最初にの方から好きだとギアッチョに言ったのは、彼女がメローネにそれを言われたいと思ったからだった。ギアッチョのことはメローネに愛してもらえない自分を見ている様で、かわいそうだと思ったのだ。好きな相手に好きだと言われて受け入れられることがどれだけ幸せなことか、にはよくわかった。
メローネに心から好きだと言って抱きしめてもらえたなら、死んだっていいと思えるから。でもそれは未来永劫、絶対に叶わないだろう。
「。オレも……!オレもお前のことがっ……好き、なんだ!」
――知ってたよ。ギアッチョ。
は心の中で彼に返答した。その後彼女は何も言葉を発さなかった。目を瞑って今自分はメローネに愛されているのだと思い込もうともしたが、聞こえてくる声がそれを阻害する。あきらめてからはただ、中に熱を感じ、喘ぎ声を上げるだけだった。
演技だ。ただ男の欲を煽るだけの喘ぎを上げて、達したふりをする。
肌と肌が触れ合う感覚も、膨れ上がった欲が自身を貫く感覚も嫌いではない。だから、ギアッチョに本気で感じていると思わせるのは簡単だった。メローネに出会ってからは率先して男を受け入れなかっただが、本来の彼女はその感覚が確かに好きだったのだ。以前までは、それは誰に与えられようとも良かったのだ。
社会に適応できずにギャングとして生きながらえる中、男に相手にされているというだけで自分が完全には世間から阻害されてなどいないと安心できたからだ。しかし、愛が伴わないそれはどこか空虚で、どれだけ男と体を重ねようとも満たされることはなかった。愛されるだけでなく、愛したい。体を重ねることでお互いが確かな愛を感じた時にこそきっと、最高に満たされて幸せになれるはず。
――別にどうということは無いだろう?好きでもない男と寝るのはキミの得意分野のはずだ。仕事でもよくやってるじゃあないか。
ふと、メローネの言葉が頭に浮かんだ。途端に息が苦しくなった。確かに得意には違いないんだろう。だから今、行為を終えてギアッチョと寝ているのだ。
だが、仕事で男を相手にするのとは違った。仕事なら、相手のことなど何も考えなくていい。じきに死ぬ――殺す――人間だ。だが、ギアッチョはチームメイトなのだ。
じきにバレてしまう。すべて嘘だったと。メローネがそれを望んでいるから。何故かは知らない。私はメローネがやれと言ったことをやるだけだから、理由なんて関係ない。
そう思い込もうとした。だが、自分は愛されるどころか、好きだとさえ思われていないと知ったときの、失恋の辛さもは知っている。
罪悪感に蝕まれながら、はギアッチョが眠りに落ちるのを待った。やがて彼の寝息が聞こえてくると、起こさないようにと覆い被さる腕から抜け出て隣のベッドへと移り、彼に背を向けた。
「おはよう。ギアッチョ」
朝の十時。そろそろチェックアウトの時間だ。寝ぼけ眼をこすりながら大口を開けるギアッチョに、が声をかけた。彼女は既に身支度を済ませている。未だにベッドから抜け出そうとしない彼のそばに寄り頬に軽いキスをした。
「なっ……何だよ」
そういうの慣れないんだよ、なんてブツブツ言いながら顔を赤くするギアッチョを見て、は切なげに眉根を寄せて目を細めた。
私が求めているのはこういうのだったはず。今目の前にいるのがメローネなら、どれだけ幸せだろう。どうしてギアッチョ、あなたなの。
自分の部屋以外では殺すと決めた自我が、頬を濡らした。
「……何、泣いてんだよ」
「え?」
