暗闇に戻った。至高の快感を得た後の、死後の世界。時間という概念がこの世界にあるのかは分からないが、死んでしばらく経っている気がした。いつもならとっくにメガデスが――いや、もうひとりの私が生きるか死ぬか聞いてきて、また死ぬために生き返りたいと答え、現実の世界で目を覚ましている頃なのに。声が聞こえない。
私の心は今、私をここに置き去りにして、どこにあるのだろう。
そもそも私は、何故自殺なんかしたんだろう。銃を握り、銃口を頭に突き付けて、引き金を引いた。撃鉄のあとすぐに凄まじい衝撃が頭を襲った。ベッドの上に倒れる間、天にも昇るような快感を得て、私は死んだ。その前に、私は何を思った?
死にたい。気持ちよくなりたい。孤独を、何もかもを忘れて、快楽に溺れたい。そんな衝動じゃなかった。すぐに死ななきゃならない。何故かそう思って、勝手に体が動いて――
「何も考えないで」
――やっといつもの声が聞こえてきた。私はほっとした。けれど、彼女の声がひどく憔悴しているように感じたので、すぐに心配になった。
「どうして?」
「あなたには……知る必要の無いこと」
まただ。彼女は自分ひとりで何かを抱え込もうとしている。言いたくても言えない何か。それが気になって仕方がないが、聞き出そうと口を開く前に釘を刺すように彼女が続ける。
「お願いだから。思い出そうとなんて、しないで」
「……本当に私には、どうしようも無いことなの?」
「話を変えましょう」
話は唐突に打ち切られた。そして、もうひとりの自分は新たな話題を切り出した。
「あなたは自分が、何度でも死んで生き返ることができる。メガデスという名前が示すように、何百万回も死んで生き返ることができる。……そう思っているの?」
「違うの?」
「ここで何度言っても、あなたは忘れてしまうのよね。でも、私はそのことであなたを責めるつもりはないわ。……あなたがこうなってしまったのは、あなたのせいではないから。……聞いて」
聞いてほしい。本当は、聞いて行動に移してほしいが、それはきっと叶わない願いだろうから、せめて今の自分の気持ちを紛らわすためだけでも、話を聞いてほしい。そんなもうひとりの自分の気持ちを汲み取った。弱々しく、疲弊しきったような、小さな呟きに胸を痛めながら耳を澄ます。
死ねば死ぬだけ生き返るまでの時間は長くなる。最初は三秒だったのが六秒かかるようになる。六秒、だったのが十二秒に、そして二四秒、四八秒……。仮に百万回も死んだとしたなら、ほぼ無限とも言える時が回復に必要になる。死ぬ回数にしたがって、回復にかかる時間はねずみ算式に増えていくのだ。
「どんなに粉微塵にされようと、恐らく生き返ることは可能よ。ただし、生き返った瞬間に過ぎ去った年月分老いるので、仮に三十回程度死んで百五十年後に蘇ったとしてもすぐに死んでしまい、それ以降メガデスは発動しない。つまり、生き返っても死ぬだけ。だから無限に生き返ることができるわけでは無いと言っているの。そして、生き返るのに必要なエネルギーは、生きている間にしか培われないわ。だから、寿命を超えて生き返ることができたとしても、それ以降能力は発動せず、すぐに死んでしまう。あなたも私も、今はまだ生きていたいと切望している。この世に未練がある。だから生き返ることができる。けれど確実に、生き返るまでの時間は長くなっているわ」
「具体的に、どれくらい経っているの?」
「私にも分からない。目が覚めた後に皆が老いていないといいわね」
彼女にそう言われて初めて、この闇を恐怖した。自分の意識だけを過去に取り残されるなんて、絶対に嫌だ。皆と時間を共有したい。そのうえで人間らしく年月を重ねていきたい。そうだ、それが、私にとっての生きる意味なんだ。だから、もう死にたくない。死にたくない。死にたくない!
「もう、死なない。死にたくない。私、もう……殺されたくもないわ」
「……ええ。そうよね」
はメガデスの能力を発動させて、蘇生を始めた。やがて闇から消えていった。闇を映していたスクリーンに明かりが灯る。朧げな視界は徐々に鮮明になっていって、メローネが私を見つめていることに気付く。ああ、良かった。まだそんなに時間を浪費してはいないみたい。メローネの肌は美しくピンと張ったままだし、声も嗄れてはいなかった。
ええ。そうよね。死にたくないわよね。だけどきっと、快楽からは逃れられない。私達は脳内麻薬にどっぷり浸漬しきった操り人形。弄ばれ、劣情をぶつけられ、穢されるだけの。
頭は割れてしまった。でも中身は空っぽ。そしてあなたは私にたずねたわ。私の心はどこ?
