は火照った顔を両手で挟んで指と指の間から鏡の中にいる自分の姿を見つめていた。
ホルマジオに服を買ってもらい、それを着てミラノの街中を歩きまわり早めの夕食を済ませ、彼女は今ホテルのバスルームにいる。帰りがけに寄ったランジェリーショップで買ってもらった――と言うか、ホルマジオが勝手にレジに持っていった――エロティックな下着をシャワー浴びたてのほくほくとした身体に纏い、その生地の赤に負けないくらいに顔を赤くしている。熱いシャワーを浴びたから?いや、違う。恥ずかしいからだ。
胸の一部――乳首がぎりぎり隠れる位置から下にブラジャーのカップみたいな形をしている――にしか下地がなく、他は全部肌が透けて見えるレースで作られた狂ったデザイン――所謂ベビードールだが、はその存在すら今日まで知らなかった――のワンピース。なんのために身に着けているのか全くもって理解できない。いい加減にして欲しいのは、そもそもパンティがギリギリ隠れるか否かと言った丈――肌が透けて見えているので隠れるも何も無いのだが――のくせに、大胆にスリットが入ったデザインなのだ。おかげで椅子に腰掛けようものなら太ももは付け根から丸出しになってしまう。パンティも良くない。見事に後ろでTの形を成しているレース調のそれもまた、恥骨を覆う部分にしか下地が無い。尻も見事に丸出しだ。おかげで脂肪に包まれた尻だけがすでに冷えていた。
は思った。無意味だ……。下着としての役目を果たしていない。しかし、ランジェリーとはそういう物である。実用性よりもデザイン性や嗜好性に特化していて、男性の官能に訴えかけることこそに重きを置いている。普通の下着が持ち合わせている汗などの分泌物を吸うとか、そんな機能は無いに等しい。それに、彼女がセクシーなランジェリーを身に纏い、そんな自分の新たな姿を見て赤面しているということはつまり、無意味では無いということだ。その姿はもちろんのこと、恥じらう彼女の姿も含めてホルマジオの肉欲を煽るにはおあつらえ向きということなのだ。しかもホルマジオ自身がにぴったりだと踏んでレジに持ち込んでいる訳なので、何も恐れる必要は無い。
せっかく買ってもらった物を身につけないのも申し訳無い。ホルマジオをがっかりさせたくない。そう思って身につけたランジェリーだ。とは言ったもののやはり恥ずかしかったので、客室に備付けられたバスローブを重ねて纏い、意を決して一歩を踏み出した。
そして、これから起こるであろうことを想像する。歩き出してすぐにはまた足を止めた。
奉仕なら慣れている。今まで生き延びるために散々やってきた。男がかなりの遅漏でなければすぐに終わる。幸いレジェンド級の遅漏にあたったこともない。少しもいい思い出がないのが、下の方を使われるときだった。
まるで道具のように使われた後、腹上に子種を撒かれる。大抵五分から十分程度で終わったが、男の性欲処理が目的なだけに前戯も何も無し。大して濡れてもいないヴァギナに唾液を纏わせただけのペニスを突き立てられて、内側を引きずり出されるかのような痛みに耐える。すぐに終わると知っていたから耐えられた、嫌な時間だった。生きるために仕方のないこと。そう割り切っていた。
はセックスを知らなかった。愛を交わすわけでも、子孫を残すわけでもなく、ただ体を使われるだけの、形だけの行為しか知らないのだ。
口での奉仕をして、ホルマジオが気持ち良さそうにうめき声をあげてくれるのは嬉しかった。存在意義はあると自己肯定できたような気がして幸福だった。だから奉仕ならいくらでもできる。だが、いざ彼の前に裸も同然の――にとっては裸よりもたちが悪い――格好で出ていくとなると足がすくんだ。痛くないだろうか。痛がる顔を見たら興ざめするんじゃないか。上手くやれるだろうか。幻滅されないだろうか。そんな不安は尽きそうに無かった。
