銘々のジレンマに
たったひとつの最適解を

「やっ……やめて。いやよ、メローネっ……ギアッチョがすぐ、そこにいるのに……」
「なあ。帰ってくるのが遅くないか?」

 本当なら、ギアッチョが酔って爆睡を始める前にが帰ってくる予定だった。――これはメローネが勝手に立てていた予定だ。彼はに予め早く帰ってくるようにと言っていたわけではないので、彼女がメローネに責められるいわれなど無い。そして、お互いの生活態度についてああしろこうしろと言わない、というのが前提だったはずだが、オレの言う事に従えという絶対的規則の前にあっては、その決め事はすでに形骸化しているも同然だった。

 規則と言えども、がこの愛の無い共同生活を拒絶する権利までは剥奪されていない。契約書にサインしたわけでもあるまいし――そもそもギャングの間で契約書など取り交わすことに意味があるのか、という話はまた別として――メローネの要求が不当で耐えられないと思うのであれば、彼を避ければいいだけの話である。

 だが、メローネを愛するにそれはできない。仮初でも、愛し合う男女の真似事でも、彼の姿を毎日目に入れられることが、彼の傍にいられることこそが至福なのだ。彼女は心身の自由よりも、メローネに支配される不自由を選んだ。

 は例え愛の無い行為でメローネという男に心身ともに傷つけられることになろうとも、自分の存在そのものを無視されるよりも、まだしも救われると思った。好きの反対は嫌いではなく無関心。そんな恋愛観が、彼女の正常な判断を狂わせていた。

「ごめん、なさい」
「まあいい。生活態度についてああだこうだと言わない約束だったしな。ただもう少し早く帰ってきてくれていれば、3人で楽しく酒が飲めたのになって……言いたかっただけだ」

 メローネの手が、のシャツのボタンを上から下へと外していく。

「まって、ここでなんて、いや……メローネ、お願い」
「オレの言うことは何だって聞くと、キミは言ったはずだ」
「……っ」

 インナーシャツをたくしあげてブラジャーのカップに人差し指をかけ下へと引っ張り、乳房を露わにしようとするメローネの手首を、は咄嗟に掴んだ。もう片方の手でシャツを握って、曝された肌を覆い隠す。

「邪魔だな。両手をどけてくれないか?」

 は苦悶に満ちた表情でメローネを見つめた。対するメローネは、そんな甘えるような顔で見たって駄目だと言わんばかりに首を横に振って溜息をつく。

「お願いじゃあ分からないみたいだな。……両手をどけろ」

 凍てつくような冷たい表情を見せたあと、耳元に顔を寄せて発されたメローネの命令には身震いした。それと同時に彼女の乳首はきゅっと硬くなる。メローネはカップの縁に乗り上げた乳房をもて遊びながらもう片方の乳房も取り出して、その頂きをべろりと舐め上げた。

「あっ……ん、いや……」
「いやなら、そんなやらしい声出すなよ。女が喘ぐのって男を呼ぶためだって知っててやってるんだろ。ギアッチョがすぐそこにいるってのに。やっぱり君ってどこまでもふしだらだな」

 同僚がすぐそこにいるのに行為に及ぼうとしている男が言う事ではない。そう分かってはいた。だが彼女の理性は次第に、声を出すまいと生理的要求に抗うことで精一杯になっていった。

 メローネはのスカートの裾をめくり太モモに手を這わせ、ゆっくり上へ向って滑らせていく。そして行き当たった先に指をあてがうと、彼は眉根を寄せた。

 全く、女というのはつくづく面倒だ。男と違って触られたからと条件反射的に勃起するように体が出来ていない。気分が乗っていなければ濡れないのだ。まあ、女と一口に言ってもいろいろいるが、少なくともはそうらしい。濡れないまま突っ込んだってこっちが痛いしな。まったく、オレのオナホなんだから、オナホらしくしてればいいものを。

