メローネ。
あの男にだけは注意しろ。と、はホルマジオにきつく言われていた。何故そんなことを言われるのかは、これまでの彼の言動を覚えていれば考えるまでも無いことだった。
は初めて彼と視線を合わせたときの事を思い出した。忘れもしない。開口一番、挨拶の言葉も何もなしに彼女の健康状態を聞いてきて、なんのためにそんなことを聞くのかと考える間も与えず、今後のためとか抜かしてセックスする時の好きな体位は何だと聞いてきた。
――今後のためってなんだ。今になって初めてそう思った。
あのときは、人間、あまりにもひどいことを言われると、頭の中が真っ白になって、こうも何も喋られなくなるものかと思ったものだ。口がぽかんと開いて閉まらないのだ。開いた口が塞がらないとはまさしくこのことだと実感した。
だが、はぽかんとしていたニ秒の間に動揺を済ませ、頭の中からひとまずメローネという男のことを排除して自己紹介を済ませたのだ。
チーム随一の変態男にびっくりしたのはその時だけで、以降、何を言われても大して驚かなかった。ファースト・インパクトがでかすぎたので、それ以降は彼の吐くどんな言葉も、彼が向けてくるどんな視線も軽いセクハラくらいにしか思えなくなったのだ。感覚が麻痺しているのだろうという自覚はあった。だが、彼がセクハラの後ホルマジオやらプロシュートやらにしばかれているのを見るのは楽しかったし、やがて賑やかでいいと思い出したのだ。つまり、のメローネという男への警戒心は少しずつ減退しているのである。
それは複数人でメローネと一緒にいる時ならばまだ許容されることだろう。だがやはり、いくら仲間と言えども女性であるはメローネと一対一で同じ空間にいるべきではない。
不運にも本日、メローネとリビングに居合わせることになってしまった彼女は、後にそれを思い知ることになった。
「。いい機会だ。君の能力のことについて教えてくれないか」
「は?」
メローネの言う“いい機会”とはつまり、邪魔者がいないことを指していた。に絡みたいと思っても、彼女には超絶面倒な彼女の熱狂的サポーター――男の名はホルマジオ――がいつだって金魚の糞のように付いて回る。だがホルマジオは今、仕事で外に出ている。リーダーは自室にこもっていて、その他のメンバーは各自土曜の夜を楽しんでいる。
は猫になれるらしい、ということをメローネはつい最近知った。なるほど、そういう能力を得るのも妥当と思える性格だ、と彼は斜向かいでソファーの上に体育座りをして小さくなり、じっとテレビの画面を見つめていた彼女の姿を見て思っていた。猫は居馴染んだ場所を好むので、飼い主が頻繁に引っ越しをするとストレスで寿命が縮むとか縮まないとかいう話を耳にしたこともある。土曜の夜に外も出歩かずアジトのソファーに身を預けおとなしく飼い主の帰りを待つ彼女はまさしく猫のようだ。
そんなは今、かなり訝しそうな顔をメローネに向けてさらに身を小さくしている。完全に警戒している。彼女の頭に猫耳がついていれば、いわゆる“イカ耳”になっていることだろう。
「そう神経尖らせるなよ。これは仕事の一環なんだぜ」
「……仕事?」
メローネはの斜向かいから向かいに席を移して彼女と視線を合わせた。は少しでも彼から距離を取ろうとソファーの背もたれにに背中を押し付けた。
「ああ。オレが、リゾットの仕事の相談に乗ってるのは知ってるだろう?」
言われて、は思い返した。確かに彼はよくリゾットとリビングで話をしている。話の内容にまで耳を傾けたことは無いが、雑談をしているわけではないことくらいは分かった。彼女はうん、と答えながら首を縦に振った。
「今度、ちょいとガードの堅いターゲットを殺ることになりそうなんだ。とは言え、相手はスタンド使いでも何でもない。だから、侵入の訓練がてら君に仕事を任せたいとリゾットが言っていたんでね」
