暗殺者チームのアジトにほど近い空き地には、よく棄てられたものが雑然と転がっていた。十メートル四方のその空間には、ゴミを不法投棄するとき以外に基本的に人は寄り付かない。たまにパッショーネのお膝元でごみ処理業を営むギャングが近所から金を巻き上げて、その空き地のゴミを回収してどこか山奥へ不法投棄しにいったり――ゴミを移すだけで金が入るのだから楽な商売である――したので、ゴミで溢れかえるということは無かった。
雨が降りしきる中、ホルマジオがその空き地のどこかから子猫の鳴き声を聞いた時、大口径のヒューム管が三つ隅の方に不法投棄されていた。下水道管の更新で出たゴミなのか、三メートルスパンのそれはところどころ腐食していて錆びた鉄筋が見え隠れしている。そんな管の中で反響したからか、雨の中であっても子猫の鳴き声がホルマジオの耳に届いたのかもしれない。彼は居ても立っても居られなくなり、ヒューム管の中に置かれた段ボール箱の中を覗くため、空き地に足を踏み入れた。
「おーよしよし。可哀想にな。捨てられちまったのか?」
段ボール箱の中には一匹の子猫が捨てられていた。黒を基調として、小さな額の真ん中を摘み上げた向うで白が覗く、所謂八割れ猫だった。まるでタキシードでも身に付けているかのように胸元から腹にかけて白い毛皮を纏うあたりが特にかわいらしい。ただ、目は黒い目ヤニで潰れ、鼻からは黄色の鼻水を垂らしている。このままだと弱って死んでしまうかもしれない。ホルマジオは何か食わせてやりたいと思い、一度アジトに戻ることにした。
アジトに連れ帰るという判断をしなかったのは、家主のリゾットに怒られる――捨て猫など珍しい物ではないし、見つける度に連れ帰っていては暗殺者チームのアジトは一気に猫屋敷と化してしまう――だろうし、あの空き地がアジトに近く、世話を焼くのにそれほど労力がかからないと思ったからだった。水で濡らした薄手のフェイスタオルと牛乳、そして一ピースのチーズを手にして、ホルマジオは再び空き地へと向かった。
子猫はホルマジオの帰りを待っていたと訴えるように、彼が空き地に足を踏み入れた瞬間に鳴き声を上げはじめた。彼はその声を聞いて小走りで段ボール箱へと近づいた。そして子猫を段ボール箱から取り上げ、ピラミッド型に積み上げられた向かって右側の管内に段ボール箱を除けて、雨に打たれないよう左側の管の中に猫と一緒に自分の体をねじ込んだ。胡坐の上に子猫を乗せて濡れタオルで顔を綺麗に拭いてやり、牛乳に浸した指先を舐めさせた。飢えていたのか持ってきたチーズを瞬時に全て食べてしまった子猫は、安心しきった様子でホルマジオの足の上で寝てしまった。
「捨てるなんて信じられねーよな。こんなにカワイイのによぉ」
子猫の小さな額、クビ、胴体までを何度も撫でながら、ホルマジオは途方に暮れた。これからこいつをどうしようか。このままここに置いていたら、ゴミが回収される過程で虐待に遭うかもしれない。そうでなくてもその内隠れ家を失って、野犬にでも襲われたりするかもしれない。暗い空からしきりに落ちてくる雨。とても前向きな気分になれる雰囲気ではない。前途多難な子猫の運命を憂うことしか、今の彼にはできなかった。視線を再び子猫に落とし、喉を鳴らしてすやすやと眠る子猫を撫でた。離れ難かった。アジトに連れ帰っても自分の部屋から出さなきゃ怒られないだろうかと、まるで少年のような気持ちでリゾットの怒る顔を思い浮かべる。
「……その子、どうするの」
突如、頭上から聞きなれない女の声が降ってきた。顔を上げると、1.5メートル程前方からこちらをじっと見つめる女の姿があった。黒のパーカーと黒のジーンズ、そして黒のブーツ。全身真っ黒で、パーカーのフードを深く被っている。雨の所為で視界が悪いので、どんな顔をしているのかもよく分からない。ただホルマジオには、凛とした印象を与える女の大きな目だけが、フードの奥で光って見えた。
