は二人を目で追うことができなかった。二人の姿さへ追えない中で、繰り出される攻撃の数々を追えるはずが無かった。
「これが・・・ハンターの戦い・・・なの」
厳密に言うと彼らはハンターではない。ハンターではないが、プロハンターと同等か、むしろ彼らを遥かに凌ぐ力量を持っている。そんな彼らの戦いを目にする中で、彼女は背後から徐々に近づいてくる人の気配を感じた。はとっさに物陰に隠れ、気配を殺す。すると50mほど放れた草陰から、審査員と思しき協会のハンターが、ノブナガとヒソカの間に割って入る。
「ヒソカ!そいつは潜入者、邪魔者だ!!受験者じゃねぇ!!!」
あの二人の激闘が繰広げられる中、その間に割って入る事など並みのハンターではできない芸当であることに変わりは無いが、その行動はヒソカの逆鱗に触れることとなった。
「邪魔者はキミだよ」
名も無きプロハンターは、ヒソカのトランプカード一枚によって、その命を摘まれることとなった。
「あ~ああ。試験官、やっちまって良いのかよ」
「あ~ああ。興醒めしちゃった」
ヒソカは手に持っていたトランプを投げ捨て、ノブナガに背を向ける。
「おいちょっと待て!まだ終わっちゃいねぇぞ!!!」
「・・・ノブナガはさ、女の子とセックスしてる最中で今にもイきそうだってときに、邪魔が入ったら萎えるでしょ。そしてまた元通りに元気になれる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
「ボクね、今そんな気分」
「気持ち悪っ!!ワケわかんねぇ例え方すんじゃねぇ!!!!!」
もヒソカの発言を気持ち悪いと感じたが、その一方で、ノブナガが行為に及んでいる最中を想像してしまい顔を赤くする。
「・・・えっちだ・・・」
ノブナガは特訓の最中に、熱いとか汗だくだとかと言って、よく上半身裸になった。その度には顔を赤くして顔を手で覆った。指と指の隙間から除き見ると、黒く長い髪を頭頂部で結った彼のうなじと、汗に濡れるたくましい背。着痩せするタイプなのか、着物を羽織っているとスラッとスマートに見えるが、程よい量の背筋と引き締まった腰がとてもセクシーで。
「。何顔赤くしてるんだい」
「ひっ・・・ヒソカ・・・!」
ははっとして声のした方を見ると、ヒソカは大勢のハンターに囲まれていた。各々の持つありとあらゆる武器がヒソカの頭や心臓に向けられている。
「。見てわかると思うけど、ボクもう試験続けられないみたいだから、後は頑張ってね」
「・・・・・あ」
ヒソカはつい先ほど、ノブナガとの戦いを邪魔した試験官を殺したところ。“いかなる理由があっても試験官への攻撃は反逆行為とみなされ失格”だ。攻撃どころか、攻撃の果てに殺してしまって、無罪放免になるはずもない。
「まさか、連帯責任なんてことにはならないわよね」
そんなことになったら、ヒソカを許さない。許さなかったところで、歯は立たないが、はヒソカを若干恨みかけた。すると、ヒソカに拳銃を向ける試験官の一人が言う。
「大丈夫だ。お前に責任はない」
幸い試験は終盤で、あと半日もすればスタート地点へ戻るよう発炎筒にて合図がなされる、そんな時間帯だった。は知らないことではあるが、受験生の数もだいぶ絞られており、広い島内を点数稼ぎのため敵を探し回っているだけで半日はかかる。ヒソカと一緒にいようがいまいが、の最終試験通過は必然だった。
「あー良かった。さっさとその変態連れてっちゃってください」
「手厳しいねぇ。また会える日を楽しみにしてるよ」
は仏頂面で手をひらひらと揺らしてヒソカに別れを告げる。案外大人しく試験官について行くヒソカの後姿を一瞥し、は背伸びをする。目の前に広がる湖の水は澄んでいて、緑鮮やかな水草と、浅底に散らばる小石が涼しげで、とてもすがすがしい気分だ。何よりあの変態・・・もといヒソカの粘着質な視線から逃れられたことが一番の開放感だった。
あり得ない潜入者
「・・・・・!!!!!!!うげぇえええ!!!!!」
背後からに忍び寄ろうとするとあいつは突然湖のほとりにまで駆けて行き、猛烈なスピードでうがいを始めた。何度も、何度も。そりゃそうか。あいつに、あのくそヒソカに・・・・・キスを・・・・・・・。ああ、思い出しただけで腹が立つ!!!!!
