寝込みを襲うとか、怖くてできないけど。
焚火の微小な明かりに照らされただけでも、奇麗だとわかる彼女の寝顔。膝枕なんてしてない。したいけど、できない。まだそんな距離の俺たち。彼女のことがすごく好きなのに、好きと言えない。ああ、もどかしい。
ねえ、もし・・・君が寝ているこの間に、俺が君の夢の中に入れて、君が好きだと伝えられたらどれだけ楽だろう。事実かどうか窺わしくとも、君は自然に僕を”そんな対象”として、見てくれるようになるんじゃないか。
そんなこと考えてたら、「現実はそんなに甘くないぞ」と言わんばかりに、君は寝がえりをうって、俺が君の顔を見れないようにした。
あなたのただいま。は、あたりまえじゃないから。
今日は、と遊園地でデートした。昨日は、と同じ布団で寝た。一昨日は、と一緒にお風呂に入った。
・・・ぜんぶ、俺の夢のなかでの話だけど。
ここのところ、毎日のように夢にが出てくる。どれもこれも、ぜんぶこのうれしい今現在の環境ゆえだ。
幻影旅団で仕事をやっていくには行動範囲が狭くなってきたなあ。そう思って、俺は自主的にハンター試験を受けようとしていた。ちょうどホーム(流星街)に戻ってきていたとき、団長にそう告げたのだが、すぐそばでロックミュージック関連の雑誌を読みふけっていたが突然口を開いたのだ。
「あたしもそれ受けてみたいんだけど」
彼女は幻影旅団じゃない。ただ、幼い頃からホームに入り浸っていた隣人。戦闘能力は幻影旅団に難なく入団できるレベルで、聡明、且つ大胆。女らしい格好をすればすごく可愛くて美人なのに、男勝りだから態度はでかい。まあ、それくらい肝がすわってなきゃ、こんな変人・・・もとい、超人たちの巣窟になんて、そうそう入り浸れないだろうが。
俺は昔から、そんなに心を惹かれていたんだが、今回、こんな流れで偶然にも一緒にハンター試験を受けることになったわけだ。嬉しくないわけがない。
試験会場へ向かう間はもちろんのこと、サバイバルゲームを課された第二試験中(今現在)は、下心満載な恋する男子満喫しまくりなう、なわけだ。
試験前に配られたナンバープレートを一度でも奪われたら負け。人数がある程度絞られるまで何週間と続くらしいこのサバイバル試験は、4日目を迎えていた。俺たち二人は合わせて、既に40枚程のプレートを受験生から奪っていた。開始したときに残っていたのが80人くらいだったから、けっこう委員会側にも協力してやってる。だが、いくら楽勝な試験だからと言っても気は抜けない。だから、夜は交代で見張りをやるのだ。
時刻は夜10時くらいだろうか。1日10枚という目標を達成した俺たち二人は、さっさと食事を済ませて就寝に入った。最初はが寝る番だ。と言っても、そう寝つきは良くないらしいは、寝れるまで俺と会話をしてくれた。それがつまらない、また、次の試験もきっとつまらないであろうハンター試験中、唯一の至福の時だった。
「あー、はやくホームに戻りたいなぁ」
「だね。もっとおもしろいもんかと思ってたけど、ほかの受験生弱すぎ」
「シャルは結構楽しそうだよ?」
試験自体楽しくなくても、と一緒にいられること自体が嬉しいからね。なんて言えない。
「まあ、アリ地獄にアリ入れるときみたいな楽しみはあるよな」
「うわっ・・・趣味わりぃの!」
「はぁ!?だって、プレート奪ったあとトチ狂ったみたいに笑って相手のことバカにしてるぞ」
「それは仕方無いよ。だって面白いんだもん」
「なら、俺に悪趣味なんて言う権利ないだろ」
「ははッ・・・まあね」
ああ、何でだろう。普段より一層の微笑みが愛おしい。大人っぽい彼女がくしゃっと笑うと、少しだけ幼く見えるからそれもまた可愛い。
「何でかな。最近変な夢ばっかり見るんだ。こんな劣悪な環境で寝てるからだきっと」
「劣悪?何が?」
「下草だぞ!?シャルって野宿大丈夫なの?」
「別に大丈夫だし、俺にとっては今すごく良い環境だけど?」
「はぁ?わけわからんし。何ゆえ?」
「女の子に見守られながら眠れるんだよ?同じ屋根の下でね。男のロマンだ」
「女の子ねぇ・・・ってかなんて粗末な屋根だよ。屋根ってかここただのでっけぇ木の根元じゃんか」