綺麗な目してんな……。
「それを今考えてたんだよ」
「……私、あずかってくれる所知ってる」
そう言って女はホルマジオに近づき、彼の膝の上で眠る子猫の首根っこを掴み上げた。子猫は宙に浮いたとたん驚いて足を開き緊張して鳴き声をあげたが、女の胸元に身を預けるとすぐに喉を鳴らし始めた。女はホルマジオに背を向けそのまま空き地から出て行こうとする。
「お、おい待てよ!」
ホルマジオは女の後を追おうとヒューム管から身を乗り出した。女はそれを察して立ち止まると、少しだけ振り返って言った。
「大丈夫。私も猫が好きなの。この子のことは任せて」
そう言って女はホルマジオの前から姿を消した。
「あんたはいいよね。カワイイから、誰にだって無条件に愛してもらえる」
パーカーとシャツの間に挟まれた子猫は母親の体温でも思い出したのか、の胸元に身を寄せてすぐに寝始めた。彼女は片手で子猫の体を支えながら歩く間、羨ましそうに子猫の顔を眺めていた。
子猫と同じで、・にも家は無かった。よくあることなのかどうか、親しい友人も彼女の面倒を見てくれるマトモな親族もいない彼女には知りようもなかったが、碌でもない両親の元に生まれてしまった結果、家にはいられなくなった。家を出たのは、彼女がまだ十五にも満たない頃のことだった。
そんな彼女は生きるために何でもした。当然金は無いので男の家に居候する代わりに、料理、洗濯、掃除なんかと、男の性欲の処理をして生きていた。日中ずっと家にいるのも退屈だったので、金のためにギャングの小間使いもやった。物事の善悪や分別など両親には教わったためしもないので、薬物を運んだり、売春したりということが法に触れる良くないことだとも思わなかったし、居候先の男が自分の体を求めてくるのも普通のことなのだと思っていた。そもそもその行為が普通、何を意図して行われるものなのかということについて、二十歳を迎えるまではよく考えもしなかった。ただ、男の体温を体で感じていると不思議と落ち着いた。例え男が自分と年齢の近い若い男でも、五十を過ぎた年の離れた男でも、両親の愛情を知らない彼女にとってはそれだけが拠り所だった。
八割れの猫を坊主頭の、猫の世話なんて絶対にしなさそうに見える強面の男から奪った日の数日前に、は初めて人を殺した。居候先の男に殺されかけたからだった。男は女性を痛めつけて性的興奮を覚えるような、所謂サディストだった。
男が仕事から帰ってきて、ふたりで夕食を済ませた後のことだ。は突然、頬を平手打ちにされた。目を剥いて何をするんだと抗議し抵抗する前にベッドに肩を押し付けられ、腹這いにさせられた。は男を信頼しきっていた所為ですっかり不意をつかれてしまったのだ。体の向きを変えようと足掻くも、男に馬乗りにされてしまい叶わなかった。男はナイトテーブルの引き出しから金属か何か、かちゃかちゃと鳴る物を取り出した。その金属は一つに束ねられた彼女の両手首に纏わりついた。手錠だ。拘束された彼女は大声を出そうとするが、乱暴に剥ぎ取られた自身のショーツを口内に突っ込まれ、助けを呼ぶことすらできなくなった。くぐもった声が室内に響く。うるさいから黙っていろと、頭髪を鷲掴みにされて喉元にナイフを突きつけられる。は息を呑んでゆっくりと頷いて、ベッドに顔を埋めた。
ガサゴソと、男が背後で何かを探す音が聞こえてくる。恐怖に支配された彼女は、何をされるのか検討もつかず、ただぶるぶると体を震わせていた。殺されてしまうのかもしれない。目的も無く男の家を転々として食べる為だけに汚い仕事をしていただけの人生ではあるが、死ぬのは恐ろしかった。フラッシュバックする継父の暴力。それを止めようともせず酒に溺れる実母。思い出したくもない過去が走馬灯のように脳内を駆け巡る。そんな彼女の意識を強制的に現実へ連れ戻したのは、突如として下半身を襲った気の狂いそうになる程の激しい痛みだった。
