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「いやに聞き分けが良かった。そう思わないか、ティッツァーノ」

 ハンドルを握り、チョコラータの家に向かうときよりも幾分ゆっくりと車を走らせながら、スクアーロは助手席に座る相棒に語りかけた。ティッツァーノはゆっくりと流れ行く遠景をぼうっとながめながら、ええ、と一言呟いた。

 例の悍しい趣味部屋に通され女の生首と首無し死体を目の当たりにし、もう仕事は十分だとチョコラータに告げた後、ふたりはの体が元に戻っていく様を見届けた。切り離された頭部が体側の切り口とゆっくり接合していく。やがて首の傷は跡形もなく消え失せ、滑らかな素肌へと戻っていった。五分ほどかけた、ゆっくりとした変化だった。

 やっとのことで人間らしい姿に戻ることができた。身体が元に戻ってすぐには目を覚まさなかったが、彼女が通常通り呼吸をしていることを確認すると、ティッツァーノはチョコラータにリビングへ戻るように言った。

 スクアーロとチョコラータをリビングに残し、ティッツァーノは一旦邸宅から出て車へと戻りトランクを開けた。チョコラータはその姿をリビングから眺めていた。立ち上がったトランクリッドの陰に隠れていてよく見えなかったが、携帯電話でどこかに連絡しているらしい。

「まったく、どんな頭してれば女の頭と胴体を切り離してとっておこうなんて考えに至るんだよ」

 スクアーロが溜息交じりに言った。チョコラータはリビングの窓からゆっくりとスクアーロの方へ視線を移し、酷く歪んだ笑みを浮かべて見せた。

「……暗殺者チームの……ソルベ、だったか。アイツはもっと酷い死に方をしてるぞ。全身麻酔をかけた上で私のカビで生命を維持させながら、足の先から徐々に刻んでいったんだ。確か……内臓ぶった切り始めてからカビじゃもうどうにもならなくなって、その頃からちょうど麻酔が切れ始めたんで凄まじい悲鳴を上げながら死んでいったんだよ……。いやあ、あれはすごく楽しかったな。生きてるって実感できて、本当に幸せだった。ジェラートとか言う方がしょんべん漏らして勝手に死んじまったのには興ざめしたがな。……まあとにかく、それに比べればは全然マシな方だ。もし今度仕事を私に振るなら、ターゲットはちゃんと絶望して死ぬ人間にしてくれ。もうあんなつまらん仕事は勘弁だ」

 ティッツァーノから意識を逸らすためとは言え、余計なことを聞いてしまった。スクアーロは頭を抱えた。つくづく、敵に回すと厄介極まりない男だ。このサイコ野郎が敵――全く心は許せないが、敵か味方かという話なら今のところ味方には違いないのだ――でなく良かった。こいつに殺されるのだけはごめんだ、とスクアーロは固唾を飲んだ。

「安心しろ。どんなに粉微塵にしたって生き返っちまう不死身の人間なんて以外には存在しねーはずだ」
「だといいがな」

 嬉々として過去の仕事の内容について語っているうちに、ティッツァーノがアルミ製のアタッシュケースを携えてリビングへと戻ってきていた。

「報酬です」

 そう言ってケースをローテーブルの上に置いて鍵を開け、蓋を持ち上げた。

「……目的を果たせなかった割に報酬は多いんだな」

 アタッシュケースの中にぎっしりと詰められた札束を見て、チョコラータは思った。なるほど、これでオレを黙らせておこうという魂胆だな。だが、それを口にはしなかった。

「彼女をどうやったって殺せないということは良く分かったと、ボスは仰って満足されていました。最後の最後にかなり衝撃的な映像も撮れたみたいですしね。一応、今回もビデオテープは成果品として持ち帰ります」
「結局、はどうやったって殺せないってことが分かっただけだったな?意味はあったか?なんならずっと預かってやったってかまわないんだぞ。無抵抗の女を殺し続けるだけでこんなに金がもらえるならな」
「年明けの頃とは随分様子が違うみたいだな。あの女に惚れちまったか?チョコラータ」