ほら、私から離れたずっとむこう。ああ、でもあれはあなただから、ここ、かしら。でも、きっと最後に私もたずねるの。私の心はどこ?
あなたのところにも、私のところにもない。私の心は、穢され血塗られた過去に囚われたまま。
それを知らないあなたにはどうしようもない。それに、自制心なんか効かないわ。快楽はあなたを放さない。快楽からはどうやっても逃れられない。そうやって管理されているの。何も考えられないようにされているの。苦しみから逃れる法と言えば聞こえはいいかもね。けれどその間も私の心は、遠く、手の届かないところで緩慢に、時に急激に、死んでいく。
次に心が死ぬまで、もうそれほどの猶予は無いと彼らは知ることが出来るだろうか。
――無理だ。きっとまた、同じことの繰り返し。
77:Where Is My Mind?
「……」
か細い声を震わせてメローネが言った。は瞬きをして微笑みを浮かべ、ゆっくりと彼の頬へ手を伸ばした。メローネの瞳からこぼれ、頬を伝い落ちようとする涙を親指で拭うと、彼はの手に手を重ね、頬を彼女の手のひらに押し付けた。
「良かった。生き返って、くれて……ッ!」
「メローネ……。私はどれだけの間、眠っていたの?」
外は暗い。夜中か未明の暗さに静けさだ。
「丸一日……いや、それ以上、かな。君が死んだのは、昨日の夜九時頃。今は夜中の一時だ」
は窓を起点に辺りを見回し、自分がアジトの寝室に戻っていることを確認する。記憶は、正体不明の男に郊外の空き家に連れ込まれたところで途絶えている。どのような経緯でここに戻ったのだろう。……思い出そうとしても思い出せない。死んでから今までの記憶が飛んでいるのだ。
「そうだ、ペッシ……」
ペッシが見守ってくれていたはずだった。ここに戻ることができたのは、彼がビーチ・ボーイでの追跡を成し遂げたからでは? そう思い、は尋ねる。
「ペッシは……?」
「無事……とは言い難い」
「そんな。何が……一体何があったの?」
「詳しいことは分からない。だが、大丈夫だ。命に別状はないよ」
「ペッシが心配よ、メローネ。私、彼に謝らなきゃ。それに、何があったのか……私には知っておく必要が」
はベッドから下りて立ち上がった。しかし、それと同時に、くら、と世界が歪んだ。頭がひどく重たく感じ、たまらずベッドへ向かって倒れ込む。
「どうした、。大丈夫か……?」
メローネはとっさに彼女の体を腕で支えた。すぐに彼は、彼女の体に起きている異変を感じ取った。
高体温。他人の腕にまで伝わるほどの大きな鼓動。じっとりと汗に濡れた肌。荒く乱れた呼吸音。そのどれもが一挙に、あまりにも突然に現れたのだ。
「……完全に治ってないのか? それなら、まだ安静にしておいたほうが――」
「違う。違うのよ、メローネ」
良くない。これはとてもまずい状況だ。早く、メローネの元から離れなければ。はそう思った。例の副作用がまた始まったからだ。
「メローネ。お願い、ひとりに……私をひとりにして……」
「こんなに辛そうな君をひとりになんてできるか! 、とりあえず今は、横になったほうが良い」
枕に頭を据えられる。メローネの視線はの真上から、あまりにも真っ直ぐに彼女の顔を捉えていた。顔色から、彼女に今起きていることやその奥にある感情までの何もかもを読み取ろうとするような、真心が込められていると良くわかる心配げな顔が、朦朧とし始めた意識の中で陽炎の様に浮かぶ。
「喉、喉が、乾いたわ、メローネ」
「わ、分かった。水を持って――」
「いいえ。水ではだめ。水じゃあなくて、ワインが飲みたいの」
「ワインだって? アルコールには利尿作用がある。水分不足だと言うのなら、水を飲まなくては――」
「わかった。わかったから、お願いよ。お水と、ワインを持ってきて、ちょうだい」
「わかった」
ドアが開いて閉まる音。早鐘を打つ心臓の音。鼓動に乗って脈打つ血管。血は沸騰したように熱く、全身を駆け巡り、のどの渇きは増し、全身の感覚という感覚が冴えわたる。体の全ての末端にまで、物凄いスピードで血液が次々と送り込まれていく。