 そんな理不尽極まりない思いを胸に、メローネはその場にしゃがみこんだ。スカートは身につけさせたまま、ショーツだけを引き下げて、彼女の恥部に舌を這わせる。

「だ、だめっ……メローネ、メローネっ……!シャワーも浴びてないのにっ」

 小声で必死に抵抗するをよそに、メローネは唾液をたっぷりと乗せた舌で陰核を探った。探し当てた後、舌先に力を入れて小刻みにその小さな突起を揺らす。

「んっ……ん、っんあっ、やっ……いや!」

 声を出すまいと抗っていたことを忘れひときわ大きく喘ぎをあげてしまい、は咄嗟に口を手のひらでおおった。上半身をひねり、キッチンカウンターの向こうにあるソファーへとおそるおそる振り返る。

 の喘ぎ声に反応したギアッチョが、何か寝言をいいながらもぞもぞと動いていた。はどうか起きないで、と祈るばかりで、メローネの舌の侵攻の前に為す術もない。

 たまに陰裂の中へと割って入るメローネの長い舌は、器用に内壁をさすって外へ出て、陰唇をべろりと舐め上げては隠核をつつく。の下腹の底が熱をもって疼き始める。

 こんな場所で、しかも寝ているとは言え同僚の前で、こんな行為に及ぶなどあり得ない。こんなのは嫌だ。嫌なはずなのに――。

「メローネ、っん、やめ……っあっ」
「とても止めてほしそうには見えないな」
「う、っああっ……!」

 中指と人差し指を一気に奥まで付き入れられ、それらは肉壁を引きずり出そうとでもするかのように動かされる。やっと湧き出てきたの愛液とメローネの唾液が混ざりあったものが、彼の手の甲や手のひらを伝ってぱたぱたと床へ落ちていく。

「ほら、イヤだって言っているくせに、こんなに涎を滴らせて喜んでるじゃあないか」
「あっ、あっ、ん、や、やだっ……」
「本当に嫌なら逃げればいいだろ。別に足枷付けてる訳でも、キミのことを押さえつけてるわけでもないんだ」

 は足をガクガクと震わせるだけで、メローネから逃げようとはしなかった。シンクに寄りかかり体重を預け、息を荒げてメローネを熱のこもった瞳で見つめている。

 もとより、が逃げる訳が無いのは百も承知だ。メローネはしたり顔でを見上げて立ち上がった。そして右手での右肩を掴み乱暴に彼女の体を翻して腰を後ろへと引っ張った。ベルトを外し、パンツのジッパーを下ろし、中から勃起したペニスを取り出す。のスカートをめくり尻の割れ目にその熱い塊を押し付けて、メローネは再びの耳元で囁いた。

「声、我慢できるか?ギアッチョが目を覚まさないといいなァ?」

 メローネはくつくつと喉の奥で笑った。笑い終えたと同時に彼を突き入れられて、は仰け反った。

「ああっ」

 ――メローネの一部が、私の中に……。

「すっごいな。奥の方までぐずぐずだ。ギアッチョがすぐそこにいるから、だろ?」

 は気を抜くとすぐに声を漏らしてしまいそうだったので、シンクの縁に縋り歯を食いしばって必死に首を横に振った。

 ただ、欲しかったのだ。一緒に住んでいると言うのに、同居を始めてから1週間触れられもしなかった。会話らしい会話も、同居人としての事務的なものに留まっていた。メローネを毎日見られるだけで、傍にいるというだけで幸せなはずだと思った。だが手の届く距離にいるメローネに触れられもしないのは逆に――一緒に住む前、アジトや仕事で一緒にいるだけだった時よりも――辛かった。

 愛して欲しい。だがきっとこれも、愛故の行為ではない。嫌がる女を組み敷いての行為。それはセックスではなくファックだ。犯されている。ただ、欲の捌け口として。

 はそれも理解していた。だが、メローネに触れられている今は、ただそれだけで幸せだった。下腹部からうなじに向かって突き抜けていくような快感を与えられている今が、彼の熱く滾った体の一部が埋められているという今が幸せだった。

「なあ、。今のキミを、ギアッチョが見たらどう思うだろうな?」

 唐突に突きつけられた疑問。何故そんなことを?口を開く前に、メローネは勝手に続きを喋り出した。

「あいつお前のこと、好きなんだぜ」

 ――え?

