が予期せぬ訪問者の室内への侵入を許してしまったことに対し愕然とし、腹の底から悲鳴を上げたその時。彼女は思った。
(私は、今までの自分とは違うっ!それを示すのよ。この変態野郎にっ!!!)
「私に、近寄らないでっ!!!」
瞬間、彼女の周りを大量のオーラが包む。それはもちろん彼女のものだ。彼女が今まで体感したことのないほどに、体の精孔という精孔から、あたたかで実体のない物がほとばしり始めたのを感じた。それとほぼ同時に、ヒソカは瞬時に部屋の奥へと身を引いた。本能的な動きだ。だがすぐに、それが自分に脅威となるものでないと悟り、彼は一時的に落ち着きを取り戻した。
「キミ・・・それはっ・・・」
落ち着いたはずのヒソカだったが、ただ茫然と大量のオーラを放ち威嚇するを警戒するでもなく眺めていると、彼の顔面は徐々に恍惚とした歪んだ笑みを浮かべ始めた。
「信じられない。まさか。この短期間で・・・。ああ・・・。やめてくれ。ダメだダメだまだ、まだ・・・まだ、早いじゃないか・・・」
ヒソカはのけぞるように天を仰ぎ、異様に歪んだ笑みを浮かべる表情を両手で覆う。対するは、彼の禍々しいオーラが身体の周りを漂いだしたのを視認した。そしてなぜ今、このシチュエーションで、彼の中心が盛り上がってくるのか。彼の身に着けるタイトなパンツが不自然に盛り上がるのをは視認し、そして困惑した。
「きっ・・・・気持ち悪い!!なんで、今!勃起してんのよこの変態っ!!!」
はたまらず身をこわばらせてしまう。それと同時に、彼女の身体を纏うオーラの量はまた更にひと回り分増えてしまった。
「ああ、ダメだ。キミのせいだよ。キミのせいだ。ボクがこれからキミを襲うのは、ボクのせいじゃない。ボクのせいじゃないと、先に断っておくよ。。キミが・・・キミがこれから、ボクに犯されるのは・・・キミのせいだ!」
目にもとまらぬ速さでの目の前に移動したヒソカは、彼女の胴の左側を片手で鷲掴みにし、部屋の奥に位置するキングベッドへと投げつけた。
「っぐはっ・・・・!!!」
は身体を九の字に曲げた状態で壁に打ち付けられ落下し、ベッドのスプリングへと沈み込む。するとすかさず、ヒソカが馬乗りになってきた。
(私このまま、こいつに殺されるの・・・!?)
どうにかして、この危機を脱しなくては。はそう思い、ヒソカに首を締めつけられた状態でも尚、あたりを見まわし、状況を把握しようとした。もう、ノブナガに助けを求めていたあの頃の自分とは違う!絶対に切り抜けてやる!彼女がそう決意した瞬間、彼女を纏っていたオーラの量は部屋全体を満たすまでになっていた。
「あああダメだよ。そんなに全力でナカミ垂れ流してたら、すぐにイッちゃうよ?」
「なんのっ・・・ことよ!!!」
「ああああキミのナカすごくいい。いいよ!気持ちいい!!!」
「変なことっ・・・言ってんじゃないわよ!!!」
「君って、どれだけ・・・ボクのことを煽れば気が済むんだい・・・」
彼女がそう叫び、火事場の馬鹿力で首元に食い込むヒソカの手を振り払おうとした瞬間。
「あ、・・・・れ・・・っ・・・・ち、から、・・・はい・・・なぃ」
の身体から発せられていたオーラは突如として消え去り、まるでこときれたかのように、すとんと身体から力が抜けてしまった。
「・・・あーああ。残念。このままじゃキミ、ボクに犯されちゃうよ?」
「いや・・・。やめ・・・、て・・・・・」
「意識はまだ保ってるみたいだね。良かった。キミが快感によがる姿を堪能できそうだ」
ヒソカの細く骨ばった手が、の身に着けていた薄いシフォン生地のカットソーと素肌の間に差し込まれ、ゆっくりとの腹部を下から這っていく。
(また、私・・・こんな、無様な・・・)
まごうことなき虚脱感。少したりとも動けそうになく、力をいれてヒソカを拒むことなど以ての外といった具合に体は言うことをきかない。
(ごめん。ノブナガ・・・。まあ、別にあの人のオンナってわけじゃないし。謝る必要もないんだろうけど)
「くやし・・・いよ」
「そうなの?ボクは嬉しいよ?」
あり得ない襲撃
「え!?ノブ、彼女連れてきてるの!?あ、もしかしてちゃん??」
「彼女なんかじゃねぇよ」
「何!?ふざけんなてめぇオレをさしおいて!」
「で、どこまでしたの?ハグ?キス?それとも・・・」
「・・・オレが一方的に・・・って、うるせえな!してねぇよ!できねぇよバカ!」
「え、一方的になんだよ。気持ちわるっ・・・」