「だ、ダメ……彼が、メローネが、飲み物を持ってきてくれて……それから――
指先が乳房の先端に伸びる。
――それから、彼がこの部屋から……出て行くまで、我慢、しなきゃ」
けれど、鋭く立ちあがった先端に、熱い指先で触れる。
『まったく、我慢の利かない女だ』
どこからともなく蘇る、チョコラータの声。背後から伸びる武骨で大きな手。指先。右へ、左へ、上へ、下へ。緩急をつけて、圧力をかけたり、弱めてさらさらと撫ぜたり。下腹が疼く。じわり。体液が滲み出る。
『いつ中に指を突っ込んだんだ?……まあいい。ただ出し入れするだけじゃなく、その状態で指を中で折り曲げて見ろ』
言われた通りにやる。熱い蜜壺。中指に纏わりつく、さらさらとした蜜。部屋にこだまする、くちゅくちゅといういやらしい音。
「あ、ああっ……ダメ……ダメ、なのに」
心はブレーキをかけているはずなのに、身体だけが熱帯の海を泳いで、どこか遠くへ向かって行く。
「んっ、ふ……、ん、んん……はあっ、はあっ、はあっ――」
「……?」
ミネラルウォーターのボトルを脇に抱え、ワインボトルのネックを掴み、もう片方の手にワイングラスを持ったメローネは、あまりの驚きに息を吞んだ。脱力して、手から滑り落ちそうになるグラスやボトルをしっかりと握り直す。ごくりと喉を鳴らして唾を飲み下すと、ベッドのサイドテーブルに持ってきた物をすべて置き、床に膝をついてのあられもない姿に見入った。
が、メローネが部屋に戻ってきたと気付いているのかいないのか、彼には判然としなかった。単に気付いていないだけなのか、気付いていても尚止められないのか。
「ダメ、っ、あっ、あっ……こんなのじゃ、こんなのじゃダメ……」
大ぶりのTシャツを下から押し上げる屹立した乳首は、月明りに照らされて反対側に影を作っていた。その片方をの手が覆い、その中指は忙しなく動いて山を掻いていた。もう片方の手はしなやかに下へ伸び、ショーツの中に潜り込んでいる。指はサテンの下で魅惑的に蠢いて、くちゅくちゅと淫猥な音を部屋に響かせる。頭を左へ右へと振りながら、喘ぎ悶え苦しむ彼女の姿を、メローネは凝視した。
「、あ、ああっ……ッ」
目で見て、耳で聞くすべてに煽られた雄は、瞬く間に固く、熱く育った。息苦しさにたまらず、メローネはパンツのジッパーに手を伸ばす。しかし、既のところで彼は手をピタリと止め、後退しながら、猛り狂いそうになる自分の中心を乱暴に押さえつけた。
堪えろ。堪えろ。今、の体に、触れちゃあいけない。彼女の中に、彼女がいる。彼女は見ている。きっとそうだ。オレは彼女に試練を与えられたんだ。そう。きっとこれが、彼女の言っていた試練なんだ。
『本当に私のことを愛していると言うのなら、私があなたに愛していると示すその時まで、待っていて?』
待つんだ。待たなければ、彼女に見限られる。きっとそうだ。はオレに一度だって、愛してるだなんて言ったことはない。好き、止まりなんだ。愛にも種類はあるだろう。彼女がオレに言う好き、も愛にちがいないかもしれない。けれど、オレがに求めるのは、母親が子供を愛するような無条件の愛じゃない。親友に抱く親愛でも。神や王に抱くような敬愛でも。――むしろ、その全てを包括したような、その全てを生み出すような愛が、愛が欲しい。・という女性の、そのすべてが愛しい。そう思うオレのこの愛に見合うだけの愛が欲しい。欲しい。欲しい。欲しくて、たまらない。我慢できない。無理だ、こんな、こんなの、こんな、こんなこんなこんな――
「っ、ダメ……やっぱり自分じゃ、気持ちよく……なれない、っあ、あ、あっ……でも、ダメ、ダメ、ダメよ……! メローネ、見ないで、お願い……恥ずかしい、からっ……あっ」
「あんまりだ。、やめて、くれ……あ、ああッ。そんな姿を、どうして、オレに見せたんだ! 見せないでいてくれたら……オレは、こんなッ……!」
