皆一様に顔を伏せて押し黙り、が深い眠りから目覚めるのを待っている。まるで部屋の中に暗雲でも垂れ込めているかのようだ。この重苦しい空気に耐えかねて外へ出る者もいれば、生命維持のため必要最低限に動くだけで、ほとんどリビングか自室から出ない者もいた。
「何時間経った? いや……。何日経ったんだ」
プロシュートが誰となしに言った。メローネが答えた。
「もう、丸二日だ」
壁上部、横一列に並ぶ明り取りから、夕日が射し込んでいる。ちょうど、が二日前に死んだ時と同じ頃だ。彼女はまだ目覚めていない。
「前は1日で戻ってきた。その前は? ……ホルマジオ、おまえが知ってることだろう」
ホルマジオは思い出したくないことを聞かれたので、眉根を寄せて不快感をあらわにした。
「覚えてねーよ。別に、時計見て時間計ってた訳じゃあねーんだからよ」
事実、覚えていなかった。怒りや不安などというありとあらゆる負の感情がないまぜになってせめぎ合っていて、時間という概念が頭から吹っ飛んでいたのだ。
「まあけど……あの時は、1時間もなかったとは思うぜ」
ギャングの巣窟、その本拠地のど真ん中で絶望に打ちひしがれたまま1時間も身動きを取らずにいたら、と自分は今この時この場所にはいなかっただろう。実際には、ターゲットを殺したことすら知られることなく帰って来ることができたのだ。
「最初は10分とかからなかったろう」
プロシュートは、がランボルギーニのディアブロに轢かれた時のことを言っているのだと、皆が気付いた。彼が言わんとしていることにも。
皆――想像すらしたく無かったが――がティレニア海沖でロケット・ランチャーを撃ち込まれ、海で体を散り散りにされた時ですら、30分で生き返ったという話を知っている。周辺環境や肉体の損傷具合がてんでバラバラなので、単純に比較は出来ないかもしれないが、が死んでから息を吹き返すまでの時間は確実に長くなっている。
何故そうなのか、またこの事実が何を意味するのかは分からない。しかし、このまま何度も何度も死を積み重ねていけば、それこそ永遠の眠りと言えるほど長い時間が体の治癒に必要となるのかもしれないと、想像はできる。
「もう二度と、絶対に死なせちゃあ……いけないんだ」
メローネが声を震わせながら言った。未だに生き返らない。彼女はこれから先、自分が生きている間に息を吹き返すことなく眠り続けるのではないか。いや、彼女はもう生きることを諦めていて、戻ってくることは無いのではないか。
「んなこたァ、言われなくても分かってんだよ」
「だがリゾットは……を店に行かせて……言い方は悪いが、オトリに使おうってつもりでいるじゃねーか。……最悪の場合のことを考えておく必要はあるだろ」
現実的で手っ取り早く、確実な方策ではあるが、非情な選択だ。リゾットは“を死なせない”と確かに言っていたが、それは覚悟に過ぎず、確実に来る未来というわけではない。覚悟を決めるだけで輝かしい未来が実現するのなら誰も困らない。だから最悪の事態に陥っても、何とかなるように対策をしておかなければいけない。
ホルマジオは言った。
「万が一がまた死んじまっても、ここがアイツにとって帰りたい場所だって……帰んなきゃなんねぇ場所だって思えるようにしときゃいい」
プロシュートはその通りだと思った。死んだ人間は普通生き返らないが、それがスタンド能力によって可能となっているのだから、が気力――魂、心の強さ――を保てるようにしなければならない。この世界で希望を持ってもらわなければいけない。それがどれだけ困難なことかは、チームの皆が既に嫌というほど思い知らされているところではあるが、そうは言っても絶対に死んでなるものかと彼女に思ってもらえなければ、自分たちも希望の光を失うのだ。
「オレ、買い物行ってくる」
