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 客人二人を前にしたチョコラータは珍しく憔悴しきっていた。珍しく、と言えるほどスクアーロとティッツァーノはこの男と対面する機会に恵まれてこなかったが、ふたりの目には女に悩まされているらしい今の彼の様子が“らしくない”ように映っていた。凶悪な顔つきには似つかわしくない疲労感が明らかに見て取れたからだ。

 は客人をリビングに通した後キッチンへ行き、コーヒーを淹れて戻ってきた。慣れた手つきで三人にソーサーに乗せたカップを差し出して、彼女は立ったまま客人たちにニコニコと笑顔を向けていた。スクアーロはをちらりと見やり、後に視線をそのままチョコラータに投げた。出て行けと言え、話を聞かれては困る。そんな顔だった。察したチョコラータはに自室へ戻るように伝えた。彼女はすぐにはい、と返事をして、軽い足取りで自室へと向かった。

 が部屋を後にして階段を上っていく音を聞いた後、スクアーロはおもむろに立ちあがって部屋の戸口へと向かった。彼は女が部屋の外で聞き耳を立てているのではないかと勘繰っていたのだが、扉を開けて首を左右に振っても誰もいない。あの女はボスを煩わせているという噂の割にこそこそと嗅ぎまわるようなことはしないらしいと安堵すると、扉を閉じて元いた場所に戻って行く。

「随分物わかりのいい娘ですね。殺さなきゃいけない女性を、手枷足枷も付けないで自由にさせられるなんて驚きです」

 ティッツァーノは含みのある笑みをチョコラータに向けた。見る者によっては挑発的とも取れるその態度。“ちゃんと仕事をしてるのか”とでも言いたげな皮肉めいた発言。普段のチョコラータならこめかみに青筋でも立てているだろうが、気勢の殺がれた今の彼は怒るどころかむしろティッツァーノの発言に同調するような発言をして見せた。

「それだけじゃあない。……いや、あのアマ……車で自由に買い出しに行かせたってバカみたいにこの家に帰ってきやがるんだ。本当に驚きだよ」
「それはそうとして。あの女の殺し方が分かったってのに、死んでない理由は何だって話の途中だぜ。ワケを聞かせてくれないかチョコラータ」
「……一度殺してやって生き返った後に言われたんだ。自分を永遠に眠らせることができるのはこの私だけかもしれない。だからどうやればいいか教えてやる。ってな。で、聞いてみたら、私を愛したい、そして私に愛されたい。その愛を実感できた時、あの女は自ら死を選ぶんだと」

 スクアーロとティッツァーノは目を見開き驚いたような顔を見せた。そのままチョコラータが言ったことを頭の中で繰り返し、しばらくするとティッツァーノがゆっくりと口を開く。

「……ワケが分かりませんね」
「ああ。全くワケが分からない。もう少し噛み砕いて分かるように説明してくれ」
「ああ……なんでオレがこんな酷い目に遭うんだ」

 今まで散々他人を酷い目に遭わせてきたサイコキラーが何を言っている。ふたりはそうツッコミを入れてやりたい気分だったが、怒りに任せてカビ菌をまき散らされてはたまったものではないので口を噤んでいた。しばらく頭を抱えていたチョコラータだったが、黙っていても事態は進展しないと思い、客人二人の要求に応じることにした。

