Holiday
目が覚めたところでチョコラータの鼻腔をまずつついたのは、自分が射出した精液のにおいだった。本来の用途のために出したことはないし、今後そうする予定もない、ただの生理的欲求に基づいて吐き出された自分の体液。そのにおいだ。
チョコラータは顔をしかめてむくりと起き上がると、自分の股間に立派なテントが張ってあることに気付いた。昨晩はのことを思いながら何度も抜いた――結果、まるで西部劇に出てくるタンブル・ウィードのように、丸まったティッシュが複数個床の上に転がっている――というのにまだ元気な自分の息子を見るとうんざりして、チョコラータはソファーの座面に後頭部をなげうった。
どうしてこうも、私の遺伝子は生き残ることに必死なのか。子孫繁栄なんて私は少しも望んでいないのに。まるで思考回路がまるっきり違うもうひとりの自分が股間に付いているみたいだ。
いや。だが、待てよ。これまで考えたことはなかったが、との子なら――。
の優秀な遺伝子が引き継がれるのだ。あの器量の良さが。それならが失われても寂しくはないかもしれない。だが、10カ月も待てるだろうか。そんな辛抱が私に出来るだろうか。
いや、出来るわけがない、とチョコラータは思った。そもそも、一発で子が出来るとは限らない。何なら、相性が悪かったり、の体に何らかの問題があったり自分の精液に問題があったりすれば、一生できない可能性だってあるのだ。
だが、1回試してみるのも悪くないのではないか?
が自分との子供を作ることに同意することを前提に、もくもくと際限なく沸き起こる妄想。チョコラータが初めて行う種類の妄想だった。彼はこれまで一度も自分の子が欲しいと思ったことは無かった。心から愛しいと思える優秀な女に出会ったことが無かったし、子供のいる温かな家庭なんてものに憧れたことなど一度もない。だというのに、との子ならと、自分の生理現象を見てふと思ったのだ。
子供が欲しい。その欲求の先にチョコラータが思い描く将来像は、もちろん言うまでもなく、一般的な男性がその原始的な欲求を端に発し思い描く理想像とは全く趣を異にしている。彼は家庭が欲しいのではない。そこに母の姿は無いし、子もいずれ失われる。チョコラータの手にかかって。
子を産んで至上の幸福に――が実際にそう思ってくれると仮定しての話だが――浸ったそばからそれを取り上げられ、絶望の淵に突き落とされるが見たい。なんて素晴らしい思いつきだ! そして子供は手塩にかけて育てる。のような器量良しに。そしてまた私は、じっくりとその子を育て、子が幸せになるのを見届けた後すぐにそれを取り上げ、最高の絶望を目にするのだ。
チョコラータは勢い良く起き上がると、床の上に転がったタンブル・ウィードを拾い上げゴミ箱に捨てた。脱ぎ捨ててあったズボンに足を通し、軽く身なりを整えると地下室を後にして、そのままバスルームへ向かった。
朝の光に満ちたバスルーム。のおかげで常に清潔に保たれているその場所は、最近とくにチョコラータの気に入っていた。彼はこの家に越して来る前、内装屋にバスルームのほぼ全面をタイル張りにさせた。透き通るような緑色のそれは陽の光に当たるとキラキラと輝く。日頃の掃除のおかげか水垢ひとつなく、輝きは以前にも増していた。だから、最近は朝にシャワーを浴びるようになった。そしてその朝日の中で浴びるシャワーは、チョコラータをまるで生まれ変わったように感じさせる。
いや、事実生まれ変わっているのだ、とチョコラータは思う。毎日、毎日、1兆個もの古い細胞が1兆個もの新しい細胞に取って代わるのだから。ならば、私とは一体何なのだろう。
テセウスの船だ。
哲学的な問いを思い浮かべてすぐに思い出した。この問いについては、これまで何度も考えてきた。その結果、自分なりのはっきりとした答えが出ていた。私を形作るのはこの体ではない。この体に宿った魂なのだ。魂が――この私の頭脳が存続し続ける限り、私は私なのだ。いくら身体が生まれ変わろうが、いくら身体が老化しようが、そして例えいくら身体が機械に取って代わろうが、どこまでいっても私は私なのだ。
