「あーっ食った食った!」
「おい!ビールまだ足りねぇぞ!」
「これ以上飲むなよ!明日支障でたらどうするんだ!」
「おいおいおい!天下のウボォー様に向かって何言ってんだシャルっ!」
「おい、もウボォーに何か言ってや・・・」
「・・・ちょっと待て、ああ、ハタチっていいーっ!!」
「・・・も壊れたか・・・」

 素敵過ぎる!もう、本当にハタチ万歳!(元いた世界ではまだ17歳の私が)大好きなお酒をこんな思いっきり飲めるなんて!(元いたお酒は成人してからの世界で)もっと、焼酎とかビールとかワインとか、ウイスキーとか飲みたいって思ってたら、その機会がこんなに早く訪れるなんて!

!お前イケる口だな!よっしもっと飲め!」
「おうおう!待ってました!!ビールジョッキ一杯分よろしう!」
「もう・・・いい加減にしろよ!」




7話:刹那すぎる時






 久しぶりに全員集まったらしい幻影旅団の、大仕事前のパーティーに参加した私は幸せな気分に浸っていた。パクとマチにはさまれ、ウボォーと向き合い酒に溺れる。絶対に常人なら泥酔状態に陥っているほどの酒量を飲み干したにも関わらず、私は全然酔っていない。それをいいことにもうビール瓶を次から次へと開けていく。マチとパクは暴走する私を止めようとするものの、まあ大丈夫だろうと半ば諦めた様子だった。

「それにしても・・・、お前、丸くなったよな」

 ウボォーの隣にいたノブナガがそう問いかけてきた。

「・・・それ、どーゆー意味だ?」
「前みてぇにツンツンしてねぇって意味だよ」
「・・・ふーん。そうか?」
「ああ。前までオレタチと会うこと事態避けてたのによ・・・こうまで打ち解けてよう・・・」
「いいじゃないか。あたしゃ嬉しいよ」
「もう二度と話せないかと思ったものね」

 どうやらさんはよほど好かれているらしい。いつも(漫画で見た限り)クールな二人がさんとの友情を露わにするなんて、なにやら誇らしげに思ったけど、結局、私に向けられたものじゃない。ここに来てからやたらとそんな気持ちに駆られるようになった。そんな気持ちを忘れてしまおうと、ビールを一気に飲み干した。

「ぷはーっ!とにかくさ、アタシは女子にモテモテなわけ!」

 私は調子にのって両脇の二人を同時に抱き寄せ、笑った。それを拒否することもなく、マチとパクも一緒に笑ってくれた。

「ほんと、仲いいんだね。と二人は」
「あったりめーよぅ!なあ!良かったらアタシと友達になろー!シズク・・・だったっけ?」
「・・・うん。ありがとう」

 そんなやり取りをして、私はシズクとテーブル越しに握手を交わした。シズクは流星街出身じゃないし、新しいメンバーである上に、長い間さんは旅団を避けていたと聞く。きっとシズクと会ったのはこれが初めてだろうという予測を立てたが、どうやら正解だったらしい。よく考えると、私は旅団員と話す際に凄い速さで頭を回転させ、漫画で読んだ時に得た情報と現状を把握して喋っている。それにも大体慣れてきたらしい。

「ところで

 静かに読書をしていた団長が突然口を開いた。

「明日は治癒面で主に仕事をしてもらうわけだが、お前の能力を教えてくれないか?」

 突然すぎるクロロの質問に一瞬動揺してしまった私。これはまずい。そう思った。心なしか、クロロがにやけているようにも見える。あいつ、どうしても私の正体を皆に暴きたいらしい。そうはさせまいと、思った矢先に出くわしたのがこの壁だ。私は何故か負傷者の前に立つと自然と念能力で治療できる。しかし、それがなぜかも分からない今、能力のことなんて知るわけがない!だがここでどぎまぎしては、全員に怪しまれてしまう。