だが、こんな下着を自分に着せたがっていたから、ホルマジオが自分の体を“使いたがっている”ことに違いは無いはずだ。はまた足を踏み出して、おずおずとバスルームを後にした。
狭いホテルの一室は、バスルームに入る前とは打って変わって電球色の照明に照らされていた。眠気を誘うようなメロウな雰囲気だ。狭い部屋に、さっき体にまぶしたシャンプーとボディソープの香りや漏れ出た蒸気がたちこめて、ますます頭はぼんやりとするようだった。
そんな部屋の窓際に置かれた小さなテーブルセットの簡素な椅子に腰掛けて、ホルマジオは酒を呷っていた。彼の向かいに置いてあるテレビの画面に映るのはサッカーの試合中継だ。頬杖をつきながらも集中してボールを目で追っている。幸いこちらに視線は注がれていない。心のなかでほっと胸を撫で下ろし、が彼に歩み寄ろうとした瞬間、ちらとホルマジオが彼女の方を見た。微笑みを浮かべ、酒瓶を差し出しておまえも飲むか?と誘う。はこくりと頷いて、ホルマジオの向かいに座った。
そして、しばらくサッカーの試合を観戦した。ホルマジオの応援しているチームが点を入れればスタンディングオベーション。逆だとおい勘弁しろよ!と、掌を上に向けて手おまえに突き出し悪態をつく。それを交互に繰り返すホルマジオを見てはクスクスと笑う。ことの他穏やかに時間は過ぎていった。
こうしての身も心もほぐれた頃、サッカーの試合もタイミング良く終わった。ホルマジオはテレビの電源を落としてリモコンを手から放ると、伸びをしながら立ちあがった。そして少しだけ頬を赤くして、残り少なくなった液体を飲み干さんとスミノフのボトルを傾けるを見る。
いつもどこか緊張しているように見える彼女が、今はガードを緩めて酒に酔っている。初めて見る光景だ。むらむらと、腹の底から欲望が沸き起こる。そうしてホルマジオは、やっと当初の目的を思い出した。
ベッドの枕元にあるランプだけに明かりを灯して、天井の照明は落とした。驚いてはっと息を飲んだを、ホルマジオが落ち着いた足取りで迎えに行く。彼女の手を取ってゆっくりと立ち上がらせると、そのまま三メートルほど後ろ歩きをした後、身を翻してベッドへと誘った。
「さあ仔猫ちゃん。おまえの姿、ちゃんとオレに見せてくれよ」
太もももの裏側にベッドのマットレスが当たっている。これから、このベッドの上でホルマジオに求められるのだ。バスルームを出る時に抱いていた不安は酒がほとんど忘れさせてくれていた。けれど、身につけたランジェリーの心地悪さまでは忘れさせてくれなかったようだ。は羞恥心に呑まれそうになるのを必死に堪えながら躊躇いがちにローブのベルトを解いて、肩から襟を滑らせる。胸元が露わになりそうなところで一度止めて、上目遣いにホルマジオを見やった。
――燃えるような瞳がを見下ろしていた。今すぐにおまえが欲しい。声に出されずとも分かる。ホルマジオの瞳がそう言っていたのだ。
ホルマジオの手は肩を撫で、腕の関節のところで止まっていたローブの下に潜り込んだ。自然との胸を覆っていた両腕のガードが解けてローブは床の上に落ちる。心許なさに突き動かされたは、再び腕を胸の前で交差させようとしたが、それをホルマジオの手が掴んで阻止した。
「。たまんねー。……めちゃくちゃセクシーだ」
「やっぱり、裸でいるより恥ずかしいな」
ホルマジオは含み笑いをした。いつもラフな格好でいるが、こんなにもエロティックなランジェリーを身に着けて頬を染めている。そのギャップがたまらなかった。さらに、ホルマジオのサディスティックな一面が顔をのぞかせていた。おかげで彼の中心はすでに屹立している。すぐにでも彼女を押し倒して熱い肉の海に埋もれてしまいたいという衝動に駆られたが、彼はそれを理性で抑えつけた。
今夜はオレだけでなく、のことも最高に気持ちよくしてやらなければならない。
そんな使命感が、ホルマジオの中で働いている理性の正体だった。
「確かに、真っ裸でいるよりやらしいよな」