笑顔を取り繕おうとして、袖で目元を拭いながら目にゴミでも入ったのかな、などと誤魔化すの姿を、ギアッチョは黙って少しの間眺めた。
彼女が涙を流す理由にはまったく見当もつかなかった。とても悲しそうで、けれどどこか儚げで綺麗でたまらない。何か悲しんで泣いているのならと、ギアッチョはを丁寧に抱き寄せた。
「ギアッチョ……?」
は突然の抱擁に戸惑いを隠せなかった。壊れ物でも扱うような優しい抱擁。暖かく心地よい。孤独な心に染み渡るようだった。こんなに落ち着いている優しいギアッチョに会うのは初めてだ。
「大丈夫か?」
ギアッチョの優しい声音がすぐそばで鼓膜を震わせた。いつもがなり立てるように喋っていて、聞いているこっちが喉を傷めないかと心配してしまうのに、さっき聞こえた声はまるで別人だった。
でも、全然大丈夫じゃない。叶わない夢を見て苦しんで、自分がやっていることの罪悪感に押し潰されそうで。でもそうするしかない自分が、そうしていないとどうにかなってしまいそうな自分が憎い。
(ごめんね、ギアッチョ)
は心の中でそう唱えて、ギアッチョの背に腕を回した。また目を閉じて、メローネに抱きしめられていると思い込もうとした。だが彼は彼女を抱きしめたりはしなかった。メローネのあたたかな抱擁など、そもそも彼女は知らないのだ。
過去を振り返ってみると、こんな思いやりに溢れた優しい抱擁を受けたのは生まれて初めてだということに気付く。
「好きよ。大好き」
――このあたたかな感覚は悪くない。
はより強くギアッチョを抱きしめ返した。重圧でバラバラに砕け散ってしまいそうな自分を繋ぎ止めていてほしかった。彼女の思惑通り、ギアッチョもまた抱きしめる腕にさらに力を入れ、の後頭部を掌で覆った。
ギアッチョはやはり、単純に幸運だと思った。を初めて見たときから抱いていた思いが報われたのだと思った。だが、単純にラッキーだと喜んでいるだけでもなかった。
好きな女の涙ほど、男の心をかき乱すものは無い。
何故悲しんでいるのかは分からずじまいになりそうだ。もっと泣いてしまいそうで、もう一度はっきり何故と問い詰めることもできない。ギアッチョはただただ、泣くんじゃないと思いながら震える彼女の背中を抱きしめるしかなかった。
――何故彼女が悲しんでいるのか。その理由を、後に身を持って知ることになるとは露にも思わずに。
05:純真無垢な愛に裏切りを
もう二度と酒は飲まないと心に誓ったのに、すっかり忘れてまた酒が飲みたいと思う。思うだけでとどまることはなく、アルコール度数の高い酒がたっぷり注がれたロックグラスやワイングラスに手を伸ばす。何度も何度も手を伸ばす。途中でああ、この辺でやめときゃいいんだろうな。とすら思わなくなって、自制心を失くした脳はただ目の前の酒を呷るようにしか命令しなくなる。
ギアッチョにとってはその感覚が良かった。次の日必ず酷い二日酔いに苛まれると分かっていても、神経が過敏過ぎる彼にとっては怒りを忘れられる唯一の方法だ。だから酒はやめられなかった。
チームに入りたてのころ、翌日仕事があるにも関わらず朝まで酒をしこたま飲んだことがあった。二日酔いで使い物にならなかったギアッチョは、当然ながらリゾットにきつめの焼きを入れられた。それからは翌日に仕事を控えた日は酒を飲まないようにしていた。普通の社会人ならば有給休暇を取得すれば済む話かもしれないが、彼らギャングの世界には有給休暇など存在しないし、仕事の失敗は死に直結しかねない。