そしてその私という魂も、いくらでも変化する。ある時思ったことは、後にひどく馬鹿げた妄想のように感じる時もある。逆に、昔は馬鹿馬鹿しく感じていたはずのことを、今になって素晴らしく思う時もある。まさに今がその時だ。
私はとの子を設ける。実に素晴らしい考えだ。やはり、私は日々生まれ変わっている。ああ、なんて素晴らしいことだろう。
人が死を前に絶望し消えていく瞬間を観察している時以外に、チョコラータがこれほど充足した気分を味わえたのは彼が覚えている限りでは初めてのことだった。つくづく、はこれまでここにきた女とは一線を画す素晴らしい存在だと感じたし、彼女と出会えたこの運命に感謝した。
チョコラータは鼻歌を歌いながら体を拭いて服を着ると、軽く髪を乾かしフロスで歯間の歯垢を取り除き歯を磨いた。仕上げにオーデコロンを軽く振ると、彼はリビングへ向かった。きっと今頃、キッチンには愛しいが立っているはずだ。ところで、どうすれば彼女をベッドへ連れ込めるだろう。そもそも、彼女の排卵日はいつだろうか。そんなことを考えながら、リビングへ通じるドアの取っ手を握る。
ふと、胸が騒いだ。物音がしない。ひどく静かだ。チョコラータはそのことに扉を開ける前から気付いた。そして扉を開けた瞬間に、彼の鼻は濃厚な死の匂いを嗅ぎ取った。
血の匂いだ。空気中に漂う血液から発された微細分子が嗅上皮に張り付いて、チョコラータに死を連想させる。誰の血液だろうか。考えてすぐに、の顔が思い浮かんだ。彼女の愛らしい顔が。
チョコラータは血相を変えてキッチンへ向かった。キッチンカウンター下にあるゴミ箱の蓋を開けて中を覗いた。生ごみの上に、大量の血液が乗って固く乾いた脱脂綿があった。チョコラータはそれを拾い上げると、まるで砂漠を歩く喉の乾いた旅人がオアシスの水にありつけた時のように大事そうに両手のひらへ乗せ、鼻と口を覆った。そのまま深く息を吸い込み死の匂いを肺いっぱいに満たすと、陶酔した顔で深い溜息をついた。それを何度か繰返し、我に返る。
に見られていたらどうする!
チョコラータはどす黒い血のついた脱脂綿を慌ててもとの場所に戻し、辺りを見回した。良かった。の姿は無い。ほっとしたのも束の間、彼は彼をそうさせてしまった衝動にじわじわと心を侵食されつつあった。
ああ。神よ。くそったれの神よ。あんたの冥福を祈る。私はあんたに衝突する車のモーターだ。アラブの春のケルビムであり、弾倉に装填された弾丸だ。
チョコラータはの元へ急いだ。そして彼女の愛らしい顔を見て、ふんだんに使われたらしい消毒液の匂いにまざる、彼女の血の芳しい香りを嗅いだ時、彼は悟った。
私は私でしかない。船が船でしかないように。私は他の何者にもなれはしない。
私は、殺すために生まれてきたのだ。
09: Baby Eyes
「おまえがひとりで、つらい思いをしていたんだと思うと――」
チョコラータはの熱を体の前面で感じながら、あまりの興奮に口角を吊り上げて泣いていた。心臓はけたたましい音を立てて末端へくまなく血液を送る。流れる涙は感涙だ。きっとこれから、我が人生における最高の時間を迎えるであろうという期待に打ち震えた心が流したものだ。
「――ひどく、心が……痛むんだ」
チョコラータの心は、がひどい怪我をしたからといって毛ほども痛んでいない。踊りはしても、痛んだりなど絶対にしない。けれど彼は演技が得意だった。今まで何人もの女をその演技の上手さで舞台へ引きずり込み、心行くまで躍らせた後に突き落としてきた。悲し気な顔――ひどく心配した。治療ができて良かったが、おまえに痛い思いをさせてしまった自分が許せない。そんな心にもないことをしっかりと物語る表情を、瞬時に顔面へ張り付けることができた。別の理由で出てきた涙なんかは、そのシナリオを裏付けるのに持って来いの小道具だった。
「。私は、おまえが愛おしい」
今にも溢れ出てしまいそうな衝動を必死に押し込めながら、チョコラータはゆっくり、ひどく丁寧に言った。
「おまえも、同じ気持ちなのか?」
そう聞かれて恥ずかしそうに頷くが、本当に愛しかった。その気持ちにだけは全く嘘がない。私は、を愛している。愛している。愛している。