「お前らは知らんだろうが、人ってのは死の間際にイくんだよ。ほら、お前らもシコったりヤッたりするとき最後ナニから白いの出してフィニッシュするだろ。あの時と同じ……いや、それより数百倍は気持ちよくなれる麻薬みたいな物質を脳が放出すると言われてる。普通死んだ奴は生き返らないのでそれを体感したと言える人間はいないんだが、あのオンナは生き返られるが故にその快感に味をしめちまってるんだ。それでだ。あのオンナはその快感の究極を追い求めていやがる。……女は愛する者と愛に溢れたセックスをした時と、好きでもなんでもないヤツにレイプされた時とじゃ気持ち良さが違うって言うだろ。同じことされたって、気の持ちようで快感の度合いが変わってくるんだ。それと同じで、あのオンナは……愛する男に愛をもって殺してもらうことで至高の快感を得られると思い込んでいるんだ」
「……普通の男なら、愛する女性を殺したりはしませんね」
「なるほど。それで何の躊躇もなく人を殺せるアンタが、あの女の恋愛対象になってるって訳か」
「全くもって酷い話だ」
「酷い話……?アンタ、殺しが好きなんだろう?何度だって殺せるそこそこ美人な女に好かれてるってのに、どうしてそうグロッキーな顔してるんだよ」
「殺したい男と殺されたい女。相性抜群だと思いますよ。あなた達」
「バカを言うんじゃあない。お前らはとんでもない勘違いをしてる!」

 チョコラータは鬼気迫る表情を浮かべて身を乗り出した。今すぐにでもスタンド能力を発動させそうな勢いだ。その気迫に気圧されたふたりは一様に眉をひそめて身を引いた。

「いいか!厳密に言うと、私は人殺しが好きな訳じゃあ無いんだ!私は、人が壮絶な痛みを感じ、そして死を前にして絶望する時の表情がたまらなく好きだから、それを見たくて人を殺すんだ!そんなこと意識したのはあの女をこの家に連れ込んでからだがな。何たって、普通の人間なら死を恐れて必ず絶望するからな。だがどうだ……あの女は……はあろうことか、恍惚とした……むしろ絶望とは真反対の、希望すら見いだせるような表情で死んでいくんだ!私はそれが気に食わない!そしてもうあの女を殺したくなんかない!つまらないからな!それにきっと、殺せば殺すほど、ラリったお花畑みたいな頭で私を愛してるだの何だのとほざきはじめるだろう!そんな生活耐えられるワケねーだろうが!?お前らに私の気持ちがわかるか!?」

 突き合わせて確認した訳では無いが、とにかくどっちも頭がおかしい。どこまでもお似合いのカップルだ。ということで、スクアーロとティッツァーノの意見は一致していた。だがそれを口にする訳にはいかない。このチョコラータという男も、と同様にボスが社会的に隔離する危険人物だ。下手に刺激して逆上されると厄介だった。

「それはそれは。心中お察ししますよチョコラータ。……しかしボスの命令は絶対です。何人たりとも、ボスの命令を反故にして生きてはいられないのですよ」
「だから、納得のいく説明をしろと言っているんだよ。どうして、死なない女を死ぬまで私が何度も何度も殺してやらなくっちゃあいけないんだ!」
「どうして?理由なんて必要ない。ただやれと言われたことをやればいいだけだ。それに実のところあの女が何者なのかなんてことや、なぜボスがあの女を殺したがっているのかなんてことはオレ達にだって知らされてない。だから納得のいく説明なんてあんたにはしてやれないんだよ」
「ボスが三ヶ月間あの女を殺し続けろとおっしゃっているのですから、あなたはその通りにするしかないのです。私達はあなたがきちんと仕事をしているかどうか確認するように言われています。いくらあなたが嫌がろうが私達は定期的にこちらに伺いますし、彼女を殺している現場を映したビデオテープは回収させていただきます」
「ああ、それと。仕事には行かせてやるんだ」
「なんでだ!?」
「だから、理由なんて知らない。オレたちはボスに言伝を頼まれただけなんでな」
「クソ……お前らなんか呼んでも、時間とコーヒーの無駄だったってワケか。まったく、ボスもボスで人使いが荒いし、頭がどうかしちまってるんじゃあないのか」

 スクアーロとティッツァーノはまるでシンクロでもしているかのように、ほぼ同じタイミングで眉根を寄せた。ふたりが忠誠を誓うボスを非難するような発言に気を悪くしているのだ。

「チョコラータ。あなたがこうしてシャバの空気を吸えるのも、好きに殺しができるのも、ひとえにボスが保釈して下さったおかげであるということを忘れないでください。あなたはボスに生かされているのです。その命ある限り、ボスには忠誠を誓い敬意を払うべきですし、ボスの命令は確実に全うしなければなりません」

