暗殺嬢は轢死したい。

 醜悪さもここまでくるといっそ清々しい。最早、島の美しい景色にすら何の未練も無くなった。

 これが金持ちの特権なのだろう。これが金持ちに許された道楽なのだろう。それを羨ましいと思ったことがある過去を消してしまいたいと願うほどに、プロシュートは眼下に広がるあられもない光景を拒絶していた。

 今、プロシュートを始めとする一行は、マルセロの雇い主の所有する別邸とその庭を、広大な敷地内にある小高い丘の上から岩陰に隠れて見下ろしている。

 噴水や四阿や敷石、背の低い塀や柵、邸宅の壁といった類の人工物はすべて白亜で統一されていた。手入れの行き届いた植木や芝は青々と茂っていて、所々で色鮮やかな花が咲いている。柵の向こうに隔てるものは何もなく、ただ穏やかな海が広がっている。それだけなら美しい庭園だ。この断崖絶壁の上に立つ邸宅の庭園を見た当初は太陽の光がうっすらと残っていたのでそうと分かった。たが、やがて海と空とは境を失くし一体となり、背景が闇と化す。そうして橙の電球色で浮き彫りになったのは、庭園の中を蠢く人々の卑猥な戯れだった。

 複数の真っ裸になった男女――中には、明らかに成熟していないと見られるような若者も混ざっている――が、白いレースのベネチアンマスクだけを身に着けて四阿の中で盛られていた。まるでアフタヌーンティーのケーキスタンドに並べられたスイーツのような配置で蝋人形のように物言わずじっとしている彼らだが、一糸まとわぬ肌がひしめき合っていて台座がどうなっているかなどは伺い知れない。

 対して、タキシードやドレスに身を包んだ招待客たちはウェルカムドリンクさながらに振舞われるトレー――このトレーを持つ給仕係の女性も、シースルーの白いレースワンピースを身に纏って仮面を付けるという格好だ――の上のコカインを吸い取って庭の中央へと歩を進めていく。客は盛られた好みの人間に目をつけるとおもむろに手を取って四阿からふたり、あるいはそれ以上の複数人で連れ立って庭内の方々に散り、夜空の下で交じり合う。申し訳程度に用意されたケータリングに向かう者は少なかった。

 精一杯よく見せようという主催者の意志だけは何とか感じ取ることはできるが、言ってしまえばただの悪趣味な乱交パーティーだ。

 昨晩訪問したナイトクラブのけたたましい騒音が消えて、いたる所から喘ぎ声が聞こえてくるというだけ。いくら金持ちの高尚な遊びと言われようと、プロシュートの目にはどちらも醜悪としか映らない。

 ペッシはこの光景を目の当たりにして絶句していた。はペッシの背後に周り、見ちゃだめよと言わんばかりに彼の目を両の掌で覆っている。

「お金持ちの考えることって……分からないわね。反吐が出そう」

 いつもに比べ辛辣な物言いでが呟いた。プロシュートは全くもって同感だと、声に出さずに頷いた。

 ただ肉欲を交わすだけならいざ知らず、最初に違法薬物の類を摂取したりさせたりしているという所が最も癇に障るのだ。もちろん、自分たちが生計を立てるために得ている金の源泉が違法薬物の類にあることは理解している。市井にはびこるそれらが、年端も行かぬ少年少女たちの未来を奪っていることも知っている。知らぬうちに落ちに落ち、ボスに枷をはめられた自分にはどうしようも無いこと。そう言い訳をして、見て見ぬふりをしていたものを改めて見せつけられて、プロシュートは途方も無いやるせなさと怒りに苛まれていた。

「プロシュート。庭の入口を見て」

 やがて、ターゲットのふたりが姿を現した。ホストであるはずの男もまた、トレーに乗せられコカインを吸い込んで庭の中央へ進んでいく。あとに続くマルセロは、給仕係に手のひらを向けてすすめを断り雇い主を追う。男は庭内を一周して、情事にふける招待客たちの頬にキスを落としていって、そんな挨拶を一通り済ませると、彼自身もまた乱交に耽りはじめた。