プロシュートの隣で押し黙っていたペッシが唐突に立ち上がり、玄関へと向かった。
「どうした、急に」
「姉貴に、ウマいメシ、たくさん食って欲しいから」
はきっと目覚める。リゾットの確信を言葉で伝えられてからまる二日が経って、皆の希望の光は陰り始めていた。ペッシもそうだったが、彼はがいない未来など想像したくなかったので、頭の中のネガティヴなイメージを払拭するために体を動かしたかった。ただ、優しいの姿を、楽しげに笑う彼女の顔を思い浮かべながら、そして美味しいと満面の笑みを浮かべて自分を褒めてくれる、そんなの姿を頭に思い浮かべながらキッチンに立っていれば、嫌な思いで悶々とせずにいられるはずだ。
ホルマジオもつられて立ち上がり、ペッシの後に続いた。
「そうそう。丁度酒が切れたんだった。……いろいろ大量に買い込むってんなら、オレがいたほうが楽だろ。付き合うぜ」
プロシュートは、買い出しに出たふたりが買ってきた物で、自分も何か腕を振るおうと思った。メローネは、が生き返るか否かと、生き返った後、彼女を救うために――あるいは自分自身を救うために――どうするかしか考えられなかった。それはメローネが、がどのような現状にあるのかを唯一深く知りながら、それを一人で抱え込んでいるが故だった。
86:Rehab
それから約半日が経った時、が生きた姿でリビングに降りてきた。朝の10時頃のことだ。彼女の後に続いてイルーゾォも顔を出した。その顔はどこか物憂げなように皆の目に映ったが、対照的には無表情だった。
彼女の名を口にして立ち上がる者、黙ったまま内心ほっと一息つく者、の顔色を伺う者。皆反応はバラバラだったが、対する彼女はニコリともせず、無表情にその場で立ち止まっていた。そもそも、何故自分は身なりを整えて下に降りたんだったか、と考えているような顔をして、動き出す理由が出来上がるのを待った。
そう。何か、指示がいる。外に出るなとか、部屋に引きこもっていろとか、イルーゾォの鏡の中の世界で息を殺していろとか。
は、背中を向けたままひとりがけソファーに座り、前かがみになって手を組んでいるリゾットを見やった。
「私は、どうしていればいいの。リゾット」
何の感情も伴わない冷たい声音が響いた。皆絶句して、リゾットの返しを待った。
「……とりあえず、座れ」
は言われてすぐに動き出し、リゾットの真向かいにあるひとりがけソファーに腰掛けた。彼女は、まるでこの場にふたりしかいないように振る舞っている。イルーゾォは何となく、それが単なる彼女の振る舞いでしかなく、彼女の本心が表出したものでは無いと悟った。
「まず、適当な公衆電話から職場へ電話をかけろ。そして、自分が無事であることを伝え、次にいつ出勤すればいいかを聞け。今すぐだ」
「分かったわ」
「その後、ここへ戻れ。荷物は、今日の夕方――職場の人間がまだ仕事をしている時間帯――にでも取りに行くんだ。いつ行くのかは、店の人間に伝えるな」
「分かった」
「そして、ここに戻ってから出勤するまでの間、極力アジトから出るな。やむを得ず出る場合は、必ずふたり以上連れて行け。ふたり以上連れて行けそうに無い時は外出を諦めろ」
「はい」
リゾットからの指示を得るなりは立ち上がり、玄関へと向かった。リゾットはプロシュートとペッシのふたりに目配せをし、彼女を護衛するように指示をした。こうしてアジトのリビングから三人がいなくなったのだが、30分ほどすると、その三人は無事にアジトへ戻ってきた。リビングにいた皆は30分の間帰りを待っていたのだが、彼らが期待するような“らしい”態度、発言は何も得られなかった。一貫して無表情だ。どこか、無理をしているようにすら見える彼女の姿に、皆が悶々としていた。