「アナルにオモチャを突っ込まれるなんて初めてだろう?」
男の乾いた笑い声が、朦朧とし始める意識の中で響いた。
レイプと言うには生温い残虐行為をもって蹂躙される間、は泣きながら何度も殺される、と思った。自分のことを助けてくれる人間などいるはずもない――唯一助けてくれる可能性があるとすれば、今まさにを虐待している男だけだったのだが、どうも期待できそうにない――と分かってはいたが、助けを求めずにはいられなかった。
誰か、誰か私を助けて……。
自分はただひたすらに孤独だったのだ。これまで幾度となく男と体を重ねてその体温に安堵してきたが、きっとそれは愛でも何でも無かった。愛していれば、私を血が出るほどに痛めつけ、首を絞め上げながら痛がって泣いている私の肛門にすっかり膨張しきったペニス突っ込むなんてことはしないはずだ。この男に限らず、私はこれまで、まるで家賃でも支払うように自分の体を売っていただけに過ぎないんだ。思い返してみると、愛しているなんて言われたことも、優しく撫でられてキスされたことも無かった。誰にも大切になんてされていなかった。
行為が終盤に差し掛かると、この世の物とは思えない下腹部と肛門の痛み、二度と起き上がれないのではないかという倦怠感、そして途方もない孤独に苛まれた。
を気が済むまで蹂躙して一応の満足を見せた男は、彼女の血や体液で汚れたベッドのシーツを明日洗っておくよう言うと、何事も無かったかのようにそのまま寝てしまった。起き上がってシーツを剥ぎ取り洗濯するなんてとんでもない。は足を動かすのすら困難という程の酷い痛みに襲われていた。
翌日、まともに家事をこなせなかったは折檻ついでに昨日とほとんど変わらない虐待を受けた。傷口に塩を塗るどころか、刃物を突き立てて傷口を広げるような行為だ。今度こそ本当に死んでしまう。はそう思った。ひとしきり虐待を受けながら意識を失わないように耐え忍んだ後、軋む体を引きずってナイフを手に取り、寝入った男の胸にそれを突き立てた。ろくに身体も動かせない今の彼女が生き延びるには、そうするしかなかったのだ。
不思議と罪悪感は無かった。散々に恐怖と痛みと絶望を味わわされたのだ。さっくりと殺してやっただけでも感謝しろ。はそう思った。
そして亡骸をベッドの上に放置したまま三日を男の家で過ごした。最初の二日で体を癒した。二日経って体を動かせるようになると、最後の一日を片付けに費やした。自分が使っていたものは全てリュックに詰め込んで、指紋が付いていそうなところはくまなく拭き取って、自分がいた痕跡を消した。そうして仮住まいだった家を出た先の空き地――よく猫が捨てられている場所だ。は弱った猫を見つけては、養子縁組するように猫に飼い主を探してやるボランティア団体の元に連れて行った。彼女には捨てられた孤独な猫たちが、自分と重なって見えていたのかもしれない――で、ホルマジオに出会った。
言ってしまえば、ただの一目惚れだった。孤独な子猫に優し気な眼差しを向けて介抱する強面の男。見るからに堅気では無い彼。やっていることと見た目のギャップが著しい。だから珍しい物見たさに足を止めてしばらく様子を伺った。なかなか子猫から離れようとしないので、はたまらず彼に声をかけた。
「ねえ、どんな気持ち?何もしなくてもごはんがもらえて、あったかい寝床を借りられて、優しく声をかけられながら撫でてもらえるのって……愛してもらえるのってどんな気持ちなの?」
