「あんたさぁ、彼氏とか、いい加減できないの?」
きつい香水の香りを纏い、丁寧に塗られた右手のマニキュアを眺めながら、友人はそんな他愛ない話を振ってきた。いや、いつもなら他愛ないと思えた話題。だって私はつい最近、失恋したんだ。そうじゃなきゃ、今、こんな場末のバールであんたと女二人で寂しく飲んでなんかないってのよ。だのに、あんたときたらさぁ。
「なに……あんた失恋したてのアタシにトドメ刺したいの?」
私は涙目で、鼻をすすりながらキツめのスコッチが入ったグラスを煽った。対する友人はお上品にブルゴーニュワインに軽く口を付けているだけだ。なんだ。そういうところか。私が失恋する所以はそこにあるのか。
「あんたさ、顔はいいんだから、もう少し色気出しなさいよ。そんな、ジーパンにTシャツなんて格好で一年のほとんど過ごしてるから、ダメなのよ」
「なに。あんたみたいに、後ろにジッパーの付いてるタイトなワンピース着ろって?ジッパー上から下に引き下ろして身ぐるみ剥ぐぞこのクソビッチ」
「はぁ……そーゆーとこがダメだって言ってるのよ」
「じゃー帰りに私に服買ってよ」
「んーしょうがないわね。一着だけよ」
お腹もいっぱいになって、お酒も――まだ足りないから帰りに買って帰ろう――楽しんだことだし、十九時ごろ店を出た。優しい友人はブティックに寄って一着だけ、彼女がいかにも好きそうな黒のシンプルなボディコンワンピを買ってくれた。案外、こうゆう服を着ると気分も高まるもんだと感心する。それにしても、ジーパンにTシャツ姿だった私は、足元はスニーカーのままだ。あまりにも服とミスマッチ。仕方がないので、シャンパンゴールドのレースアップハイヒールは自分で買って、どっちも身に着けて帰った。
「お金は今度返すね~」
「期待しないで待ってるわ。気を付けて帰るのよ」
期待しないでとか言ってるけど、私は基本的にお金が入ればすぐ返すようにしてるし、それがあるから彼女はきっと私に甘いんだ。それにしても彼女、今医者と付き合ってるんだって。この前街中で仕事中に、ポルシェの助手席に乗ってるの見たから嘘じゃあないのよね。ああ、羨ましい。だからこんな格好して、アジトに戻る途中でナンパされないかなぁとか期待しながら、酒屋に寄った。飲み足りない。
いつもは後ろで一個に絞ってる髪が、夜風に揺れてうざったい。……たぶん、今の私は見る人が見ればいい女だと思うんだ。そう、見てくれだけならね。だがそもそも、缶ビール片手にふらふら歩くオンナをいったいどこのだれがナンパしてくれるって言うんだろう。私が男だったら絶対に手は出さないね。
私は本業を隠して生きてる。だから、男は皆、素性の知れない女なんか、信用できないって言って――きっと裏で他の男とヤりまくってんだろうって勝手に妄想して――簡単に捨てていく。それじゃあ、同業者なら私を心から愛してくれるんじゃないかしらと、情報管理チーム随一の色男に思い切って告白したら、仕事に支障が出るとか何とか言い訳がましいこと言ってあっけなくフラれてしまった。いいんだ。私は一生、そうやって生きていくんだ。それにしても……なんて酒が進む夜なんだろう。
いつの間にか私はアジトの前に着いていたので、空になったビール缶をその場に放ってハンドバッグから鍵を取り出した。そして、がちゃりと扉を開ける。真っ暗なリビングルーム。人の気配はない。
なんだ。まだみんな帰ってきてないのか。愚痴聞いてもらおうと思ってたのに。
