訳も無く夜の街を徘徊していた私が目にしたのは、ずば抜けて身長の高いスーツのお兄さん。人が多いこの時間帯に、その人を中心とした1メートル半径内にだけは、人が立ち入らなかった。きっと怖がられているのだろう。もうそろそろオークションが始まる時期だから、街をうろつくマフィアも多いだろうし。黒のスーツなんて着て、しかめっ面してたら、そりゃ怖がられるでしょうに。
「ねえ」
私は彼の1メートル半径内に立ち入って話しかける。身長差は約90センチ。ああ?とぶっきらぼうに私の方を向く彼。あら、意外とキレイな顔してる。
「身長高いのね」
「それがどうした」
「いえ、人ごみの中であなただけすごく目立ってたから、話かけてみようかなって思って」
「・・・物好きだな」
「よく言われるわ」
そう言ってニコって笑ってやると、彼はすこし頬を赤くして眉を顰める。
「今暇?よかったら、夕食でも一緒にどう?」
「悪くないな。でも、オレは金もってないぞ」
「いいのよ。私が誘ったんだし、私に奢らせて。にしても、あなたよく食べそうね」
「遠慮はしねーからな」
周りの人はきっとこの男に畏怖の念以外持ってないはず。でも私は違った。コワイなんて少しも思わなかった。普通にカッコイイし。一言で言えば超タイプってやつ。だから夕食に誘ったの。まあ、ついさっき失恋したばっか・・・って言うか、さっき男をふってきたばっかなんだけど。スーツが似合う男の人って素敵よねー。あと、高身長ってすごく大事。お金はいらないの。自分でなんとか出来るから。私が男に求めるのは、それなりの顔面と身長。あとは直感でいい男かダメな男かがだいたい分かる。
この人は、その全てをクリアしてる気がする。この人ごみの中で彼に出会えたのって、運命よね。とか思ったり。世間ではこう言うのを逆ナンってゆーらしい。
お持ち帰りされるある大男の話
一ヶ月後に迫ったヨークシンシティーのオークション。そこで俺たち幻影旅団はひと仕事するわけだが、その下見もかねて(というかほぼ遊び感覚で)オレとノブナガは街に繰り出した。それで、オークション会場になるであろうホテルへ向かう途中で、ノブナガは俺からはぐれた。気づいたらオレは一人だった。この場合、どっちの所為かと言えばもちろんノブナガの所為な訳だが、大人なオレは特に憤慨することもなく、あまり動かない方がいいだろうと踏んで、街角のバーの前に立っていた。オレみたいに背の高いやつはなかなかいないからな。バカなノブナガでもすぐにオレを見つけることができるだろう。
「ねえ」
と、しかめっ面で突っ立っていたオレに向かって、ひとりの女が話かけてきた。なんだこの女。物好きだな。でもかなりキレイな顔してる。美人に話しかけられたことがあまり無かったオレは少し照れてしまう。けど、とりあえずポーカーフェイスを決め込んでおく。
「身長高いのね」
「それがどうした」
「いえ、人ごみの中であなただけすごく目立ってたから、話かけてみようかなって思って」
「・・・物好きだな」
「よく言われるわ」
そう言って女はニコっと笑う。なんだ。キレイな顔だが笑うと可愛いんだな。なんだこの気持ち。胸がドキド・・・・ん?・・・いかんいかん。本来の目的を忘れたらいけない。団長に言われてんだろう。とりあえず下見してこいって。当日スムーズに動けるように。ったくノブナガのやつ・・・一体どこに・・・。
「今暇?よかったら、夕食でも一緒にどう?」
そうだな。そう言えばそろそろ腹も減る頃・・・。まあいいか。ノブナガはノブナガでなんとかするだろう。こんな美人に夕食に誘われて断る理由がない。ってかこんなこと初めてだ。やばい、緊張してきた。とにかく、いつものオレらしく振舞わなければ。
「悪くないな。でも、オレは金もってないぞ」
普通の女なら、金無い男に興味はなさそうなもんだが、やっぱりこの女・・・普通じゃない。こともあろうか奢るとまで言い始めやがった。何だ?物好きにも程ってもんがあるだろう。何だ?オレに気があるのか?世間ではこーゆーのを逆ナンって言うはず・・・。まさかこんな好機がオレに訪れようとは・・・。