 ティッツァーノはほとんど表情は変えずに、だが語気だけは強めてチョコラータに釘をさした。

「……つまりこういうことか?私は3ヶ月間、あの女と訳のわからん共同生活を続けつつ、訳もわからずただひたすらに、あの女を殺し続けなくちゃあいけないってのか?」
「あの女を殺せるのが本当にアンタだけだとすれば、彼女が死ぬまで、彼女の管理を任されるかもしれないな」
「ああ!?何だって!?」

 すかさず、ティッツァーノはスクアーロの体を肘でつつき耳打ちする。

「今それを彼に言うのはまずいんじゃあないですか?」

 そんな助言を受けて、スクアーロはわざとらしく咳払いをしてチョコラータをなだめにかかった。まったく、この男は新参者だというのにオレたち古参の親衛隊がどうしてここまで気を使わなくっちゃあならないんだ、と文句のひとつも言いたそうな顔である。

「とにかく、アンタが考えつくだけ、ありとあらゆる殺害方法をあの女に試すんだ。本人が知らないだけで、実は体のどこかに突かれちゃまずい弱点とか、生き返るために必要な身体的条件みたいなものがあるかもしれないからな。そしてその様子を全てビデオテープに収めてくれ。オレたちは定期的にそのテープを取りに来る」

 テープを撮るときは冒頭で西暦何年何月何日何時何分と言え。そんな注文までつけられてしまう。まるでモルグでやる解剖記録みたいだ。死んだ人間を解剖するわけではないし、死んでくれればいいのにあの女は死なないが。と、チョコラータはぼんやりと思った。そしてを殺さず家政婦代わりに三ヶ月家に置いておくだけでは済ませられないと思い知らされ、ここ一番の溜息をついた。

「殺せば殺すだけ彼女はあなたにぞっこんでしょう?どちらにせよ、ボスの命令を聞いて彼女を殺し続ければ、彼女とお別れできる日が近づくと言うことです。あなたがを殺せればそれで仕事は終わりですし、当面は三か月の辛抱ですよ」
「殺せなかったらって話はもうしねーのか」
「そう悲観的になるなよ。アンタならきっとやれるさ」

 スクアーロのそんな投げやりな言葉を最後に、客人たちは立ち上がる。チョコラータには見送りをするつもりなど微塵も無いのか、死んだような目で虚空を見つめていた。

「彼女にはなるべく優しく接してあげてくださいね」

 ティッツァーノがリビングから出ていく間際、振り向きざまにそんな言葉を投げかけたのだが、チョコラータは振り向きもせず、ただゆっくりと左手の中指を天に向けて突き立て、去り行く客人に見せつけるだけだった。

 侮蔑の意思をふんだんに盛り込んだジェスチャーを受けたティッツァーノだったが、彼は不敵な笑みを浮かべる。

「これからきっと仲良くなれると思いますよ」

 そんなティッツァーノの呟きが、茫然自失としたチョコラータの耳に届くことはなかった。

06: Should I Stay Or Should I Go

 客人たちが部屋を出てすぐ、チョコラータはの淹れたコーヒーに手を付けた。もうすっかり冷めてしまったそれを一滴残らず飲み干すと、乱暴にカップをソーサーへと置いて再び身をかがめて虚空を見つめた。

 まったく、ビデオテープもタダじゃあないってのに。上手く撮れてるかどうかって確認するのすら嫌だぞ。だが最後にティッツァーノが言ったことはもっともだ。ボスに目を付けられたら私に自由はない。つまり私は……かなり癪ではあるが、今のところボスの言うことを聞くしかない。を殺し続けなくっちゃいけないってことだ。を殺し続ければ、あの女の頭は今よりもっとバカになって、ちょっと甘い言葉でも言ってやれば簡単に私があの女を愛していると思わせられるかもしれない。そうすればあの女はきっと満足して死ぬはず……。そうさせるためにもやはり何はともあれ殺さなくちゃな。