まだ夜の九時だし、外でみんなで飲んでんのかな。なんて思いながら、部屋の照明に明かりをともす。すると家に着いた途端、気が抜けたのか一気に酔いが回ってきた。吐きそうってまではないけど、なんだか地面が柔らかくふわふわしてる感じだ。私は履きなれていないハイヒールのせいで足を絡ませて、近くのソファーに倒れ込んでしまった。
これは後になって気づいたことだが、この場所に、いつもはチームのメンバーにも見せることの無い無防備な“オンナ”の姿で横たわっているのは非常にまずいことだった。
01: 閉ざされた世界に広がる遊び
イルーゾォは深夜の仕事のために二階で仮眠を取っていたが、ふいに目が覚めたその時に喉が渇いていたので階下のキッチンへと向かった。まどろみの内に誰かが帰ってきた音は聞いていたので、リビングには誰かいるのだろうと予想はしていた。しかし、その誰かがで、酔っていて、しかも泥の様に眠っているとは思いもしなかった。彼はひとまず当初の目的を思い出し、冷蔵庫の中から炭酸水の入った瓶を取り出し、栓を開けながらの傍に近寄っていく。
こいつぁ、相当酔っていやがる。
最初はタオルケットでもかけてやろうかと思ったイルーゾォだったが、普段ラフな格好しか見せない彼女が、ボディラインを強調したセクシーな服を身に着けて、髪を下ろした状態で、息荒めに、そして頬を赤く染めて寝息を立てているものだから、ついついその姿に見入ってしまう。
こいつ。正気か?こんな格好で男しかいねぇアジトで酔っぱらって、挙句の果てにこんな場所で無防備に寝やがって。
あまりにも不注意が過ぎる。そして、男を何だと思っているのか、と少しプライドが傷ついたように感じた。きっとこの女は、このアジトに出入りする男のことをこれっぽちも男だと認識していないのだ。だからこんなことができるのだ。彼がそう思ってからは早かった。彼の男としての衝動を抑えられる者は、他に誰もいない。
「おい。こんなとこで寝てちゃあ、風邪ひいちまうぞ」
そう言って少し強めに彼女の身体を揺さぶって、起こしにかかったイルーゾォは、眠りの浅い彼女がうっすらと目を開けるのを確認して、彼女の対面にある“姿見の中の世界”へと移る。
「ん……?イルーゾォ……?」
は尚もふわふわと浮ついた頭をゆっくりと持ち上げて、すぐそばの姿見で、自分のいるソファーの後ろにイルーゾォが立つ姿をぼんやりと確認した。彼女が重い瞼をこすってから再度目を開けると、今度はすぐ目の前のローテーブルに腰掛け、炭酸水の入った瓶を片手に持った状態のイルーゾォが、まだはっきりとしない視界のなか不敵な笑みを浮かべてこちらを見ている姿が見えた。
「なあ。なんだぁ?この格好はよぉ」
イルーゾォはV字に切り込みの入った服のおかげで露わになった彼女の胸の谷間に人差し指を差し込み、第二関節をくの字に曲げて服のへりにそれを引っ掛け、自身の方向へと引っ張った。酔った頭のせいでいまいち現状を把握しきれないは間の抜けた声を上げる。
「んふ。似合ってるー?」
「……馬子にも衣装、だな」
「それ褒めてないよねー」
「まあでも、男をやる気にさせるには十分すぎる格好だぜ」
「やる気……?」
イルーゾォは空になった瓶をローテーブルの上に置き、ゆっくりとの座るソファーへと身体を移す。が、いつになく距離が近いなあと、酒が回って火照った体で感じる彼の熱に違和感を覚えた矢先のことだ。彼の節くれ立った武骨で大きな手が、胸の谷間に滑り込んでいった。は目を白黒させて事態の把握に専念するも、乳房の先端に触れられた瞬間、思考回路が停止してしまう。