 マルセロは主人がひとところに留まるのを見ると、少し後方に下がり、邸宅の壁に背中を預けた。

 悲しいかな、マシな人間はターゲットのひとりマルセロだけらしい。だが、任務は果たさなければならない。

「うわっ!兄貴……!?」
「うるせぇな。大声を出すんじゃあねーよ、ペッシ」
「だ、だって……!」

 ペッシは、いつの間にか近くに姿を現していたグレイトフル・デッドが、体中いたる所にある目から老化ガスを滲ませている様を見てぎょっとした。もペッシの指さす方を見て少しだけ目を見開き後ずさる。

 プロシュートはスタンドだけを四阿に向かって走らせ――走ると言うか、這わせると行ったほうがしっくりくる見た目だが、なかなかどうして俊敏に動くものだ――裸の男女が身を据えていた台座の頂点に登った。それからすぐ、グレイトフル・デッドはフルスロットルでガスを放出し始めた。開けた場所は得意としないスタンドだが、老化ガスを吸い込ませるまでに時間がかかるというだけで、対象に気付かれたり、放出地点から離れられたりしなければ何も問題は無い。

 スタンド能力に物理的特性を当てはめられるかどうか定かでは無いが、空気より比重が重いらしい老化ガスは庭の中央からジェット噴射しているおかげか、植栽で囲まれた庭園を円形に囲むように外側から高く積もっていく。植木にぶち当たり反り返るような挙動を見せた後、ガスは中心に向かっていい塩梅に充填され始めた。

「全員殺すつもり?」

 はプロシュートを窘めるような目つきで見やった。
 
「いや。オレが能力を解除すれば元に戻る。だが、早くターゲットのふたりは始末したほうがいいかもな。……連中、身体が温まってっからなあ。うかうかしてれば、すぐに死んじまうだろうぜ」

 やがて堆く積もった老化ガスは人々の鼻や口の高さにまで到達し、喘ぎ声は断末魔へとゆっくり変わっていく。ターゲットの男も例に漏れず老化が始まっていた。

 それを確認するなり、プロシュートはの手首を掴んだ。

「あ……兄貴っ!何やってんだよ!姉貴に直で……!」
「慌てるな。老けさせるも生かすもオレの思い通りなんだよ。ペッシ。お前はここで待っていろ。もしもマルセロがここから逃げ出そうとするようなら、お前のビーチ・ボーイで捕らえるんだ」

 そう言い残し、プロシュートはを引き連れてなだらかな坂を下り庭園へと足を踏み入れた。そして、ほとんど誰も手につけていなかったケータリングテーブルの上に乗ったアイスペールから、溶けて小さくなった氷を空のグラスに何個か入れて、またを引き連れてターゲットに向かってスタスタと歩き始めた。

 いたる所から、老いた喘ぎや呻き声が聞こえてくる。

「どう思う」

 漠然としすぎたプロシュートの唐突な質問に、は小首をかしげた。

「何の話?」
「こいつらだよ。羨ましいと思うか?」

 は辺りを見回した後、プロシュートから視線を外しながら眉根を寄せた。

「……さっき言ったわ。反吐が出そう」
「とてもじゃあないが、気持ちよくなりたくって死にたがってたお前とは思えないような口ぶりだな?」
「……私は心を改めたのよ。……ドラッグなんて、ろくなもんじゃないわ。……悪いのは、ドラッグをやってる心の弱い人達じゃない。こんなものをたかが金儲けのために世に広めてるヤツが悪いのよ。そんなヤツ、ドラッグが原因で死んでしまった人達の人数と同じ数だけ何度も死んで、何度も苦しむべきだわ」

 プロシュートは突然足を止め、手に持っていたグラスを呷り口に氷を含んだ。
 
 プロシュートはガスの影響を受けないはず。なぜ氷を?そう思っているうちに、はプロシュートに唇を奪われた。驚いて反射的に離れようとするの後頭部を鷲掴みにした彼の唇は、の口を割るように深く食い込んでいく。そして口移しで氷を含まされた。

