出そうとする。が、強い力で肩を捕まれてベッドへ押し戻された。男はベッドサイドのナイトテーブル上に置いておいた拳銃を手に取り、の眉間に銃を突き付けた。

「死ぬなんて許さない」

 銃口を向ける相手に言うことではない。だが、そうと指摘するまともな人間はこの空間には存在しなかった。

「そう、そうよ……いいわ。殺して、お願い」
「せっかく、やっと……運命の女に出会えたと思ったのに」

 男は銃の安全装置を解除した。は恍惚とした表情を浮かべる。

「殺して、早く!」
「……ッ、! 考え直してくれ……。もう、オレはこんな酷いこと、繰り返したくないんだ」

 この男は人を何人も殺していた。だがはそれを問題と思ったり、恐怖したりはしなかった。人殺しなど、彼女の世界では珍しい物でも何でもない。もう幾度となく彼女は時に自死し、時に殺されてきたのだから。

「もう……ひとりで、いたくないんだ……!」
「殺して!」
「いやだ、いやだいやだ! 殺したくなんかない。君に、ずっと、一緒にいてほしい。オレの側にいてほしい。オレの子を産んで――」
「絶対に嫌!!」

 はっきりとした拒絶の言葉に男は目を見開き、瞳に絶望の色を浮かべる。そして言った。

「……分かった。なら、死ね」



74:Chop Suey!



 メローネは荒廃した住宅街の路傍をうろつくホルマジオの姿を見つけ、とっさにバイクを止めた。

「メローネ。ココではありません。ターゲットは、マダ先にいマス」
「ああ、分かってる。少し待ってくれ」
「了解しましタ」

 ホルマジオは眩し気に目を細め、三人の仲間たちへと視線を向けた。ヘッドライトと所々点いたり点いていなかったりする街灯、そして月明かりが闇を照らす中、男たち四人が身を寄せ合った。

「おまえ、なんでこんな所にいるんだ?」

 メローネがホルマジオへ訊ねた。ホルマジオはメローネの背後に立つリゾットの表情を伺った。どうやら助け舟をよこすつもりは無いらしい。それどころか、何かホルマジオを咎めるような空気を滲ませているようにも見える。

 ホルマジオはアジトに待機しているイルーゾォから、一行がこちらへ向かっていることを聞いていた。ターゲットを追ってきている三人が、の消息が途絶えた場所と全く同じ方向へ向かって来ると聞いて“最悪”を想定したのは、何もリゾットだけでは無かったのだ。ホルマジオがほとんどゴーストタウンと化した荒廃した集落であるこの場所に的を絞ってを探していたのは、この場所が、人が引き払った後そのままか、売りに出されて買い手が付かないまま数年が経ったような空き家が散見される、犯罪の温床に見えたからだ。つまり、ここ一帯は女を囲い犯して殺すのに適した環境で、例のターゲットの餌食となった娼婦たちが人生の最後を過ごした場所の数々と特徴が一致していたからなのだ。

 知らないのはメローネだけ。この男は、のこととなると正気を失う性質がある。メローネには何を置いてもまず仕事を完遂して欲しいであろうリゾットの意思を汲めば、の居場所が分からなくなっていることを今、メローネへ伝えるべきではない。例えこれから向かう先にがいたとして、メローネが運悪く現場を目の当たりにしたとしても、今、言うべきではない。

 ホルマジオはまいったな、という表情で深くため息をついた。悪いのは、メローネに見つかったオレの方ってことだろ。そんな憂鬱な思いも含ませた。

「おまえらの仕事を手伝いに来たんだよ」
「は?」
「リゾットの指示だぜ。指示の続きを、オレはこれから聞こうと思ってんだよ」
「なら、車で大人しく待っていたらいいだろ」
「うるせーな。おまえらが見つけやすいように、道端を歩いててやったんだろうが」
「……そもそも、リゾットがターゲットのDNAを手に入れさえすれば、あとはオレのスタンド――ジュニアだけでも恐らく片付けられる仕事だ。おまえの能力をどこで使うって言うんだ。……どうも嘘くさいな」

 そう。この、メローネという男はのこととなると正気を失うだけでなく、冷静な時はすこぶる鼻が効いて頭が冴えるのだ。いくら頭脳派のホルマジオでも、メローネを相手に嘘を嘘のまま通すのは難しい。