ともあれ、明日は仕事が無い。しかも飲もうと誘ってきたのはだ。ギアッチョがデートの誘いを断るはずもなかった。
アジトからそう遠くない行きつけのバーで、カウンター席についた。聞き上手で美人な彼女の隣にいると、酒はいつもの倍進んだ。気づけば知らないうちに夜道を歩いていた。自分が今どこを歩いているのかすらよく分からない。うまく呂律の回らなくなったギアッチョは、ふと疑問に思ったことを隣を歩くに聞いてみた。今、どこに向かっているんだ。と。
するとは、もう何度目よ、と笑って言うのだ。どうやら家に向かっているらしい。家――他でもない、の家――だ。
ああ。いつの間に家にまで招待してもらえる仲になったんだ?アジトにぽいっと捨て置くだけでも良かったんじゃあないのか?そんな風に問いただすと、は心配だと言った。泥酔に近い状態のオレを置いて自分だけ帰るなんてできないと言うのだ。ああ、なんていいガールフレンドなんだ。ん?ガールフレンド?いつとそんなステディな関係になったんだ?まあいい、彼女が家にオレを連れ込むんだ。きっと彼女もそれを望んでる。ああ、いい気分だ。人生で最高に。次の日の二日酔いなんて、これっぽっちも怖くない。何たって、がオレを見てくれるんだからな。きっと水を飲んでってグラスに水を汲んできてくれて、便器に顔面突っ込むオレの背中をさすってくれて――。
ギアッチョはふわふわとした頭で妄想の限りを尽くしていた。ふらふらとした足取りの彼の行先を、は腕を取って正して進んでいく。
家――メローネと一緒に住む家――までの道を進んでいく。時刻は22時を回っている。だが、きっとメローネは起きていることだろう。彼が、今夜ギアッチョを酔わせて家に連れてこいとに言ったのだから。
だが、ギアッチョは酔っているので分からなかった。今と共に歩いている道が、前にメローネと一緒に歩いたのと同じだとは気づいていなかった。ギアッチョは頭を下げて、ほとんど地面しか見ていないのだ。視界の狭くなった彼の足元には、どこにでもあるような石畳が広がっている。
しばらく歩くと、急にがギアッチョの体を支えていた腕を放して離れていった。支えを失くした彼はふらりと一度よろけて、何とか体勢を整えて彼女が向かった方を見やる。
「着いたよ」
どこか浮かない顔をしたが扉を開けて自分に向かって手を伸ばしていた。
それにしてもこの玄関、見覚えがある気がする。
ギアッチョはそう思ったが、思い出そうとしても未だに思考する気の無い脳がそれを許さなかった。とりあえずはの手を取って、家の敷居を跨ぐことにする。そして玄関から入ってすぐ左手にある戸口から部屋の中へと入った。この鼻腔をくすぐるほのかな柑橘系のルームフレグランスの香りも嗅ぎ覚えがあったが、ソファーにまで案内された途端に気が抜けて、途方も無い虚脱感が彼を襲った。
「ギアッチョ、お水、飲んで」
崩れ落ちるようにソファーの座面に縋った彼に、が飲み水の入ったグラスを差し出した。
ほら、思った通りだ。と笑って、ギアッチョはグラスを受け取った。冷たい水をごくごくと音を立てて飲み下す。すかさずグラスを受け取ってテーブルへと置いたは彼の腕と体を持ち上げて、ソファーの座面へと寝転がるように促した。
仰向けになったギアッチョは力なく垂れていた腕を持ち上げて、邪魔になったメガネを取り外した。手の甲を額にあてて、天井をじっと見つめる。この天井にも見覚えがある。
――さっきから既視感のオンパレードだ。オレは今いったいどこにいる?