「――ッ!?」
「今日のお前はスキだらけだ。……珍しいな。何顔を真っ赤にして慌ててる?」

 今目の前にいるのは、近づけた唇に人差し指を押し当てて夢を見せ続けろと言ったではない。今彼女が求めているのは、心地よい夢などでは無い。プロシュートにはそう見えた。

 プロシュートは遠ざかったの腰を掴んで、再び自身に引き寄せる。そして彼女の耳元で囁いた。

。お前がもう死にたくないっていうのが本当なら、それはチームにとって……いや、オレにとっても、最高に嬉しいことだ。オレだけじゃあねー。チームの皆が、お前が死ぬところなんかもう二度と見たくねーと思ってる」

 の胸の高鳴りが伝わってくる。氷で冷やした分はまだ保てているだろうか。そんな心配をしながら、プロシュートは続けた。

「だが、だからって、ひとりで心を強く持ち続けろと言っているわけじゃあねーんだぜ」

 プロシュートは自身の過去を振り返っていた。どうしようもない、自分の過去。ペッシになんか、口が裂けても打ち明けられないような――だが、折を見ていつか打ち明けようと思っていた。部下には自分のかっこ悪い所だって、失敗だって打ち明けなければいけない。そして、自分も成長できるのだと、知らせてやらねばならないのだ――過去を。ドラッグに溺れて、身も心も死にかけた過去を。



62:Helena Beat



 愛した女がいた。とても美しくて気立てが良く、怒ったところなんか一度も見たことがなくて、いつも凪のように穏やかで、一緒にいるとこの上なく心が落ち着いた。最高の女だった。

 今思えば、容姿や性格なんかはに似ていた気がする。最初にとお近づきになりたいと思ったのはその所為かも知れない。

 とにかく、その女性はプロシュートにとって最愛の人だった。

 そして当時はとにかく金が欲しかった。愛する女に贅沢をさせてやりたい。高価な贈り物をして、あっと驚かしてやりたい。大して学もないので楽に大金を稼ぎたいと思うと、堅気の仕事ではダメだった。だから彼はパッショーネに入団した。

 今でこそポルポが入団試験を取仕切っているが、その時はまだポルポも幹部にまでのし上がっていなかったし、当時のパッショーネはとにかく人手を増やし勢力を拡大させることに徹していたようで、人材を厳選しようという考えは無かった。だから、プロシュートの入団は案外すんなりといったのだ。

 プロシュートは恋人とアパートの一室を借りて一緒に住んでいた。パッショーネに入団する前までは一緒にベッドに入っていたが、堅気でない仕事に定時なんて概念は無いし、帰りが遅くなって彼女の美しい寝顔にキスを落とすだけの日が続いた。それだけに留まらず、家に帰らない日も増えていった。

 何故そうなのか。プロシュートは詳しい話をしなかった。彼女を堅気でない、汚れた世界に関わらせたくなかったからだ。彼は後になって思った。本当に彼女を大切に思うのなら、パッショーネに入らず身の丈に合った生活をして慎ましやかに生きていくか、パッショーネに入った時に彼女を手放すべきだったと。だが、当時の彼にとってはその女性こそが生き甲斐であったので、彼女を自ら手放すなど到底考えられないことだった。

 ある日、プロシュートがこつこつと貯めていた金は目標額に到達した。結婚など、堅気でない自分には似合わないかもしれない。けれど、永遠の愛を誓いたい。一生涯彼女の為に金を稼ぎ生きていくことを証明するために、彼は0.5カラット――ラウンド・ブリリアンカットの、カラーとクラリティが最高品質のものにした――のダイヤが台座にはめ込まれたプラチナリングを買った。

 これを見たら彼女は何と言って喜ぶだろう。そんなことを考えながら、久しぶりに暗くなる前に家へ向かった。一昨日から仕事で家に帰っていなかったのだ。丸一日会えないと寂しくて仕方がない。早く彼女に癒されたい。ああ、その前に、彼女が驚いて涙を流しながら喜ぶ姿が見られるに違いない。プロシュートの足取りは軽やかだった。

