「・・・酌してくんねーか」
「わかった。じゃあ、お酒持ってくるわ。芋焼酎でいいの?」
「ああ。風呂に持ってこい。風呂に」
「・・・風呂・・・?」
露天風呂のある人里離れた山奥の別荘。そんな豪邸を若くして所有するは、何を言っているんだこいつは、と言わんばかりの眼光を客人に向けた。男は然も当然のごとくににそう言ってのけ、そう告げたかと思うと自分はそそくさと風呂場へと向かう。
「風呂で酌しろっていうの?」
「ああ。今日は満月だ。風呂に入りながら月を見て、酒を飲むなんて乙なこと、ここじゃねーとできねーだろ」
には、その男の本心に裏なんて無いように思えたのだった。
期待なんて別にしてなかった。
もちろんは風呂場で脱いで客人・・・もとい、ハザマ ノブナガの酌をするなど考えてもおらず、さらしの裾を片手で上げ、もう片方に酒の入ったトックリとお猪口を乗せたお盆を器用に持ってて、湯がこぼれる露天風呂際までぴちゃぴちゃと歩いていく。その先に湯船につかり月を眺めるノブナガがいた。
今宵はみごとな満月で、湯からあがる蒸気がとても幻想的な雰囲気を作っていた。更に虫の声も心地よく耳にとどく、そんな月見日和。
「きれいね」
そうがつぶやくと、ノブナガもああそうだなと端的に返答する。黙ってが月を見ていると、ノブナガがしびれを切らしたようにこう言った。
「・・・誰が服を着たまま酌しろっつったよ」
「・・・・・・逆にどうして脱がなきゃいけないの」
まさか、恋仲でもなんでもない男にこんな要求をされるとは思ってもいなかっただけに動揺して、顔を赤らめる。確かに、はノブナガに好意は抱いているものの告白した覚えなどなかったし、ノブナガには「恋」に対する関心が無いと思っていたのだ。
「寒いだろ。お前も一緒に月を見ながら風呂に入って酒飲もうぜ」
確かに心ひかれるシチュエーションではあるが、何やら嫌な予感がしてたまらない。しかし、ノブナガは幻影旅団の一員。幼馴染とは言えども、言うとおりにしなければ、激昂して何をされるか分かったものではない。それに、バスタオルを巻いて入ればいいじゃないか。そう決断し、は更衣室へと向かった。
ちゃぽん。ちゃぽん。
片足、もう片方。そして肩を湯に沈める。
顔に触れる外気と、体を温めるお湯との温度差がなんとも言えない気持ちよさで、はふう~っと声を漏らした。一時月を眺め、思い出したかのようにトックリへと手を伸ばす。
何か勘違いしていたようで、ノブナガはが隣に裸同然でいても何かしてくる気配などなく、ただ風呂と月を楽しんでいたかのように見えた。はそんな横顔に安心して、トクトクとお猪口に秘蔵の芋焼酎を注ぐ。
「はい。どうぞ」
「・・・あ、ああ」
ノブナガは注がれた酒を一気に飲むと、何も言わずににそれを向けた。も、何も言わずに差し向けられたお猪口へと酒を注ぐ。
「お前、俺がそばにいない間何してた?」
まるで、自分が私の彼氏にでもなったかのような言い方だな。はそう思った。
「お金稼いでたの。ここで、殺し屋やってた」
「その金で建てたのか、この豪邸」
「まあ、そうね」
「ずいぶんいい御身分じゃねーか」
「あんまりここでゆっくりしたことは、無いんだけどね」
ノブナガはまだ注がれたばかりのお猪口を何も言わずにに向ける。
「酔ってるの?まだお酒入ってるわよ」
「飲めよ。飲んで、今日くらいゆっくりしろよ」
のぼせた頭で、は何も考えずにお猪口を自分の口元へと近づけた。自分がお酒に弱いということもよく考えずに、ノブナガのように一気にそれを飲みほした。喉が焼けるような感覚とじわじわと迫りくる酔い。それは確実にのガードを緩ませ、ノブナガは半ばしたり顔での様子を眺める。目が半開きのからトックリを奪い、お猪口に注ぎ、それをまたの口元へと運ぶ。たったお猪口一杯分の酒でもうほろ酔い状態にまでなったは、嫌がることなどせずにそれを一気に飲み下した。それを何度か繰り返すと、はノブナガの胸へと崩れ落ちる。
確信犯。
ノブナガは確実にそれだった。酒に弱いを酔わせるため、風呂につからせたのはその相乗効果のため。
「?どうした」
白々しいと、自分で思いながら、自分の胸で早い呼吸をするに問いかける。
「ノブ・・・ナガ、ごめん、私・・・酔っちゃった・・・かも・・・」
上目遣いのの瞳はとろんと潤み、普段気丈ながとてもかわいらしく見える。ノブナガはそれだけで抑えが利かなくなったらしい。が付けていたバスタオルを水中ではぎ取り、驚いて目を見開くの唇に自身のそれを押し当てる。
「んっ・・・ふぁっ・・・・」
ノブナガは豊かなの膨らみを掴み、揉みしだく。風呂の淵に追いやられ、逃げられない。そもそもは逃げるべきだと判断も出来ていないのかもしれない。ぼやけた頭で、ただただノブナガに与えられる快楽に身を委ねるだけだった。
激しく、噛みつくようなキスとともに胸を揉まれ、先端を摘まれ・・・。は小さな喘ぎ声と唾液をこぼす。
「立て。立って、後ろ向いて、そこに手をついてみろ」
ああ、つまり、バックね・・・?