「メローネ。仕事を優先しろ」

 リゾットがメローネを窘めた。するとメローネはバイクの方を振り返り、彼が成長させたジュニアに質問を投げかけた。

「ジュニア。ターゲットの居場所は動いているのか?」

 バイクの後部座席にちょこんと乗ったまま大人しくしていたジュニアは答えた。

「いいえ。もう三十分ほど動いていません」
「場所は近いのか」
「エエ。近いデス。この道を二百メートルほど行った先にいマス」
「ターゲットが動き出したら言ってくれ、ジュニア。……聞いただろ? まだ大丈夫らしい。……リゾット。オレは、ホルマジオがここにいる理由が気になって仕方が無いんだ。それが明らかになるまで、仕事は中断させてもらう」

 ギアッチョが舌打ちをして苛立ちはじめた。
 
「……うだうだうだうだ抜かしやがって。おまえのそういうねちっこい所はいつまで経っても慣れねーなァ! もう目と鼻の先にターゲットがいるってんだろ!? さっさとぶち殺してこいや!!」
「おい、ギアッチョ。静かにしろ。いくら人気が無いとは言え、ターゲットに悟られかねない」

 リゾットは一歩前へ踏み出し、メローネへ掴みかかろうとしたギアッチョを抑えた。

「まず、仕事を先に済ますと約束をしろ。それなら教えてやる。誓うか?」
「ああ。神に誓って、仕事を先に済ませると約束する」

 自分の世界に神――父など存在しないが。

 メローネは思った。神の目に留められたことも、神の教えに救われたことも、神の御心のままで救われたこともない。――父は救いなど、オレに与えたためしがない。

 だからこそ彼は自らの世界における神を、救いを独自に定義していた。その神にすらも過去に見放されたが、彼はやっと取り戻したのだ。

の居場所が分からなくなっている」

 取り戻した、はずだった。

 メローネは息を呑んで立ちすくんだ。リゾットは構わず続ける。

を尾行していたペッシは何者かに襲われ重傷を負った。おまえが彼女に持たせていた発信機は全て、さっき通ってきた道の路肩に捨てられていた。そこから先の居場所が分かっていない」

 リゾットの言ったことを聞いてすぐに、メローネは何も言わずに駆け出した。以心伝心の間柄なのか、ジュニアはバイクから降りるとメローネの元へ凄まじい速さで駆け寄り、彼の先を行った。

「あのバカ……!!」

 ギアッチョは急いで車へ戻ろうとするが、リゾットがそれをまた抑えた。

「いや、いい。ギアッチョ。おまえはここで待機していろ。事が済んだら連絡する」
「あんたはどうすんだよ」

 ホルマジオが言った。

「メローネの後を追う」

 そう言ってすぐに、リゾットもまた駆け出した。彼はメローネの背中を見ながら思った。

 やはりそうなってしまうか……!
 

 
 メローネはジュニアの後を追い無我夢中で走った。そのジュニアが、“父”の居場所を――ぼんやりと橙色に照らされた、空き家の二階、寝室らしき場所を――指し示して玄関の前で止まる。何か騒々しい、物々しい雰囲気を感じたが、メローネは急に冷静さを取り戻してそっとドアノブに手を添えた。握って回す。鍵は開いていた。軋みを上げないかと恐る恐る、ゆっくりと扉を押してジュニアを先に中へ入れた。

 入ってすぐ向かいに二階へと繋がる階段があった。ちらとだけ見える二階の壁には、外から見たのと同じ橙色のあかりが漏れ出て見えた。

「殺して、早く!」

 !!

 愛する女の声。軽率に殺せと宣うのだから間違いなくだと、メローネは確信した。彼はジュニアに命じた。

「ターゲットを殺せ。絶対に、を傷付けさせるな」
「了解です」

 二階へと向かうジュニアに追従する。すると、半開きになった扉と枠の間から、ふたりの話し声が漏れ出てくる。

「殺して!」
「いやだ、いやだいやだ! 殺したくなんかない。君に、ずっと、一緒にいてほしい。オレの側にいてほしい。オレの子を産んで――」
「絶対に嫌!!」
「……分かった。なら、死ね――ッ!?な、何だ!?」

 大の大人がベッドから転げ落ちるような物音がした。

 メローネは中の様子を覗き込んだ。ベッドの上に、茫然自失となったようなの姿があった。彼女は事後を思わせる格好でいたので、メローネの頭には一気に血が登った。そしてベッドから転げ落ち、今まさにジュニアに襲われているターゲットを睨み付けた。

「おまえ……おまえよくも、オレのを――」
「ああ、メローネ。どうして」

 はベッド上に転がり落ちた拳銃に手を伸ばし、グリップを握った。メローネはを見つめる。

 は、何をしようとしている?

「そのままにしておいてくれたら、良かったのに」

 は両目から涙を溢しながら、拾い上げた銃の銃口を自分のこめかみに突き付けた。

「……? 何を――」
「また、あとでね。……メローネ」

 けたたましい銃声が皆の耳を、弾丸がの頭を横一線に、突き抜けた。