Warning:Live
without warning

11.5: Fuck Time

 息を深く吸って……吐いて……吸って止めて…………長く、長く吐いて――。

 リラックスするようにと言われ、は呼吸を繰り返した。空気を吸う度に、イランイランの甘く芳醇な香りが脳髄を侵していく。静まり返った室内では衣擦れと、自分の呼吸、そして高鳴る胸の鼓動以外音は聞こえない。ほの暗い部屋に浮かぶ陰ったチョコラータの顔は、患者の診察をする医者のように至極真面目な表情を浮かべている。そしてその顔はゆっくりと胸元へと下りていった。

 チョコラータは手始めにの硬くそそり立った乳首を甘噛みした。固く尖った突端の周りを舌でなぞった後唇で軽く食み、舌に乗せた唾液をまぶしながら乳輪もろともしゃぶりつく。もう片方の乳房には手のひらをあてがって、浮かせた人差し指で乳首を転がした。目線だけを彼女の顔へ向けて、彼はの反応を観察していた。「勘違いするな」と言った後から急に声を出さないようにと堪えているの様が面白い。チョコラータの口は彼女の乳首を含みながら弧を描いていた。

 一方のは唇を噛んでチョコラータの口元を見つめていた。これは治療だ。愛し合う男女が情熱的に愛を交わすのとは訳が違う。勘違いするな。つまり、婦人科検診で医者にゴム手袋をはめた指を突き入れられたり、カチャカチャと鳴る冷たい金属の婦人科用医療器具をねじ込まれたりする時と同じようなものだから、勘違いして喘ぎ声なんか上げてはいけないということだ。

 そうは言っても、このエロティックな光景を見てむらむらしない訳が無かった。そもそも、婦人科検診で医者は患者の乳首なんかいじらない。さらに、勘違いするなと言った本人がいやらしい舌使いを見せつけてくる。長い舌がてっぺんを通って右へ左へ、奥へ手前へと行ったり来たり。わざとちゅぱちゅぱと音を立てて、視覚だけでなく聴覚までをも侵してくる。チョコラータは完全に私を挑発しにきている。完全にその気になってしまっている自分とは対照的に、落ち着き払ったこのお医者様の態度がもどかしい。

 もどかしいと言えば、この快感もだ。死で得られるあのオーガズムには遠く及ばない、小さな、苦痛にも似た甘ったるい感覚。下の方がむずむずする。は股を閉じて身悶えた。一度達した後の緊張が解けた体に、また徐々に小さな快感が蓄積していく。

「ふっ……ん、んん、っ……」

 声を出すまいと口を閉じていても、かすかな喘ぎが鼻から抜けていってしまう。チョコラータは甘く小さな蕾から一旦口を離し、幼子をあやすような優しい声音で言った。

「声は、我慢しなくたっていいんだぞ。楽になりたいならリラックスして、全てを開放するんだ」

 そう言ったチョコラータの手はゆっくりとのウエストへと下りていく。やがてその手はぐちゃぐちゃになったショーツに潜り込んで恥丘を越えた。そして濡れた蜜壺の縁を、焦らすように指の腹でなぞる。

「……焦らさないで、早く、ちょうだい?」
「声は我慢しなくていいと言ったが、それは我慢しろ。我慢して我慢して我慢して……我慢したその先で、さいっ――こうに気持ちいいのが待っていると考えるんだ。……たまらないだろう?」
「んん、だめっ……ねえチョコラータ、我慢、できないっ」

 は自分の中心に伸びるチョコラータの腕を辿って手首を掴んだ。手を固定して指先を入り口にあて、腰を動かして奥へと埋める。何の抵抗もなく、チョコラータの指は温かな肉の狭間へと飲み込まれていった。

「まったく……こんなに濡らして」

 柔らかな肉壁を押し分け奥へと指を進め、チョコラータは呆れたと言いたげに首を横に振った。一度指を抜き邪魔になったショーツを取り去って床へ放ると、右手中指を再度の中へと突き入れた。一気に指の付け根までを埋められ、は悲鳴を上げた。何度も何度も出し入れされて、掌は度々クリトリスをかすめていく。はまた声を上げた。恥丘の向こうで蠢くチョコラータの手。

 ああ、ダメ。こんなのを見ていたら、もっと欲しくなってしまう。それに自分でするよりも何倍も気持ちが良い。たまらない。

「そんなに、優しくしないで……ん、あっ……ねえ、もっと……もっと、強く……激しくっ、ふっ、ん……んあっ!」

 指はさらに強く深く奥へと押し込まれる。いつの間にか指は一本から二本へと増えていて、動きは徐々に早くなっていった。チョコラータは手の動きはそのままに、仰向けのに体を沿わせ、耳に息を吹きかけた。

