奥手な彼の想い方


「フェイ。頼まれてたの、買ってきたよ」
「・・・そこ、置いとくね」
「あ・・・うん。わかった」


 オレでも思った。アイツはに冷たい。事実、長い付き合いだというのにアイツは一度もオレに「ありがとう」とか言ったことはない。まあ、「ありがとう」と言われるようなことが無いからだろうが、は違う。フェイはこれでもかってくらい、に世話になってるんだ。


 ・・・なあ、フェイタン。オレが言うのも何だが・・・もう少しに優しくしてやったらどーだ・・・?





誰がおせっかい野朗だって?







 がフェイタンに告白したのは3週間くらい前だったか。よくホームに遊びにくるは、随分前からフェイタンが気になっていたらしく、思い悩んだ末に告白したらしい。

アイツ、女に興味なさそうだからダメだろう。てか、には悪いがフられろ!そして傷心モードのをオレが優しく慰めて・・・。なんて妄想・・・いや、計画がオレの頭の中で発展していたのにフェイタンのヤツ、案外あっさりオーケーしやがった。


 まあ、が喜んでたからそれはそれでいいんだが、何しろアイツは拷問好き且つ超ド級のサディストだから、のことが今でも物凄く心配なわけで・・・。


 それで今、(二人きりで)の相談を受けているのだった。


「お前、辛くねーのか?」
「うーん・・・そうだね。辛くはないけど、ちょっと寂しいかな」
「そーだよなぁ。それで、今日唯一の絡みがパシリだもんな」
「パシリ・・・。やっぱ、パシリなの?あれは・・・」


 まあ、夕食の材料買いに行くついでではあったものの


。ちょと買てきてほしい本があるよ」


 ・・・この一言でしかと絡んでねーしなぁ。それに、買って来たら買って来たでの方振り向きもせずにそこに置いとけって、しかも礼も言わずにだ。他のどの人間に冷たくしようと何も言わないが、流石に彼女にくらい優しさを見せて欲しいもんだよな。ダチとしては。


「でも、つきあって下さいって言ったのは私の方だし文句は言えないよ。振り向いてくれるまで、女磨くしかないでしょ」
「それで今のお前は納得してんのか?」
「納得してるって言うか・・・納得せざるを得ない状況にいるというか・・・」


 そんな簡単なもんじゃねーだろ。女心は。まあ、オレもよくわからんが。


「ねえフィンクス・・・。お願いがあるんだけど・・・」
「何だよ」


 はオレのほうを向いて・・・。ん?何か、涙目だぞ・・・泣いてんのか・・・?


「・・・フェイタンに・・・私のこと、本当はどう思ってるか聞いてきてくれない?」
「・・・オレがか」
「ダメ・・・?」
「いや、ダメじゃねぇけど、アイツ絶対オレに彼女のこと話さねぇと思うぜ」
「聞けなかったら聞けなかったでいいの。でも、なるべくしつこく食い下がってみて。それでもダメだったら・・・自分で聞きに行く」
「じゃあ、最初から自分で行けばいいだろ?」
「・・・だって、今フェイタン読書してたじゃない。それで邪魔するなって言われたら・・・もう立ち直れそうにないから」
「つまり、怒られるかどうかわかんねーけど、最初にオレに行かせてたら自分は怒られずにすむ上に、フェイタンの気持ちを知ることができる、と。そーゆーことか?」
「・・・うん」


 何だかすごく切ないポジションを任された気がする。アイツ怒らせるのは気が進まないが、今にも泣きそうなのためだ。ここはいっちょ、聞いてきてやるか。


「よっし。分かった。聞いてきてやるよ」
「ゴメンね、すごく迷惑かけちゃって・・・。本当にゴメン」
「もういいよ。そんな謝るな。しかも、そんな迷惑じゃねぇし」


 他ならねぇの頼みだし・・・な。


「ごめんね・・・本当にありがとう」


 健気なかわいらしい微笑みを見せる。どうしてこんな女をそばに置いてて理性を保ってられるのかが、オレにはよくわからんぞフェイタン。むしろ尊敬したいくらいだ。それ故に、もったいないと思う。オレの中でこの仲介はの為というよりもフェイタンを男として叱る為であるようにも思えてきた。








「入るぜー」


 さすが、フェイタンの部屋だ。部屋は薄暗い上に、蝋燭の火が妖しげに揺らめいている。尚も本を読み続けるフェイタンは、こちらに顔を向けようともせず黙々と読書に勤しんでいる。オレはわざとフェイタンを見下ろせる位置に立った。こうすると、背の低いフェイタンは怒って集中力が散漫する。


「・・・何か用か?」
「ああ。用だ」
「ささと用件を言うね。それと、目障りよ」
「だってよ、座るとこねーだろ」
「床があるね」
「このコンクリの上に座れってーのか?」
「当たり前よ。そこ以外何処があるか」


 何か、慣れてはいるものの腹立ってきた。が、今日はそんなことで言い合いをしている場合ではない。オレは早速本題に移った。しかもちゃんと地べたに座ってだ。オレ偉ッ。


「なあ、ちょっと聞きテェことあんだけどよ」
「だから、それを早く言え言てるよ」
「・・・。お前さ、正味、のことどう思ってるんだよ?」
「お前に何の関係があるね」
「今日のお前の態度見てからちょっと思ったんだよ。ちょっとに冷たくねーか?」


