「そうですね。大変心苦しいことですが、行かなければなりません。あーなんか緊張してきたー」
船長と船員がみんなして私を見送る。嬉しかったけど、一応これ密輸なんだから、あんまり出てこない方がいいと思うんだけどなぁ。みんな。
「それじゃ、みんな。オレはをクモんとこ連れて行ってくるから」
そう言ってルアンが私の元に駆け寄った。いよいよ旅団の皆さんに会えるんだ。そう思うと凄くウキウキしてくる。けどやっぱ緊張ベースだ。うまくやれるのかな・・・。
あと、心配なのはあれだ。ウヴォーとパクノダが死んでしまった後でないかどうか。もしこの世界が、私のいた世界で発行されてた漫画通りの展開で時が流れているのなら、彼と彼女はクラピカに殺されてしまうのだから。
「おい」
「何?ルアン」
「覚悟はできてるか?」
「え。何で?」
「こわーい幻影旅団のトップが待ってるんだぜ?何されるかわかったもんじゃねーんだぜ?」
この陽気なお兄さんは、ちゃっかりと私の不安を煽ってきた。安心させてくれる気はゼロなようだ。
2話:本当の居場所
が港に着いた2月29日。クモ、もとい、幻影旅団の全メンバーが、9月30日のメンバー召集日よりも少し早く、ヨークシン中心部から少し離れた場所にある廃屋群の一室へと向かっていた。
「団長、一体何する気だろ」
「そりゃ、ワタシ達盗賊。モノ盗むに決まてるね」
ヨークシンを目の前にして荒野を歩く4人の人影。内2人は何かもめごとがあったのか、激しい乱闘を繰り広げていた。そんな二人をよそに話すのはマチとフェイタンだった。
「どこ狙うと思う?あたしは古書全般だと思う。団長、本好きだし」
「違うね。きとゲームね」
「ゲーム?」
「世界一高いゲームソフトが何本か売りに出されるよ。しかもこれ、世界一危険なゲームらしいね。興味あるよ」
「でも所詮ゲームでしょ」
「ま・何を盗るか行けばわかるよ」
目的地、ヨークシンで開催されるオークションでは、世界中のありとあらゆるお宝が集まり、ありとあらゆる富豪やマニア達が自分のお目当てのお宝を競り落としに集まる。つまり、今年のオークションには旅団もそれに参加するということだ。もちろん、正当な手でオークションを楽しむわけではない。これはがすでに知っていることだが、多くのマフィアたちが彼らの犠牲になる。
「そういえば、団長もうひとつ言てたよ」
「え?何?」
マチとフェイタンは会話を再会させた。
「ヨークシンにいる間、専属医をひとりつけるて。そのためにわざわざ東の島国から医者一人密輸してるね」
「何ソレ。あたしとシャルがいれば大概のケガは治せるのに」
「今回は団長がそこまで気を使うほどの大仕事て意味かもしれないよ」
「ふーん・・・って・・・もしかして!!」
「ま・行けば、それもわかるね」
「・・・そうね」
・
・
・
「ここが・・・よ、ヨークシン」
前いた世界では田舎に住んでいたため、あまり都会に行ったことの無い私。ビル一個一個が凄く高くて、車の量も多いし何より人が多い。そんな活気あふれた都会の光景を目の当たりにして生唾を飲み込んだ。
「何だお前、都会は初めてか?」
「ここまでのは、初めて。改めてみると圧倒される・・・」
「ふーん。でも、これから行くところはハズレの廃屋だからな」
「え!?なんで!?」
「クモは盗賊だ。そんな都会の真ん中を拠点として動くはずねーだろ」
「そりゃ、そうだけど・・・」
そんな会話をルアンとしながら道を進んでいく。今、この時点で彼ら幻影旅団がどこにいて、私がどこに“密輸”されるのかまで分からない。それに、単行本に載っていたヨークシンシティーの地図を頭に叩き込むほどまでのことはやっていなかったので、ここがどこで、どんなルートを通って旅団と合流するかも全くの未知だ。廃屋というと、例のアジトが思い浮かぶが、そこのことだろうか?
随分歩いていくと、中心部とは雰囲気の違う廃れかけた町へと姿が変わって行った。もう少し行けば何もない荒野に着くというところで、脇に廃ビルの並ぶ荒地があった。キルアが潜入してきた時、漫画のページで見たような光景が見えてきた。やはり、ルアンが廃屋と言ったのは、作中にも度々登場した彼らのアジトのようだ。
「ここで引き渡すように言われてるの?」
「そうだな。言われてる建物はもうちょっと先だ」
どんどんその荒地の奥へと入っていけば、倒壊寸前のビルの群に囲まれる。倒壊寸前なのだから、いつ何時自分に倒れ掛かってくるか心配で怖くて仕方が無かった。
「こっちだ」
そう言って、ルアンはひとつの建物を指差す。その建物の外見もボロボロだ。あんな建物に入るのは全くといっていいほどに気が進まない。
薄暗い建物の中に入って奥へと足を進める。そのたびに、こだまする私たちの足音が気味の悪さを増していく。雰囲気がじめじめしていて気持ち悪い。
扉があったであろうスペースの敷居をまたぐと、そこは開けた空間だった。ほんの少しだけど外の光も入ってきている。しかし、その光は奥の方まで照らしてくれるようなものではなかった。誰かいる雰囲気はするが、その奥の方に佇んでいるんだろう。人影すら見当たらない。
というか、いるのはきっと団長。クロロさんなんだろうな。なんてぼんやり思っていた。
「クロロ!いるなら返事してくれ」
ルアンは前に進みながらそう言った。やっぱり。依頼主はクロロさんなんだ。すると、カツカツと音がしてひとつの人影が私たちのほうへと向かってきた。少ない外の日光に顔が照らされてやっと表情が伺えた。漫画で見た通りの顔の、クロロ=ルシルフルだった。引き込まれてしまうほど、彼はやはりイケメンだった。推しではないが、胸が高鳴る。
「確かに届けたぜ」
「ああ。世話になったな」
そう言ってルアンはクロロさんから離れた。料金は前払いだったのかな?それほど信頼されてる密輸業者なのかも。
「それじゃあな。。頑張れよ」
「え!?もうサヨウナラですか!?」
「運がよけりゃ、帰りにも会えるかもな」
そう言ってルアンは廃ビルから出て行った。しばらく、彼の後姿を眺めていた。・・・何故かって?