そう考えている内にギアッチョは目を閉じて、眠りに落ちていった。
「さすがだな、。適度かどうか知らないが、何事も無くソファーに寝かせるなんて」
スースーと寝息を立てるギアッチョの姿を長い間物思わし気に見つめていたの背に、メローネが声をかけた。彼はにやけた顔でゆっくりとふたりのもとへ近づいていく。は振り向きもせずに黙っていた。
「なあ。シカトなんかするなよ。褒めてるんだぜ?いや、ほんとに。女ってのはつくづく恐ろしい」
メローネの冷たい掌がの片側の肩を覆った。そのささいな衝撃に体を少し揺らした後、彼女はすぐ傍に立つメローネを見上げた。彼の視線はギアッチョに注がれている。ひどく優し気な眼差しだ。それが自分に向けられたことなど一度も無いと気づくと、ずきりと胸が痛んだ。そしてすぐに既視感を覚えた。3人で仕事をしているとき。帰りに夕食を共にしている時。アジトで一緒にいるとき――。
メローネの瞳にはいつも、ギアッチョが映っていた。
息ができない程に喉の奥が締め付けられる。苦しい。みるみるうちに、目から涙が湧き出てきて、ぽろぽろと頬の上を滑り落ちていった。この家に来てから泣き通しだ。涸れ果てたと思った涙は、泉のように尽きることがない。それが永遠に続くと分かっていて、この家にいると、自我を殺すと決めた。だが、彼女の心はすでに限界を迎えていた。
死んでしまいたいとすら思えてしまうほどに。
「メローネ。……私、もう嫌……」
「……ああ?」
の震える声を聞いて、メローネはすぐに眉間に皺を寄せた。いつもの、うんざりするというような冷たい視線を彼女に向ける。豹変した眼差し。最早には予想すらできていた。だが、彼は何度も何度も、何度でも彼女を打ちのめす。執拗なまでに叩きのめすのだ。愛されたいという内に秘めているつもりの彼女の思いを、溢れ出たそれを踏みしだく。
物に対する無関心などではない。はやっと気づいた。怨念だ。無関心などではいられないほどに彼は――メローネは私を恨んでいる。
「私が……私が邪魔っ……なんで、しょう?……ねえ……メローネっ!!」
は嗚咽交じりに訴えた。だがメローネは冷たい表情のままを見下ろすだけだ。唇は微動だにしない。
「死ねば、いいんでしょう?それで――」
メローネはの首を掴んでソファーの背もたれへと押し付けた。彼の手は深々と首へめり込んでいく。もともと息もできないほど苦しかったのだが、窒息死がいよいよ実現しそうだ。
死んでしまいたいと思ったのは事実だ。だが死ねばいいのかと問うた瞬間、死んでしまったらもう二度とメローネには会えないのだと思った。嫌だ、死にたくなんかない。彼の姿をこの目で見て、報われない思いに悩まされることすらできないなんて。でも今はその所為で、死んでしまいたいほどに胸が苦しい。そう思っている内に、本当に死んでしまいそうな程にメローネに首を絞められる。愛する男に首を絞められ、殺されそうになっている。十分にショッキングだ。だが、そのショックよりも、死がすぐそこまで迫っていることがショックだった。
朦朧とし始める意識を何とか保って、霞みゆく視界にメローネの表情を捉えようとする。やっと見えた表情。
メローネも涙を零していた。片目から顎先に向かって、一筋だけ。そんな彼は目を剥いてを凝視している。
もう少しで死ぬんだ。そう思った瞬間、の首を絞めつけるメローネの手にさらにぎゅっと力が込められた。意識を手放しつつあったは、その後首を絞める圧力から急に解放される。止まっていた血液がぞわぞわと頂点に向かって駆けていった直後、くらりとした。ソファーの肘掛けに向かって倒れ込んで、咳込んで息を荒げる。肩で息をする。俯いている間、世界が自分を中心に回転しているような感覚に陥った。
「ふざけるんじゃあねぇぞ。死ぬだと?そんなこと、絶対にさせないからな……!」
低く唸るようなメローネの声が遠くで聞こえた。
何故殺さなかったの?首を絞めて殺してしまいそうな程に私のことを恨んでいるのに、何故殺さなかったの?何故、死んでほしくないの?
