別に付き合ってるわけじゃない。
けど、一緒にいると楽しい。
何だか一緒にいる時間が他の人よりも若干多い。
ただ、そんな仲なだけ。
そう割り切って日々を過ごしているのに
最近どうして、こうも貴方にときめいてしまうのだろう。
そんな私の気持ちを知らずに、ほら。
貴方はまた私に笑いかける。
軽々と私を持ち上げる貴方に恋をした。
ある昼下がり。
お昼ごはんのあとで眠たくなってきたなーと思い背伸びすると
ウボォーは背が高いのをいいことに、腕を取って私のことを軽々と持ち上げる。
私だって一応身長はあるほうで、体重だってそこそこあるというのに
まるで猫でも持ち上げるかのように、彼はそれをやってのけた。
「いやー!怖いーっ!!」
「やっぱ、お前リアクションおもしれーな!」
「お・・・面白がってないでさっさと下ろしてよー!!」
足をばたつかせてもまるで意味なし。
つまり、私は宙に浮いている。
地面と私のつま先までの距離がどれくらいかはわからないけど
結構離れている気がして・・・でも、別に怖くはない。
そんな私のリアクションを彼が楽しんでくれるから
私はいつもわざと大げさな反応をするのだ。
二人だけでこんな状況でいることに飽きたのか
ウボォーはちょっと移動して、ノブナガの前に行った。
無論、私はウボォーに腕をしっかり?まれ
ぶら下がり健康器にぶら下がったような体勢のままである。
するとノブナガはこう言って私のことを笑った。
「はっはっは!お前間抜けな猫みてーだな!」
「い・・・言ったな落ち武者!!」
「落ちてねーよ!・・・くそ」
そう毒づいて自分のポケットを漁り始める。
そうして出てきたのは、黒インクの油性ペン。
まさかそれで、ヒゲを書こうとでも言うのだろうか。
「な・・・何するのよ!」
「あ?本当の猫に一歩でも近づくためにオレが手伝ってやる」
「や!やめてやめて!お肌が荒れる!」
「大丈夫だって。お前まだ若いんだから。てか、あんま暴れたら余計に汚れるからな」
「じっとしてろ!!」
ウボォーはケラケラと笑うだけで、危機に瀕した私を離してくれる様子はなかった。
このやろーと思いながらも、そんな彼を許してしまう自分。
大人しく目を瞑っていると、油性ペンのアルコールっぽい匂いが鼻をつく。
きゅきゅきゅっと肌をペン先が這う感覚がなんともくすぐったい。
「よし!できた!」
「うおぉぉ!猫だ猫!」
何をそんなにはしゃぐのか。
ウボォーは私の顔を上から覗き込む。そして、爆笑。
ノブナガはさっきから笑って間抜けだのアホだのとバカにする。
が、しかし、ウボォーはただ笑うだけ。
そして涙目で最後にこう言ってくれた。
「でもあれだな。何か可愛いな!」
「そーか?オレはアホにしか見えんがな!」
もう、ノブナガの言うことなんて気にもならなかった。
だって、ウボォーにそんなこと言われたら全て許せてしまう。
そんなわけで、私は翌日もほっぺたに書かれたヒゲはそのままだった。
そしてノブナガは私に散々アホと言った。
「・・・気に入ったのはいいんだけど、早く落とさないと
そのインク、取れなくなるわよ」
「ま・・・マジでか!」
呆れた様子で、パクが私にそう言った。
ある昼下がり。
私は暇をもてあまして漫画を読みふけっていた。
少しでも参考になればと、少女漫画なるものを読んでいたのだが・・・。
「うーん。てんでダメね。参考になんてなんないなぁ」
だって、よく考えてみよう。
何処の世界にいれば、食パン齧りながら走って角を曲がったら
運良く美男子にぶつかることができるのだろう。
足怪我したくらいで、誰がお姫様だっこなんてしてくれるだろう。
「何読んでんだー?」
「わッ吃驚した・・・!」
すぐ横には、私の開いたままの漫画冊子を覗き込むウボォーの顔があった。
そのページは丁度、足を怪我したヒロインが男の子にお姫様だっこされてるシーン。
それを見て、彼は何だ、そんなの読んでたのか。なんてぼそっと呟き私のことをじーっと見つめる。
「ウボォーなら軽くやってのけられそうだけどさ
こーんな細身の少年がこんなことできるわけないじゃんねー」
「うーん。まあ、漫画だしな」
そう答えたあとも、なかなか視線が私から離れない様。
気になって、どうかしたの?と問うと急に胴を両手で?まれ持ち上げられ
例のお姫様抱っこをされてしまった。
「きゃー!怖い怖い怖い!高いよ!」
今度は本当に怖かった。だって、2メートル近い高さで浮いているわけで
このまま落とされたら私はお尻からまっすぐ落ちてしまい
痛い思いをすることになるのだ。
今度は単純に怖かった。
だからとっさに彼の首に腕を回して抱きついた。
「はは!やっぱ、はリアクションおもしれー!」
でも、お姫様抱っこだ。こんなこと初めてされた。
それも、ウボォーに。
怖いと思う気持ちと嬉しいと思う気持ち。
そして少し動悸がする、なんとも曖昧な心情。
そんな中、お姫様抱っこをされたまま私は呟いてしまった。
「怖いけど、このままでもいいや」
ウボォーは笑っていたから、私が何と言ったのかは聞こえなかった様。
だからちょっと安心しつつも、少し切なく感じる。
こうやって私はウボォーと日々を過ごすわけだけれど
彼はどうしても私のこの思いに気付いてはくれない。
いつか、この思いが彼に伝わればいいな。とは思うものの
このままでもいいな、何て。すごく曖昧。
ウボォーのこと大好きだって伝えたい。
そしたら、一緒にいられる時間がもっと増えるから。
楽しい時間ももっと増えるはずだから。
でも、いつもと同じようにこうやってバカやって
笑っていられるのかはわからないから、実行はできない。
変に意識したりしないかな。
そして、逆に距離が広まっちゃったらイヤだな。
そんなことを、お姫様抱っこをされたまま考えていたら
そこはいつの間にかノブナガの前で・・・。
「お前・・・やっぱ猫だろ!!?」
私は笑いものになっていた。
(そのまま何処までも一緒に行けたらいいのに。)
(そんなことを思いながら、今日も私は宙に浮く。)