「おい!何やってる」
「・・・お清め。あいつ・・・・舌まで入れてこようと・・・・あああああ!考えただけで身の毛がよだつ!」
舌を!!!!!!!!!??????????
「クソ・・・殺しとくんだったぜ」
オレは本気で後悔した。表には出さないが内なるオレは今、怒りに打ち震えている。
「ほんとよ!ノブナガどこにいたの?」
「・・・隠れてた。面倒はごめんだ。オレはもう帰るぜ。とりあえず、あのクソ野朗からお前は離せたみたいだしな」
「来てくれるとは思わなかった。ありがと。でもどうして・・・」
どうして、と来たか。別にがヒソカに殺されることは無かっただろうが、来てしまった。さて、その言い訳をどうしようか・・・。
「お前がヒソカに攫われたら、タダ飯食えなくなって、タダ酒飲めなくなる。お前の料理と酒はうめぇからな。惜しい」
「・・・・・そんな理由?」
「ああ。そうだ。定住してないオレにとっては死活問題だ」
「なーんだ。そんなことなら攫われとくんだった」
「は!?何でだ」
は口を尖らせて、オレから目を逸らした。オレはがなんでそんなことを言うのか全く理解ができなかった。あんなにヒソカに嫌悪感を示してるのに、それよりもオレにメシと酒を提供する事の方がイヤだってことか?
「まあいい。オレは帰る」
「あら。もっとゆっくりしていけばいいのに」
「ばかやろう」
ヒソカが複数のハンターに捕捉された今もなお、・ヒソカチームの監視員はこちらの様子をうかがっている。監視員のあのハンターはオレの存在に気づいているし、オレが受験生でないことは百も承知だろう。それでもオレに攻撃を仕掛けてこないのは利口だと思うが、何よりあのハンターの任務はあくまでの監視であって、試験潜入者の討伐ではないのだろう。もっとも契約以上のことをする義理がないというのが本懐だろうが。ちなみには絶を使って尾行をしているその監視員の存在など知るわけがなかった。なのでオレがここに長居できない理由を説明するためには、そこから話さなければならず非常に面倒である。
「試験頑張れよ。オレがコーチに就いた時間を無駄にするな」
「わかってる。あと少しだし、頑張る」
「ハンターになって帰ってきたら、オレがごちそうしてやるよ」
「なんか作ってくれるの?」
「おう。酒はお前が帰りにどっかで仕入れて来い」
「え、お店の・・・」
「全部飲んだ。あれ旨いな。ブランデー」
「ノブナガ・・・・あんた、まさか蔵の中に入れてた50年物のブランデーまで飲んでないでしょうね・・・」
「飲んだぞ」
次の瞬間、はナイフを持ってオレに斬りかかってきた。当然余裕で避けられる程度の攻撃ではあったが、なかなか筋のいいナイフ捌きだ。少なからずこの試験中に、戦闘能力を上げているように感じられ、改めての成長の早さを実感する。
「なかなかやるじゃねえか」
「うるさい!カウンターにおいてるものならともかく、蔵の中にまで手をつけるなんて!許さないんだから!!!」
「その息だ。お前ならハンターになれる」
オレはの頭を撫でる・・・というより怒って向かってくる頭部を押さえつけると、頬を膨らませて恨めしそうな顔でオレを見る。
「絶対、絶対ハンターになって、世界中のお酒手に入れてやるんだから!!!」
お前が怒っても、オレはお前をかわいいとしか思わないことを知っての素振りなのか?仕舞いにゃ襲うぞ!!!そう思った瞬間、背後から誰かの声が響く。
「いたぞ!潜入者だ!!!捕まえろ!!!!!!」
まったく、誰に向かってモノ言ってやがる。誰が誰を捕まえるって?と、思いつつも、厄介事は面倒なので、オレは逃げる。去り際にに目配せをして。・・・そう捨てられた子犬のような・・・心細そうな顔を見せてくれるな。頑張れ。オレはそう心の中でつぶやいてのもとを離れた。
それももう、5日前のことだ。が本当にハンターになって戻ってくるとは。
「買い物に行かねぇとな。ご馳走の準備だ」
そう言うとは、空元気ではあったが確かに微笑んで、オレの懐に飛び込んできた。
「やったよノブナガ!!!私、ハンターになれたよ!!!全部、ノブナガのおかげ。ありがとう!」
いや、いいんだ。そんなこと。でもどうしてオレは今、お前に抱きつかれてるんだ?それについて理解ができなくて言葉を発せず、心臓がバクバクいってるオレを情けないと誰か罵って欲しい。