「わ、私が買ったんじゃないもん」
「……それを大人しく身に着けてるってことはよぉ、。おまえは、オレを喜ばせようとしてくれてるってことなんだよな?」
次の瞬間、ホルマジオはの腰を引き寄せて唇を重ねた。舌で彼女の唇を濡らし、その柔らかな感触を堪能した。緊張が解けてきた頃、唇の薄い隙間から舌を割り入れて、の舌に絡ませる。そうすると、彼女の舌もゆっくりと従順に、そして柔軟に動き始めた。
「おまえが最高にセクシーな格好でいるから、オレのモノがもうパンパンに膨れ上がってる。……効果は抜群だぜ」
キスの合間に、ホルマジオは猛烈な勢いで込み上がってくる欲望を必死に押し殺すように囁いた。はさらに顔をカッと赤くしたあと、ゆっくりと視線を下ろす。ホルマジオが言ったとおり、彼の股間は何日か前の夜に見たのと同じ状態になっていた。彼女はホルマジオのパンツのベルトに手をかけジッパーを下ろそうとした。だが、ホルマジオはすぐに腰をうしろに引いて彼女の手から逃れる。
「ああ、ダメダメ。今日はそれはナシ」
「――え?」
ホルマジオはもう一度の肩に手を乗せて、彼女を優しくベッドへ押し倒した。困惑と興奮の間に、彼の唇は顎から首を這って行った。舌先が鎖骨の間を縫って、薄い布地の上から乳房を濡らす。くすぐったいような、気持ちがいいようなその甘美な刺激に、乳房の中心はそそり立って布地を押し上げた。片方は舌で、もう片方は指の腹で撫でられて乳首はさらに主張する。
「ん、あっ……」
「気持ちいいか?」
そう訊かれたが返す言葉に困っていると、ホルマジオは加虐的な目を見せた。ばっくりと開いたランジェリーの襟から乳房を取り出し、今度は直にしゃぶりついてやる。舌先で乳首をつついて、たまに吸い上げて、唾液をまぶすように舌の上面をこすりつけた。もう片方を手指でいじるのも忘れない。
「やっ、だ……だめっ、あっ……ああんッ」
は、ほとんど初めてとも言える快感に身悶えた。あまり大きな声を出さないようにと、無意識のうちに働いていた理性は熱に浮かされて霧散していく。
「言わなくても分かるぜ。気持ちいいって。……すげーかわいい顔してる」
「は、恥ずかしいよっ……。ん、み、見ないでっ」
「それは無理な相談だな」
乳房を覆っていたホルマジオの手はゆっくりと腹の上を滑っていった。ワンピースのスリットから中へ潜り込んで、指先がパンティの際からさらに中へと進んでいく。
これもまた、ほとんど感じたことのなかった感覚だ。体はホルマジオに与えられる快感にうち震えて鼓動も脈拍も速くなって燃え上がりそうなのに、頭の中はふわふわと夢見心地。そのうちに下の方から何かがじわりとしみ出していたらしい。パンティをずらされた時、布がぬるりと動いた感覚で初めて気が付いた。
「だ、だめっ、汚いよっ!」
「んなわけあるか」
けれど、ホルマジオはの言葉だけの抵抗など聞き入れない。二本の指はゆっくり奥へ向かって進んでいく。指の付け根まで埋めると、今度は内側を軽く押し付けながら出口へと向かう。どこからともなくとめどなく湧き出る愛液が、指を抜くのと一緒に溢れ、身に纏ったままのパンティとベッドシーツを濡らした。出たり入ったりと繰り返される動きに、の吐く息は増々荒くなっていった。
「嬉しいぜ。オレを受け入れる準備は万端って感じだ。……だが、おまえにはもっと、気持ち良くなってもらわねーとな」
ホルマジオはの脚の間に移動した。そして彼の口元は、彼女の恥丘の向こう側に沈んでいく。
「――ッ!?や、だ、だめ、それはっ……あ、っああっ」
ホルマジオは濡れてグズグズになった鳥羽口を下から舐め上げた後、クリトリスを中心に円を描くように舌先を動かした。はたまらず上体を起こしたが、そうやって体に力を入れると快感が鋭利になった。腰が砕ける。そして背が弓形になって、頭のてっぺんはマットレスに埋もれた。