猫に話しかけてみても、答えが返ってくるわけはない。そうと知りながらも、は答えを探すように子猫を見つめた。そして、つい先ほどまでこの猫を介抱していた男の姿を思い浮かべた。先日酷い虐待を受けたからか、あの坊主頭の男の優し気な所作が際立って良く見えたのだ。
「私もあんたみたいになりたいな。かわいくて、甘え上手な猫みたいにさ……」
結局、当然だが、あの坊主頭の彼に撫でられた感想について子猫から聞くことはできなかった。
ボランティアセンターに子猫を預けた後、今後自分はどうするべきかと考えた。後悔などしていないが、人を殺したことと、ギャングと関りを持ってしまっているという悲惨な経歴から、一般人に紛れて自立を目指すのは現実的ではない。それに、もう二度とあんな地獄の鎖に繋がれるかのような仕打ちは受けたくなかった。身を守る術が欲しい。強くありたい。
今後の身の振り方について考えている間、坊主頭の彼のことがしきりに脳裏を過った。は完全に恋に落ちていた。思い出す度に、あの八割れ猫を羨ましく思った。そして男が優しく猫を撫でる姿を思い浮かべると、胸が高鳴って少しだけ息が苦しくなった。
午前九時頃、目を覚ましたはおもむろにベッドから抜け出して、鏡に映る自分の顔を見つめた。散々泣いたからか目元は酷く腫れぼったい。こんな顔でリビングに降りていくなんてとんでもないし、そもそもホルマジオに会いたくない。あれだけ会いたい会いたいと恋焦がれた彼に、今はこんなにも会いたくないなんて。はやはり昨晩ホルマジオの部屋で犯した自分の失態が許せなかった。
はわざわざ猫の姿になって部屋から抜け出すことに決めた。今回変身するのはイエネコよりかなり大柄のオオヤマネコだ。顔にネコパンチでもされようものなら深いひっかき傷を刻まれながら首を折られるのではないかと言う程太く逞しい前足を持っているが、その種を選んだのに攻撃力の高さなどは関係無い。アジトを抜け出した先で素っ裸でいるわけにはいかないので、脱いだ服を持ち運ぶためにイエネコよりも顎の力が必要だというだけである。
裸になってトートバッグに衣服を詰め込んだ後はスタンド能力を発動して変身を遂げると、バッグの持ち手を噛んで持ち上げ部屋の窓から外へと抜け出した。ナポリの街中にオオヤマネコが出没するなど絶対にあり得ないのだが、目的地はそう遠くない。通行人の視線を掻い潜るのは難しいことでは無いだろう。彼女は屋根を伝い、路地裏に降りて目的地へと急いだ。
あの総重量が一トンを超えるであろう資材を持ち上げるにはクレーンが必要だろうし、真っ当に仕事をする気が無いゴミ回収業者の手には余る代物なのだろう。初めてホルマジオに出会って数年が経っていたが、鉄筋コンクリート製の大口径の管はあの時と全く同じ場所に棄てられたままだった。
は管内に潜り込み、能力を解除して器用に着替えを済ませた。そしてそのまま管の中に寝転がった。一度大きな溜息をつくと、またストレスが溜まりそうな思考の渦に自ら身を投じた。
ホルマジオに会いたくないからと言って、同じチームに所属してしまった今となってはこれから先ずっと彼を避け続けるのは困難だろう。食べていくためには働かなくてはいけない。当然、例のリビングに集まって、話し合いなどにも顔を出さないといけない。報酬だってあそこで受け取らないといけないし、報酬の分配をどうするかって話し合いをするときは、ホルマジオだって当然いるだろう。絶対に、会わないなんてことはできないんだ。じゃあどうする?いっそのこと、全て打ち明けてしまう?いいや。ますます気持ち悪がられるのがオチだ。変な夢でも見たんじゃないかとはぐらかした方がまだいいかもしれない。そうだ。ホルマジオは朝方酔っていた。だから、酔っていたんだと指摘してやれば、案外うまくいくかもしれない。そうだ、そう言おう。