 スクアーロが嘲笑を浮かべ、チョコラータをはやしたてる。だが、彼がそんな挑発に乗ることはなかった。

 つい最近まで、出口のない暗闇の中を目的も何もなく歩き回っているような気分だった。面白い仕事が別で振られてくるわけでも無い中で虚脱感しか沸かず、生きる喜びを失いかけていた。だが一週間ほど前に気づきがあった。そして今は、という女のことを知り尽くしたいという好奇心に、チョコラータの思考は支配されていた。

 三カ月間、と生活を共にした結果分かったこと。それは、という女が並外れて変わった女で、実は私の好奇心を煽る存在だったということ。そして彼女は恐らく、彼女を心の底から殺したがっているボスの弱点となり得るということだ。彼女のことを深く理解するということと、ボスの素性を探ることというのは恐らくニアリーイコール。だからスクアーロとティッツァーノのふたりは今、慌てて私からを引き離そうとしている。

 という女のすべてを解き明かしたい。解き明かした後どうするかなど、考えてもいないしどうでもいいことだ。結果など、どうだっていいのだ。彼女を解き明かしている最中の気付きや感動こそ、私が求める物だからだ。そして彼女が求める物を与えてやって、最後の最後で私がこの手で殺してやるのだ。その時彼女が、快楽や私の“愛”を失うことに絶望してくれれば最高だ。そうなるための努力は惜しまない。

 だが、安心して彼女を生涯かけて殺す――愛す――ためにはまず、邪魔者を排除しなければならない。パッショーネのボス。名前も年齢も背格好も過去も……何もかもが闇に包まれた男。やつを殺さなければ。を、あの男から解放しなければならないのだ。

 チョコラータはかぶりを振った。

「いや、まさか。あの女は人間じゃない。時間を浪費する行為だと思っているから、私はそもそも恋愛なんてしないんだが、仮にするにしたって相手は選ぶさ」

 チョコラータは思ってもいないことを言うのは得意だった。本心からそう言っていると思わせるために、彼女に出会った当初の気持ちに立ち返ってみる。もっと早くに、の秘められた魅力に気づけば良かったと後悔の念が湧きおこった。

「とにかく、これだけ報酬をもらえるなら文句は無い。頑張った甲斐があったってもんだ」
「ご苦労様でした。また何か仕事があれば、頼みますよ」
「ああ。楽しみにしてる。……セッコ。ビデオテープを」

 リビングの隅でじっとしていたセッコが、チョコラータに言われて三人のもとへ近寄った。ビデオカメラからテープを取り出し、それをローテーブルの上へ置くとすぐに踵を返し、元いた場所へと戻って行く。

「分かっているとは思いますが、このテープを流出させるなんてことは絶対に無いようにお願いしますよ。チョコラータ」
「心配しなくてもダビングなんかしてない。……まあ、そこそこ需要はありそうな内容だが、そんなもので小金を稼いで満足するようなタイプじゃあないんでね」
「結構。それでは、の移送先が決まり次第連絡します。それまで、絶対に彼女に手をかけないように」
「言われなくても分かってる」

 何故殺せと言っていたはずの女に手をかけてはいけないのか。相変わらずそのことが引っかかったが、彼の心にしっかりと芽生えた“反逆”の意思を悟られるわけにはいかない。それに、いずれ分かることだ。

 ボスを殺しを解放した暁に分かることだろうから、今は急がなくていい。準備が必要だ。ボスの正体を暴き、殺すための準備が。今はどこから手をつけていいかも分からないが、きっとチャンスは訪れる。