「ん……」
徐々に口づけを深くしていくと、空気を求めるは苦し気に鼻から息を漏らした。その音はチョコラータに彼女の死を連想させた。彼女の小さな死の後に本物のタナトスが訪れることを予感させた。鋼鉄のように固くなったペニスが、窮屈そうにズボンの布を押し上げている。その苦しさに彼もまた眉をひそめてわずかにうめき声を上げた。
のうなじを覆っていた手をヒップにまで滑らせた後、指先を下へ潜り込ませて少し持ち上げるような動作をすると、チョコラータは彼女に、自分の膝の上に乗るようにと促した。はどこかほっとしたような顔で――恥ずかしがりやなのだ。そんなところも可愛らしい。どこをとっても愛らしい。ああ、愛してる――後ろ向きになり、今にも壊れて傾いてしまいそうな古びた籐椅子に恐る恐る腰掛けるように、チョコラータへ背中を預けた。チョコラータは少しだけ体を据える位置を調節し、リラックスしてソファーの背もたれに背中を預けた。
彼の大きな分身は酷く緊張しての身体を上へ押し上げていた。彼女もきっと、この昂ぶりには気づいていることだろう。それは実のところ、彼女に面と向かった時から徐々に硬くなりはじめ、手術中にはとっくにその形を完成させていた。彼女のぱっくりと割けた掌。割れ目からのぞく桃色の肉や血管や血液はチョコラータに、苦痛に顔を歪めるの表情を連想させた。
鼻先を耳の裏へ寄せ、深く息を吸い込む。の香りだ。甘く官能的で、くらくらとした。肺の中で彼女の死と生が混じり合う。チョコラータはうっとりして深い溜息を吐いた。それが首をくすぐったのか、彼女はぴくりと体を震わせた。この程度のことでいちいち反応していたら、これから先身が持たないんじゃないかと心配になった。だが、そんな心配も浮かんですぐに消えた。手加減をしてやろうなんて気は起こらない。彼は疾うの昔に冷静でいられなくなっているのだ。
唇でのうなじをついばみながら、乳房に触れた。ブラジャーなんて面倒なものを上手く着けるほどの余裕は、手負いのには無かったらしい。トップスは彼女の胸の形と手触りを、ほとんどそのままチョコラータの掌に伝えた。柔らかく、適度に張りと弾力がある慎ましくも触りごたえのある乳房だ。素晴らしい、とチョコラータは思った。一方の彼女は声を出すまいと、無事な方のてのひらで口を覆った。だめだ。そんな、もったいないことをするな。
チョコラータはの手首を掴み下げさせると、彼女が腕を上げられないように自分の腕でおさえつけたあと掌を元の位置へ戻した。そして、もっと反応が見たい。声を聞きたいと、やわやわと弄んでいた乳房の頂に指先で触れた。
「あっ」
「恥ずかしがらなくていい。もっと、おまえの声を聞かせてくれ」
耳元でそう囁く。両の乳房の頂を指先でつつき、硬くなってしっかりと形づいたそれを少し摘み上げ、やさしく弾き、捏ねた。はやがて自制心を手放しはじめ、愛らしい声を室内に響かせ始めた。むくりとペニスが脈打つ。
「かわいい声だ。。たまらない」
ひとしきり乳房をいじめると、今度は彼女の履くスカートの中へ片手を滑り込ませていった。柔らかなふとももの内側をそろそろと撫で上げていく。やがて彼女の中心へ到達する。サテンの生地はすでにしっかりと濡れていた。このままペニスを突き入れても何の問題もなさそうだ。けれど、焦ってはいけない。彼女をしっかりと味わわなければ。逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと、いやらしい手つきで濡れそぼったそこを撫でた。の声は一際大きく響いた。
「チョコラータ、さん。そこは……汚いので、触れないで……ください……。私、お風呂に……入ることができて、いないんです」
「関係無い。風呂になんか入っていなくたって、おまえはひどくいい香りがする。ここもきっとそうに違いない」
「いや……かいだり、しないで」
「そうできたらいいんだが」
が身につけたパンティーと彼女の陰唇との間にある分泌液が天然の潤滑油となって、チョコラータの指の動きを的確かつ効率的にへと伝えているようだった。陰唇を上下左右にこすられて、が吐く息は荒くなり、声を漏らすのにも躊躇いがなくなってきていた。足の付け根の内側――パンティーの際はぬるぬるとしていた。チョコラータはそこから指を布の下へと潜りこませた。