そんなこんなで出会った二人が訪れたのは、街で「高いが旨くて量がすさまじい」と定評のある中華料理店。回転式の円卓に向かい合い、いっぱいいっぱいに乗せられた中華料理に歓声を上げるウボォーギンと、それを面白そうに眺める。彼女はその高すぎる身長を精一杯縮めて食事をするウボォーの姿を見つめて、自分は何も口にしていなかった。
「食わないのか?」
そんな彼女の様子を変に思ったのか、ウボォーギンは彼女に問いかける。するとはまたニコッと笑った。そして言う。
「あなた、変な人ね」
「突然失礼なこと言うな」
「お財布も、ケータイも、身分証明書のひとつももってないなんて、かなり変よ」
「それがオレの主義だからな」
「どうして?」
時分が幻影旅団の一員だと言ってしまうのが一番手っ取り早い説明の仕方だろうが、それをしてしまうと彼女に怖がられてしまう気がして、なんとか逃げ道を探そうとするウボォー。けれど考えているうちに面倒になったのか、どうでもいいだろ。と話を流そうとしたのだが、それでもは食いついた。どうやら彼女は相当ウボォーに興味を示しているよう。それもそのはず。彼女はウボォーに惹かれている。
は彼の出すオーラに(彼女はハンターでは無いし、念の使い手でもないただの一般人だが)計り知れない何かを見出しているのだろう。その女のカンは・・・ある意味ではかなり鋭く、(彼女の現状を一般的な見地で述べれば)危険なものだった。自身でそのカンに一定の自信を持っているのだろうが、自分が幻影旅団という凶悪犯罪集団の一員と食事をしていて危険だ、などという危機感は全く感じていない。
とにかく、円卓から身を乗り出すようにしてウボォーの顔をのぞき込み、問いの答えを求める彼女に辟易したウボォーは、個室であることとが変わり者だという確信から、自身の存在を明かしてしまった。次の瞬間に、の表情は一変する。
もちろん、いい表情に。
「な・・・!何それっ・・・・!!!超・超・超ステキじゃない!!!」
「・・・・やっぱりお前の方が変だ」
「私のカンが言ってたのよ!こいつはただ者じゃないって!」
「お前もな」
「このチャンスを逃す手は無いって!」
「お前少しは逃ようと思った方がいいぞ?」
「え?どうして?意味わかんない」
本当に意味が分かってないバカなのか、それとも意味を分かっていてそれでもウボォーと一緒にいたいという変わり者の極地か。いずれにせよ、というこの女性が自分以上に只ものではないとわかったウボォーは、改めて彼女に問いただす。まるで、何をされても文句は言うなと言わんばかりの最終確認。
「オレが幻影旅団の団員で、お前はただの一般人。オレはお前を殺そうと思えば1秒とかからず殺せるんだぜ?その危険性をふまえた上で言ってるのか?」
「でも、あなたはそれをしない。戦闘にある程度長けた人物にしか、戦闘面においては興味無いんでしょ?」
図星だった。そもそも、このチャンスを逃す手は無いと思っていたのはむしろ彼女以上にウボォーの方で。
「なあ。テイクアウトってありか?」
「そうね、確か・・・この店は大丈夫だったはずよ」
「ちげーよ。メシはもういい。たらふく食った」
「・・・・え?」
「お前をテイクアウトしていいかって聞いてんだ」
その後彼女がどうなったかは、ご想像にお任せいたします。
―――3日後。蜘蛛のアジト(仮)にて。
「ったく・・・ウボォーのヤツ一体どこに行きやがった!!!!!!!」
「ノブナガ。知らないのか。ウボォーなら女の家に入り浸ってるぞ」
クロロが本を読みながら、怒り狂ったノブナガに言った。ノブナガは無論、唖然である。
「3日前の深夜にさ、知らないメールアドレスからメールが来たんだよ。それに”ウボォーさんはうちにいます”って。詳しく話を聞くと、ウボォーがその女の人に逆ナンされたらしくて」
「ケッ!!どこの豪傑女だ!!頭沸いてんじゃねーのか!!」
「写メ見る?キレイな人だよ」
「・・・前言撤回。クソおおおおおお!!なんでウボォーなんだよ!?何でオレにはチャンスがめぐって来なかった!!?訳がわからん!!!!」
「ノブナガ。少し黙れ」
「はい団長」