形勢逆転


 それは確実に逆なはずだった。

 オレはドMでもねえし、コイツがドSなわけでもない。なのにどうして今、オレはこんなにも情けない声を出しているのだろう。

 仕事帰りに寄った家。それはフィンクスの幼馴染の女の家。そこの主人であるという女性とフィンクスは、何年もの付き合いだった。当分旅団の仕事は無いからと言って、彼は何日も彼女の家に入り浸ることになった。



 の家に泊まり始めて3日目の夜。広いダイニングルームで、二人はの手料理を味わっていた。フィンクスはワインよりもビールの方が好きだが、たまには飲んでみるのもいいとに言われ、ワイングラスを手に取る。が、やはり腹に合わずビールをに用意してもらう。がぶ飲みとでも言うのだろう。彼は次々にビール瓶を飲み干していった。べつにやけを起こしたわけじゃない。だが彼には分からない何かが、酒を欲していたのだ。彼はおかしいと自覚した。いつものオレじゃないと。


 飲みすぎた。そこが敗因だったとも、後になって彼は理解した。常人の何倍も酒には強いつもりでいた彼でも、流石にビールジョッキ20杯は飲みすぎだろう。



 今夜も昨晩、昨昨晩のごとくにと熱い夜を過ごすつもりでいたフィンクスは、今夜の情事でを少し冷めさせてしまうかもしれないと少なからずの心配を胸に



「シャワー浴びてくるわ」



 にそう告げた。



「よかった、今日はもうダメなのね?フィンクス」

「さあな。シャワー浴びたら少しはマシになるかも。ってか、イヤなのか?オレにヤられんの」

「・・・イヤじゃない。ただ・・・今日は私の番だから、好都合だなって思って」



 そう言っては不適にクスクスと笑う。しかし、酒に酔った彼にはその笑みの意味が理解できなかったらしい。無視をして足早に浴室へと向かった。






恥辱に満ち溢れたキミの顔が見てみたかった







 冷水を浴びて、前よりは幾分冷静さを取り戻したらしい彼は余裕の笑みを漏らして、バスタオルを巻いたまま寝室へ向かうともうベッドにいるはずのの姿はなかった。どうしたもんかとあたりを見回しているとフィンクスは、いきなり背後からすごい勢いでベッドに投げ飛ばされた。


「ウオッ!!?」


 ベッドに寝そべる形で頭だけを上げて前方を確認すると、先ほど攻撃してきたであろうがすまし顔で立っている。


「な・・・突然何しやがる!!?」


 ミニスカにキャミソールというラフな格好。下着はつけていないようだった。それは、ここ二日間の彼のデータからするとこれはヤる前の格好で・・・。



「ふ、今日はやけに積極的だな?そんなにして欲しいのかよ?」



 は不適な笑みを浮かべてこう言った。


「勘違いしないで。今日はして欲しいんじゃない。してあげたいの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


 仰向けで少々情けない格好のフィンクスに馬乗りになった彼女が、いきなり噛み付くようなキスをする。本当は彼の仕事であるはずの舌の挿入も珍しく今日は彼女からだった。まんざらでもないと言った様子のフィンクスの表情から余裕さが抜けていったのはすぐ後のこと。


「っ・・・なっ!?」


 は彼の耳たぶにかぶりつき、いやらしい音で舐め回す。わざとらしくたてられるその音は彼の中の熱を確実に上げていった。ただし、それを認められないのがマゾではないフィンクスのS心だ。が、しかし、彼の必死の抵抗も無意味に終わり、まるで赤子をあやすような優しい美声ではフィンクスをなだめた。


「ねぇ。ちょっと大人しくしてて。今日は私がアナタをいじめる日なの」
「んっ・・・オイ!いい加減に・・・っ!」


 聴覚は犯されたままのフィンクス。先ほどまで見せていた余裕の表情は完全に失われている。上気した様を証明するのは、その真っ赤に染め上げられた顔面。普段見せない表情に満足したかのように、はささやき続ける。


「普段私をいじめてくれる強気なあなたの、こんな姿を見てみたかったの。ドMな男はちょっと苦手だけど、隠れMくらいなら好きよ?」
「・・・っ・・・もう十分だろ?」
「ううん。まだ。肝心なことやってあげてない」
「・・・うそだろっ・・・」


 はフィンクスの耳元から口を離し、人差し指を滑らかに下へ滑らせていき、到達した先を軽く擦る。


「・・・っ・・・!」


 薄桃色のその突起は、外気にさらされているためか、彼女の一撫でで簡単に突き上がった。しばらくその動作を続けてやると彼の必死に声を漏らすまいとする表情が伺えた。それを見て再び微笑んだ