この話は現時点では全くのデタラメである。ただメローネは、の能力のことが気になっただけだ。彼を突き動かすのは知的探求心を満たしたいという欲求だ。その欲求で動いた結果知り得た情報を仕事に活かすことはできるだろうが、彼にとってそれは二の次である。
メローネは話にリゾットが一枚噛んでいると分かるなり、彼女が警戒を緩めると思った。は恐らく、ホルマジオの次にリゾットを信頼している。メローネの目にはそう映っていたし、事実そうだった。
「計画を練るのに、君の能力を知っておきたいんだ」
「……なるほどね」
相変わらずソファーに貼り付いたままだったが、はメローネの話に嘘は無さそうだと、案の定ガードを弛めた。そして、基本的な能力について概要を説明した。
猫化動物になら何にでもなれる。部分的にネコ科動物のパーツに変えることも可能。変えたパーツの能力――例えば嗅覚や聴覚など――も変身した猫化動物と同等の物になる。百パーセント体が猫の物に置き代わっても、自身は完全にトランス状態に陥るわけではないので人間として物を考えることはできる。ざっとこんなところである。
メローネはの説明を聞き終わった途端に目を剥いた。彼は確かに興奮していた。
「……その、部分的にってのが具体的にどうなるのか見てみたいんだが」
「今やってみせろってこと?」
「ああ。だって、ちゃんとこの目で見て、確かにスペックも猫そのものだと分からなきゃ計画の練りようがないじゃないか。応用をきかせるにはまず基本を叩き込まないとな」
「分かったよ。じゃあ、何をどうやってテストすんの」
「聴覚のテストをやろうか」
興奮で歪んだ口元はうまい具合に手で隠しているので、は彼の下心に気づかないでいる。
そう。メローネが今頭の中に思い浮かべているのは猫耳である。彼はで萌え萌えしたくなったのだ。猫耳の付いたカチューシャなんて取って付けたようなまがい物でなく、人間の頭部に本物の猫の耳が付くのだ。
そんなカワイイのをリゾットだけに見せていていいはずがない。せめてリゾットの他に自分にだけはお披露目してほしい。ああ、可哀想なホルマジオ。あいつはこんなこと、思いつきすらしないだろう。
メローネは顔を伏せて鼻の下を伸ばしている間に、がスタンドを出す準備を始めた気配を察知した。慌てて顔を上げて彼女に注文をつける。
「あー待て待て。イエネコの耳がいい。ちなみに、耳のサイズなんだが……」
「サイズ……?」
「イエネコの耳なら、イエネコのままのサイズで君の頭部に現れるのか?それとも、人間の骨格のサイズに合わせて変わるのか?」
「あー、そのままのちっちゃいサイズか、大きくなるかって話か。……大きくなるよ」
メローネは歓声を上げそうになるのを必死にこらえ、代わりにテーブルに頭を打ち付けた。は突然のことにぎょっとして体を硬直させた。彼女が猫に変身していたら、毛を逆立たせて背中を丸めていたことだろう。
「耳は音集めるのに大きいに越したことはないからね。まあ、大きすぎても邪魔だけど……」
「人間の耳はどうなるんだ。四つになるのか?今のその耳が消えて、猫のに変わるのか?位置は?」
一体なんのためにそんなことを聞くのか。の顔はさらに訝しげに歪む。
「自分の今の耳は消えるよ。聴力を拡張するわけじゃないから。位置は……よくわかんない。鏡で見たりなんかしないし。でも、今の位置には無い気がする。ああ、もう面倒くさくなってきた。やりゃいいんでしょやりゃ」
はそう言って、いつもホルマジオと戯れる時の白猫をイメージした。そしてメローネの前にその猫が現れる。猫はソファーの背もたれの上に飛び乗ると、彼女の項のあたりに溶け込むように消えていく。やがて、の頭部に猫の耳が生え始めた。白猫の耳だ。の、人間の耳が生えていたところよりも拳一個分上のあたりに位置するそれ。
「かっ……かわ……」
メローネは、カワイイと言い出しそうになってすぐに口を噤んだ。
カワイイではないのだ。いや、カワイイに違いは無いのだが、カワイイを通り越して、腹の底からふつふつと湧いてくるこの感情はなんだろう。……そうか、これが……この感情が俗に言う……!!