 チョコラータはスクアーロとティッツァーノふたりが乗った車が敷地から出て行く様をぼうっと眺めていた。

「……呆れたな。私が金欲しさに医者になったとでも思っているのかね。あいつらは」

 チョコラータはテーブルの上に蓋を開けたまま置きっぱなしにされているアタッシュケースを一瞥して、物思わし気に再び窓の外を見やった。

 今はまだ……大人しく飼われておいてやる。だがボス、私はいずれあんたのことも乗り越える……。そして、を私のものにした暁に――

を殺すのは私だ。なあ……セッコ。お前は、私が何をしようと、私についてきてくれるだろう?」

 窓の外を見たまま、独り言のようにチョコラータは呟いた。セッコはぶんぶんと頭を縦に振った。

「もち、ろんだぜ……チョコラータ!」

 チョコラータは強い。金も持ってる。頭もいい。どうやらとは近々お別れすることになるようだが、そのうちチョコラータはボスから彼女を取り戻すつもりでいるんだろう。の美味いメシがまた食えるなら何も文句は無い。

 セッコが求めるのは、強者に従うことで得られる安寧に身を委ねきった生活、ただひとつ。チョコラータが何を決心したのか、この時のセッコにはまだ分からなかった。だが、だからと言って断ろうはずも無かった。彼が強者であり続ける限り、セッコがチョコラータの元から離れることは絶対に無いのだ。

「だから私はお前が好きなんだ。セッコ。ところで……そのビデオカメラに残ったデータをPCに移しておいてくれないか」
「分かった……一週間分、ぜんぶ……DVDに焼く……か?」
「ああ。頼む。作業が終わったらまた地下に来てくれ。が目覚めるところも撮っておきたい」

 セッコは頷くと、ひとり二階へと戻って行った。

 ダビングしてない、という言葉に嘘は無い。それに、の首を切り落とすまで撮ってきたビデオには興味が無いので、とうにデータは削除してしまっていた。

「ハードディスク内臓の最新機種を買っておいて良かった。これで、が家にいない間、退屈せずに済みそうだ」

 チョコラータがコレクションするに値すると判断したのは、の頭と体を切り離した後、一週間の様子だ。彼女の最高に美しい姿を何度も繰り返し見たい。きっと何度も繰り返し見るうちに、早くボスを倒したいと反逆の意思は増々強まるのだろう。

 に会いたい。

 そんな衝動に突き動かされ、彼は足早にリビングを後にして、再び地下へ潜った。

 は、先ほど部屋を後にした時と全く変わらない状態で寝台に横たわったままだった。服も何も纏っていない彼女の胸は、規則的に上下している。彼女は息をしている。とても安らかな寝顔で、寝ているだけ。

 寝ているだけなら、その内目を覚ますだろう。チョコラータは寝台の前に設置したソファーに腰掛けて、じっとの様子を眺めた。それから六時間、は目を覚まさなかった。それでもチョコラータはただじっと彼女が目覚めるのを待ちながら、“美しい”の寝姿を見つめていた。

10: Still Breathing

「先輩が無断欠勤だなんて。珍しいこともあるもんですね。てっきり仕事人間だと思ってたのに」

 ルーティーンと化した朝一杯のコーヒーも用意せず、は職場のデスクについた。そんな彼女にファジョリーノはコーヒーを淹れてやる。だが、無反応だ。ファジョリーノはむっとした表情を浮かべたが、口に出して責めはしなかった。いくら毎日笑顔を絶やさず、皆に親切で優しいとあれど、人間なのだ。不機嫌な日が一日くらいあったっておかしくはない。

 一週間、頭と胴体を切り離していたとチョコラータに告げられた。それはやった後に知らされたことなので、は事前に職場で休暇を申請することもできなかった。結果、五日間の無断欠勤に繋がってしまったわけだ。

 だが、後輩ファジョリーノの話など、ほとんど頭に入ってこなかった。彼女は物思いに耽って、ほとんど仕事も手につけずに窓の外を見ている。無断欠勤に重ねて、今日の勤務態度も褒められたものではない。ファジョリーノからしてみれば彼女は働きすぎなので、給料を返納しろと非難するほどのことでもない。単純に全く元気の無いの様子が気がかりだった。