 ・・・よく考えろ。

 ・・・自分の念能力は・・・簡単に人に教えられるものじゃない。

 そうだ、ここでクロロの質問に律儀に答える必要はないんだ。



「あのな、クロロ。そんな簡単に人の前で自分の念能力のこと教えられるかよ」
「・・・ふっ。流石のお前も、そこまでバカじゃなかったな」
「ちょっとまて、何だ。アタシはお前の頭の中ではバカ設定なのか。一応医者なんだけど?」

 一瞬だが、寿命が縮まった気がした。こんな抜き打ちテストみたいなことがこの先も多々あるのかと思うと、本当にやめてほしいと感じる。何か試した感丸出しのクロロは既に読書に没頭していた。よく考えると、先の白々しいやり取りで十分に怪しまれていい気がするが、私の心配をよそに、旅団員は各々自由にお喋りしていた。どうやら、まともに聞いていたのは両脇のマチとパクだけだったらしい。その二人もさほど気にかけた様子はなく、テーブルに乗った皿をまとめ始めていた。

「てか。お前、今日ウボォーに潰されねぇようにしろよ」

 フィンクスがビールジョッキを片手にそう言った。突然何だこの男は。確かに原作上でも空気を読めそうにない感溢れる男だが、これじゃ、まるで空気を読めないどころか異次元に壁一枚隔てたところで住んでる人だ。まあ、空気を読むことに徹する人間よりはマシだから、フィンクスのことは大好きだが、流石にこの(さんがさんになっている)状況で意味不明なことはなるべく言って欲しくない。

「それどういう意味ねフィンクス。詳しくきかせるよ」

 何故かその話に食いつくフェイタン。きっと、潰すという表現に彼的なロマンを感じたのだろう。

「今日、コイツウボォーと寝るんだってよ」

 ・・・むせる者、口に含んでいた飲み物を噴出す者、唖然として行動が一時停止した者、何だそんなことかとあきれた者・・・まあ、様々いた。ただ、私だけは静かに心中で怒りの炎を燃え滾らせていた。

「おいおい、何言い出すんだよフィンクス!照れるだろーが!」

 ウボォー、そこでテレるな!!

「いや、酔った勢いで潰されたらひとたまりもねぇだろーなと思って・・・」
「ちょっと!あんたそれどうゆう意味!?」
「詳しく聞かせな!」

 さすが、恋沙汰には敏感な女子二人。凄い食いつきようだ。ただ、勘違いしてもらっちゃ困るが私の言った寝るは、皆が考えている「寝る」ではない。いたって健全なるただの添い寝だ!だが、よく考えると皆が考えている「寝る」を承認するような言動を、何時間か前にしたことを思い出した。

 ・・・いやいやいや、ちょ、恥ずかしい!!ないないない!それはない!いや、夢のようだけれど私、それが実現しちゃったら初めてを奪われちゃうわけで・・・。いや、ウボォーになら全然大丈夫だけどっ!

「い・・・いや、違う!ご・・・誤解だっ!それは無い!」
も大人になったもんだなー。前まであんなちっこかったお前が・・・」
「ノブナガ!しみじみしてんじゃねーっ!」
「でも、あんた達一回喧嘩別れしたんだろ?・・・いつそこまで仲を修復させたんだい?」
「そりゃ、今日会ってからだろ。団長がコイツ迎えに行かせたじゃねぇか」
「ああ。そのときに些細な色事があったわけね。良かったわね

 パクの微笑が美しい。が、しかし、全く良くない!何をそんなに期待しているのかは分かりたくも無いが、ここでこの会話が終わることを必死に願う。

「さ、さっさと片付けよう!明日に備えてさっさと寝よう!うん!それがいい!」

 自分からそう切り出すと

「何だ、そんなにお前・・・我慢できねぇってのか?」
「・・・のために、邪魔者はさっさと撤退するか」
「ふん。・・・下らないね。ささと筋肉に押しつぶされてくるがいいよ」

 だーかーらー!寝るの意味違うっての!!何で私はこうもいじられやすいのだろうか。学校でもよくいじられてたしなぁ。ツッコミキャラなのに何故かいじられる・・・。いや、むしろツッコミキャラだからいじられるのか・・・?