このように、は皆の視線を集めながらも、それらに一切の興味を示さず、何も言わずにキッチンへとカツカツ歩いていった。カウンターの上に並べられたワインや、戸棚にしまってあるウイスキーやジンの入ったビンを持てるだけ腕に抱え、クリスタルグラスひとつを手に取ると、部屋の戸口めがけてまたカツカツと歩き出した。
「……あ、姉貴!」
ペッシが白々しく、思い出したかのように言った。実のところ彼は、公衆電話に向う間とそこから帰る間にずっと、言い出す機会を伺っていたのだ。
「冷蔵庫の中に、その……料理があるよ。昨日、たくさん作ったんだ。酒だけだと、体にわる――」
「そう。ありがとう」
は人差し指をドアノブに引っ掛けて器用に開けた扉を開けっ放しにしたまま、部屋に戻っていった。ペッシは呆然とその場に立ち尽くし、彼女が戻ってくる気配は無いと悟ると項垂れた。目尻に涙がにじみ出そうになるのを必死にこらえている内に、体は縮こまって震えだす。そんなペッシの肩を軽く叩いて、イルーゾォが言った。
「気にすんな。……本当は食いたいはずだぜ。あいつはああやって、オレたちをわざと遠ざけようとしているだけだ」
「うん。……分かった」
諦めてはいけない。に絶望してはいけない。生きることを諦めたい彼女に、死ぬことを諦めさせなければならない。
「つーか、あいつは昼間っから飲んだくれるつもりかァッ!?」
ギアッチョが言った。
「しかも、ジンやらウイスキーやら持って行きやがって!! 割材も無しにだッ!! あり得ねーッ」
ギアッチョは怒り心頭にドカドカ歩いてキッチンへ向うと、冷蔵庫の扉を乱暴に開け、中からオレンジジュースとペッシが作ったカルパッチョを取り出した。足で乱暴に戸を閉じた彼は、すぐさまの部屋へ向かった。ギアッチョの後ろ姿を見て、そう言えば、今日の見張り当番はあいつだったと皆が思い出した。
「酒を大量に買い込んだのは失敗だったか」
そして、ホルマジオが頭を抱えた。
「オレはただ、も交えて皆で楽しくやれたらと思ってだな……。まさか、あいつに独り占めされるとは露にも」
「人間は酒だけで簡単に死ねる。皆、絶対にから目を離すな」
リゾットが言うと、皆は頷いた。
「姉貴、酔うとすごいんだよなァ」
ペッシがイビサでの酒乱事件を頭に思い浮かべながら呟いた。
「聞き捨てならねーなァ、ペッシ。一体、どうスゴいってんだァ?」
ホルマジオに言われて、ペッシは迂闊だったと思った。ホルマジオは粘着質なのだ。絡まれると厄介で鬱陶しい。そして彼自身が満足するまで絡むことをやめない。
「あーそのー、めちゃくちゃ……キレる。怖いんだ」
「ウソだな」
「何でだよ!?」
「目が泳いでたし、何か嘘を考えているような間があった。嘘は良くねーぞ嘘は。オレたち仲間だろ?」
「ああああー。面倒くせぇえええ」
「おい、やめねーかホルマジオ。そりゃ、ペッシの沽券に関わる話なんだよ」
「なるほどな。ペッシの“股間”にねぇ」
「沽券な」
「股間とオレが言った時に、めちゃくちゃ焦ったような顔をしたな、ペッシ。おまえの股間が何か関係あんのか?」
ホルマジオのニヤケ顔を前にし、メローネの刺すような視線を受けながら慌てふためくペッシをよそに、プロシュートはリゾットに言った。
「店の修繕が終わるまでの間、来なくていいと言われたようだ」
「いつまでだ」
「今日から2週間無いくらいだと。……はきっと、その間ずっと酒浸りでいるつもりだな」
「わかった。酒浸りの件は……後で何か考えよう」
「ところで、オレたちの仕事はねーのか?」
「今のところ、仕事の話は来ていないな」
「なら、当面はのご機嫌取りが仕事になるわけだ」
「ああ」
チームメイトの――家族の命を守る。それがリゾットの担う役目だ。その仕事は誰に強制された物でもない。時に、非情とも思われる判断を下し、最大多数の利益を優先せざるを得ない場合もあるが、その判断に用いられる最大多数とは暗殺者チームの総員のことでしかなく、リゾットは組織のためにと仕事をしたことは一度も無かったし、その信条に背く上からの命令に従ったことも一度もない。