「萌えーーーッ!!」
「ひッ!!」
メローネが顔を真っ赤にして鼻息を荒くして顔を近付けてくる。は咄嗟に背もたれに手を掛け彼に半分背を向けて逃げの体勢を取った。
「しっぽも欲しい!」
「はぁ!?な、なんのために」
「仕事だ!」
「えー」
リゾットが、こんなこと確かめろなんて言うだろうか?はうーんと唸った。唸って考えている間に、メローネの魔の手が忍び寄る。気づいてすぐに逃げようとした。だが、彼は行く手を阻むように、背もたれに両手をつき覆いかぶさった。
「仕事なんだ。逃げたら許さない」
その、瞳孔が開ききったメローネの表情には狂気すら感じた。は耳を伏せ、その場で小さく縮こまる。
「いい。いいぞ、その猫そのものな感じが、ディ・モールト!いや、ベリッシモ!!最高にいい!!」
「ひいいいい!!」
「さあ、早く、しっぽを出さないか。しっぽ出したら帰っていい。出さないうちは逃さないぞ」
「で、でも、しっぽなんか出したこと」
「出したこと無いなら、余計出してみるべきだ。これはな、。君の能力の基本を知るためというのは元より、それをどう応用させて任務に役立てるかって考えるためなんだぜ。言っただろう。応用をきかせるにはまず基本を叩き込まないと、と!」
何かもっともらしく聞こえてしまうのは何故だろう。これがチームのためになるのならと、献身的な気分になってしまう。何より、早くこの変態の前から逃げたい。だが問題は服だった。服も下着も身に着けているのに、どうやってしっぽを見せろと言うのか。
「分かった、分かったやるよ。やるけどさ、しっぽ、出したって見えないよ」
それに、耳と同様、相対的な大きさで出現するであろう尻尾は、おそらく相当な長さになるので下着と服を突き破らないまでも、きっと付け根のあたりが痛くなってしまうだろう。
「脱げよ。脱げばいいだろ」
そう。脱げば恐らく問題は解決する。だが、他の男の前で裸になるなとホルマジオに言われているのだ。トップスは身に着けていていいのだろうから、厳密に言えば裸とは言わないのかもしれないが、ホルマジオの言いつけの真意は恐らく、他の男の前で衣服を脱いで肉欲を煽るな。という意味だ。だから脱ぐわけにはいかないのだ。
「あんたのセクハラには徹底的に抵抗しろとホルマジオに言われてる」
「セクハラじゃない。仕事だ」
「いや仕事中のセクハラだよ!」
は半分丸め込まれてしまっているが、そもそも仕事ですらない。今となっては、メローネの夢を叶えるために奉仕させられているに過ぎないのだ。
「じゃあ脱がなくてもいいから、トイレで下着脱いでパンツだけになって、パンツに尻尾用の穴あけろ」
「やだよ!そんなに洋服持ってないんだよ!もったいない!穴あけたら普段そこから下着が丸見えじゃんか!」
「知るか!」
「無責任にも程がある!」
の抵抗に、メローネはひとつ深い溜息をついた。かくなる上はと、何かとっておきを繰り出さんとする鋭い目がを捕らえた。
「……冷蔵庫の中に、。チーズケーキがあるぞ」
「……ッ、そ、そんなので私のこと釣ろうとしたって」
「ホルマジオがいつもどこの店のチーズケーキをお前に買い与えているか知らないが、今、冷蔵庫の中にあるのはそんじょそこらのチーズケーキじゃあない。フランスの権威あるチーズケーキ同好会が主催する品評会、クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ガトー・フロマージュにおいて五年連続で最優秀賞を受賞した――」
突然、冷蔵庫の中にあるらしいチーズケーキがどれだけすごいのか。どれだけ美味しいのかという説明が始まった。ところどころぼわぼわっとフランス語っぽいワードを混ぜ込んで喋るメローネ。こいつ、フランス語分かるのか。とか、なんでこんなにフランスのチーズケーキ事情に詳しいんだこいつは。と、は思った。