 と、いうのも、彼が冬の休暇明けにアパートに戻ってから約三か月の間、隣に住んでいるはずのはほとんど家に帰ってこなかった。休暇明けからは何故か、自分たちの給料ではとても手を出せそうにない高級車で通勤しだすし、最近の彼女は変だった。ただ、やけに上機嫌だった。これらの状況から推察するに、彼女に金持ちの男ができた、ということだ。そして今、かなり落胆した様子でデスクに突っ伏している。つまるところ――

「先輩……余計なお世話かもしれませんが……失恋、したんですか?」

 はゆっくりとファジョリーノへと顔を向けた。案の定、目は真っ赤に充血していて、瞼は腫れぼったい。そして、眉根を寄せて目を細め、下唇を噛んで必死に泣くのを堪えようとしている。

「ファジョリーノおおおお……!」

 だが、堪えきれなかったらしい。堰が切れたかのように瞳から涙が溢れ出す。ぼろぼろと大粒の涙が頬を滑り落ち、デスクに水たまりが出来上がる。

「せっ……先輩!なんで泣いて……」

 ファジョリーノは狼狽えた。何せ、が泣く姿など初めて見るのだ。男は女の涙に弱いとは言うが、のそれが、今まで女をとっかえひっかえして幾度となく女を泣かせてきて、見慣れているはずのそれが、こんなにも破壊力を持った物だとは想像もつかなかったのだ。

 だっ……抱きしめたい!抱きしめて、安心させてあげたい!あわよくばそのままオレのものに……!

 ファジョリーノがそんな下心にとりつかれ、を抱きしめるために覆いかぶさろうとしたその時。

……!心配したよ!!今日は来てくれていたか!!!」

 ファジョリーノを突き飛ばした店長――リコルドがを抱きしめた。

 こんのセクハラオヤジがああああ!!!

 床に尻もちをついたファジョリーノは目を剥いた。この店長は、何かと理由を付けて……というか、ほとんど理由も無く隙あらばに触れるのだ。がその辺の女性に比べて殊更に穏やかで、怒りを露わにすることなど皆無なできた人間でなければ、店長リコルド・リガーレはとっくの昔に訴えられている。その行為がセクハラになり得ないのは、セクハラを受ける本人が彼のスキンシップをセクハラだと思っていないからに他ならないのだが、代わりに自分が訴えてやりたい。ファジョリーノは怒りを必死に抑えてむくりと立ち上がる。

「ああ、店長……ごめんなさい!私、無断欠勤なんて……とんでもないことを……」
「いいんだ。そんなことは気にしないでいいんだ。君が無事に出勤してくれたと言うだけで私は幸せだ。ギャングにでも捕まって、殺されてしまったんじゃあないかと心配していたんだぞ!何たって、君は美人だからな……」

 はぎくりとした。

 店長はエスパーなんじゃないか。ギャングに捕まって――と言うよりも、ほとんど自分から捕まりに行って、自由の身であったにも関わらず家に帰らなかったわけだが――殺され続けていたのは事実。それをそのままずばりと言い当ててしまった。だが、ただの偶然だろう。ギャングに攫われるか殺されるかで行方不明になる女など、この国には星の数ほどいる。……星の数は言い過ぎかもしれないけど。

「ごめんなさい。店長……私、とても辛いことがあって……どうしても、仕事に行く気になれなくって……」
「でも、一体どこにいたんだ?アパートには帰ってきてなかっただろう?……ああ、もちろん、君ももう立派なレディーだから、家に毎日帰ってこいなんて強制するつもりはないが……」
「本当に、ごめんなさい。もう二度と、こんなこと……」
「ああ。いいんだよ。君は普段働き過ぎだと前々から思っていたんだ。今回のは有給休暇ってことにしておくよ」