チームのメンバーは命ある限り、他のメンバーの命のために動かなければならない。これが、リゾットがリーダーを務めるようになってからチームに培われた暗黙の了解、行動規範、あるいは美徳であるから、の命を守るということに反対の意を唱えるものはいなかった。
もしかすると、自身が自分の生き死にを選べるというのが事実で、且つ今の彼女の心理状態ならば、彼女を永遠の眠りに誘うことは可能かもしれない。今はそういう状況下にある。けれどリゾットはそんなことを一切望んでいない。を殺せという命令が、自分にだけおりている。それを皆が知ったとしても、期限が無いのならと皆そっぽを向くに違いないという確信があった。
チームには、組織への反感がある。忘れろと言った恐怖が、憎しみが、怒りがある。だから、愛する女を闇に葬ってまで、ボスの信頼を得たいとは思えないのだ。
機を伺い、復讐を決行する。オレたち、暗殺者チームの誇りを踏みにじった組織への復讐だ。それが確実に可能になるまで、オレたちは息をひそめていなければならない。今の段階で、の組織への不信を煽る訳にはいかないのだ。恐らく、内側のそれは何者かの鎖によって抑えられている。けれど、今表立っている彼女のそれが爆発することで、彼女を鎖が吹き飛ばないとも限らない。
ああ、何と難儀なことか。本業をこなすよりも困難な道だが、歩む意味はある。むしろ、歩んでいかなければオレたちの魂はやがて衰弱し、その末に肉体も滅ぶだろう。だから、オレたちは息をひそめ、歩み続けなければならない。・という反逆者――愛すべき同志と共に。
「何……!? 下着姿のに馬乗りになられただとッ!?」
「死刑」
「ぎゃ、ぎゃああああああ、め、メローネ、やめ、やめてくれーーーッ!!」
プロシュートは、はァと溜め息をついた。すかさず、リゾットが声を上げた。
「ホルマジオ、イルーゾォ」
ペッシをいじっていたホルマジオは一変して気を引き締め、リーダーの方へ体を向けた。
「夕方、ギアッチョを連れてと店へ行ってこい。の荷物を取りに行くんだ。ギアッチョには店の外から見張りをさせて、おまえらふたりがに付き添え」
無論、イルーゾォはホルマジオの能力で小さくなり、の持つ、取りに行くのとは別のカバンにでも潜んでいろということだろう。
イルーゾォはあまりいい気分はしなかったが、今はそんな文句を垂れている段でも無いと思い、無言で頷いた。ホルマジオは、そんな彼の様子を不思議そうに眺めていた。
「ギアッチョ。……あなた、手はキレイなの?」
は、ギアッチョに素手で口の中へと押し込まれたカルパッチョを咀嚼して飲み込んだあとに文句を垂れた。既にグラスの半分まで注いだジンを生で一気に飲み干したあとだったので、少しだけ気が紛れていた。少しは喋る気がしたのだ。
「うるせぇッ! フォークを忘れたんだよ!!」
「せめてフォークを取ってきてからつっこんでほしかったわ。私、別に病気しないワケじゃあないんだから」
「人を病原菌呼ばわりしてんじゃあねーぞ!」
「別にあなたを病原菌呼ばわりしてるわけじゃない」
は言いながらまたグラスにジンを注ぐと、それもまた一気に飲み干そうとした。ギアッチョが鬼の形相で止めに入る。
「おいおいおいせめてオレンジジュースで割れやッ」
「いいのよ、平気だから放っといて」
「バカやろう。んな、冷やしてもねー生のジンをボコスカ飲み下そうとする自殺志願者を放っておけるワケねーだろうがッ」
「だから放っといてって言ってるのに」
「いいから黙ってオレンジジュースを飲めッ!!」