「なあ。気持ちいいか?」

 低くかすれたようなチョコラータの声が鼓膜を震わせる。はぞくりと全身の肌が粟立つのを感じた。

「気持ちいいっ!でも……あっ、ああっ、足りない、のっ……ん、んあっ……」
「欲しがりめ。……ほら、イけよ」
「や、やあっ、また、また……っあ、あ、いやっ!!」

 弓形に背を反らせ、は下腹の緊張を解き放った。熱が中心からほとばしり、全身を駆け巡る血液が瞬く間に沸騰するかのような快感が彼女を襲う。

「ああ、シーツまでびちゃびちゃになってる」
「……ごめんなさい……」
「別に責めてるわけじゃあない」

 チョコラータの濡れた指――ついさっきまで中に突き入れられていた指だ――が、唇を割って口の中へ入れられた。それが舌に触れると、塩辛いような苦いような、未体験の味が口の中に広がっていく。

「どうだ?……お前が私を欲しがって、溢れ出てきた汁だ」
「んっ……おいしくない」
「そうか?」

 チョコラータはまた、見せつけるように自分の指を下から上へと舐め上げた。はごくりと唾を飲み下した。そんなもの舐めないでと願う一方で、得体の知れない渇望感に苛まれる。

「実に美味だがな。お前の味がする」

 たまらなくなったは隣で肩肘をついて横になっているチョコラータの両肩に手を掛け、天井に向いた方の肩をマットレスへと押し付けた。彼の体に馬乗りになって、弧を描いたままの唇に自分のそれを押し付ける。舌を押し入れてチョコラータの舌を手繰り寄せ、唾液もろともねっとりと絡ませた。

 チョコラータは舌をしならせて、の荒々しいディープキスに応じた。しばらく彼を貪って一応の満足を見せたは、唇を離し息を荒げてチョコラータの頭皮に掌を這わせた。そして額と額を合わせ、ヘーゼルグリーンの瞳を見つめる。

「ねえ、チョコラータ。あなたの味も知りたい。……もう、治療とか言うのやめましょう?これはセックスよ。治療なんかじゃない」

 確かに、最初は薬が欲しかった。薬でどうにかなるんじゃないかと思ったから、ヤブ医者であるこの男に頼ったのだ。だが彼曰く、この症状は禁断症状で、どうにかできる薬なんて無いらしい。だから対症療法として、まるで男性が風俗に行って欲を満たすように、今私はオーガズムを与えられようとしている。

 違う。そうじゃない。死なずにオーガズムを得ようとするなら、やはり愛が無くては達せない。愛とは与え合うことだ。一方だけが満足するようじゃダメなのだ。そうカーマ・スートラにも書いてある。

「だから、チョコラータ。お医者様のあなたのことも、私が気持ちよくしてあげる」

 はチョコラータの喉仏に軽くキスをして、ローブの襟をつかんで剥きながら舌を下へと這わせていった。腰紐を解き、固く引き締まった腹を露わにして体側をそろそろと指先で撫でおろし、腰を掴んだ。既に屹立していたチョコラータのペニスがボクサーブリーフの布地をパンパンに張らせている。は感嘆の溜息をもらした。

 ――ああ、早く欲しい。

 ジワリと、口内のどこかからか唾液が染み出してくる。子宮が疼いてどこからか湧き出てきた愛液が太ももの内側へと流れていくのを感じた。は再びごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。そしてゆっくりとチョコラータの下着を足先に向って引っ張った。勃起したものが跳ねるように飛び出して、は目を見開いた。

「お前のその小さな口に収まるかな?」

 チョコラータが面白そうに言う。吐く思いでディープ・スロートをしても、根元まで咥え込める気がしない大きさだ。は恍惚とした表情で、手始めに先端部分にキスを落とした。スタンドマイクを手のひらで包むように表側に手を添えて、舌先を使って上から下へ裏筋をぺろぺろと舐めていく。

 鼻先が根元に近づくと、恥毛のあたりからボディ・ソープの清潔ないい香りが漂って来た。それに混ざって、少し蒸したような芳しい匂い――チョコラータの匂いだ――が鼻腔をくすぐった。にとってはイランイランの芳香よりもよっぽど催淫作用があるようだ。舌にふんだんに唾液を乗せて、カリの部分を舐め回す。我慢の効かない彼女はすぐに先端を咥え込んで、ぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てながら頭を上下に振った。

「ふっ、上手いな。……いやらしい。何て、いやらしい舌使いをしてるんだ」

 じわり。またチョコラータを求めて愛液が滲み出した。いやらしいのはお互い様だ。は心の中でチョコラータに言い返しながら、陰囊を食んで舌先で玉を転がした。そして太く長いペニスを手でしごきながら、下から上へ舌を這わせる。ベルベットのように滑らかな先端を啄みペロペロと小刻みに舐めてやると、枕に頭を置いて余裕の表情を浮かべるチョコラータの顔も少しは苦悶に歪むようだ。