すごく緊張してるからだ。これは夢女子にとってかなりおいしいぞ!!とかテンションあがりつつも、元いた世界で言えば旅団は、ヤクザなんかよりもたちの悪い殺し屋集団なのだから、当然恐怖心も芽生える。だから、不自然すぎると自分で思いながらもルアンの去っていく姿をいつまでもしつこく見続けていたのだ。
「・・・もういいか?」
「は!はいいぃ!?」
唐突に後ろから声をかけられてびっくりして、変な声を出してしまった。
「そう緊張しなくてもいい。別に取って食おうなんて思っちゃいない」
「あ、はい。す・・・すみません」
何で謝ってるんだ私は!!
「でも、よくすんなり来てくれたな」
「え!?私、ですか?」
そりゃそーだろーがなんて顔で私を見るクロロさん。私だって分かりませんよ!と、言いたかったが、やはりここはさんとしての思いを捏造するしかないだろう。
「あの、私多分、善悪に執着がないんですよ。お金もらえればいいってわけじゃないけど、むしろ、善か悪かは自分で判断するんだと思います」
「その結果、つまりオレタチはシロだったってことか?」
「そうですね。慈善活動なんかもされてるみたいですし・・・」
ああ。HUNTER×HUNTER読んでてよかったー。何とか喋ることができた。めっちゃ拙い気はするけど、今の自分にはこれが精一杯だった。
「クク・・・面白い」
何か、面白がられてるけど・・・。
「ところで・・・他の団員さんは?」
「もうじき来るだろうな」
「他の団員さんにも話してあるんですか?私のこと」
「ああ。一応な」
「・・・フェイタンとか、反感持ちそう・・・」
「・・・何でアンタ、その名前を知ってるんだ?」
・・・・・・・。しまった!!漫画読んでることが裏目に出たぞ!つい口を滑らせてフェイタンの名前出しちゃった!!
「あ、あのー。あれです!私、闇が付く医者ですから!結構裏の情報に強いんですよ!!」
「・・・ふーん。まあいいか」
「・・・あの、私は一体何をすれば・・・」
「今回はまれにやる大仕事だからな。酷い怪我するヤツが出てきてもおかしくない」
「なるほど・・・」
すこし、辛い気分だ。いくら団長さんでも未来はわからないんだ。もしこの世界が先生のお話通りに進むのだとしたら、やっぱりウヴォーとかパクノダは死んじゃうんだろう。それを知っている私が、旅団が被る被害を、過少に表現している団長さんの言葉ににうなずくしかないこの状況が、すごく苦しい。
でも、それを言ってしまったら、HUNTER×HUNTERの世界が崩れてしまう気がする。
ここでやはり思うわけだ。どうして私はここにいるのか。そもそもここはどういう時空に存在する"場所"なのか。原作をシナリオとしてこの世界は時を刻んでいるのか。それともこっちがオリジナルなのか。こっちで起こることが後々原作に影響するのか。もし影響せずにそのまま原作として留まってくれるのならば私はこっちの世界でウヴォーやパクノダを助けたい!それこそ、“夢”で“トリップ”でしょ!!
とか、思うけど私にそれを実行するほどの力量があるのかどうか。それが問題だ。
「全員無傷で終わる可能性もあるからな。まあ、そんときは団員と仲良くしてやってくれ」
「・・・はい」
全員集合するまで結構時間があるから好きなようにして待ってろ。そう言われても・・・と思う私。だって、団長はそう言った後から、黙々と読書をし始めるのだからお話しだってできないし。
自分が二次元の世界に(いや、ここでは3次元として認識して、立体感もあるけど)いるという実感はあまりないが、これからウヴォーとかフィンクスとかに会えると思うと、すごく嬉しくて嬉しくて仕様が無い。メンバーが集まるまでの間、私は夢女子なりの妄想をするに徹そうと思った。
それにしても、団長さんを見てみると、やっぱり綺麗な顔をしてらっしゃる。間近で団長を見て話をした。なんて友達に話したら喜ぶだろーなー。でも、その前に信じてもらえない。・・・てゆーか、その前に。
私、死んじゃってるじゃない・・・。
もう家族にも友達にも会えない。音楽だって聴けないし、漫画だって読めない。この世界にだって、私のいていい場所なんて、本当は無いんだって思うととても悲しくなった。
私はこれからどうなるんだろう。この世界でずっと生きていくことになるのかな・・・?
そんな不安を感じて、やると決めた妄想が一向に捗らないまま、旅団のメンバーはぞくぞくとアジトへ集まるのだった。