メローネは、これまでために溜め、こらえに堪えてきた劣情が込み上がり炸裂しそうになるのを、瞳に涙を滲ませながら、何とか内側で押し留めようと必死になった。
「そ、そうだ。み、水、水を……」
自分が飲むためでもいい。が飲むためでも。とにかく、互いにクールダウンが必要だ。そう思い、メローネはミネラルウォーターの入ったボトルのキャップをひねって開けた。けれどすぐに何のためにそうしたのかすらまともに分からなくなり――激しく鼓動を打つ心臓、その音と振動、熱い血液がメローネの知覚領域を席巻していたので――注意が散漫し、冷たく濡れたボトルを手から滑り落としてしまう。開いた口から盛大に水を撒き散らしながら、ボトルは一度の胸の辺りに落ちた後、床の上へと転がっていった。
「ひぁっ……ん、冷たいっ」
「す、すまない、手がすべっ――」
濡れた白いTシャツはの肌にはりついて、胸の形をそのままかたどっていた。山の中央で布地を下から押し上げる、つんと尖った柔らかな蕾。触れたら、どうだろう。口に含んだら? きっと、蜜の味がするはずだ。舌下のくぼみに、唾液が湧き出して溜まる。メローネは溜まった生暖かい唾液をごくりと呑み下す。
「す、すぐに、タオルを――」
メローネは言いながら、に背を向け一歩足を踏み出した。その足はすぐに床の上で滑り、彼はそのまま態勢を崩し、ベッドの上で仰向けになって一心不乱に快楽を追い求めるの体の上に倒れ込んでしまった。何とか、彼女の柔らかな腹に肘やら顎やらで突きを食らわせるはめにならずに済んだ。何とか、手肘を彼女の上半身の両脇に付くことができたのだ。
それはそうと、目前に、例の蕾が迫っていた。頂きに咲く魅惑的な蕾。唾液が滲む。の、熱、揮発した汗、芳しい香り、嬌声、蜜の音、心音、熱に浮かされて潤む瞳、唾に濡れた唇。
――無理だ。
人差し指を蕾に伸ばした。熱く、こりこりとした手触りのそれに触れる。
「あっ」
瞬間、は短く息を吐いた。メローネは彼女の顔に、強い懇望を見た。それと同時に戸惑いも。戸惑っているのはメローネも同じだ。例えば、神の目があると知って盗みを働く前の心境に近い。いや、神は実在しない――少なくとも、彼はその存在を信じてなどいない――が、の内側で自分を監視する目は確かにある。その彼女に与えられた試練を、彼は乗り越えられなかったのだ。自分の指先で与えた感覚にが反応を見せたことにこの上ない喜びを感じ、それは罪の意識を優に超えた。こうして、彼の性の昂ぶりは限界を突破した。最早には、メローネを拒むだけの余裕も無かった。彼女は確かに、切望している。メローネによって与えられる快楽を、切望しているのだ。
「……。キスをしても、いいか?」
は何も答えなかった。けれど瞼を閉じた。メローネはその行動から承諾を得られたのだと解し、胸の高鳴りを覚えながらゆっくりとの唇へ唇を近づけていった。
触れて、触れて、一度離してまた触れた。舌での唇の割れ目をなぞり、中へ割り込み、歯列をなぞる。すると向うから、熱い舌が差し出された。口の中で舌同士が触れ合う。しなやかに、誘うように動く舌を、メローネは深く追い求めた。絡んでは逃げていくそれを追いかけ、深く、深く、彼女の中へと食い込んでいく。
メローネは激しいキスの合間に、再度指先を乳房の先端に軽く乗せた。ゆっくりと手を開き、他の指すべてでの乳房を包んだ。胸板に沿って四方へ流れた肉を鷲掴みにして、中央へ寄せては放す。の鼻から、息が漏れる。くぐもった声が、喉の奥から響いてくるのもわかった。
一度口を唇から離し、鼻先をの耳裏へ差し込み、そこの香りをかぎながら、首を下から上へと舐め上げた。濡れた布が張り付く乳房を揉みしだきながら。
「あっ……! ん、ん、んあっ、ああっ」
「、……その声、たまらなくなるッ」
メローネはまたの唇を貪った。まるで獲物を屠る獣のように、激しく、唾液にまみれぬるぬるとした柔らかな唇や舌を味わいながら、彼は長い腕を下へ伸ばした。ショーツへ潜り込むの手の際から、彼もまた、手を中へと滑り込ませる。は自慰をやめ、ゆっくりと自分の手を引き抜き、メローネが秘部を愛撫する手の手首を握った。停めるためにそうしたのか、もっと奥へと誘導するためにそうしたのか分からなくなって、手首を掴む手にぎゅっと力を込めた。
