あり得ない

非日常的なあなたと私の関係




 むしろ、好きなの・・・あなたのことが・・・。



「なんて言ーえーなーいいいいい!!!」


 私は枕に顔を突っ込んでそう叫んだ。もう、初恋の相手への告白を控えた初心な少女みたいな今の心境には、懐かしさすら抱いてしまう。それほど私はノブナガに恋焦がれている。その相手が、隣の部屋で寝ているにもかかわらず、私は一体何をひとりで・・・。もう、彼のことを考えただけで顔がニヤけてしまう。おかしいなぁ・・・3年間全くこんなこと無かったのに、彼が戻ってきたとたんにこれだもんなあ・・・。

 ガチャ

 後方からドアの開く音。私は驚いて振り向いた。

「!!?」
「何叫んでんだ。どうかしたのか」
「べ・・・べべ、別に!何も!!」

 私の大きすぎる独り言は隣にダダ漏れだったようだ。驚いた、と言うよりも呆れたような表情のノブナガが、少し控えめに開けられたドアの隙間からこちらを覗いている。

「・・・!!・・・すまん。別にそういうつもりじゃ」
「・・・?」
「ふ・・・風呂借りるぜ」
「あ、うん。どーぞー」

 そう言って階下に降りていったノブナガ。一体何をそんなに顔を赤くして・・・・・・はっ・・・。

 私は慌てて姿見の前に立つ。

「うっ・・・や、やらかし、た・・・」

 鏡に映るのは、パンツすけすけスリップ姿の私・・・。

 ドアに目をやり、大股でドアにまで近づき、先ほどのドアの空き具合を再現し、且つ部屋の外に出て、さっきのノブナガの立ち位置から、私がいたベッドに目をやる。部屋の外から扉を時計回りに押すと、左側に見えるのが私のベッド。私は部屋の奥に頭を置いてねるので・・・。

「ぱ・・・パンツ、見られちゃった・・・!!?」

 と言うか、パンツどころじゃない・・・もしかしたらそれはもう・・・割れ目もくっきり・・・。

「うわああああああああああああああああああん!!!!!」

 私は急いで部屋の中に入ってドアを乱暴に閉めて、熱くなる顔を量の手で挟んでそのままドアの前に立ち尽くす。爆発しそうな頭。・・・恥ずかしいなんてもんじゃない。もし、これで、なんか気まずくなって、また知らないうちにノブナガが家を出て行って二度と会えなくなって・・・・・・。

 そんな、最悪なシナリオ・・・あってたまるか!!

 けど、恥ずかしいものは恥ずかしい!私はどうやってこの場を攻略するか、必死に考えた。もちろん、爆発しそうなくらいに沸いた頭で考えられることなんて、限られているのだけれど・・・。







あり得ない罠








(何だ今の何だ今の何だ今のいまのいまの・・・・・!!)

 罠だ。

 オレはもつれそうになる足をパタパタと動かして、とりあえず階下にある風呂場へと急ぐ。風呂場へ着いて、扉を閉めて、ドアの前に立ち尽くす。呼吸を整えて、改めてさっきの情景を思い浮かべる・・・。

 いやいやいや待て!オレのジュニア!!熱くなってんじゃねえええええ!!

 オレはしゃがみこんで股間を抑える。いや待て何だこの状況!そもそもオレはが賊に強姦されて身ぐるみ半分剥がされてんの見たじゃねーか!!そっちはクールに収めといて、何で・・・こんな、何気ない日常のワンシーンに欲情してんだバカ!!と言うか、何であいつは、は・・・オレが部屋に入ってきたのにもかかわらず悲鳴もあげずに普通にオレと会話してんだよ!自分があんな姿だって忘れてたってのか・・・!?つか、なんちゅー下着つけてんだ!?とんだエロ娘じゃねーかあの野郎!・・・嫌いじゃない、ってかむしろ好きだが!!いや、待て。落ち着け。落ち着けオレ。

 とんでもない(おいしい)光景を目の当たりにしたオレは、バスタブにお湯を溜めながら服を脱ぐ。ランドリーバスケットに脱いだ服を放り込んで、お湯が貯まるのを待つ。

 ・・・だいぶ気が動転しているようだ。お湯がたまるのに、後少なくとも10分程かかるだろうに、もう服を脱いで準備万端だ。何で脱いでしまったんだ。そう思いつつも、もう一度服を着るのは面倒なので、意地でもお湯がたまるまで裸でいることに決定した。