胸に這わせる手とは逆の方のイルーゾォの腕は彼女の肩を抱き、自身の身体へと彼女の上体を寄せる。そして彼は、熱のこもった吐息をの耳へ吹きかけるように囁いた。
「どうぞ召し上がれって具合に、こんなところで寝転がりやがってよォ」
「や、やだっ……アタシ、そんなつもりじゃ」
固くつんと突きあがった蕾を執拗にいじられ、は熱い吐息を漏らす。
「いやぁっ……やめ、て。こんなとこで、みんな帰ってきたらどうするのよっ、見られちゃう」
「こんなとこで、こんな格好でいるお前が悪いんだぜ。。そうだ。やらしいオメーの姿をよぉ、皆に見せてやったらどうだ?野郎どもの仕事の疲れが一気に吹っ飛ぶってもんだぜ」
「ダメっ、それだけは……許して……」
は、これが鏡の中の世界と知らないようで、本当にリビングで犯されていると勘違いしている。例え誰か他のメンバーが帰ってきたとしても、鏡を覗いてのあられもない姿を見ることができるわけでもないし、彼女の嬌声も鏡の外に漏れることもない。
ただ、恥じらいながらも快楽に善がる女の姿というのは、男の征服欲とかいう類の物を満たすのにいい材料になる。イルーゾォは普段通りに上手く力を入れられない体をくねらせて、彼を拒絶しようとするを見て、全てが終わるまで、ここが彼のスタンド能力が作り出す現実とは隔離された世界だということは教えないでおこう。と心に決めた。そもそも、しっかりと普段通りのカンが働いていれば、壁掛け時計の文字盤を見るなりして、ここがイルーゾォの能力によって作り出された世界だと知ることは可能だが、酔って正常な判断力を無くし貞操の危機に瀕している彼女には、そのことについてカンを働かせる余裕など無かった。
「やっ……ん。だめ。乳首、だめぇっ……」
「ダメ?ぜんぜんダメそうじゃあねぇが、お前がそう言うなら」
女の服でワンピースと言われる物の何がいいって、労せずして簡単にショーツを脱がしにかかれるところだ。そう思いながら、はやる気持ちを抑えイルーゾォは彼女の適度に太く張りのある太ももをゆっくりと撫で上げ、己の指を彼女の中心へと近づけていった。伸縮性に富んだスカート生地は彼の手を弾き返すことなく簡単に受け入れ、既に湿って熱気のこもったそこに触れることを許してしまう。そろそろとショーツの表面を撫ぜると彼の指もうっすらと湿り気を帯びた。ここに自分のナニを突き入れたらどれだけ気持ちがいいのだろうと想像力を掻き立てるそれは、イルーゾォをさらに興奮させた。
のぷっくりと膨らんだ恥丘を撫で、その柔らかさを一通り楽しんだ後、彼はショーツのキワから指を滑り込ませ、ぐっしょりと濡れたそこをすじに沿って撫で上げた。指を少し浮かせて、すじに沿って指を宛がう動作を繰り返すと、くちくちと淫猥な音が微かに聞こえてくる。さらに、宛がった指を少し上にスライドさせると、小さな蕾に触れた。その上で力を抜いて小刻みに指を動かしてやると、は悲鳴にも似た矯声を上げ、与えられる快楽に耐えようと、自身の股座に伸びるイルーゾォの腕にしがみつく。
「ふっ……んっあっ、や、ダメだめだめっ、そこもっとだめぇ……」
「ならどこならイイんだ?。教えてくれよ」
イルーゾォは、そう言う割にはの答えなどはなから求めていないかのように、彼女の秘部に宛がっていた指をゆっくりとその奥へと運ぶ。そして、熱く濡れそぼったそこに指の付け根までを埋めると、手前にくいと指を折ったり伸ばしたりと、中を掻くように刺激を与えた。何度も繰り返されるその動きは尿意に似た感覚をに呼び起こさせる。
「や、だめ。ソファー、汚れちゃう。やめてイルーゾォ。お願いっ……あっ、あぁっ、だめ、だめっ」
