銘々のジレンマに
たったひとつの最適解を

 はメローネという男のことが好きだ。その思慕の念は彼と初めて対面した時、彼の中性的な美貌を目の当たりにした時に端を発していた。

 彼と一緒に仕事に出る時、移動の最中はにとって至福のひとときだった。街中やハイウェイを駆け抜けるバイクの後部座席に跨ってメローネの体にしがみつく間、は出来る限りで彼を感じていた。

 中性的な見た目とは裏腹にことの外体つきは男そのものだ。細い腰から上に向かって徐々に厚くなっていく上半身。つい後ろから手を這わせたくなってしまう、適度な筋肉を纏った男らしい胸板。そこから伸びる逞しい腕。だがハンドルを回す手は細く長い。グローブの下に隠れる指が動く様を妄想して溜息を吐く。なんてセクシーなんだろう。空に流線を描く長く美しいラベンダー色の髪がの頬を、そして一緒にオーデコロンかシャンプーの控えめないい香りが彼女の鼻をくすぐった。その清潔な香りと、彼の腰に巻き付けた腕から伝わる熱に酔いしれて、はメローネの背中に額を預け、うっとりと顔を緩ませていた。

 そうやって彼に触れる度にはメローネへの思いを募らせていった。いつしか彼女は、狂おしいほどの渇望感に苛まれていた。

 自分から触れるだけでなく、彼に触れられたい。触れられるだけでなく、愛撫されたい。蕩けてしまいそうな熱い眼差しを向けられながら、そして耳元で愛を囁かれながら、彼自身を私の中に埋めてほしい。

 にそのつもりは無かったのだが、彼女のメローネに向ける好意はあからさまだった。メローネは彼女の気持ちに気づいていたのだ。だから、彼女に告白された時も大して驚かなかった。

 ふたり以外に誰もいないアジトのリビングルーム。午後3時頃、傾きかけた秋の日差しが天井付近の明り取りから入り込むだけの薄暗い空間。特にムードとかそんなものは関係ないとでも言いたげな、どうしようもない愛欲が溢れ出したような余裕のない表情で、唐突に告げられたの思い。メローネはそれをすんなりと受け入れた。

「おいで。

 メローネは微笑みを浮かべ、に向かって腕を伸ばした。は誘われるがまま、隣に座る彼に向かって身を乗り出した。両の脇腹を掴んで体を引き寄せると、メローネは彼女の首元に顔を近づけた。啄むように顎や耳介、耳の裏側、鎖骨のあたりにキスをした後、長い舌で首を下から上へと舐め上げる。肌を粟立たせる感覚は甘い痺れとなっての全身を震わせた。下唇を噛んで恥じらうように目線を下にやった彼女の、上着のボタンをゆっくりと外していったメローネは、露わになった膨らみに鼻を寄せほのかに甘い肌の香りを楽しみながら、もう片方の乳房の柔らかさを手のひらで堪能した。

 には自身の双峰の頂が、まだ剥ぎ取られていない下着を突き破りそうなほどに主張しているのが分かった。早くそこに触って欲しいのに、メローネは焦らすように、中心にだけはあまり触れないようにして柔らかなふくらみを揉みしだいている。

「そんなに物欲しそうな顔で見つめるなよ。君って意外と淫乱なんだな」

 落ち着き払った表情で、息を荒げるをメローネは見つめた。ただ単なる侮辱とも、欲を煽る挑発とも取れる物言いを受けては眉を顰めた。淫乱だと言われるなんて心外だ。私はあなたに出会ってから、あなたのことしか考えていないのに。最初はそう思った。だが、彼に罵られても期待に胸が高鳴るだけだった。

「黙ってちゃ分からないだろ?言えよ。どうして欲しいか」
「私、ずっと……あなたに抱かれたかった」

 これは恐らく、メローネが想定していなかった答えだ。にはそんな自覚があった。別に彼を驚かせたい訳ではなかった。ただ、それをあまりにも渇望していたから、もう余裕が無かったのだ。前戯など今は必要ない。ただただは、メローネを欲していた。