さっきの「女の子」部分を「」に挿げ替えたかったけど、流石の俺もそこまでシャイボーイを捨てきれていなかったらしい。できなかった。それに対する反応はもちろん、「流し」と「ツッコミ」のみ。「え!?アタシに見守られて眠るのにロマン感じるの?もしかしてシャル・・・」・・・なんて色っぽい返答なんて、あのの口から吐き出されるわけもなく・・・。
知らぬ間には寝息を立てて、気持ち良さそうに眠っていた。
「・・・寝た?」
返答はなし。眠っている。
「・・・違うんだ。、君に見守ってもらえてるから、幸せなんだ」
聞こえていないのをいいことに、俺は口走る。
それがたとえこのハンター試験だけでも、幸せ。それがこれから毎日続けば、幸せ過ぎてもう何もいらない。
の近くに置いておいた薪を取るついでに、彼女の寝顔に自分の顔を近づけた。寝息が顔にかかるかかからないか、そんな距離。奇麗なの寝顔。焚火の火が消えかかる。
「夢の中で、最近いつも君と逢うんだ」
そうささやく。やがて焚火は消え、俺は暗闇にまぎれ、彼女の柔らかそうな唇に軽いキスを落した。
「ん・・・シャル・・・」
名前を呼ばれドキッとしたが、彼女はすぐにむにゃむにゃ言いながら寝がえりを打った。どうやら寝ごとのようだ。そう、夢の中に俺がいるのだろうか。それならどうか、の夢の中の俺が、に愛の告白をしていますように。
そう祈って、薪をくべ、火を付けた。
5時間後。俺はを揺さぶっておこしにかかった。寝つきは悪くとも、寝起きは案外良い子なは、むっくりと立ち上がり「ん。了解」と言いつつ、大きな伸びをした。
「あ、そうだ。シャル」
「ん?」
俺はの寝ていた暖かいところに寝転がり、の方を向く。
「シャルってさ。あたしのこと・・・好きなの?」
「・・・・・・・・は?」
ちょっと待ってくれ。今そんな急に目が覚めきってしまうようなトピックを立てないでくれ。
「あのさ、夢に知ってる異性が出てきたら、そいつは自分のことを好きなんだって思う国があるらしいんだけど・・・本当なのかなって思ってさ。因みにその情報源ノブナガ兄さんね。で、最近の夢ってシャルばっかり出てくんの。だからこんな質問してんだけど・・・」
「それはつまり、恋愛対象としてってことかな?」
「まあ、そうゆーこと」
あの囁きか、あの許可無承諾のキスか、日々の俺の妄想か・・・。思い当たることが多すぎて困るんだ。困る、こまる。
「ならさ、俺の夢も最近ばっかり出てくるんだけど、は俺のこと、好きなの?」
卑怯だと思い知りながらも、質問を切り返す俺。許してくれ。でも、なんでだろう?少しだけ希望の光が見える。
「なっ・・・は?何でそう・・・なるし・・・」
目に見えて動揺する。ああ、もう、なんかすごくかわいい。その反応を図星と踏んだ俺は、すかさず告げた。
「俺はね、好きだよ。のこと。だからきっと、の夢の中にいつも出てくるんだ」
「・・・そ、そうなんか・・・?」
「ああ。次は、の番だよ」
彼女は、すごく長い間を作ったあとに、しぶしぶ、こう言った。
「う、あ、あたしも・・・好き」
「え?誰のことを?」
恥ずかしがるをいじめてやろうと、すこし意地悪なことを、ニヤつきながら言う。
「シャルのこと!・・・好き」
俺はたまらず寝どこから飛び出して、恥ずかしそうに顔を伏せるを抱きしめた。
今度は夢の中でも、現実の世界でも、ずっとと一緒にいられそうだったから、興奮から冷めたら彼女の膝の上で安眠した。
「嘘だろ!!?」
フィンクスは言う。俺の女神が悪魔の懐に堕ちただのなんだの・・・と。と俺のハンター試験の話を聞いたみんなは、各々に祝福とか、驚きとか、その他もろもろ怒りの感情を露わにした。そしてはで、ノブナガに向かって言う。
「ノブナガ兄さん!あの話本当だったよ!」
「あ・・・ああ。よかったな」
ただ、後でわかったことだが、ノブナガ本人も夢でよくに逢ったと言う。結局、好かれている証拠ではなくて、好いている証拠なのだ。それを自分から言ったを賞賛しようと、彼女の頭に手を伸ばす。
「?なに?」
「・・・いや。いいこいいこ」
子供扱いするな!と怒りながら、自分の頭にあった俺の手をつかんで離さないがまた可愛くて、俺は幸せな気持ちになった。
これからはこの幸せが、夢の中だけでなく、現実世界でもずっと続くことを祈る。