コップのフチぎりぎりの所まで注がれたオレンジジュース。割れと言っておいて、全然混ざっていないから割れていない。……まあでも、もうなんでもいいや。
はもう、何も考えたくなかった。
この先永遠に気を失っていたい。そうしなくていい未来を想像することさえ、今は重荷になっている。何もせずに部屋にこもりきりでいたら、否が応にも頭は動く。そうできないように、酒で止めるのだ。
「魚くせぇッ」
ギアッチョはの憂鬱などそっちのけで、今日も今日とてキレちらかしている。彼の手が魚くさいのは自業自得なのに。
「手、洗ってきたら? ……ついでに、フォークを持ってきてよ」
するとギアッチョは不機嫌そうな顔で、からボトルというボトルをすべて取り上げて部屋の出口へと向かった。今手元にあるのは、オレンジ・ブロッサム――もとい、“ジンのオレンジジュース乗せ”だけだ。ステアもできないから、彼が戻ってくるまでにオレンジジュースの部分しか飲み干せないかもしれない、とは思った。
バタン、と些か大きな音を立てて扉が閉まる。目尻でそれを確認したは、その目をカルパッチョへ向けた。
美味しかったな。……ペッシはやっぱり、料理が上手。この白身魚は、彼が釣ってきたのかしら。……ああ、もう。どうして私は、あんなことを、ペッシに……私は、なんてひどい……。
どれだけ泣いても、涙が涸れてくれない。泣いているなんて……本当は寂しいとか、つらいとか、だから悲しくて泣いてるんだとか、そんなことを知られるわけにはいかない。意地を張ってるだけ? いいえ、そんなんじゃない。涙が涸れたら、皆が言うことを聞いてもいいかもね。その頃にはきっと、皆はきっと私のことを諦めているだろうけれど。
オレンジジュースの層がもうそろそろ無くなる。そして、ぬるいジンが冷たいオレンジジュースと一緒になって喉の奥へ向かって駆け下りる。ついには、ジンだけが通り道を焼きながら胃を目指して走り抜けていく。クラクラ、クラクラ、天井が揺れる。あー、いや、揺れているのは、私の頭。目は回って、耳は遠くなって、鼻腔は熱っぽく、口はまだまだ寂しがってる。
「おい! クソ、大して酒に強いワケでもねーくせによぉおおお!!」
戻ってきたギアッチョの腕にはちゃんとボトルがあった。確認するなり、はボトルに手を伸ばす。伸ばしたはいいが、ボトルには触れられず、その手は空を切るか、ギアッチョの腕に触れるかだった。
「ったく、もう酔ってんのかよ下手くそがッ! つーか、メシを食えメシを!! メシ食わねー限り、ゼッテー次飲ませねーからなッ」
「いらない、いらない、いらない」
「うっせーよ知るかッ」
聞く耳を持たないのはギアッチョも同じらしい。持ってきたフォークに料理を突き刺し、の口にねじこんだ。吐き出す気力もないは大人しく咀嚼すると、咀嚼したものを酒で流し込もうとするのを阻止され、オレンジジュースを飲まされた。それも大人しく飲み干すと、ベッドの下に手を突っ込んで、隠し持っていたレミーマルタンのV.S.O.Pを取り出した。ギアッチョは目を皿のようにして、が最高級銘柄のコニャックブランデーをグラスに注いで飲み干すまでを眺め、直後堰が切れたかのように怒号を飛ばし始めた。
くらくら、ふわふわ。ギアッチョの怒号だって、今やBGMだ。
みんな、私に立ち直るように言うけど、私の返事はNOよ。自分から死にたがるなんて、ほんと悪い子よね。酷い暗闇の中にいたわ。それを何度も繰り返してる。でもちゃんと戻ってきたでしょ。だからもう、それだけで十分じゃない。あなたたちと話すことはないわ。リゾットは大丈夫だって分かってくれてるのに。それでも、みんなに何か入れ知恵してるみたい。いらないわ。私にこれ以上、かまわないで。
その他のものはキープできそうにないから、ボトルだけはキープさせて。――もう、本当に、何も考えていたくないのよ。