 はソファーの上に膝立ちになって、スカートの裾を左手でたくしあげた。

「私のここに、入ってきて、メローネ。お願い、あなたが欲しいの」

 の手は露わになった胸から開いた股の間へと滑り落ちるように伸びて行き、そして恥丘に覆い被さった。右手の人差し指をサテン生地の淡い色合いをしたショーツの際から、腫れたように熱を持って疼く蜜つぼへと突き入れる。期待に満ち溢れたそこは、愛撫もほとんどされていないというのにメローネを受け入れる準備が既に整っていた。

 の手の動きを目で追っていたメローネは、行き着いた先の光景に舌を巻いた。くちゅくちゅと淫猥な水音を立てながら、あのが目の前で、自分で自分を慰めている。

 こんなの、ギアッチョが見たらどう思うかな……。こんなところで、オレがとセックスしようとしてるなんて知ったら――

 そう考えてからやっと沸き起こってきた興奮をに悟られまいと、メローネは吐息を漏らして呼吸を整えた。そしてゆっくりと、彼女の中心へと手を伸ばしていった。

 メローネの指がショーツ越しに手の甲に触れると、はとっさに自分の手を引いた。しとどに濡らしたショーツを表から何度かさすり、片側の口角を吊り上げて彼は嘲笑う。

「君はやっぱり淫乱だ。こんなにぐしょぐしょに濡らして……。なあ、オレのバイクに跨ってた間、ずっとオレに跨ることばっかり考えていただろ」

 は挑発的な笑みを浮かべるメローネから視線をそらしてかぶりを振った。

「そんなこと考えてない……」
「いいや、。そんなはずはない。嘘なんかつくなよ。オレはさ、女が何を考えてるかって観察するのは得意なんだぜ。職業柄……いや、スタンド能力柄、かな?」

 然して焦りも見せずにショーツの中へ滑り込むメローネの指は、溢れ出た愛液を陰唇にまぶすように、また焦らすように表面だけを撫でた。まだ剥ぎ取られていないショーツを器用に避けながら、彼の細く長い指が奥へ手前へと往復する。普段グローブに隠れていて、ほとんど目にすることのなかった彼の素肌。股座で蠢くそれは想像通りか、それ以上にエロティックで、はたまらず声を上げた。

「あっ、メローネ。やだ、焦らさないで」
「始めてから10分と経ってないぞ」
「ダメなの、もう、我慢できない」
「できない、じゃあなくて、するんだ。もっとゆっくり楽しもうぜ」

 尚も陰裂の表面を往来するだけのメローネの手指。なかなか望むものを得られないむず痒さに身をよじりながら、は背後に腕を回し、ブラジャーのホックを外して乳房をさらけ出した。両手で両の膨らみを掴み、人差し指を伸ばして痛いほどに突き出た突端を掻いた。涙に濡れた瞳でメローネを見つめ哀願するも、彼は呆れたようにかぶりを振るだけだ。

 なあ、見ろよギアッチョ。お前が大好きなが、オレを求めてこんなになってる。

 もっとゆっくりと楽しみたい。この光景をじっくりと見ながら、空想にふけりたい。この淫らな女にあらぬ幻想を抱いて恋焦がれている同僚が、今この状況を目の当たりにしたらどう思うだろう?怒り狂ってオレを殺しにかかるか?何も言わずに見なかったふりをして絶望して去るか?それとも便乗してくるか?どうなってもオイシイな。ああ、タイミング良くあいつが帰ってきたりしないかな。

 やっと陰核に届く程度に溝に埋められたメローネの指。皮を被った小さな突起を指の腹で撫でてやると、はビクリと体を震わせた。その強烈な刺激がまた欲しくなって、彼女は自ら腰を揺らし始める。

 なあ、ギアッチョ。知ってたか?ってこんなにイヤらしいんだぜ。カワイイ顔して、女ってのはつくづく狡猾だよな。ほら、感度も良好みたいだ。大して触れてもなかったのに、こんなに下の口から涎を垂れ流してる。