 歯を食いしばったまま、は目を剥いた。声を出すまいと抗う理性が、彼女の中でまだ生きていた。どうしてそれを知っていて、わざわざ彼の前で私を犯しているの?

 メローネとギアッチョは仲が良い。そこにぽっと出のが初めてあてがわれた時彼女は、疎外感すら覚えてしまったほどだ。メローネはギアッチョにだけは屈託の無い笑顔を見せる。はその笑顔を簡単に引き出してしまうギアッチョに嫉妬すらした。ふたりの間には確かな信頼関係があるように、には見えていた。

 だが、今彼がやっていることは、そんなギアッチョの信頼を裏切るような行為ではないだろうか?ギアッチョが好きだと言う女と同居を始めて、彼のすぐ傍でギアッチョが好きだと言う女を犯しているのだ。

「メロー、ネっ……あなた、何をっ……んっ、あ、っああ」

 何を考えているの?尋ねようとすると、彼はの問いかけを遮る様に彼女の後頭部を片手で押さえつけ、腰の動きを早くさせていった。シンクの縁が、の喉を圧迫する。息が苦しくなって体に力が入り、知らぬ間にメローネのペニスを締め上げる。

「いいっ……締め付けだっ……ははっ、オレのに食いついて……っ離したく、ないってか?ああ!?」
「――んあっ!!」

 子宮口を突き破らん勢いで快感を打ち付けられ、は仰け反った。メローネに抱いた猜疑心は次第にかき消されていって、やがて彼女の脳は完全に思考回路を断ち切った。は息苦しさと得も言われぬ快感でうめき声をあげる。もはやメローネが起きませんようにと願うことすら忘れていた。
 
「ああ、もう……いっちまい、そうだ……っ、うっ」

 最後に強くの最奥を突き上げて、メローネはそのまま彼女の中へ欲を吐き出した。全て出し終えると、ずるりとペニスを引き抜いた。

 メローネは足にかけたままだった下着とパンツを引き上げて、そそくさと身なりをととのえはじめた。肩で息をするをその場に放置して、ギアッチョのいるソファーへ向って歩いていった。

 は床に落ちた体液を眺めながら息を整えて、おそるおそる顔を上げてカウンターの向こうを見やった。ギアッチョはまだ寝ているようだ。メローネはテーブルの上に乗せたままのグラスに口を付けて、赤ワインで喉の渇きを潤していた。そして、まるで何事も無かったかのような、涼し気な顔でソファーに座り込む。

 はほっと安堵するのも束の間、ギュッと締め付けられるような胸の痛みを覚えた。

 自分から望んだことだ。彼の傍にいられるなら、おもちゃにでも何にでもなれる。感情を殺して、彼の所有物になれる。

 だが、愛されたいという欲望を、はまだ殺せずにいた。

 は溢れ出る涙を必死に呑み込んで、ひとり事後処理を済ませて何も言わずにリビングから抜け出した。軽くシャワーを浴びて寝室に駆け込んだ。閉じた扉にもたれかかり、そのまま下へと滑って床に座り込むと、手のひらで顔を覆った。

「メローネ……メローネ……」

 しんと静まり返った寝室で、愛する者の名を呼んだ。当然返事など無い。孤独な自分が浮き彫りになって、押し留めたはずの涙が堰を切ったように溢れ出す。

 きっとこの苦しみは、彼と一緒にいる間延々と続くだろう。一緒にいればいずれ、なんて甘い考えは捨てなければならない。

 物に愛着を持つ人間はいる。だがそれはあくまで人間側の一方的な思いでしかない。いくら愛着を持ったとしても、物は思考しないし感情を持たないので、意思疎通なんてできない。どこまで行っても物は物でしかないのだ。