ちなみに、あるかどうかは別の話として、フランスの権威あるチーズケーキ同好会のくだりは完全にメローネの創作だ。
「――という店が期間限定でローマで出品してるのを、三時間も並んでやっと手に入れたんだ。それを、お前に食べさせてやると言っているんだぜ。このチャンスを逃せば、お前はきっともう二度とあのチーズケーキを食べられないだろうな」
三時間並んだというのも嘘。だが、の頭の中はすでに見てもいないチーズケーキのことで一杯だった。はチーズを愛しているのである。
「……分かった。なら、仕方ない」
ごめんなさいホルマジオ。脱ぐわけじゃないから、許してね。全部、チーズケーキの為なの。
そう心の中で念じて、は尻尾を生やし始めた。尾骨より少し上のあたりの表皮が引っ張られるような感覚がした。その部分を曝け出すために、身に着けていたスウェットパンツとショーツを少し下にずらした。みるみるうちに、白く豊かな被毛を纏ったふさふさとした太い尻尾が出現した。天井に向ってピンと伸ばせば、の頭を超すくらいの長さだ。左へ右へとふさふさ揺れるそれは、もうそれだけで可愛さの塊だというのに、人間の女――しかもはホルマジオの前ではそれこそ猫を被ったように乙女らしく振舞うが、それ以外の前ではガサツだ。そうは言っても、見た目だけの話をすれば彼女は美人に違いない――の尻についているのだから輪をかけてカワイイ。想像通りの姿だ。メローネとしては興奮せずにいられなかった。
「さ……最高だ。最高だ……ッ!たまらない、たまらなく萌える」
「あのさ。尻尾なんか部分的に生やしたって、人間の体じゃ機能なんか果たさないからまず仕事で使わないんだけど」
「触らせてくれないか」
「ねえ。人の話聞いてる?」
「チーズケーキ食いたいだろ?」
「……尻尾の部分、触るだけだからね。そこ以外、ダメなんだからね」
メローネはに近寄り、ふさふさと揺れる尻尾の先端にそっと触れた。
「ふっさふさだな。毛の一本一本が滑らか且つしなやかだ」
右へ左へと揺れるそれに鼻をくすぐられる。メローネは中間と先端を掴んで固定すると、鼻を被毛の中へ埋めて深く息を吸い込んだ。所謂猫吸いである。
もしも今ホルマジオが帰ってきて、メローネがにこんなことをさせている所を見たら、彼はきっとタダでは済まないだろう。この間ペッシがやられていた仕置きなんて目でもないくらいの制裁が加えられるに違いない。
「ね、ねえもう、いい加減やめてくれない?……な、なんかソワソワする……」
尻尾を人間の体に生やしたのは初めてだ。の神経と筋肉から派生して現れたそれは、尻尾そのものの大きさ故にそれらも太く発達していた。メローネの手の感触が如実に伝わってくる。自分の物じゃないから、チーズケーキのためなら仕方ない、なんてことを思っていただったが、それは彼女の体を作る組織で形成された紛れも無い彼女の一部だった。
「いいだろ。こんなカワイイの、リゾットにだけ独り占めにさせるつもりか?」
「リゾット……??だから、仕事でこんな格好まずしないって、ばあッ!?」
メローネの手が、いつの間にか付け根のあたりにまで迫っていた。は目を剥いて背中をピンと張った。尻尾の毛はぼっと逆立っている。
「な、なんか……変なッ……んッ」
メローネは己の知的探求心に乗っ取られた手を止めることはしなかった。人間と猫の境を探って、付け根のあたりを執拗に撫でる。
「ん?……、どうした?」
「変、なの……ッ、こんなの……初めてでっ」
メローネに尻を向けたは後ろを振り返った。耳をしゅんと伏せ、顔を真っ赤にして涙目でいる彼女。その顔を見て、メローネは我に返った。
「。……い、いや、ここじゃ流石に……」
「や、やだ……体が、勝手に」
は背中をさらに反らせて、尻尾はぴんと上に張って尻を上に持ち上げた。
これは……!メス猫が発情期に見せるような行動じゃないかッ!