 しだいに熱を持って腫れ上がり始めたペニスをパンツのジッパーをおろして覗かせる。はごくりと喉を鳴らして指を噛みつけた。

 ギアッチョの車のエンジン音が響かないだろうかと、メローネはアジトの外に聞き耳を立てながら焦らしを効かせた愛撫を続けた。たまにクリトリスを刺激してやると、もうそこはいいから、指……いや、その太くせり上がった男根で掻き乱してほしいと切望するの視線が降りかかる。だがメローネは、彼女の願望などそっちのけだ。

「入れてほしかったら、口でしてくれよ。こっちだって濡らした方が入りやすいだろ?」

 は一も二もなくこくりと頷いて、ソファーから下り地べたに膝をついた。大きく開かれたメローネの長い脚の間にうずくまり、自立した長く太いそれに舌を這わせ、恍惚とした表情で下から上に向かって舐めあげた。何度か同じ動作を繰り返した後、滑らかで艶々とした先端に上唇を乗せて下のくびれを舌でなぞった。控えめな喘ぎ声が頭上から聞こえてきて、はメローネの顔を見上げる。

 目を閉じて眉をひそめ顔を紅潮させ、下唇を噛みつけて喘いでいる。自分の口淫でメローネがそうなっていると思うと、はさらに興奮した。口を一度大きく開いて、ひと息に根本付近まで咥えこんで、とめどなく溢れ出す唾液を全体に絡ませながら口を狭くすぼめた。

「なあ。そんなのどこで覚えたんだ?いつ、誰に仕込まれたんだよ」

 そんなこと覚えてない。そう訴えたくとも、の口は今忙しい。発声するために口を離す時間すら惜しかった。

 時間が経過するごとに熾烈を極めていく快感に、無意識に腰を引こうとする身体が弓形になる。メローネはの後頭部に手をあてがって指の腹で地肌を強く掻いた後、彼女の髪の根本を掴んだ。

「――っ、もう十分だ」

 メローネはの頭部を引き離し、乱暴に床に押し倒した。緩く閉じられた脚の間に割って入ると、両の太ももを上に押し上げショーツを剥ぎ取った。これから入れるとの宣告も無しに、唐突に彼自身を突き入れられた。鳥羽口から突き当りまでを一気に貫かれ、は仰け反って悲鳴を上げる。

「あああっ!」

 あの、何とも形容し難い圧迫感。メローネに恋をしてからというもの、久しく感じていなかったそれ。今自分の体は、メローネに征服されている。ずっとずっと欲しかった、彼のペニスが私の――。

 感慨深く達成感に浸る間もには与えられなかった。すぐに元の形に戻る肉壁を何度も何度も穿つそれの動きには、躊躇いも、思いやりもなにも無い。だがの頭の中にそんなことを考える余地など無かった。悦びに満ち溢れ、涙をこぼしながら喘ぐ彼女は、ただ長く待ち侘びたこの時に溺れるしかなかった。

 やってやったぞ、ギアッチョ。お前の大好きなは今、オレのペニスを打ち込まれながらひいひい喘いでるんだッ……!

 メローネはある種の達成感に打ち震えていた。解放される時を今か今かと待ち望む怒張しきったペニスを、体勢を変えながら激しく何度もの中に打ち込んだ。込上がってくる激情にむせかえりそうになりながら、目を閉じて妄想にふける。

 ああ、たまらない。もう……無理だ。我慢できそうにない。どうせならアイツが帰ってくるまで続けたかったんだけどな……無理そうだ。

「――っんんっ!」

 激しく長く続いた律動はの最奥を突いたまま止まり、びくびくと痙攣した動きが柔らかな肉壁を震わせた。勝手に入ってきた彼はまたも唐突に、勝手に出ていった。は内側をズルリと引きずられる感覚に身悶えた後、しばらく虚ろな表情で床を見つめた。