 ぼうっとバスタブの縁に腰掛けていると、どたどたと階段の方から音が聞こえてきた。が降りてきたのだろう。何故か分からないが、足音は確実に風呂場に近づいてくる。そして脱衣所の扉が開く。オレはドキドキしながら、浴室のドアに映る彼女の影を目で追う。

「あっ・・・あの!ノブナガ!」
「・・・お、おう・・・どうした」
「あっ、洗濯機の上に、あ・・・新しいタオル出しといたからっ・・・使ってねっ・・・!そ・・・それと、あの!お風呂上がりにビールとか、飲みたくないっ・・・?かな・・・その・・・」

 明らかに気が動転しているの声が、何だか微笑ましい。オレは自分の気が動転しているという事実も棚に上げて吹き出した。

「な、何笑ってんの!?」
「いや・・・。ありがとな。風呂上がりにビールとか、最高じゃねーか」
「そう!?よかった!・・・お風呂上がったら、カウンターに来てね!」

 慌ただしく脱衣所を出て行く

(あいつ・・・ほんと可愛いヤツだな・・・)

 もしもこれがオレの思い上がりじゃなけりゃって前提での話だが・・・きっとアイツは、またオレが何も言わずにこの家から出ていくのを恐れている。まあ、「3年もひとりきりでいるのはいやだ」って言ってたし、ひとりでこんな荒くれ者も時折来るような店を切り盛りしてたんじゃ、寂しくなるのは当たり前だ。

 ・・・待てよ?そもそも、あの男は何処に行った?そうだ。今までに再会できたって嬉しさで忘れていたが、には男がいたはずだ。オレがさっき店に入った瞬間に斬りかかってきたあの男・・・。あいつが出て行く前に言った言葉は・・・“じゃあな、。元気でな。”だったはず。もう二度と会わないとでも言っているかのような・・・。

 まさか、な。別れた、とか、そんな美味しい話・・・。

 そこまで考えて、尻に違和感がした。

「やべっ・・・お湯張りすぎた・・・」

 いつの間にかお湯がバスタブから溢れ出ていた。慌ててカランのお湯を止め、浴槽に浸かる。自分の体積分のお湯がザバーッと音を立てて溢れ出た。オレは深いため息をついて天井を見上げる。やはり、気になるのは彼女の今の状態。

 3年もひとりでいるのはいやだと、オレの手首を掴んだ彼女から察するに、3年間あの男とは音信不通だったということか。それで、たまたま久しぶりに会ったのがさっきで、堪忍袋の緒が切れたとあの男との間で喧嘩があって・・・オレはそこに運悪く居合わせたってことか。

 つまり、二人はまだ一応、カレカノ関係で・・・。けど、はオレの存在に心がゆらぎつつある・・・。ってこたぁ・・・まだオレにチャンスはあるってことか・・・?

 オレはそこまで考えて、やはりさっきと同じ葛藤をすることになる。

 結局オレは根無し草。を幸せにできるわけなんて無い。A級首の盗賊より悪い男なんて、いるわけ無い。のことを考えると・・・オレは・・・。

 でも、好きなもんは好きだ。オレは盗賊。欲しいものは奪い取る主義・・・だろうが。

「ああ、もう面倒くせぇ」

 オレはバスタブから出て、体を洗うことにした。・・・なるようになる。とりあえず、風呂上がりのビールのために、さっさと上がっちまおう。





「はい!ビール!」

 キンキンに冷えた大きなビールジョッキを差し出して、は微笑む。

「どうも」

 オレはそれを受け取って、一気に飲み下す。ビールの苦味と、冷たさと、炭酸が食道を通って弾ける感覚がたまらない。

「ップハーッ!!たまんねぇええええ!」
「美味しい?」
「ああ!もう一杯!」
「はいよー!」

 オレはカウンター席に座って2杯目のジョッキに手を伸ばす。よし、酔っ払ったふりしてさっきのことおちょくってやるか。

「それはそうと
「なあに?」
「お前、あんなエロいランジェリー毎日つけて寝てんのか?」
「・・・!!デリカシー無さすぎでしょ!!お、怒るよ!!?」
「はっはっは!可愛いもんだな!全然怖くねえ!」
「・・・っ!!うるさいなぁ!!」

 は漫画みてーにほっぺをふくらませてビールジョッキに手を伸ばす。そして一気に飲み干した。

「おいおい、あんま無理すんなよ」
「大丈夫よ!お酒弱くてバーなんかで働いてらんないでしょ」
「それもそうだな」

 明日は平日で、バーは定休日だそう。ということで、夜が明けるまで二人で飲み明かした。