「ここが好きなの?」
「っ、ああ……イイな。私の一番、敏感なところだ……ああおいおい。だからってそこばかり、舐めるのはよさないかッ……」

 じわり。もう限界だ。早く欲しい。チョコラータが、欲しい。この、眺めているだけでうっとりとしてしまう、立派な彼のものを早く中に埋めてしまいたい。

「あなたが、そうやって……余裕を無くしてるところを見ると興奮する」

 最後に喉の奥まで咥え込んで口をすぼめ、舌を絡ませ上へ引き抜くように吸いながら口を離した。そしてチョコラータの体を這い上がってキスをする。その間に手で彼のペニスを支えて腰を落とした。先端が濡れそぼった鳥羽口に当たる。先端さえも太いそれだが、簡単に呑み込んでしまえそうだ。最初に入ってくる時が最高にいい。逸る気持ちを抑えて、は腰を持ち上げたまま期待を寄せ、恍惚とした表情でチョコラータを見つめた。

「本当に我慢の効かない女だ。これから、オレにまたがって腰を振るのか?つくづくいやらしいな」
「意地悪言わないで。私、あなたがほしいだけなの――っああん!」

 突如として、凄まじい圧迫感が突き上げてきた。は目を剥いて仰け反った。

「男を受け入れるのは……久しぶり、なのか?ひどく……狭っ苦しいぞッ」
「気に……するの?っ、ん、……嫉妬、する?」

 チョコラータは少しの間考えた。が、自分では無い他の誰か……他の男とセックスしているところを想像する。――いい気分はしなかった。

 はまだボスに管理される、ボスの所有物。だが、いずれそうではなくなる。いずれ私のものにするつもりの女だ。彼女を好きにしていいのは私だけ。彼女の全てを暴き、愛し、最後に殺していいのは私だけだ。

 独占欲が沸々とわいてきた。嫉妬。恐らく、している。それが過去であっても、未来であっても、きっと我慢ならないだろう。だが、堪えるのだ。今は悟られてはいけない。彼女を遠からぬ未来に我が物としようと考えているなど……知られてはならないのだ。

「なあ、。お前が欲しいのは、私じゃあないだろう?」

 チョコラータは質問を質問で返し、話題をすり替えた。

「……ん、私がっ……欲しいのは、あなたよっ……あなただけっ……」
「いいや。お前が欲しいのは、快感だ。殺してくれるなら、誰だっていいと思っているように……こうやって犯されるのだって……誰だって構わないって……お前は、思っているはずだッ」
「違うっ……違うわ、チョコラータッ……私……私はっ……」

 主導権を握るつもりでチョコラータの体に跨ったのに、彼の方が下から突き上げてくる。奥の突き当りまで躊躇なく彼自身を押し込まれ、窒息しそうな程の、どうにかなってしまいそうなほどの快感が何度も何度も植え付けられる。はその攻撃に抗おうと腰を浮かす。だが、すかさずチョコラータに腰を捕らえられ、下の方で固定されてしまった。成す術も無く、はただただ喘ぐしかなかった。

「声が大きいぞ。っ……我慢、するなとは言ったがッ……セッコに聞こえるほど……大きな声を出されちゃあ、明日合わせる顔が無いじゃあないか……ん?。何とか、言ったらどうなんだッ!」
「あああっ!!」
「ふっ……言葉も出てこないほど、イイのか?」
「イイっ……気持ちいい、ねえ、お願いよっ……もっと、もっと……たくさん、欲しいのッ……あっ、ああっ……ん、ん、んっ……好きっ……好きなの、チョコ、ラータっ」
「――ッ!!」

 突如迫り来る大きな快感の波に、チョコラータは抗った。気を抜くとすぐに達してしまいそうだった。慌てて上体を起こして、乱暴にをベッドへと押し倒すついでに自身を引き抜いた。荒い呼吸を整えながらを見下ろす。上気した顔には、困惑の色が見て取れた。

「もう……おしまいなの?」
「はぁ、はぁ……ナメて、もらっちゃあ困る。ハーフタイムだ」
「それって、もう……半分、終わっちゃったってこと?」
「ああ?」

 は物欲しそうに指を咥え、懇願する。

「まだ、足りないわ……チョコラータ。一晩中でも、私、あなたと……セックスしてたい」

 勘弁してくれ。チョコラータは思った。日頃の運動不足が祟って体力が持ちそうにない。一晩中?まだ1時をちょっと過ぎたくらいだって言うのに、一晩中なんて無理だ。二十代の頃に比べてちょっとばかり身体機能も衰えている。まさか、玉袋の中身がすっからかんになるまで搾り取るつもりか?