 終わってしまった。もう次は無いんだろうか。

 次は無いかもしれないと、冷静さを少しだけ取り戻したは思ったのだ。メローネには好きだと言われた訳ではないし、キスもされてない。物でもあつかうような荒々しい行為には、思いやりの欠片も感じられなかった。

 今まですぐそばにあったメローネの体温が既に名残惜しくなってしまったは、ぎゅっと胸が締め付けられるような痛みを感じた。唾を飲み込み、胸を手で抑えて目をきつく瞑ると、今度は悲しみの涙が滲み出てきた。まったくもって忙しない感情だ。メローネには、ここのところ感情をゆらさぶられてばかりいる。当の本人は余裕綽々といった風に涼しい顔をしているのが悔しかった。

「ふう……。なあ、。いつまでそこに寝転がっているつもりだ?ほら、ティッシュ使えよ」

 竿を収めてソファーにふんぞり返ったメローネが、床に這いつくばったに向かってティッシュ箱を投げた。それでの心は一気に虚しさで覆い尽くされた。は顔をしかめながら、ティッシュを何枚か手にとって、中心から流れ出ていく白濁を拭い去る。

「なあ。オレのこと、好きって言ったよな?」

 はメローネに冷たい目で見下されているのを知りながら、何も言わずにこくりと頷いた。

「一緒にアパートか、小さな戸建てでも借りないか?」
「……え?」

 何の脈絡も無く吐き出された意外な提案に驚いたは、しげしげとメローネの顔を見つめた。唇は弧を描いていたが、目は笑っていない。彼女には目の前の男が何を考えているのか皆目検討もつかなかった。

「だってここじゃ、オレが好きなときに君のことスキにできないだろ。もちろん、君が他のヤツにオレとセックスしてるとこ見られたいってんなら話は別だが、そんなこと一回でもリゾットの前でやったらたちまち出禁をくらっちまう。そんなんじゃあお互い困るじゃないか。……うーん。言ってたら恥ずかしくなってきたし、リゾットの前では一回でも勘弁だな。クビにされるのも困る」

 まるで先程までしていたことなどすっかりと忘れてしまったように、いつもの飄々とした態度でぺらぺらとまくし立てるメローネ。そんな彼を前に、は呆然としていた。

「私のこと、スキにしたいって……言ったの?」
「ああ。もちろん、君が良ければだけどな。嫌がる女を犯すのは、オレじゃあなくてベイビーの仕事なんだ」

 ずっと彼と一緒にいられる?そしてまた、抱いてもらえる?

 勝手に自分を絶望の淵に追い詰めていた彼女は、また勝手に希望を抱いて瞳を煌めかせた。メローネは、自身の言動でコロコロと表情を変えるを楽しげに観察していた。



01:報われない愛欲に仮宿を



 は1年ほど前にチームに配属された新人だった。気性が荒く攻撃的な女が多い裏社会であまり目にすることのないタイプだ。主張を抑えた身なりで大衆に紛れ馴染み、仕事のために男をたらしこむのも上手かった。アジトではあまり屈託なく笑うことはしなかったが、柔和な印象を与える彼女のたまにしかお目にかかれない笑顔はチーム内でも評判が良い。男たちは隙あらば彼女を笑わせようと懸命だった。与えられた仕事は淡々とこなし、失敗も無い。リゾットからも気に入られていて、勤続年数は短いながらもチームの信頼を勝ち取っていた。

 ギアッチョは気づけば彼女を目で追っていた。表に出る感情の9割を怒りで占める彼にも、は分け隔てなく接した。あまり感情を表に出さない彼女といると、自然と落ち着くことができた。そういう特性を彼女に見出したリゾットは、ギアッチョと彼女を仕事で組ませるようになった。ギアッチョとメローネというコンビに同行させることも多くなった。

 そういう訳では、他のメンバーよりもメローネとギアッチョのふたりと接する機会が多くなった。ギアッチョの愛車が2シーターのオープンカーでなく、もっと実用的なものなら3人まとめて目的地まで移動できたのだが、がふたりと行動を共にするようになったのはギアッチョが念願叶ってあの車を手に入れた後である。

