思いの丈


「ウウィーっ・・・。もう・・・だめぇ・・・」
「はあ・・・。お前なぁ」


 すっかり出来上がった。彼女はいつも酒を浴びるように飲む。がとても酒に強い体質であることは良く知ってる。しかし、ある限度を越すと一気に酔いが彼女を襲うのだ。その限度はあまり定かじゃないが、ビールジョッキ10杯越したあたりから雲行きは怪しくなるらしい。オレがを彼女の部屋のベッドに寝かせたときはすでに顔はりんごのように真っ赤だった。






身長差と思いの丈は比例していた!







「お前、自分の限界を知れよ」
「え~だって・・・お酒の大臣が私を呼んでたんだもん・・・。こっちおいで~ってさぁ・・・もう、行くしかないじゃん?」


 ないじゃん?と小首をかしげてオレに言う。襲いたいほどかわいいが、流石に正気を失ってちゃ襲えないし、その前に言うことの意味が分からない。何だ。お酒の大臣って。何処の国の飲んだくれだ。


「いいから・・・お前今日は大人しく寝てろ」
「やぁだぁ~。わたし置いてくっての~。許さ~んよ」
「そんな言うならハナからあんな大量に飲むんじゃねぇ」
「何よ・・・。ウボォーも一杯飲んでたじゃん。
 何でウボォーがよくて私はダメなのぉ・・・?」


 案外丈夫らしい彼女はベッドに横たわりながらもなかなか眠ろうとしない。ビールジョッキ13杯をその華奢な体に収める。それだけ飲んでて意識を失わない分、やはり常人の何倍も酒に強い体質なのだろう。意識もあるし、ろれつも回ってる。しかし、早く正気を取り戻して欲しい。


「あのな、お前とオレは違うだろ?」


 別に泣かせるつもりなどこれっぽっちもなかったのだが、がぐずりだしたのはこの一言からだった。


「違う・・・?」
「ああ」


 体の大きさからしても、オレが飲める酒の量を常人が飲んだら確実に死ぬ。オレは学がないから何がそれを決めるのかなんて分かりはしないが、酒を飲みすぎると常人は死ぬってことくらいならわかってる。あくまでも、その一言から汲み取って欲しかった思いってのは、体質が違うということだ。それなのにはみるみるうちにその真っ赤な頬を涙で濡らし始めた。は泣き上戸だっただろうか・・・?


「・・・そうよね・・・。私、ウボォーとは違うのよね。凡人だし、のろまだし、酒に呑まれるし・・・そりゃ違うよ。私だって・・・凡人になりたくてなったわけじゃないの・・・」
「深読みしすぎだろ・・・?誰もそんなこと・・・」
「嘘!私、ちゃんと分かってるつもりだったんだけど、ゴメンね・・・。ウボォーは私のこと脆いって思ってるんでしょ?わかってる・・・。大体、この身長差だってそうよ。私の頭はアンタのお腹ぐらいのところにある。いつだってチューしたいって思ってるのに、全然・・・届か・・・ないからぁ・・・」
「・・・おい、いいから寝ろって」


 何をそう感傷的になるのだろう。コイツはホンマもんの泣き上戸だな。


「私のこと・・・嫌い?」
「は?」
「弱い女は・・・嫌い?」


 まさかの突然なる問いかけに唖然となるオレ。どういう方程式をくんだらそうなるのだろう。どうせ酔ってる。だからいくら言ったって、明日になれば忘れてる。だからいつも、出来上がってるときのは相手にしたいようにしてるのだが、今日だけはどうもそんな気ではいられなかった。いつもの酔い方とは雰囲気が違ったのだ。よく見てみると、彼女の顔の赤みが大分引いてきたようだった。


「いつもね、頑張ってるの。ウボォーのガールフレンドとして強くいようって。でもね、やっぱり限度ってあるのね。どんなに頑張っても、アンタより強いとこなんて、私にはひとつも無いの。こんなんじゃ、ウボォーに嫌われちゃうって分かってるのに、でも、全然強くなれないの。・・・ウボォーが我慢すること・・・多いじゃない?」


 確かに我慢、と言うか自分を制御することは多い。だがそれはを思ってのことであって、別に何も不満に思うことは無いのだ。むしろ自分の、に見せる優しさによって人間らしさってのを再確認できる。だからその自制心がプラスになることはあっても、マイナスになることなどは無い。ただこれがの本心だとすると、長い間可哀相な思いをさせていたのかもしれない。は鼻をすすり、あふれ出る涙を懸命に腕で拭いながらこう続けた。


「今日だって、簡単に酒に呑まれちゃったし・・・。少しでも強い私見せたかった。なのに・・・それも失敗に終わっちゃった・・・。それで迷惑ばっかりかけてさ何やってんだよって感じ・・・。だから、ウボォー私のこと嫌いでしょ?」
「ばーか。迷惑なんかじゃねぇし、お前のことは大好きだ。わかったら、さっさと寝やがれ」
「大好きだなんて、口じゃ簡単に言えるじゃない・・・」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ?」
「・・・そんなの・・・知らないよ・・・」


 がオレのことで、ここまで打ち明けて話したのは初めてだった。オレとの関係で悩み頑張って強くなろうとしていたってことも今日知った。それだけ、はオレのことを思ってくれているわけで、オレは途方も無く彼女を愛しいと思った。口下手なオレはこの思いをどう伝えようか・・・。


 オレはベッドに横たわる彼女を起こし、力いっぱいに抱きしめた。いや、力いっぱいだとが潰れてしまう。だから、自然に力を抑制しているのだろう。よく考えると、オレはいつも自然に彼女を痛がらせない丁度いい力で抱きしめている。旅団の連中にさえ見せないような優しさを、オレは簡単にに示していた。前までは、ただ強くいることだけを日々胸に抱いていた。しかし、彼女がここに現れてからは、自分が変わっていく気がした。それをもどかしく思う反面、嬉しく思う自分も確かにいたのだ。


「ウボォー・・・?」
「ゴメンな。オレは口下手だから、口じゃ言えねぇんだよ」
「・・・うん」
「これでわかるか?」


 よく見ると、やはりは小さい。オレの腕の中にうもれるようにしているのに、今までそれほど違和感を持たなかったが、はそれをもどかしくおもっていたのだろう。


「うん。・・・ゴメンね?変なこと・・・急に言い出して」
「いいんだよ。早く寝ろ」
「・・・わかった。・・・今夜は、ここにいて?」
「ああ。わかった。ずっと抱いててやるよ」
「・・・うん。ありがとうっ・・・」


 そう言って泣きながらもしっかりと抱きついて離れようとしないの頭を撫でてやると、まるで猫のようにオレにすりついてきた。かわいすぎるその仕種にやられながらも、今日は我慢しておこうと自制心をきかせる。・・・確かに、この自制心をもどかしく思うときはあるが、それだけオレは彼女を愛しているということで・・・。


 いつの間にかすーすーと寝息を立てていたその愛しい寝顔に軽く口付けをした。こんな姿を、以前のオレを知っている連中に見られたらと思うとこっぱずかしく感じる。そんな自分を鼻で笑い、オレの懐中におさまるを見つめる。


「・・・大好きだぜ。





 が寝入ってからそう呟くオレを卑怯だと思いつつも、彼女を抱きながらオレも眠りに落ちた。