 チョコラータにはまともな恋愛経験など無かった。彼は後天的に殺人を好むようになったソシオパスではなく、先天的に殺人を好むような精神を持って生まれてしまったサイコパスだ。なので彼は生まれてこの方一度たりとも人間に対して愛しいとか愛されたいなどという感情を抱いたことがない。

 つまり彼は付け焼き刃の恋愛テクニックを駆使して次のデートの約束を取り付けるに至ったところで、その後互いにどう愛を育くめばよいかなど知らないのである。

 今チョコラータは、恋愛とはこうすればこうなると答えの決まった数式や化学反応式のように考えている。をこの家に連れ込むことに成功したのは、いつぞや読んだ恋愛指南書に書かれていたことをそのまま実行した結果だと思っている。

 実際、がこの家に足を踏み入れることになったのは、チョコラータのことを本当に医者で客だと思いこんでいて、無碍に拒絶する訳にはいかないという考えが働いたからである。別にチョコラータにめちゃくちゃに褒められて気をよくしたわけでも、彼がタイプの顔だったわけでも、彼のことを好きになったわけでもなんでもなく、ただ死なないので危機感が足りないというかそんなものは無くても特に問題が無いというだけのことだった。

 今のところチョコラータがサイコキラーであると知ったは彼にあらぬ期待を寄せてはいるが、巷で言う真実の愛なんてものはふたりの間には皆無だった。

 そんな特殊な関係の中でどう愛を育めばよいかなど、恋愛指南書の類に書いてあるはずも無い。そしてチョコラータが考えているほど、恋愛とは簡単にいくものでは無い。もらった言葉の受け取り方など三者三様、十人十色なのだ。

 もちろん、彼もこれからすぐにでも、美しいとか愛しいとか、普通の女性がかけられて喜ぶ言葉をシャワーのように浴びせてやろうとは思っていなかった。

 確か最初のデートのとき、私は思ってもいないことをペラペラと喋っていたな。だがあの時はまだ、女を殺せるのだと高揚していた。だから言えたのだ。今は気持ちがひどく落ち込んでいる。それに客が来て帰った後すぐに手の平を返したような態度を取っても怪しまれるだけ。とりあえず、今夜またあの女を殺す。そう伝えるだけだ。

 意を決したチョコラータはすっくと立ち上がりリビングを後にした。もうこの状況から逃げられない。何とか彼女を殺すために努力したとボスに示さなければどうしようもない。そう悟った彼の表情に、先程まで纏っていた憔悴の色は見られなかった。かと言って機嫌が良くなった訳ではないのだが、幾分足取りは軽くなっていた。

。今日は夕飯を用意しなくていい……」

 チョコラータに、女性の部屋に入る前にノックをするという配慮は無い。がちゃりと部屋の扉が開く音とほぼ同時に発された言葉に驚いて、ベッドの上で窓から入るそよ風を浴びながら本を読んでいたは目を大きく見開いて驚いた。

 そして驚いたのはだけでは無かった。チョコラータも同様に驚いていた。扉を開け放っての部屋に足を踏み入れた格好のまま手は唇に添え、自分の口から吐き出した言葉を頭の中で反芻すると違和感を覚えて硬直していた。

 ……私は今何て言った?

「どうして?ああ、お友達と外に食べに行くのなら私のことは気にしないで、楽しんでいらして」
「お前のことを気にしないでいられる訳ないだろう」
「え?」

 ……!?は!?

 チョコラータは、お前の事なんか気にする訳ないだろう。と言いたかったのだ。その前に言った事もおかしかった。彼は、夕食を済ませたらお前を殺してやる。そう言いたかった。だが彼の意に反して、口から出てくる言葉は思ったこととは真逆で、途中でその異変に気づいた。そしてもう一度最初からと試みる。

「夕飯の支度なんかしなくていいし、お前のことは殺してはやらない」
「もう出ていけってことなのね?……でもそれなら、私のことを気にしないでいられないってどういうこと?先生、私意味が分からないわ」

 意味が分からないのはこっちだ!!一体何が起こってる!?