 私は彼の"物"。一週間前にはっきりとそう言われたことを、は思い出した。

 そして彼女は決意した。この自分の部屋では、心を持った自分でいていい。どんな感情も吐き出していい。ただ、この部屋から一歩でも外に出たら、物でいることに徹しよう。

 全ては、愛するメローネと一緒にいるために。彼に所有され続けるために。

 決意した彼女のすすり泣く声は扉の向こうへ漏れ出ていたが、それを耳にする者は誰もいなかった。



03:無欲な操り人形に命令を



 久しぶりにギアッチョ、のふたりが一緒になって仕事をした。その日は雨が降っていた。

 は相変わらず男を誑し込むのが上手かった。仕事を終え、一足先に車へ戻ったギアッチョは、雨に濡れながらこちらに向って駆けてくるを見て溜息をついた。

 ギアッチョは仕事でに体を使わせるリゾットに、言いようのない不満を抱いていた。とは言え仕事なので、彼女自身完全に仕事と割り切っているようだし、そのことについて不満を漏らしたことなど一度も無かった。つまるところ彼は、自分の欲求のやり場が無いから、不平不満を吐露できずに鬱屈しているだけに過ぎなかった。

 元来辛抱強い方では無いギアッチョが珍しく、彼女に対する思いはストイックにひた隠しにしていた。今夜も彼は、口を開けば危うく出てきてしまいそうなその不満を懸命に押し留め、彼女の帰還を待つクールなチームメイトを装った。

「ごめんなさい。遅くなっちゃった」
「そうでもねーよ。……男の始末は済んだのか」
「もちろん、ぬかりなく。報告も済ませたわ」

 そこまで聞くと、ギアッチョは何も言わずに車のエンジンをかけた。そこそこ強い雨が窓ガラスや幌を叩く音は、けたたましいエンジン音にかき消される。そしてギアッチョはふうっとひと息吐いた。

 を車に乗せるのは久しぶりだった。ふたりで仕事をするのがそもそも久しぶりだったし、そうでなければ彼女は大抵メローネのバイクに乗りたがる。だから、今度彼女と仕事をするときはメローネ抜きか、雨が降ればいい。とギアッチョは思っていた。別にそのどちらかで良かったのに、いっぺんに望みが叶ってしまったので、ギアッチョは運を一度に使い果たしてしまった気分に陥っていた。

 そうやって望んではいたものの、好きな女といざ狭い車内でふたりきりともなると緊張する。溜息ひとつ吐いたところでどうにかなるわけでは無かったが、ハンドルを握る手から少しだけ力を抜くことは出来た。

 ギアッチョがクラッチを踏み込みギアを一速に入れると、車はゆっくりと動き出した。

 アジトまではここから三時間ほどかかる。現在時刻は朝の二時。普段なら寝ている時間だ。ギアッチョは大口を開けてあくびをかます。心配そうな顔で、がギアッチョを見やった。

「……寒いわ」

 ギアッチョはちら、と横目でを見た。髪も服も雨に濡れている。だがバスタオルなんて持ってきてない。

「暖房つけるか?」

 ギアッチョは寒さには強いが暑さに弱い。この車に乗りだして暖房を付けたことなどなかったので、うまく機能するかどうか分からないが、とつまみを回そうとする。

「モーテルにでも寄らない?」
「はあ!?」

 の唐突な提案に、ギアッチョは面食らった。

「温かいシャワーが浴びたい。それにもうこんな時間だし。あなただって疲れているでしょ?あくびしてたし、居眠り運転で事故られても困るし」
「オレは別に大丈夫だ」
「私は寒くて大丈夫じゃないもの」
「だから、暖房つけてやるって」
「えー。ギアッチョ、さっきあなたが掴んでいたのは吹き出し口を切り換えるつまみよ。どうせ暖房なんて使ったことないんでしょ?かび臭かったりほこりっぽかったりするのは嫌だし、体が濡れてるから暖房もあまり――」
「だあああっ!もう分かったようるせーな!モーテルに寄りゃあいいんだろモーテルによォ!?」
「ええ、お願い」

 満足そうにニコニコと笑うを、ギアッチョは不満気に睨みつけ、顔を真っ赤に染め上げて進行方向に向き直った。

 やはり、運は今日で使い切ってしまったのだろう。思ってもみなかったシチュエーションにギアッチョは舞い上がっていた。仲間の帰還を待つクールなチームメイトは、すっかり鳴りを潜めている。