「だから……言っただろうが……お前は……セックスしたいだけなんだよ。別に相手が誰だって、構わないってのが……よおく分かった!」
「んあっ!!」
「麻痺して感覚が無くなるまで犯してやるッ!」
「犯してっ……犯して、チョコラータ!私、あなたになら、何をされてもいいっ……あなただけ……この身体は、あなただけの、物よッ……!!」
「言ってろ!!!」

 後ろへ、前へと動く腰。肌がぶつかり合って、ふたりの汗やの愛液が混ざりあったものの飛沫が飛び散っていく。激しい律動にの頭はますますのぼせ上がった。愛しい男が苦しそうな顔をして額から汗を降らせる様を、そのぼんやりとした視界で捉えて、快感に打ち震える。

 欲しい物を、欲しいだけ与えてくれたチョコラータ。もう殺してくれないらしいけれど、それでも構わないとさえ、今この時は思えた。こうして、愛し合う男女がやることを、真似事でも構わないから、やってくれるのであればそれで――。

「ああっ……ダメっ!」
「ダメ、だとッ……?はぁ、はぁ……っ、犯してくれと言ったのは、誰だ?一晩中っ……こうやって、私のものを、お前の中にぶち込み続けろって、言ったのはッ……ああ!?」
「んんっ、あっ、あっ、ねえっ、チョコ、ラータ?もう、出そう?……いいのよっ……出して……我慢、しないで……」
「クソっ……おい。私の目を見ろ!」
「見てるっ……見てるわ、チョコラータっ……好きっ、愛してる!」
「あああああッ、ダメだ、もう――ッ!!」

 チョコラータは怒張しきったペニスをの深く、奥深くまで強く打ち込んだ後、それを一気に引き抜いた。息を荒げて、ぴくぴくと痙攣するペニスをの腹の上でしごいてスペルマを絞り出す。

 は肩で息をしながら、腹の上にできた白濁した水たまりに手指を伸ばした。粘性のあるそれを指先に絡ませて遊んだ後、そのまま口元に運んだ。

 んん、酷い味だ。美味しいなんて、お世辞にも言える代物ではない。だが、チョコラータのものならいくらでも飲み下せそうだ。――沸いた頭で考えると、まともな感想が出てこない。

「あなたの味も……悪くないわ、チョコラータ。……でも足りない。もっと……もっと、欲しい」

 の隣に身を投げたチョコラータに、が再び跨った。チョコラータは目をぐるりと回した。

 ああ、この女の欲深さには恐れ入る。だが、しばしの別れが来る。と離ればなれになる前に、この女の体を愛で尽くしておくのは悪いことじゃあ無い。……ただ、感づかれないようにしなくちゃならない。私がを心の底からものにしたいと思っているなんてことは、誰にも知られちゃあいけないのだ。

 少しだけ軟化した自分のペニスを器用に中へ捻じ込んでゆっくりと腰を振り始めた。そんな彼女を、チョコラータは下から上へとゆっくり、そしてじっくりと見上げた。

 ああ、たまらない。私を深々と咥え込んで腰を振って、乳房を揺らして見つめてくる。なんて、なんて……いやらしいんだ。

 チョコラータはの頬に手を伸ばして軽く覆った。その後、彼の汗ばんだ掌は首筋を撫で下ろし鎖骨を乗り越えて片方の乳房を包み込み、胸骨に押し付けるように揉みしだいた。は腰の動きはそのままに、チョコラータの手首を掴んで訴えた。

「愛してるの。……本当よ、チョコラータ……」

 ――私もだ。

 そう言いかけた口を一度引き結んで一息ついた後、チョコラータは言った。

「バカになってるんだよ。お前の頭は……ドラッグでやられちまってる依存症患者の頭と何も変わらない」

 彼女をそうしたのは他でもない自分だと、チョコラータは分かっている。その上でに反論した。

「そんなこと、無い……。こんなに、こんなにあなたのことが欲しいって思ってるのに……」

 ――ああ。私も、お前が欲しい。心の底から、お前が欲しいと思ってる。

 だが、そんな本心は口が裂けても言えない。言えない気持ちがはち切れんばかりに膨れ上がる。そしての肉壁を再度圧迫する。いけない、ばれてしまう。

「ほら、動け。好きにしろ。殺してはやれないが、それ以外のものなら、いくらでもくれてやる」

 は悔しそうに顔を歪めた。悲しみが見て取れる表情だった。だが、その表情も、自身で植え付けていく快感に打ち震え悦ぶ内に、恍惚とした歓喜の表情で覆い隠されていった。

 チョコラータは一抹の不安を覚えた。だが、この時は信じて疑わなかった。

 ――はいずれ自分を求めて戻ってくると、信じて疑わなかったのだ。