 だが、その指輪は終ぞ受け取られることは無かった。最愛の人は、夕闇に呑まれつつある自宅のリビングで死んでいたのだ。

 医者は薬物中毒死だと言った。日頃から常用していた可能性があり、徐々に使用量が増えていき、致死量に至ったのだと言った。

 何故、気付けなかったのだろう。――オレが仕事にかまけて、彼女との時間をないがしろにしていたからだ。

 何故、彼女は薬物に手を出したのだろう。――オレが寂しい思いをさせていたからだ。

 何故、彼女は死んでしまったのだろう。――全部、オレのせいだ。

 彼女は何も文句を言わなかった。愛するプロシュートに、疑いを持っているなどと知られたくなかったからだ。彼女にとって、彼を疑うということは彼を裏切ることと同義だった。

 だが、彼は仕事の話をしなかった。帰ることができない理由もはぐらかして退けた。段々、信頼は揺らいでいった。他に愛する人でもできたのではないか。だが、そんな風に彼を追求して、彼に疎ましいと思われるのが怖かった。彼女もまた、プロシュートのことを絶対に手放したくないと思っていたのだ。

 だから彼女は、どうしようもない不安や鬱憤を晴らすためにクスリに手を出した。最初は少しだけだと思っていたが、次第に少しでは足らなくなっていった。プロシュートがいない夜が不安で仕方なくなる。ついには幻覚まで見え始めて、彼女はそんな恐怖から逃れようとさらにクスリの使用量を増やしていった。それはじわじわと彼女を追いつめていって、果てに彼女の命を奪ってしまったのだ。

 プロシュートは後悔に後悔を重ねた。打ちひしがれ、ひとりになってしまった家で、誰のせいだ?オレのせいだ、と自分を責め続けた。だが、どんなに自分を責めようと彼女は帰って来ないし、悲しみが消えることもない。悲しみを癒やしてくれる唯一の人が死んでしまった――いや、オレが殺したも同然だ――からだ。とめどなく溢れ出てくる悲しみと遣り場の無い怒り。負の感情で充満した部屋。――彼女のいない部屋。

 そんな現実から逃れたくなった。ふと、彼女が最後に使ったままの、テーブル上に転がる注射器が目に留まった。

 こうして彼もまた薬物に手を出し始めたのだ。



 気づけば、プロシュートは無一文で路地裏に転がっていた。仕事に来ない彼に、組織の仲間が焼きを入れにきたのだ。そして彼らは、薬物に侵され、まともに抵抗すらしないチームメイトをしこたまいたぶった。散々の暴力の末に、チームリーダーはプロシュートのささくれた金の前髪を掴み上げ、喉元に銃口を突き付けて言った。

「組織のために働くか、それとも今ここで死ぬか。どちらか選べ」

 いっそ殺してくれ。そしたら、アイツがいる天国にだって行けるだろう。――いや、待てよ。外道のオレに、天国への階段なんて用意されていないんじゃあないか? 

 ……ああ。オレは、もう二度とアイツには会えないんだ。死んですら、アイツの元へはいけないんだ……!

 愛した女を思うことすらできなくなると思うと恐ろしくて仕方がなかった。だが、彼女がいない人生になどもう二度と希望を持てる気がしない。生きていける気がしない。だが生きていたい、けれど死にたい。そんな堂々巡りを繰り返すうちに湧き出てきた涙が、頬を滑り落ち始める。

 こいつ、泣いてやがるぜ!みっともねー!