はぼやけた頭でそう考えて、ノブナガの言うがまま、風呂の石積みに手をついた。ぴちゃん、ぴちゃん。と上体から滴り、水滴が水面に堕ちる音がの耳に響く。ノブナガは突きだされたの秘部に指を這わせた。
「やっ・・・」
とろとろしたの愛液は、そこをひと撫でしただけのノブナガの人差し指に絡めとられる。
「なんだ、もう濡れてんのか?」
そう言ってノブナガは再びその指を秘部に近づけ、今度はその奥に一気に指を突き入れた。
「あっやあっ・・・・!!」
「こんなにスムーズに入るなんてな・・・?実は期待してたんだろう?」
「して、ないわよっ・・・」
「じゃあ、何でこんなに濡れてるんだ?ぐちょぐちょだぜ?」
わざと音を掻き立てるかのように、ノブナガは激しく指の出し入れをして、その指をの愛液にまみれさせた。次はクリトリスを人差し指でコリコリと刺激する。の喘ぎ声は更に大きくなって、石積みにつく彼女の腕はぷるぷると震え始めていた。
酒の酔いとのぼせた頭の所為で思考回路はぐちゃぐちゃ。止むことのないノブナガの愛撫で、体は更に快楽を求める。開きっぱなしのの口の隅からは、唾液が流れ出て、息はますます荒くなる。
「や、もう・・・だめぇ・・・!」
「どうした?。どうしてほしいか、言えるか?」
もう、理性などどこへ行ったかしらない。今はただ、好きな人に与えられる快楽を享受したい。
「も、おねがい・・・ノブナガあぁ・・・っ!ちょうだい。ノブが、欲しいの・・・!」
「ふっ・・・」
ノブナガは薄く笑って、肥大した自分の肉棒をの中へと一気に突きたてた。
「ああっ、お・・・おっきぃ・・・・っ・・・!」
「お前の中・・・キツくて、あったけぇな・・・」
最奥を突かれ、下腹部でなんとも言えない快感を得る。と、同時に背後から胸を掴まれ、先端を指の腹で遊ばれる。
「ノブ、ナガ・・・気持ちぃよ・・・、私、こんなの・・・初めてっ・・・あんっ・・・!」
「なあ、?もう、オレは限界だ。イッていいか?」
「うん・・・あっ・・・、一緒、イこ?」
その後二人は共に絶頂を迎えた。
「・・・酒の勢いって・・・はぁ・・・」
翌日、はうなだれて縁側に座り込んでいた。風呂から上がった後も、寝室で行為に勤しんだ二人だったが、酔いが完全に覚めてしまい我に返ると、改めて酒の威力を思い知るだった。
「まあ、酒の勢いであんなことするつもりじゃなかった・・・すまん」
「・・・・・・」
「愛してるんだぜ?」
「・・・・・・言うの遅いし」
「お前のこと、ずっと前から好きだったんだよ」
「・・・・・・だから、遅いってば」
告白のタイミングをあやまったノブナガは、に己の気持ちを受け入れてもらえるまで、相当な時間がかかったというのは、後のお話。