直接、の中心に触れた。触れただけで、チョコラータの胸は苦しくなった。早く入れてしまいたい。今すぐこの中にまるっきり自分を埋めて果ててしまいたい。だが、まだ早い。じっくり、じっくりとだ。
「もう十二分に……私を受け入れる準備ができているようだな?」
気を抜くと即座に失くしてしまいそうな理性を、見失ってしまいそうな自分を今生に繋ぎ止めるため、彼は口を動かした。別にに羞恥心を抱かせようなどとは露とも思っていなかったのだが、彼女は耳を真っ赤に染めて正面から顔をそらした。
「ん……チョコラータ、さん……。わたし……はしたない、ですよね……。ごめんなさい」
「恥じる必要も謝る必要もない。実に自然な反応だ。私は喜んでいるんだ、」
滑った指先で皮を被っていたクリトリスをむき出しにして、優しくその小さなつぼみに触れた。するとは小さな悲鳴を上げてチョコラータの腕にしがみついた。小刻みに鋭利で甘美な刺激を与え続けるチョコラータの手を止めようとしているのだろうが、そうしたくても力がはいらずにいるらしい。そんな中途半端は良くない。全力で止めに入るか、体をわたしにまるっきり明け渡すかそのどちらかだ。願わくば、後者であって欲しい。
「リラックスするんだ。そうすればもっと良くなる」
「は……はい……。んっ、ん……んあっ――」
の、その妙に素直なところもチョコラータは好きだった。与えれば与えただけの反応を返してくれる。過不足なく。実に素晴らしい逸材だ。
チョコラータはしばらくクリトリスをいじめ続けた。ぴくぴくと体を揺らすから伝わる振動を楽しんだ。そして彼女が絶頂を迎えるか否かという寸前に、クリトリスから指を離し、指の腹を下へ潜りこませ、中を優しくかき混ぜはじめた。充血したぷたぷとした手触りのそこは、洪水のただ中にあった。指を抜くたびにとろとろとした、限りなく液体に近い半液体があふれ出し、ヒップの間を伝ってソファーの座面をしとどに濡らす。
ああ、なんて感度がいいんだ。そんなに望んでいたのか? 私とひとつになる、この時を。。かわいい、かわいい、私の。
チョコラータは中心をもてあそぶ手はそのままに、服の上から乳房を揉んでいたもう片方の手をトップスの裾から中へ潜りこませた。体側からてのひらを這わせて、直に乳房を揉んだ。温かくて柔らかい。どうしてだか、ひどく安心した。いつだったか、男性は女性の乳房を揉むと自分のストレスを軽減させることができるとか、学術誌で――確か、立派な権威ある学術誌で至極真面目に――その実証実験後のアンケート結果や脳波の解析結果、そしてそれらから解釈し得るメカニズムまで書いているのを読んだことがあった。だからって言えるのは、男とはどこまでいっても結局赤ん坊のままなのだと言うことだけじゃないか。下らない、と短絡的な意見を抱いてその場は終えたが、今まさに彼はその効果を実感していた。
おかげで、ペニスはこれ以上ないという程にまで膨れ上がっていた。もう我慢ができそうにない。チョコラータはため息をつくと一旦手を止めた。そしてへ横向きになるように伝えると、膝の裏に腕をあてて両足をまとめ上げ、もう片方の腕を彼女の背中に回して体を持ち上げながら立ち上がった。すぐさまソファーへ向き直ってを座面に座らせると、彼は彼女の目の前で――ちょうどチョコラータの股間はの顔の前にあった――パンツのジッパーを下げ、大きく勃起したペニス――かなりの大きさだ。その証拠には幻でも見たかのように目をまん丸にして凍りついていた――を取り出した。
「心配するな。痛くないようにする」
これまで肉体関係を持った女は皆が皆、チョコラータのものを見てのように驚愕し身構えた。挿入中は悲鳴のような喘ぎ声を上げた。長さも太さも硬さも何もかもが経験を上回っていたのだろう。チョコラータは男のイチモツになんか興味は無かったが、医者の知識として知り得たイタリア人男性の平均的な男根の長さを知っていた。自分のそれと比べてみると彼は平均よりも5、6センチメートル程長いのだ。ちなみに、平均と比較して太さと硬度がどうなのかについては不明だ。