「もっとしてって言ってるのか……?」
「そんなこと思ってない!言ってるでしょ……、体が勝手に、こうなっちゃうのッ」
――もう、いいか。と、メローネは思った。
とホルマジオができてるのは知っている。だが、をこうしてしまったのは自分だ。責任を取らなければ。責任を取るってなんか意味深だが、要はそういうことだ。
メローネがホルマジオへの裏切りを決意し、身を乗り出したその時、の前に救世主が現れた。
「メローネ。お前、何やってる」
いつの間にか、近くにリゾットが立っていた。メローネはあっけらかんと言い放つ。
「ああ、リゾットか。が発情期っぽいから、おさめてやろうと」
「。今すぐ能力を解除しろ」
「は、はい……」
の耳は再度しゅんと垂れて、それを最後に消えていった。
「知らなかったわけじゃあるまい。猫の尻尾の付け根を撫でればそうなることくらい」
「あ、ああまあ。でも、人間の体についている猫のしっぽだぜ。までそうなるなんて思わないだろ。それに、あまりにも特異な能力で、好奇心が悪さしてさ」
全く反省している素振りを見せないメローネを指差し、リゾットはに向き直った。
「。こいつはこういう男なんだ。気をつけろと皆に言われているはずだ。そもそも、何故お前もこいつの言いなりになってる」
「……え?私に仕事があるって。リゾットに、計画を練るように言われて……それで私の能力について教えろって」
メローネはごくりと唾を飲んだ。リゾットは逃げようと立ち上がったメローネの背後に即座に回り込み、羽交い締めにする。
「嘘はよくないな。メローネ」
「嘘?メローネ。あんた……嘘ついてたの?まさか……!!」
は急いで冷蔵庫へと向かった。扉を開け冷蔵庫の中を見た。だが、無い。もしかすると、冷凍なのかもしれない。そんな希望を胸に冷凍庫も見てみた。だが、何かのコンテストで何年連続かで賞を取ったらしいおフランスの名店が作ったほっぺが落ちるほどにうまい、買うのに三時間も並ばなければ手に入らないチーズケーキらしきものは見当たらない。
「全部……全部嘘だったの……」
は収めたスタンドを再度呼び出し、今度は利き腕をライオンに変えた。百獣の王と呼ばれるライオンだが、彼らがそう呼ばれる所以はメスの強さにある。人間の王様と同じようなもので、オスは自分では狩りをしない。メスが狩ってきた獲物を食べさせてもらって生きているのである。百獣の王を支えるメスライオンの猫パンチの前には、メローネの華奢な体などパスタフリット――スパゲッティをからっと揚げたやつだ――も同然である。
「お、おい!やめろ!やめてくれ!悪気は無かったんだ!」
「悪気が無くとも下心があったのは紛れも無さそうだな」
「リゾット!離してくれ!頼む!!あ、あああッ!!」
はメローネの顔を殴った。さすがに爪は収めたままだったが、殴った拍子に剥き出た爪の先端が、彼の頬に傷を残した。
猫にひっ掻かれた様な傷。咎人であることを示す傷だ。
殴られたと同時にリゾットの拘束から解放されたメローネは、衝撃で目を回し床に倒れ伏した。
「。今回のことは嘘を吐いていたメローネが完全に悪いが、今後は仕事以外で無暗に能力を使わないようにしろ」
「わかった。……ごめんなさい」
に背を向け、夕食を作ろうとキッチンへ向かう間にリゾットは思った。
今の彼女の頭に猫耳がついていたら、さすがのオレでも頬も気も緩んだかもしれない。
リゾットも実は猫好きだったりしたのだった。