 珍しくしおらしい態度でしゅんと落ち込んでいるを前に、チョコラータはただただ慌てふためいていた。完全におかしい。思ったこととは反対のことが口から出てしまう。

「やっぱり、私なんか先生には愛してもらえないのね」
「そんなことな」

 チョコラータはとっさに両手で口を押さえた。

 今自分はとんでもないことを言い出そうとしていた!あたりまえだろうが、と言いたかったのだ。何故こんなことが起こる!?

 チョコラータは何故、という疑問に対する答えを、自身がこれまで培ってきた科学的知識の中に見い出せなかった。

 自分の意思に反して発声したり首振りやジャンプなどの運動を体が勝手にしてしまう、トゥレット症候群というものがある。それに近いとも言えるが、そんな精神神経疾患は自分にはないし、三十を超えた成人が突然なんの前触れもなく発症するなんて症例は見たことも聞いたこともない。これは疾患などではない。

 普段と違うことだ。今日何が起きたか考えろ。

「そんなことない?ならどうして、出ていけなんて言うの?私はここにいちゃいけないの?」

 戸口付近で立ったまま額に手を当て俯くチョコラータ。今の彼にはの話など少しも頭に入ってこなかった。こうなってしまった原因について考えているので、他の思考が入り込む余地などないのである。

 だがは答えを求めて本を閉じ、ベッドから降りてチョコラータの元へ歩み寄った。

 とどまるべきか、帰るべきか。

 は自分にその2択を迫っていた。もしチョコラータから与えられる愛を少しも望めないというのであれば、いつまでも人との出会いのない山奥の豪邸に身を潜めていても時間の無駄だ。だが、少しでも望みがあるのであればここに留まりたい。

いい機会だわ。もうすぐ休暇も終わる。このタイミングではっきりさせるの。

「先生、本当に私と結婚する気、ある?」
「あるに決まってるだろうが!」

 ちょうど、チョコラータの脳内での考察が終わりかけた時だった。タイミングが悪かった。チョコラータは一時的に喋ることを意識的に止めていて、訳の分からない症状に悩まされていることを忘れていた。だから彼はよく考えもせずに思ったことをそのまま口にしてしまっていた。

 もっとも、チョコラータがそのまま言ったつもりのことは全て、彼の舌に取り憑いたティッツァーノのスタンド"トーキング・ヘッド"によって対義語に挿げ替えられてしまっているのだが。

「ぬがあああああ!!」
「せ、先生?じゃあ、私、ずっとここにいていいのね?」
「ああ!そうとも!」
「嬉しいわ!私今、人生で最高に幸せな気分だわ!」

 の目には、その言葉とは裏腹に激しく顔を歪めおびただしい量の発汗で全身ぐちゃぐちゃになっているチョコラータの様子などは映っていなかった。恋は盲目を地で行く彼女は、感極まってチョコラータの胸に飛び込んだ。

「――ッ!?もっと私に近付けッ!!!」
「ええ、先生。いえ、チョコラータ!私、ずっとあなたから離れないわ!」

 顔を真っ赤にして、恍惚とした表情でチョコラータを見上げる。そんな彼女の唇に、チョコラータの舌が入り込んだ。お互いの口と口の間は二十センチメートルほど離れている。なので傍から見ればチョコラータの舌がまるでゴムのように伸びて見えた。だがこれは一瞬の内に起きたことなので、ふたりには何が起こったのか分からない。

 の舌にしっかりと絡みついたチョコラータの舌――もとい、トーキング・ヘッドの触手――を起点として引っ張られるように、チョコラータの唇はのそれと重なり合った。信じられないことに、彼の舌は通常の長さに縮んだ後、の口内を蠢いていた。

 これは自分の意思なんかじゃあないんだ。って後で言って信じるか?舌まで入れてキスしてんだぞ!?そもそもこの状況を私自身が信じられないッ!!!夢なのか?夢であってくれ!!頼む!!!

 目を開けても見えたのは、ノリノリでフレンチ・キスに応じるのエロティックな表情だけだった。