「ね。凄くエロい顔してるよ?フィンクス。そんなに気持ちいい?」
「・・・っ・・・お前なぁ・・・」


 胸元に自分の唇をあてがいながらニヤリと口元をゆがませた彼女は、その隙間から薄い舌をもう片方の突起に宛がった。時にその隆起した部分をわざと逸らせて益々の主張を促す。かと思うと一思いにしゃぶりつき、口内でころころと玩び、軽く噛む。それはいつもフィンクスがにしてやるのと同じだった。そう頭で理解していて、を恥らわせてやろうとするも、すでに彼にはそのようなことを口にする余裕が無かった。


「っ・・・マジで・・いい加減にしろっ・・・!」
「やだ。まだだって言ってるでしょ。下のほう、こんなに起き上がってるのに」
「・・・冗談はよせって・・・んあっ・・・」


 自分の物とは思えない、いや、思いたくないであろうその声が、フィンクスにそれまでに無いほどの羞恥の念を感じさせた。そんな自分を一思いにぶん殴りたい衝動に狩られた彼だが、それを許さないと言わんばかりに肥大したそれをバスタオルの上から刺激される。


「・・・おい!変態!やめろっ・・・んっ・・・」
「やだ。そんな素敵な言葉どこで覚えたの?ここ二日間、フィンクスは私にこんなことしてたって言うのに」
「っ!オレは・・・いいんだよっ!」
「そんなの不公平」
「・・・なっ・・・」


 かろうじて隠れていた彼の分身はバスタオルという隠れ蓑をの手によって剥がされ、大きく迫り上がったその姿を露わにされた。既に硬くなっていたそれは素手で握られ、より肥大し、硬さを増していく。


「・・・あっ・・・クソっ・・・」
「ねえ?気持ちいい?」
「最悪・・・だよ・・・!」
「嘘。この子はそう言ってない」


 はそれを咥え、締め付け、ゆっくりと上下させる。回りを被っていた粘膜は青臭く苦いが、はそれを美味しそうに絡め取り飲み込んだ。迫り来るようなその刺激に耐えられず、彼の首が反り返ると奥歯をかみ締め、絶対にもらすまいとしていた吐息が一気に吐き出される。

「いっ・・・あ、あ――――――!」
「イくなら言ってね?シーツ汚したくないから」
「ッ・・・もう・・・っ」


 先端を食み、竿をさする速度を速まらせる。小刻みにフィンクスの抑制しきれずに漏れ出した甘い吐息が聞こえる。それに聞き入る間もなく、彼はとうとう音を上げた。


「ああっ!もう・・・ダメだッ!!!」


 先端から勢いよく飛び出してきたそれは、の口内を満たし、彼女はそれを余すことなく飲み干した。息が上がっている彼の姿を見て満足した彼女はおもむろに顔と顔を近づけ、軽く触れるだけのキスをした。


「好きよ。フィンクス」
「・・・っ・・・この性悪女・・・」
「フフッ・・・凄く色っぽかった。知ってた?私がワインにお酒欲しくなるお薬混ぜてたの」「お・・・お前なっ!!」
「ははっ!今日は私の勝利よんっ!」


 ケラケラと笑いながらはベッドから下り、スリッパを履きはじめた。その行動を不思議に思ったのか、息が荒いままフィンクスはこう訊ねる。


「・・・どこ・・・行くんだよ?」
「シャワー浴びにいくの」
「おい、ちょっと待て」


 浴室に向かおうとするの腕を強く掴み、半ば脅迫じみた表情で、フィンクスは言う。


「まさか、これで終わりだなんて思わないよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「何がえ?だ。このドSなオレ様がこんな羞恥受けたままで終れるかよ」
「・・・・・・・いやいやいや。もう疲れたでしょっ?もう一回イッたじゃない。やめといたがいいよ。うん。そうしよう。寝よう?」
「バカ言うな。中坊じゃねーんだ。一回イッたくらいでダウンするようなタマしてねー」
「さ・・・最悪!もうダメ!終わり!終了!エンド!オーケー!?」
「ノー。アイ・キャント・アンダースタンド・ワッチュー・セイ」
「ひいっ!!」


 無理矢理ベッドに引き戻された


「よくもやってくれたなぁ?。さっきの何倍も恥ずかしい思いさせてやるから覚悟しろ」
「いやだーっ!!!寝るーっ!!」
「黙れ」



 どこに隠し持っていたのか、長めの紐を何処からか取り出しての両腕を縛り、ベッドの格子に固定させる。



「いやっ!これ何!?ほんまもんのSMプレイでもやるって言ってるの!?」
「ご名答。よく分かってんじゃねーか」
「いやっ!やめて!怖い!」
「いやだ。やめねぇ。そりゃ、怖いわな?」



 先ほどの彼女の如く、口の片端を吊り上げ、不適な笑みを見せるフィンクス。それを見て、自分がとんでもない過ちを犯したことを思い知る





 こうして、夜の攻防は第二ラウンドへと続く。