隠唇の周りは既に濡れそぼっていて、メローネの指は何の抵抗も無く中へ滑り込み奥へと誘われていった。温かいジュレに指を突っ込んでいるようだと、彼は思った。甘い蜜の味がする、ジュレだ。少し指を動かしただけで、そこはくちくち、と音を立てる。それだけで、メローネは達してしまいそうなほどに高揚した。
「ああ、っ。こんなになるまで……一体、オレが下に行ってる間に何が……」
「あっ、そんな、優しいのじゃだめ……もっと、奥を、強く、して……してほしい、メローネ、お願いっ、あ、我慢……できない、できないの」
が、オレを求めている。――いや、厳密に言うと、違う。彼女が、理性をどこかへ投げ出し、身をよじりながら狂ったように求めているのは、快楽だ。オレじゃない。与えられるのが快楽なら、それを与えるのが誰であろうと関係無いんだ。
メローネは理解していた。愛されているのだと、勘違いをしてはいけないと。彼が本当に求めているものなど得られるはずはなく、ただ虚しくなるだけだと分かっていた。だが、理性を投げ出しているのはだけではない。彼もまた、そうしようとしていた。彼の中ではまだ、理性という名の抵抗が少しは働いていた。彼は堪えきれずに、パートナーと呼べる仲の間にしか許されないような接触をしてしまっていたが、確かにまだ少しのブレーキはかかっていた。
しかしそれすら今、の扇情的な眼差しや、その他諸々の外的要因と、外的要因に連動するかのように起こる生理現象という内的要因によって、機能を失いつつあった。完全に失くなるまで、これから先三秒たりとも持たないだろうと予想させるほどに、メローネのペニスは完全に怒張しきっていたのだ。
「あ、ああ、、……!! もう、だめだ、限、界……だ……!!」
気付けばメローネは虚無に誘われていた。鳥羽口と付け根が当たるまで、一気にを貫いていた。彼の突き進む暗い隘路は彼をきつく締付け、熱く、滾るような熱を与えながら、さらなる虚無へと、高みへと彼を導いていく。
「んくっ……あ、っああっ、いいっ……。あ、ん、メローネ、メローネ、お願い、もっと、もっと激しくして……あ、ああっ」
はメローネの首に腕を回し、熱に浮かされて今にも溶け落ちそうな、そして媚るような艶を帯びた瞳で彼を見つめながら喘ぐ。そんな目で見られたら、我慢が効かなくなってしまうと、メローネは荒々しく彼女の唇を再度奪い、深く舌の根を探り絡ませ、自分のとのとが混ざった唾液をごくりと飲み下す。そして、必死に腰を動かしながら言った。
「、好きだ、愛、してるんだ……、あっ……あっ、あ、ああ、好き、だっ、好きだ好きだ……っ、愛してる!」
言葉は虚無に呑まれていく。返事はない。聞こえない。けれど彼は無心に、ただただ高みを目指した。
「オレの、。君は、君はオレのものだ、、愛してるんだ。他の誰が君を抱いていようと、構わないさ。……ほんとだ。オレが確かに、君を愛しているって知っていてくれたら。オレの愛をわかってくれたら。そうやって……こんな風に、君にッ、触れて、君の中にッ、いられるなら……オレは、オレはそれで……ッあ、ああ!!」
涙がこぼれ落ちた。何故だ。この上ない幸せを感じているはずなのに。オレは今どうして、何が悲しくて泣いているんだ。
訳も分からずに涙を溢しながら、愛する者の名を幾度となく呼び、愛していると本心を吐露した。返ってくる声は、メローネの吐露した本心には何ら関係の無い喘ぎや、快楽をさらに求める依存症患者の哀願だけ。
けれどふと、の指がメローネの頬骨の上を撫でた。涙を拭うように。苦しそうな顔で。喘ぎながら。そして唐突に、メローネの浮遊していた温かな海は沸騰し、蒸発し、もはや虚無は消え、時は止まった。
メローネはの隣に身を投げ出し、再び動き出した時の中で、虚空を見つめ思う。
――オレの心はどこだ?