 十五分ほど車を走らせると、バイパスの側道に面したモーテルの看板が見えてきた。

「部屋、一緒で構わないでしょ?」
「オレは構わねーが、お前はいいのか」
「ええ。気にしない」

 そんな会話の後、受付に行って部屋を借りる。生憎、ツインルームしか空いてないと受付のアルバイトが言った。がにこにこと愛想のいい顔を受付の男に向けて鍵を受け取ると、入口付近の壁に背中を預けていたギアッチョは先に扉から外へ出た。

「チッ……あいにくって何だよ」
「私達のことカップルとでも思ったんでしょう」
「カッ……!?」
「何顔赤くしてるの?カワイイわね」
「ああ!?」
「どうどう。寝てる人起こしちゃまずいわ。静かに、ね?ギアッチョ」

 シーッと息を吐き出しながら唇に人差し指を当てられ、ギアッチョは押し黙る。よくあることだ。だが、これからこの女と狭い部屋でふたりきりになるのだと思うと落ち着かない。

 部屋に入るなり、ギアッチョは片方のベッドを陣取って、は脇目も振らずにバスルームへと向かった。

 布が擦れる音や、ベルトをかちゃかちゃと外す音が扉の向こうから聞こえる。シャワー室の扉が開いて閉まる音、そして水が彼女の体やタイル張りの床へ打ち付ける音。想像力を掻き立てるそれらのせいで、さっきまで眠かったはずなのにすっかり目が冴えてしまった。

 ギアッチョは後頭部で手を組んで天井を睨みつける。

 まったく、自分の下心には参ったものだ。壁の向こうに思いを馳せ、の裸体を思い描くなんて。幻聴か、女の喘ぎ声まで聞こえてきやがった。いくら何でも妄想が飛躍しすぎだろう。女の喘ぎ声には男を興奮させて誘う効果があると聞いたことがある。妄想の中の女が、がオレを呼んでいる?だが、の声より少々野太いような……。つか、これ幻聴じゃなくねーか?

「あら。だいぶお盛んみたいね、お隣さん。こんなんじゃ眠れないわね」

 突如、足元からの声がした。ギアッチョはビクリと体を揺らして反射的に上体を起こしてを見やった。

 バスローブに身を包んだが、喘ぎ声が聞こえてくる壁の方をじっと見つめていた。

「凍らせてくるか」
「駄目よギアッチョ。仕事以外の殺しはご法度でしょ」
「もう体温まったんだろ?帰ろうぜ!すっかり目が冴えちまッ……」

 が自分のいるベッドへ向って歩いてくる。ただ歩いてきているわけではない。

「あんな声聞こえないくらい……こっちだって楽しんじゃえばいいのよ」
「お、おい!!おめえ一体、なんの……ッ!!?」

 はまとめ上げていた湿った髪の毛をおろし、腰紐を解きながら歩み寄ってきているのだ。やがてバスローブは肩から滑り落ち、一糸まとわぬ彼女がギアッチョの足元からベッドへと乗り上げた。

「まだじゅうぶん温まってないの」

 足首、脛、太もも、腰から胸へ。の左右の手が交互に迫ってくる。ギアッチョはごくりと唾を飲み込んだ。困惑と興奮が頭の中でないまぜになっていて、胸は激しく高鳴っていた。視覚情報という刺激ひとつで熱を持ちはじめた短絡的な雄の部分をもぎ取ってしまいたいという理性と、そんな理性なんか捨ててしまえという欲が彼の内側で戦っていた。葛藤している間、の顔が目前にまで迫っていた。

「ふたりで温まりましょう?それとも……私なんかじゃ、楽しめない?」

 鼻と鼻が触れ合う。の熱っぽい囁き声。ギアッチョは一瞬、頭が真っ白になった。気づいた時にはと上下が逆転していた。

「不足なんかねーよ」

 モーテルに寄ろうと言った時からその気だったのか?そもそも何故こうなった?

 そんなギアッチョの理性が投げかけた疑問は、理性もろとも圧倒的な欲がかき消した。




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