メローネがを殺すつもりなら、最初からそうしている。わざわざ家を借りて一緒に住むなどというまどろっこしいことはしない。何故なら、彼は殺そうと思えばいつでも彼女を殺せるからだ。殺すときは彼が傍にいる必要も無いし、彼がやったという証拠も何も残らない。証拠が残らなければ、彼がチームメイトに怪しまれることもない。そもそも自分たちは、使い捨ての鉄砲玉みたいなものだ。それほど問題にはならないだろう。
メローネは思慮深かった。恨みつらみで衝動的に人を殺すようなことはしなかった。今しがた殺しかけたが、すんでのところで押しとどめた。
人から愛する者を永遠に奪ってしまえば、その人の中で愛する者は永遠になる。それは彼の実体験というわけでは無いし、もちろん愛の深さにも寄るが、太古の昔から人々が本にして、映像化して、音楽にまでして伝えてきたことからも明らかだった。夢で会えたらどんなにいいかと、夜な夜な枕を涙で濡らすのだ。少なくとも、彼の認識ではそうだった。
ギアッチョの中で、が美しい思い出のまま生き続ける?
「――許さない。絶対に許さないぞ。死ぬなんて、絶対に。オレがいいと言うまで、大人しくオレの“物”でいるんだ」
死ぬにはまだ早い。汚いお前のすべてを、ギアッチョの前に曝け出せ。それでもギアッチョはお前を愛すか、それとも幻滅して去っていくか?見物だな。後者ならお前は用済みだ。生きるも死ぬも好きにすればいい。だが、もし前者なら?
メローネの中にまだ答えは無かった。
もしかするとこれから先、答えなど何も見いだせないかもしれない。嫉妬、憎しみ、怒り。これらの感情はこれから先もずっとオレを蝕んで、オレを苦しめ続けるのか?
「う、うんん……。何だよ、うるせぇなァ……」
メローネは自分自身への問いかけを一旦中止して、呻きを上げるギアッチョを見やった。彼は眉根を寄せて目をこすっている。
前回彼をこの家に招いた時は深酒させすぎた。だが、おかげで彼の限界を知ることができていた。そして、だいたいウイスキーをロックで何杯と、泥酔までいかないものの、意識が朦朧とはしてくるくらいの量を飲ませるようにに伝えていた。彼女はしっかり言ったことを守ったようだ。
口角を吊り上げて、メローネはの肩を掴んで乱暴に表を向かせた。涙でぐちゃぐちゃになった、どこを見ているのかもよく分からない虚ろな彼女の目を、襟元を掴んで顔を引き寄せ覗き込んだ。
「、お前の声で起してやれよ」
メローネが掴んだ襟元を引っ張ると、立てという意思を汲み取ったは、上から吊り上げられながらも力なく立ちあがる。そして彼女が項垂れてもたれていた一人掛け用のソファーをメローネが奪い取り、再度彼女を引っ張って自分の膝上に座らせた。
「メローネ……メローネ、お願い……やめて……」
「そうじゃないだろ。ほら、いつもみたいにあんあん喘いで、ギアッチョに聞かせてやれよ」
背後から回ってきた手がトップスの裾から潜り込んでくる。制止しようとその手を服の上から押さえつけても、ほとんど力が入らない。抗う気力もほとんど残っていない。は鼻をすすりながら、声を出すまいと最後に小さな抵抗を見せた。だがその抵抗も無意味に終わった。
メローネはしっかりとギアッチョを視界に捉えながら、慣れた手つきで彼女の体をもてあそぶ。やがてギアッチョが目をぱちぱちとしばたたかせながら、むくりと起き上がった。
「……?」
視界がぼやけている間、目の前に誰かいることだけしかわからなかった。次第に明瞭になってくると、すぐそこに2人いることに気付く。ここはの家なんじゃないのか?そう思って、テーブルの上の眼鏡に手を伸ばした。
「ごめんなさい……。ごめんなさい、ギアッチョ……」
涙ながらに呟く、の消え入るようなか細い声がギアッチョの胸を騒がせた。
「女でも囲ってんのかってオレに聞いたよな?ギアッチョ」
「メローネ?なんで、テメーがここに……」
メローネはの背後で歪んだ笑みを浮かべている。彼の手はの胸元――服の内側――で蠢いていて、彼女は力なく項垂れて呻いていた。現状を把握しかねたギアッチョはゆっくりと周囲を見渡した。そして遅ればせながら気づいたのだ。オレはここに来たことがある。
――メローネの家に。