 そしては、ギアッチョの車の助手席にも乗ることはあったが、雨でも降っていなければ基本的にはバイクに乗りたがった。ハンドル操作に足元のペダル操作に体重移動にと、車に比べて酷く扱いづらそうで忙しない操作が必要になるバイクに興味を引かれるとかなんとか言っていた。

 今までギアッチョの車ひとつで移動できていたのに、と思いながらメローネはバイクを出すことになった。ギアッチョはしきりに、助手席に女を乗せて遊び周りたいと口にしていたが、メローネにはその類の欲求は無い。右ハンドルのアクセルを回して発進しても、いつもより少し加速力が落ちたように感じてストレスだった。加速力が落ちるほどの体重が重い訳では無い。完全にメローネの思い込みである。

 そんな彼の気も知らないで、はすこぶる機嫌が良さそうだった。風が気持ちいいとか、景色が綺麗だとか、アジトじゃあまり口を開かない彼女が饒舌になった。そしてメローネは、彼女が饒舌になるのは何もバイクに乗せてもらえるからではないのだと、そのうちに気づくことになった。



 秋口で夜風が冷たく感じられはじめた頃のことだ。夜遅く仕事から帰ったメローネとギアッチョのふたりは、彼ら以外に誰もいない静かなダイニングキッチンで、カウンターテーブルの傍に並べられたスツールに腰掛け酒を飲んでいた。夕食も取らず仕事に専念していた彼らは、グラスを満たす赤を見た瞬間に忘れていた食欲を思い出した。

 メローネは冷蔵庫の中を漁ってハムやチーズを取り出し、薄くスライスして軽くトーストしたバゲットにそれらを乗せてブルスケッタにした。ギアッチョが美味いといいながらそれを頬張る。メローネはギアッチョと過ごすこの何気ないひと時が好きだった。

「なあ、メローネ。お前はいいよな。仕事の度にあいつに抱きしめられてよぉ」

 美味いブルスケッタのおかげで酒が進んでしまったせいか、顔をほんのりと赤くしたギアッチョが項垂れながらボソボソと呟いた。

「どうしたギアッチョ。らしくないな。酔って気でも違ったか?」
「オレは至って正気だぜメローネ。大して酔ってもいねーんだ」

 メローネはこの場にいないはずのに水をさされたような気になって、眉間に皺を寄せた。またあの女の話か?ギアッチョ。口を突いて出そうになった問いかけを呑み込んで、メローネは唇を引き結んだ。別に続きを待っていた訳でもないのだが、ギアッチョは続けた。

「オレ、のこと好きになっちまったみてーなんだよ」

 メローネは赤ワインが入ったグラスを口に運ぶのを止めて目を剥いた。そんな彼の動揺など気にも留めずにギアッチョは更に続ける。それもそのはず、彼の視線は何も無い空を見つめていた。きっとの姿でも思い浮かべているんだろう。メローネは打ちのめされたような顔で何も言わず、ゆっくりと瞬きを繰り返すギアッチョの横顔を見つめた。

「あいつ、誰かと付き合ったりしてんのかな。なあ、お前何か知らねーのかよメローネ」
「知らないな。特に興味もない」
「そうか。なら安心したぜ」

 あの女が、オレに気があるのは知ってるけどな。そう言ってやったら、ギアッチョはどう思うだろう。

 そんな考えが頭をもたげたが、メローネはその時は口にしなかった。彼はギアッチョを怒らせたいわけではない。彼を苦しめたいわけでもない。それは思い遣りに他ならない。

 だが、ギアッチョの内に秘める思いを打ち明けられた時確かに感じた怒りは、時が経つごとに、そしてを目で追うギアッチョの姿を見るたびに、じわじわとメローネの精神を蝕んでいった。そのストレスの捌け口を、彼は次第に求めるようになっていた。




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