 そう言うと、フェイタンはやっと本から目を離し、表紙を閉じて机に置いた。


「それはに限たことじゃないよ」
「それがおかしいんだよ。普通はに限って優しくしてやるもんだろーが」
「だからそれがお前に何か関係あるのかてさきから聞いてるね。私がに冷たくしようが優しくしようが同じこと。お前には関係ないよ」


 是が非でも、オレタチの関係に首をつっこむな的オーラは消さないつもりらしい。もう臨戦状態だ。血の気が多いと言うか、喧嘩っ早いというか。そりゃオレにも言えることだが。


「じゃあもういい!仮にだ!仮にだぞ!オレがのこと襲ったらどーするよ!?」


 こうなりゃヤケクソだ。絶対にお前の本性引きずり出してやんぞフェイタン!


「それは決まてね。殺すよ」
「誰をだ!?」
「当たり前、害虫は駆除するよ」
「なあ、そう思ってんなら何でに手ぇ出さねぇんだよ!?手ぇ出すどころかそれ以前のこともやってねぇだろーがお前!キスとか見詰め合うとか、てか、会話すらまともにしてねぇだろ?可愛くねーのかが!」
「・・・・・・」


 珍しく反論してこなかった。何か、オレから目を逸らしてる。マスクで隠れてて見えないが・・・頬が少し赤い・・・?フェイタン、お前そんな顔できんのか!?やっぱりお前も男なんだなー。

「か・・・可愛いと思わないわけないよ。じゃなきゃハナから付き合うのオーケーなんかしない」
「ははーん。お前もやっぱ人の子なのなー」


 オレがニヤニヤしてフェイタンの顔を覗き込むと、露骨に嫌な顔をしてドスの効いた声でこう言った。


「・・・黙るよフィンクス。お前さきからウザイね。ささと消えるがいいよ」

「ちょー待ち。なあ、呼んでくるからよ、ちゃんと話せよ」
「・・・何でそうなるか」
がかわいそうだろ?本当はお前、のことちゃんと思ってるのによ、
 はお前に好かれてねーんじゃねぇかって心配してんだ。今日これから、ちゃんと話して伝えてやれよ。、喜ぶぞ」
「いつからお前は私との仲介人になたか」


 そう毒づくフェイタンを部屋に残しの待つ場所へ行く。


「フィンクス・・・」


 少し心配そうに上目遣いでオレを見る。ああ。やっぱりいい女は幸せになんなきゃいけねーよな。


「どうだったの・・・?」
。フェイタンとちゃんと話してこいよ」
「え?」
「今なら、お前の話ちゃんと聞いてくれると思うぜ?」







「フェイタン・・・ちょっと入るね・・・?」



 返事は無い。だから少し躊躇ったけど、その薄暗い部屋に足を踏み入れる。そこにはちゃんとファイタンがいる。珍しく、本は閉ざされて机の上に置いてあった。


「・・・か」
「うん」
「ここ、座ればいいよ」


 そう言って指差したのは、ソファーだった。しかも、二人から三人がギリギリで腰掛けられるくらいのサイズの、フェイタンの隣・・・。ぎこちなくそこに座らせてもらうと、フェイタンは前を見ながらこう言った。


は、文句ひとつ言わないね」
「・・・?」
「私、それでいい思てた。 が何も言わないから、何も文句無い思てたよ」
「フィンクスに・・・聞いたの?」


 彼は首を縦に振って答えてくれた。


「私、に嫌われたくないね。だから手出さないよ。そしたら今日アイツに言われた。何で手出さないかて。そんなの決まてる。、傷つけたくないから」


 彼は一生懸命私に伝えようとしてくれている。それはきっと、私のことを思ってるってことだ。好きだとか、そんな言葉は使わないようにして、それでも、遠まわしに好きって言ってくれてる気がする。それが、私の勘違いだっていいんだ。

今はすごく幸せな気分だから。


 私はそっと、フェイタンの手に自分の手を重ねた。すると彼はなにやら不思議そうに私を見る。


「ありがとう。フェイタン。それに気付いてくれただけでも、物凄く嬉しいよ。私、フェイタンのこと大好きだしね」


 彼は慌てて私から目を逸らし、こう呟いた。


「やぱり・・・。可愛いね」
「え?」
「・・・。傷つかないか?」
「どうゆうこと?」


 フェイタンは口からマスクを外して、軽く触れるだけの、すごく優しいキスをしてくれた。もう、それだけでよかった。言葉なんていらない。そのキスは、言葉以上の絶大な威力で、私のフェイタンに対する思いを一気に増大させた。


「フェイタンっ!大好き!」
「!!?」


 感激のあまり、勢いでフェイタンに抱きついてしまった。少し小さめの彼はガチガチに身を強張らせて固まったままだ。そうだ。彼はシャイなんだ。そうなら、私が積極的に彼への愛を伝えていくしかない。


 もう、心配なんてしない。私たちの思いは、完全に同じだって、今ちゃんとわかったから。もう怖いものなんて、何も無いから。