そこまで考えた時、の腹の虫が大きな音を立てた。管の中で反響して普段よりも何割り増しか大きい音で耳に届く。別に誰が聞いている訳でも無いのに恥ずかしくなって、はセメントが剥落して粗骨材が露わになった天井を睨みつけた。
「腹減ってんならリビングに下りてこいよな」
は足元から響く男の声に驚いて、びくりと体を揺らした。片肘をついて上体を起こし、恐る恐る声がした方に顔を向けると、ホルマジオが呆れた様子でこちらを覗き込んでいた。目が合った途端には顔を真っ赤にして一時停止する。
「なっ……何でこんなところにいるの……?」
「それはこっちのセリフだぜ。……まあ何はともあれ、腹減ってんだろ。今度はチーズタルト買ってきてやったんだ。ほら、食えよ」
またスタンド能力を使って身をくらませようかとも思った。だが、ホルマジオと会う度にそうやって逃げ続けるわけにもいかない。そしてチーズタルトが食えるというのに、そのチャンスをむざむざ逃すわけにもいかなかった。は渋々起き上がり、差し出された紙袋を奪い取ると、ヒューム管の中で身を小さくしてチーズタルトを食べ始めた。
「おまえほんと猫みたいだよな」
は笑われて増々顔を真っ赤にする。対するホルマジオは身をかがめて彼女を見つめるのをやめ立ち上がり、ヒューム管に腰を預けて空を見上げた。今日はあの日と違って天気がいい。
「なあ。オレ達、前にここで会ったことあるよな」
コンクリートの薄壁一枚隔てた向うからくぐもって聞こえてきたその声を聞いて、は手を止めた。
「いくら待ってもリビングに下りてこねーから、さっきおまえの部屋の前に行ったんだよ。物音ひとつしねーし、また窓から外に逃げたんだろーなって思ってよォ。腹も減ってるだろうし、食いもんでも買って持って行ってやろうって。んで、どこに行ったかなって考えて一番に思い浮かんだのがここなんだ。……オレちゃんと覚えてたんだぜ、おまえのこと。……おまえの目、すげー綺麗だったからさ」
“綺麗”と言われて、一度の胸が大きく高鳴った。人間の姿の自分について、ホルマジオにそんなことを言われたのは初めてだ。
「。オレはやっぱり気になっちまうんだ。おまえがどうして、猫の姿で毎晩オレに会いに来てたのかってことがさ。……教えてくれよ。じゃねーとオレ、仕事で一緒できねーからって、これから先ずっと付きまとっちまいそうだ」
は返答できずにいた。付きまとう?何故?付きまとってたのは私の方だ。そんな私のことを気持ち悪いと思わないのだろうか。――彼女にはホルマジオの意図していることが分からなかった。一言も喋ろうとしないに痺れを切らし、ホルマジオは再度の顔を覗き込む。
「心配すんなよ。オレも猫が好きなんだ。……いや……。猫のおまえも、そのままのおまえも……オレは好きだぜ。・」
そう言って屈託なく笑うホルマジオ。は目を大きく見開いて、下唇を噛んだ。喉の奥から何か、熱い物がこみ上げてくる。それは咽頭を逆流し目頭までを熱くさせた。そして緩んだ涙腺からはこんこんと清水が湧き出るように涙が溢れ出す。
「お、おいおい。何で泣くんだよ!……そう言えば、猫の考えることってコンマ五秒でころころ変わるって言うよな……。ほんと、おまえマジで猫そのものだな……」
困ったように頭を掻いて、ホルマジオはに手を差し伸べた。その手にの手がそっと触れると彼はそれを掴み、優しくゆっくりと彼女の体を引き寄せた。暗がりから抜けだしたの涙に濡れた瞳は、陽の光に照らされて一際輝いて見えた。
「やっぱりおまえの目は綺麗だ。忘れられねーワケだぜ」
ホルマジオはそう囁いて、の目尻からこぼれ落ちる涙を親指の腹で拭った。は以前羨んだあの優しい眼差しに射貫かれて、しばらくの間まばたきも忘れて彼の顔に見入ることになった。