ウボォーギンとシャルナークの間に挟まれたノブナガは、仕事終わりに一杯ひっかけようと真昼間から寄ったパブで、まるで男子高校生のような会話を繰り広げ(させられ)ていた。シャルナークは、のハンター試験騒動のときに少し世話になったので、彼女の存在を知っているが、ウボォーギンは全くの初耳で、その大きな躯体を前のめりにしてノブナガの話に聞き入っていた。
「この甲斐性なしが!てめぇオンナひとり手籠めにできねぇで何が侍だよ」
「いやオレ侍みたいな恰好してるけど侍じゃないからね。侍って何、そんな酷いイメージなの?初めて知ったわこの脳筋バカが。お前なんかそのでけぇ図体のせいでナニまででかいと勘違いされてオンナ寄せ付けさえしねぇくせによお」
「てんめぇノブナガ!喧嘩売ってんのか!?勘違いじゃねーよ!でけーんだよ!トマホークだわもはや」
「んだこら。嘘つくなよ。おめぇチンコ6mもあったら人間じゃねぇわ!!!人間というストラップがついたちんこだわもはや」
「ちょっ・・・二人とも、下ネタが過ぎるよ!」
昼ということもあり客こそすくないものの、ウボォーギンという身長が2.6mもある大男がいるだけでそもそも注目を集めるというのに、そこに輪をかけて下品にもほどがある口喧嘩を繰り広げていたのでは、さすがにいたたまれないとシャルナークが止めに入った。客が少ないおかげで、下ネタはパブのホール内でよく響くのだ。客のうちの何人かは、あの大男のナニは本当に6mくらいになるんじゃないかと疑い始めていた。
「それはさておき、すごく危険だね。彼女、絶対ヒソカに狙われてるよ」
「ああ。だからオレはあと2、3杯飲んだらマジで帰るぞ」
「うわぁ・・・ノブナガが本気で恋してる」
「っつーかよ。よりによって何でラビアに連れてくんだよ。ヒソカの本拠地みてーなもんじゃねーか」
「オレも迷ったんだよ。でもなるべく傍に置いておいて方が安心かと思ってな。何も脅威はヒソカだけじゃねーだろ」
「うわ、ノブナガって案外束縛するタイプなんだ」
「ますます気持ちがわりぃなてめぇ」
ウボォーギンの指摘する通りだ。あらためてノブナガは思った。ヒソカは、を女としてもハンターとしてもつけ狙っている。もしも無防備な状態のに会ってしまえば女として確実に食われるし、反対に防衛本能に任せて才能を開花してしまってもハンターとして襲われる。そして最悪なのは・・・。
「もし、ヤツがの居場所をつきとめられたとするとだ・・・ヒソカと会うなりがあまりの嫌悪感に念をバーストさせまった場合が相当やべえ」
念とは生命エネルギーである。その生命エネルギーをバーストさせてしまい“纏”で制御することができなければ、全身疲労を起こし、最悪の場合意識を失うことになる。つまり、ノブナガが危惧する両方のことが起こりかねないのだ。
「敵として襲われて、気を失って犯され・・・ああ、想像しただけではらわたが煮えくり返りそうだぜ」
「案外興奮するんじゃね?ネトラレ」
「ウボォーさいてー!」
ノブナガは不覚にも想像してしまった。ヒソカの手で貶められ、頬を染め裸でいること、そして穢されたことを恥じ、涙目で許してほしいと懇願する姿を。
(いや、・・・許すも何も、まだ付き合ってるわけじゃねぇし。だけどよぉ・・・)
「そんなことぜってぇさせねぇ!オレやっぱもう帰る!またなおめーら!!!」
「おー!せいぜい頑張れよー!」
「応援してるよー!ノブナガー!」
ノブナガは友人の謎の声援を背中で受け、ホテルへの帰路へとついた。大通りは観光客で溢れ、とても疾走することなどできそうになかったので、パルクールのように建物の屋根、屋上を足場にして跳躍、疾走とを繰り返す。時刻は午後4時。少し赤みがかった太陽の光に、宿泊しているホテルの白壁が照らされていた。ノブナガがホテルの敷地内に足を踏み入れた瞬間、嫌な気配を感じた。
(この気配・・・。くそっ・・・やっぱり嫌な予感ってなぁ当たっちまうもんなのか!)
ノブナガは刀を抜き、直接ホテルの客室へと向かった。森林側に位置するプールサイドに設置されたテラスに降り立ったとき、大開口の窓枠に切り取られた、信じがたい光景が目に飛び込んできた。ベッドの上に、二人の人影が見えた。がベッドに沈められ、ヒソカが馬乗りになる形での腹部をまさぐっている。
「ヒソカあ!!!てめぇ性懲りもなくっ・・・」
「のぶ・・・な、が・・・なの・・・?」
は瞳に涙を浮かべ、声のした方へ力なく顔を向ける。彼女の顔を見たとき、ノブナガの怒りは頂点に達し、殺気を纏いながら室内へとゆっくりと足を踏み入れた。ヒソカを殺す。彼はそう心に誓った。