舌先はの中心で何度も何度も円を描く。頂きをかすめる度に、は悲鳴にも似たあえぎ声をあげた。その声が、彼女の吐く浅い息が、ホルマジオの屹立したペニスをさらに怒張させていく。痛いくらいだ。こんなになるのは初めてだ。と、ホルマジオもまた息を荒げていた。
「あっ、あっ、あっ、だ、だめっ……こんなの、は、初めてッ……わ、私、こんなにッ、気持ちいいのッ、し、らなぃ……!」
「ッ、。それは、本当か?」
汗でじっとりと濡れた体をホルマジオが這い上がってくるのが見えた。やがて彼の顔はの正面にきて、答えを求める瞳が彼女の涙に濡れた瞳をとらえる。
「本当。私の身体になんて、誰も優しく触れてくれなかった。ホルマジオ。あなたが、初めてなの」
「ああっ……!」
ホルマジオはたまらずを抱きしめた。こんな気持ちになるのは、彼女に会ってからもう何度目かも分からない。初めて同士なのだ。こんなに愛しいと思えるパートナーに出会えたのが、初めてだということなのだ。そうと分かって愛しさが腹の底からこみ上げ溢れ出て、結果取り乱してしまう。を抱きしめて少し落ち着きを取り戻したホルマジオは、の頬に手を添えて、親指で彼女の涙を拭いながら目を見て囁いた。
「おまえを大事にしなかったヤツらのことなんか、オレが忘れさせてやる」
「――ッあ、ああっ」
入口に触れたそれはとても熱かった。先端が小さな入口を穿ってゆっくり、ゆっくりと奥へ進んでいく。痛みを覚えるはずのそれは少しも痛くなくて、最も深いところにまで収まった頃には、途方も無い幸福感で満たされていた。
「痛いか?」
「ううん。夢みたい、全然、痛くない」
「夢なんかじゃあねーっ。。オレがおまえを愛してるから、痛くねーんだっ」
今度はゆっくりと外へ出ていく。するともっと欲しくなった。前まで痛くて早く終わってしまえとしか思えなかったのに、今は違う。ホルマジオに、自分の中から出ていって欲しくない。突き破って、中を撫でて、奥に触れて出ていって、それの繰り返し。快感が蓄積されていく。弾けてしまいそうだ。けれど、それでももっとほしい。
「もっと……もっと欲しいよ、ホルマジオっ……!もっと、もっとして?もっといっぱい、っ、あっ……ああっ」
「そんな、かわいい声で……っ、ねだられたらっ……我慢、できなくなる、だろ!」
「じゃあ、どうすればいい?」
「おまえが声を出さなきゃ……どうにかなる、かもなっ……ああでもダメだ、もっとおまえの声が聞きたい……もっと、もっと聞かせてくれ……!」
下半分でしっかりとに快感を与え、自らもそれを得ながら、ホルマジオは前のめりになってを見つめていた。悩ましげに眉根を寄せ、息を荒げるの姿はこの上なく扇情的だ。律動に合わせて漏れ出る嬌声もまた然り。
まだまだこうしていたい。そんな気持ちはナポリに帰ったって、いやこの先ずっと続くだろう。きっと終わってしまったら、今、この時のことを思い出すことになるのだろう。
ああ、ずっとこうしていたい。けれど、絶頂はもうすぐそこまで迫っていた。行きたいような、その場に留まりたいようなもどかしさ。けれど腰を動かすのは止められない。
「ホル、マジオ、だめ、なんか……!へん、なの……何か、きてるッ、すぐ、そこまで……!」
脚が付根からつま先までピンと張る。痙攣したように、ピクピクと筋肉が震える。下腹から何かこみ上げてきて、嬉しくて泣いてしまいそうな感じがした。これも初めてだ。すごく幸せだった。満たされて満たされて満たされて――の中で、何かが弾けた。
の内側はぴくぴくと不規則にホルマジオを締め付けた。彼女が達したのを身体で感じ取ると、彼もいよいよ我慢が効かなくなる。
「ああっイヤだ、終わり、たくねぇ!けど、もう…………限界だッ!!」
の中で、ホルマジオもまた達した。体から力が抜けていく。彼女の中から出ていったホルマジオは、息を荒げて呆然とするの隣に身を投げた。
――終わってしまった。次は、いつできる?
