俺がまだ4つか5つの頃、そいつは団長に拾われた。1才にも満たないその赤ん坊は流星街のゴミ山のふもとになんの書置きもなく捨ててあったそうだ。こんなことは流星街じゃざらにあることだが、それを団長が拾ってくるなんてことは珍しかった。というか、それが最初で最後だったと思う。俺は団長の腕に抱かれた小さな人間をまじまじと見つめて言った。
「これなに?」
「名前はだ」
団長は赤ん坊を抱きながら、確かそう言った。昼間でも少し肌寒い…そんな季節―20年前の11月のことだった。
初めて俺がお前に会った日が・・・
私は自分の誕生日を知らない。生まれて間もなくして流星街に捨てられたから。そんな私を拾ってくれたのがクロロ=ルシルフル。という名前も彼が付けてくれて、完全にお父さんみたいな人。だけど、年はそんなに変わらないから、私はクロロのことをお兄ちゃんって呼んでる。
生まれてこのかた外の世界に繰り出したこともなくて、たまに旅団のみんなが(主に窃盗だけど)仕事ついでに現地のお土産をもって帰ってくるから、それが私に外界の知識の源になっている。
そんなこんなで誕生日というワードさえも最近知った私は、その誕生日とやらについてノブナガに教えてもらっていた。彼は旅団の中で唯一自分の誕生日がわかっているそうだから。
「でな、誕生日ってのをジャポンで祝い始めたのは戦国武将、織田信長なんだよ」
話は彼の故郷(?)らしいジャポンという国で誕生日を祝う風習が成り立った起源とやらにまで広がり、その後脱線してジャポンの戦国時代(?)とやらで武将(?)とやらが闊歩していたという歴史のお勉強になりはじめていたので、私は近くにいたフィンクスに視線で助けを求めた。
クロロがお父さんなら、お兄ちゃんはフィンクスか。そんなことを私は考える。私自身はよく覚えていないのだけど、彼は小さい頃から私を妹のように可愛がってくれていた、なんて話をパク姉から聞かされていたから。
「ノブナガ。いい加減話脱線してることに気づけよ」
「おっと・・・!悪かったな、!・・・あ、そういやぁ団長に頼まれたことがあるんだった・・・。フィンクス。をよろしくな」
「はいよ」
フィンクスは手をヒラヒラ振ってそう気だるそうに言った。
部屋に二人きり。ほかの皆は仕事とか遊びとかで流星街の外にに出ていっている。だからホームに帰ってきていたのはノブナガとフィンクスだけだったのだ。私は旅団としての仕事をしないかわりに、彼らの帰ってくる場所を管理する役だから、ここに一人で何週間も過ごす日もあれば、みんなとずっと一緒にいる日もある。
そんな日々の中、フィンクスだけは月に一度はここに戻ってきてくれた。いつだったか・・・その理由を聞いたらそっぽむいて「暇だから」と答えられた。理由はどうあれ、兄みたいな存在の彼が定期的に帰ってきてくれると嬉しいから、その話はそこで終わらせた。
お兄ちゃんという存在。私はこの彼に寄せる想いがただの思慕の念か、それとも恋愛感情なのかいまいちわからなかった。このままの関係でもいいし、それ以上を望もうと思えば望める。そんな間柄。まあ、これは余談に過ぎないけれど、とにかく好きの種類分けをしないまま言えば、私はフィンクスのことが好きだった。
「お前、自分の誕生日が気になるのか?」
「・・・まあね。誕生日祝ってもらえるって、何か素敵じゃない」
「・・・ふぅん。そんなもんか?」
「生まれてきたことを、祝ってもらえるんでしょう?生まれてきてくれてありがとうって、みんなに言ってもらえる日なんでしょう?」
私は何の気なしにそう言ったつもりだったが、フィンクスの目にはそうは映らなかったらしい。
「心配なのか?」
なぜかそう問われた。
「皆にそう思われてるのかって、考えてんのか?お前俺らと違って繊細だから・・・」
「・・・・」
よく考えれば、それは気になるところだ。
念能力が使えるわけでもなく、ただホームで家事をするだけの私に存在価値があるのか。皆が私をどう思ってるのか。すごく、すごく気になる。
「フィンクスは・・・どう思ってるの?」
そう私が彼に聞いた途端、彼は顔を真っ赤にさせて視線を私からそらす。
「私に存在価値ってある?もし私の誕生日が分かってたら、祝ってくれる?」
フィンクスはすごく小さな声で、「ああ。祝うさ」そう呟いた。
「ん」
「・・・?なあに?これ・・・」
フィンクスは目をそらしたまま、可愛い包み紙にくるまれた小さな箱を私に差し出した。
「プレゼントだ」
「・・・?なんで?」
「何ででもだ。とりあえずもらえる時にもらっとけ」
「あ、うん・・・。ありがとう。これ、開けていい?」
「おう・・・。と、とっとと開けろ」
わけもわからないまま、突然のフィンクスからのプレゼントを開封する。嬉しさと驚きが半分ずつ。上等な紙箱の中には可愛らしい十字架のアクセサリーが、白いスポンジにはめ込まれていて、それを取り出すと下から細かい目の鎖が付いてきた。ネックレスだ。
「ありがとう。これ、すごくカワイイ。早速付けていい?」
と、言ったものの、ネックレスなど付けたことがなかったので戸惑っていると、俺が付けてやるよとフィンクスは私の背後にまわって、すんなりとネックレスをつけてくれた。
「・・・・・・・・・」
「え?」
ネックレスを私の首に付けるなり、そそくさと立ち上がって部屋を出て行くフィンクス。その途中で彼が何か呟いたように聞こえたから私は振り返ったけれど、既に彼が部屋から出た後だった。
結局、このプレゼントが一体なんのプレゼントなのかはわからないまま、私は鏡の前に立って、首元でひかる可愛らしいネックレスを、いつまでも眺めていた。
初めてお前に会った日
「今日がお前の誕生日なんだよ」
俺はとさっきまで一緒にいた部屋から出るなりそう呟いた。
丁度2年前の今日だった。幼い割にしっかりとしていた俺は、日記みたいなのに下手くそな絵と一緒に書いてたんだ。「今日はクロロが小さな女の子を拾ってきた」汚い字で、「かわいい」なんてのことを褒めちぎってる俺の恥ずかしい日記。その日記が確かに、俺がと出会った日は20年前の今日だと示してる。
今日みたいに丁度、昼でも風が冷たくって、もうじき雪が降るんだろうなって思えるような、そんな頃。
最初こそ、本当の妹だと思って接していた。そんな彼女はみるみるうちにキレイになっていった。今ではもう立派な大人の女で。どうせ兄貴ぐらいにしか思われてないんだろうから、それがすごく切なくて。
せめて誕生日くらい二人っきりで祝いたい。と名前を付けたのがクロロならば、誕生日を決めるのはオレだ。それくらいしたって構わないだろう。オレはこんなにものことが好きなんだから。
だから、勝手ながら決めた。11月の今日が、。お前の誕生日だ。
なんて、言っていいか?。
初めて俺がお前に会った日が、お前の誕生日だ。