 そんな罵声と嘲笑を浴びている内に、喉にさらに深く銃口が突き刺さる。早く答えろと言うように、拳銃の安全装置が外される音がかちゃりと鳴った。その時。

「その辺にしておきなさい」

 路地の入口側に立って日の光を遮る男。物腰の柔らかそうな、メガネをかけた中肉中背の男だった。プロシュートは半死状態で声のした方を見やった。その場にいた半数以上の者が、一体誰だと小首をかしげていた。プロシュートも、その場に馴染まない男が何者なのか少しも検討がつかない。

「おいオッサン。なんのつもりだ?見せもんじゃあねーんだぜ」

 チームの仲間の内ひとりがそう言った瞬間、チームリーダーはそいつの鳩尾に靴先を叩き込み頭を深々と下げた。プロシュートと、地面に這いつくばってチームリーダーを憎々し気に見上げる男以外の全員が、チームリーダーに倣って頭を下げた。

 場に馴染まないメガネの中年男性はプロシュートに向かって歩いて行って目前でしゃがみ込むと、彼の肩を優しく掴んで言った。

「さぞかし、辛い思いをしたんだろうね」

 慈悲深い、優しい眼差しに一瞬だけ癒されたような気になった。触れられた方の肩からじわじわと温かさが全身に伝わっていく。出発点が違うだけ。まるで麻薬のようだとプロシュートはほんの少しの間思ったが、そのネガティヴな思考も不思議と霧散するように消えていく。

「神様はきっと、君を許して下さるよ。……ただ、許しを得るためには試練を受けなければならないんだ」

 ――訳も分からぬままに受けさせられたその試練で、彼は“グレイトフル・デッド”を手に入れた。何か矢のようなものに身を貫かれ、生死の境をさまよったような気がした。ひどく曖昧な記憶。そして曖昧な意識の中で、彼はいつの間にか組織の暗殺者チームに配属されていた。

 一歳か二歳年上の青年が、プロシュートを親切に仲間として迎え入れた。その時、プロシュートの心の傷は依然として癒えていなかったし、相変わらずクスリにも何度も手が伸びそうになっていた。だが、青年は彼を止め、話を聞き寄り添った。自身もまた癒えない傷を負っていたから、プロシュートの気持ちは痛い程に分かったのだ。

 愛する者を失うのは辛いことだ。だがお前は、その悲劇を乗り越えて、愛する者が生きたであろう時間――命――を全うし、愛する者が生きていたという証を後世に継げ。心に負った深い、癒えることのない傷こそ、愛する者が生きていたという証だ。お前が死にたくないと思うのは、その痛みすら感じなくなって、愛する者を完全に亡き者としたくないからなのだ。死にたくないと望むのなら生きろ。お前の痛みを、お前の苦しみを、オレにも分けろ。そのためにオレも生き続けると約束する。愛する者の死を無駄にするな。

 そんな話を飽くことなく何度も聞かされるうちに、プロシュートは青年――リゾット・ネエロ――を信頼するようになった。彼と共にあれば、絶望したこの世にももう少し留まって、自分自身の命を――愛する者が生きていたという証を――この世に残せそうだと思った。何よりも、彼女の死を――生を――無駄にしたくないという切望に、プロシュートの思いはやがて帰結したのだ。



「ひとりで、何でも抱え込もうとするんじゃあねーぞ」

 ひとりで晴らせない思いを抱え込んで死んでしまった女を思い浮かべ、そして何も出来なかった過去の不甲斐ない自分を戒めながら、プロシュートはの耳元で囁いた。

「オレ達は仲間だろう。……そう思っているのは、オレだけか?」

 はプロシュートの問いには答えなかった。ただ、依然として彼女の胸が早鐘を打っていることは分かった。

 がどう思っていようと、プロシュートは彼女を手放したくはないと思った。その想いがまた同じ悲劇を生まないとも限らないという不安もよぎる。だがそれでも――

 プロシュートは、が心の底から笑って過ごせる未来を望んでいた。その未来に自分の存在は無くても構わない。ただ、笑って、幸せでいて欲しい。信頼するリゾットがそう言っていたからだ。

 最初はそう思っていた。

 だが、つい先程その想いは、リゾットがそう思っているからという因縁を逸した。

 の確固たる意志が、内に秘められていたその意志が、自分の理想と重なったからだ。彼女が笑って過ごせる未来に、その理想の世界に、自分が存在していたい。

 ――プロシュートはやはり、との永遠を夢見ていた。