ふたりはしばらくの間、横並びに天井をみつめながら呼吸を整えていた。落ち着いたところでホルマジオは股間に手を伸ばし、自分が出したものの処理を始める。
所謂賢者タイムに冷静になったホルマジオが思い浮かべた自身の喫緊の課題は、ドラッグストアへコンドームを買いに走ることだった。今までは大抵、女の方がコンドームを持っていたから自分で買ったことは無かった。今回使ったのはいつ買ったか――誰かからか渡された?――も忘れた一個だ。アジトにストックはない。プロシュートにでも言えば分けてもらえるだろうか。ちなみに、プロシュートがコンドームを常にストックしているかどうかは知らない。
「……?大丈夫か?」
賢者タイム――途方も無い虚脱感に襲われて、たとえ今の今まで愛を交わしていた最愛のパートナーと言えども、触れられたくなくなる虚無の時間。これまでは、ベタベタと甘えられるのが嫌でひとりシャワーを浴びに行っていた。しかし、の元からは離れがたく、逆に少しも甘えてこないのが寂しく思えた。相手が違うとこうも変わるもんかと、思った本人が驚いていた。
「ん、だい、じょうぶ」
「疲れたか?」
「うん。……ちょっとだけ」
そう言って困ったような笑顔をこちらに向けるが、また途方も無く愛しい。なんて愛らしく笑うんだ。
「でも、すっごくよかった。……次は、いつできる?」
「ん?」
「また……したいな」
また顔を真っ赤にして、はホルマジオの目を見ながらそう言ってのけた。
「あああああああ!!もう!!可愛すぎか!?おまえにしたいって言われたら断れねーじゃねーか!!でもなぁ。コンドーム、もうねーから買わなきゃいけねーんだよ」
「なんで、コンドームがいるの?外で出せば大丈夫なんじゃないの?……私、今までそうされて妊娠したことないよ」
「ああもうダメだダメだ!自制心が効かなくなるから、そういう事言うな!。そりゃたまたまだぜ。たまたま運が良かっただけだ。……おまえはもっと、自分の身体を大切にしねーとな」
ホルマジオは、が仕事をこなしている最中にリゾットとした話を思い出した。そして身体を起こし、再びに覆いかぶさる。
「。おまえは美しい」
は唐突かつ実直な賛美に驚いて目を見開いた。
「男ってのは、その美しさに目がくらんじまうんだ。目がくらんで無鉄砲なことして、過ちを犯しちまうもんなんだ」
ホルマジオは優しくの頬を撫でながら続けた。
「だから、おまえだけでも、ちゃんと自分のこと大切にしろ。……もちろん、オレが生きてる間はオレがすべてからおまえを守ってやる。だが、オレはいつ死ぬか分からねー。死んでしまった後のことを心配してるんだ。おまえがおまえ自身を守れるようになってなきゃいけねーんだ」
は瞳を潤ませた。
「なんでそんなこと言うの?ホルマジオは絶対に死んだりしない!私が……私が守るよ。ホルマジオのこと、ひとりにしないよ」
「いや、絶対なんてことはあり得ない。おまえがひとりにしないって言ってくれるのは嬉しい。オレだって、おまえのことを永遠に守ったやりたい。だが、人の命を奪って、人の恨みを買って生きてるオレたちには常に危険がつきまとう。ひとより数十倍は死にやすいんだぜ。だから絶対、なんてことは言えないんだ。そのことを自覚してなきゃいけねー」
「……なら、私も一緒だよ。私だって、いつ死ぬか分からない」
「ああ、そうだ。だから、その短いかもしれない人生の中で、おまえにこれ以上辛い思いをしてほしくないんだ。おまえにはずっと笑っていてほしい。おまえが笑っていると、オレはこの上なく幸せでいられる。――愛してるんだ。」
今度はがたまらなくなって、咄嗟に上体を起こしホルマジオを抱きしめた。
「私も、ホルマジオが笑ってる顔が好き。私、今最高に幸せだよ。私も、あなたのこと愛してる。……だから私、あなたの言うことなら何だって聞く」
「ああ、。嬉しいぜ」
ホルマジオはに軽くキスをして、再度ぎゅっと抱きしめた。そして唐突に始まるお説教タイム。
「なら、まずひとつめだ。他の男に、容易に裸を見せるな」
「うーん。……それは一応配慮してるんだけどな」
「いいや!ダメだ!今日オレはちゃんと見てたんだからな!公共の場所で何食わぬ顔してストリップショーおっ始めやがって!あれじゃあゴミ箱の向こうから丸見えだろうが!袋小路ってわけでもねーのに……。まったく。この前経費で買ったスポブラとパンツをちゃんと着用したまま変身しろ」
「……はい」
「そしてふたつめ。オレが見境なくしてコンドーム無しでヤりはじめようとしたら、躊躇なくしばけ!」
「うん。分かった。でも、元気になっちゃってたら可愛そうだから、お口でしてあげるね」
「うむ。頼んだ!!」
こんな調子で、ふたりは眠くなるまでピロートークを続けた。途中ふたりでシャワーを浴びに行って、シャワーを浴びながら少しじゃれ合って、ベッドに戻ってからもいちゃついた。そうこうしているあいだに眠くなるかと思いきや、第二ラウンドに突入できてしまいそうなコンディションを取り戻しつつあったホルマジオは、眠たそうに目をこすりながら、脚に脚を絡ませてくるを見て思った。
――そうだ、家借りよ。
(fine)