 店長。本当に、本当に昔から優しい人。なんの関係も無いはずの私を、死んだことになっている身元の明らかになっていない私を匿ってくれて、仕事を与えてくれて……その時からずっと、親切にしてくれている。そんな彼に恩を仇で返すような真似は絶対にできない。

 まるで実の父親に抱きしめられているような優しい温かさに包まれて、は心地よくなる。次第に締め付けられるような胸の痛みも和らいでいき、しばらくしては落ち着きを取り戻した。そんなの様子を見て安心したリコルドは、社長室へと戻って行った。

「……先輩。大丈夫ですか」
「ええ。ファジョリーノ。取り乱してしまってごめんなさい。……ねえファジョリーノ。ひとつ、聞きたいことがあるの」
「え。ええ、何でしょう」
「男の人が付き合っている女性に、もうお前とはセックスしてやらないって宣言する時って……どういう時?」
「セッ…………何ですって?」

 ファジョリーノは我が耳を疑った。少なくとも、勤務中にするような話ではなさそうだ。

「だから、あなたにもし付き合っている女性がいたとして、その人にもうお前とはセッ――」
「ああもう分かりました!分かりましたから、そんな単語職場で何回も口にしないでくださいよ。……そうですね、突然宗教的な理由か何かで禁欲主義にでも転身したんじゃなかったら……別れるって言ってるようなもん……だとは思いますけど」
「やっぱり……そうよね……そうなっちゃうのよね……」

 は、昨晩長い眠りから覚めた後のことを思いだした。チョコラータに、もう殺してやれないと告げられた後、は酷い喪失感に襲われた。

 私はもう、お前を殺してやれない。

 そう宣言された後、は泣きながら自室に戻った。殺してやれない。チョコラータからは、彼女の求めるハッピー・エンディングを与えてもらえない。つまり、もう愛してやれない。そんな現実を突きつけられて、自室のベッドに縋る様に突っ伏してひとしきり泣いたのだ。今日の朝は、朝食も何も準備せず、身支度を整えてすぐに家を出てきてしまった。

 チョコラータと顔を合わせたくなかった。まだ、夢を見ていたかった。誰かに愛してもらえるかもしれない。誰かを愛せるかもしれない。自身のひどく実現し難い穿った願望を叶えられるかもしれない、最高の環境から離れたくなかった。また孤独な日々が舞い戻ってくるのだという現実から目を背けたかった。

 だがやはり、チョコラータと別れなければならないのは確実らしい。

「オレで良ければ……仕事が終わった後にでもまた相談に乗りますよ。今日のところは、先輩が仕事してないの、見てみぬふりしてあげます。……とにかく、その腫れぼったい目でお客さんの対応なんかさせませんからね」
「……ありがとう、ファジョリーノ」

 いつもどんな車が通るだろうと楽し気に眺める国道をぼうっと眺めながらが思い描いていたのは、チョコラータと過ごした三か月間だった。

 ほとんどチョコラータに雇われた家政婦みたいな毎日だったが、彼が美味しそうに料理を食べてくれるのが嬉しかった。しょうがないなと子供をなだめるように、優しく殺してくれた。最近は、どうにか私を愛せないかと試みてくれていたようにも思えた。

 だがどうやら、お別れらしい。何故突然そうなってしまったのか。そんなことよりもただ、辛かった。

 だって、まだ私……息をしてるのよ。私、まだ生きてるわ……。どうしてお別れなんかしなくちゃならないの?もうひとりでいたくなんかないのに……。

 きっと、これ以上の出会いなんてこの先絶対に訪れない。

 は頭を抱えた。もとより、当たり前の話なのだ。愛する女を殺そうなんて、普通の男なら絶対に思わない。確かに、彼女が我が道を進んでいく限りにおいては、チョコラータ以上の男にはこの先一生出会えないだろう。

 今の彼女にとってはチョコラータだけが幸運の星だった。チョコラータだけが、彼女の全てだった。人を愛すると言うことが本当はどういうことなのか。それを教えてくれる人間に出会い、新たな恋に落ちるまでは。