はごくりと聞こえるくらいの大きさで喉を鳴らし、膝と膝をこすり合わせた。その膝をこじ開けるように、チョコラータはの股の間へ割り入った。すでに十分すぎるほどに濡れた彼女の陰唇に先端を擦り付ける。つるつるとした滑らかなそこがの蜜に濡れる。少しとろみのある半液体を手のひらでカリの下まで伸ばし、少しずつ彼女の中へペニスを埋めていった。ほどなくして、の子宮口のあたりに先端が当たる。
「――あっ……チョコ、ラータ……さんっ」
は恍惚とした表情で、チョコラータの顔をじっと見つめていた。
驚いた。悲鳴も何も上げないのか。これまで、大きすぎるとか、止めてとか、そんな被害者ぶった文句を言う女しかいなかったのに。いつもはそれで少し冷めるのに、ときたら、ああ。なんて出来た女なんだ。チョコラータはそれでまた、のことがより一層に愛しく思えた。
「痛くないか?」
「……はい、大丈夫、です。気持ちいいっ……」
嘘だろう? 私のものは縮んじまったとでもいうのか? まさか、そんなはずはない。過去最高記録と思える程に膨らんでいるし、なんならこっちが痛いくらいに張り詰めてる。いやだが何にせよ、痛い痛いと泣かれるよりはよっぽどいい。気にかけるふりなんかしなくてもいいんだ。は、オレの全てを受け入れてくれるのだ。
「動かすぞ」
「はい。……お願い、します」
まさか、律動を乞われることになるとは。だが、そうと決まってからは、ペニスをによってつつまれ扱かれる快感に集中した。演技をすることを忘れ、ただただ獣のように腰を振り、の中を行き来した。の喘ぎが、自分のうめきが、どちらのものとも判別のつかない体液をまとった肌の触れ合う音が地下室でこだました。互いが互いを高め合う間に貪り食うようなキスを交わし、指と指を絡め合いながら、一方は頭が真っ白になってしまいそうな快感を得てよがり、一方は快感を与え、与えられ続けた。
「あ、あ、ああっ、チョコラータ、さんっ、私、ダメ……もう、気を、失い……そうっ」
「いい、のか?」
「はいっ、いい、とても……あ、んっ! んっ! んあっ、だ、大好き、です」
「ああッ!? なん、だって……!?」
「大好きです、チョコラータ、さんっ」
はチョコラータの頬を掌で包み、涙を滲ませた瞳で彼の目をじっと見つめ、幸せそうに微笑みながら、確かにそう言った。瞬間、チョコラータは堪えきれなくなった。
「――ッあ、ぬあああッ!!」
チョコラータは獣の雄叫びのように声を上げると、最後に深く深くを刺し貫き、彼女の尻をがっしりと掴んで固定した。ペニスはどくどくと脈打った後に大量の精液を吐き出し、の子宮口へと子種を吹き付けた。終えた後、チョコラータはしばらく呆然としての顔を眺めていた。
私は一体、何を言われたんだ?
虚無の内に冷静さを取り戻したチョコラータの頭は、やがて思い出した。自分を絶頂へと導いた言葉が何だったかを。
「大好き、って……言ったのか?」
それは彼が一度も、言われたことが無かった言葉だった。それに近しい好意を感じられる言葉――特に、称賛の言葉はいくらでも耳にしてきた。だが、どれも世辞のようで薄っぺらく感じた。の言葉は違った。その言葉は、嘘で無いことが確実と分かる、十分な重さをたたえたものだった。チョコラータはおのが耳を疑っていた。そして、その言葉に動揺し、幸福感を覚え、不意に絶頂に至ってしまった自分をも疑った。
「はい。心から……そう、思います」
幻聴でも何でもなかったのだ。
チョコラータはの中へ自身を埋めたまま彼女を抱きかかえ、後頭部を大きな掌で覆って抱きしめた。そしてからは見えないところで、彼はまた涙した。今度は本当に胸を痛めていた。最愛のをこれから失うことになるのだという未来を思い、泣いた。
だがそれ以上の圧倒的な感情が、あるいは衝動が、じわじわとチョコラータを蝕み始めていた。至高の幸福のあとには、すべからく最悪の絶望が訪れなければならない。のその表情は、恐らく我が人生において傑出した生の実感を与えてくれることだろう。
ああ、愛しの。私は、殺すために生まれてきたのだ。