「だから、誤解だって言ってんだろーが!終いにゃキレんぞ!」
「お前キレても怖くねぇし」
「おーっし分かったフィンクス。テメーが今回の仕事で負傷したら、荒治療確定だ!腹くくってろ!てか首くくれ!!」
「おーおーおっかねぇ。怪我しねぇよーにしとかなきゃなぁ」
「よーっし!!部屋で待ってるからな!」
「おーっ。ヤル気だなウボォー」
「あたりめーよっ!」

 ああ。結局この誤解は解けそうに無い。そう思って諦め、紙皿をまとめてゴミ袋に入れ、残り物をパックに詰める。

「明日腹減ったら、これ食えばいいだろ?アタシがまとめとくからさ、マチとパクは明日のために寝ろよ」
「手伝うわよ?」

 パクの言葉は嬉しかったが、やはり明日の大仕事に備えて早く休んで欲しかったので丁重にお断りした。済まなそうに私を振り返りながらも、しぶしぶと各々の部屋に戻る二人。ちゃっかりもののシズクはそんな様子も見せずにそそくさと寝に行ってしまったらしい。漫画上で見せる性格と同じで可笑しくも微笑ましく思った。

「団長は・・・寝ないの?」

 パクがドアを出る前にひょっこりと顔を出してそう訪ねてきた。そういえば、クロロはまだここにいたんだった。

「ああ。まだと話があるんでな」
「そう。・・・お休みなさい」
「ああ。お休み」

 二人が完全に外に出て、この大広間にはクロロと私だけ。そして、私が残り物をパックに詰めるかすかな音だけが響いている中、突然クロロは読んでいた本をぱたと閉じた。

・・・。いや、だったか。・・・お前は一体何者だ」

 私は手を休めてクロロと向き合った。感情の一遍も感じ取られないその空虚な表情に少し恐怖を覚えた私。その場に立つことさえもままならない、冷たい彼のオーラを肌で感じながら彼の瞳を見据えた。するとクロロはポケットからメモ紙を出し“”と漢字で書いた。そしてその紙を私に見せる。

「こう書くんだったな?お前の本名は」
「・・・はい」
「この字はジャポンで使われている、漢字というものだ。つまり・・・お前はジャポンの人間なのか?」

 ここで、事実を話すべきかどうか迷ったが、この男に嘘を騙ったところですぐに見透かされてしまうのが落ちだと悟り私は即座にこう答えた。

「・・・いいえ。私は・・・日本から来ました」
「ニッポン・・・?そんな国はこの世界には無いはずだがな・・・」
「ええ。つまり私は・・・」
「異世界の人間か」
「・・・そう、です」

 信じてもらえるわけが無い。いくら念能力が存在するこの世界でも、異世界の存在なんて認めないだろうし、私だってものすごく信じ難い局面にいるのだ。本当のところ、嬉しいという感情よりも恐怖心が根底にある。しかしどうだろう。目の前の男はそれを嘲笑でもするかのように口元を歪ませた。

「ククク・・・っ、本当に、本当に面白い女だ。は」
「・・・あの、何がそんなに面白いんですか」
「未知の世界に出会って、どうして面白くない?歓迎するよ。。オレはお前を歓迎する」

 さすが、幻影旅団のトップとでも言うべきか、その探究心と好奇心には底が無いらしい。

「もっと詳しく聞かせてくれないか。お前の世界のことを」

 事実を見透かされることを恐れている私。私の世界で暴かれているこの世界のこと。全てを言わなければならないのか、それともある悲しい事実だけは伏せることができるのか。

 ―――希望は、薄い。