酒のせいで緩んだ尿道から、透明の液体がじわじわと溢れ出て、イルーゾォの手のひらを濡らす。ひくひくと小刻みに体を揺らすに、体液が滴る自身の手のひらをわざと見せつけ、彼は更にの羞恥心を煽っていった。
「おいおいおい。なんだぁ?こりゃ」
「いや、ごめんなさい。ごめんなさい、もう、許してっ……」
「いや。許さないぜ、。皆が使うソファーまで潮で汚しやがってよォ?ああ、ここは確か……プロシュートの定位置だぜ。あいつこんなこと知ったらどんなツラすると思う?」
「言わないでっ!お願いっ」
「恥ずかしいよなぁ?これからお前、毎日どんな目で見られることになると思う?」
「なんでも……何でもするから、お願い……」
“何でもする。”そう言った彼女は、イルーゾォが、皆が寛いだり、真面目に仕事の話をするために集まったりするこの場所で、性行為に及んだという事実を皆に言いふらすのだと解釈した。そして、黙っていて欲しいのか?という彼の問いに対して、あまりにも大きな代償を提示してしまったことに、後になって気づくのだが、それは彼女の身体からアルコールが代謝されきった後のことだ。別に好き好んでこんな場所で行為に及んでいるわけではないし、むしろ代償を払われるべきはこちらだと、冷静に思考することすらままなっていない。もちろん、イルーゾォが「言わないで欲しい」という一言で、簡単に事を終わらせるつもりが無いことは明確だ。つまるところ、彼の嗜虐的欲求を満たすのに、彼女の返答はおつりがくるほどに十分なものだった。
「おいおいおい。何でも?マジに言ってんのかよ」
「ふたりの秘密に、してくれるなら……」
「そうか……分かった」
の背を乱暴に座面に押し付け、イルーゾォは自分の下半身から既に昂った己の雄を取り出した。
「ちょっ……待って、それは」
「お前の言う何でもって、じゃあ何なんだよ」
「っ……待って、ゴムは?」
イルーゾォがの問いに答えることは無かった。彼の熱く猛ったモノの圧迫感、それが根元まで打ち付けられた後、彼の先端が子宮口付近を突く感覚。彼女は答えを得られないことに意義を唱える間もなく、次々と与えられる快感に息を詰まらせる。
「ひどいよぉ……あっ……あぁ、だめっ、も……やだぁ」
瞳にうっすらと涙を浮かばせた、抵抗する意思を完全になくしたような力ない彼女の表情はとても扇情的で、彼のモノはの中でさらに質量を増していく。何度も抜き差しされるそれは、彼女が今まで一度も感じたことがないほどの圧迫感で、酒気を帯びた彼女を簡単に絶頂へと近づけてしまう。
「おい、。もういっちまうのか?オレは置いてけぼりかよ?なあ」
「イルーゾォ、あんたっ……あぁ、んっ、んっ、んあっ」
「ああ?何が言いてェんだっ」
ガツンと音がしそうなほどに打ち付けられたそれで、は一度果てる。熱に浮かされた頭で、こんなに早くイッたのは初めてだと思ったが、感慨深く余韻に浸る間も与えられることなく、イルーゾォの動きはさらに激しくなっていった。右腿を下から支えられる形で持ち上げられ、彼女の左側面だけがソファーの座面に沈む。挿入されたまま背後に回られ、イルーゾォは優しく、うっすらと汗に濡れたのうなじに口づける。下半身の激しい動きとは真逆の優しい行為だ。そして、荒々しい動きで彼女の身体が自分から離れてしまわないように、羽交い締めるように右手で胸を揉みしだきながら律動を続けた。
「ねっ……もう、私、イッちゃったっ……てばぁっ、あっ、だめ、だめぇっ……変に、なるっ……もう、だめぇっ」
「オレはまだイケてねぇよ。それにしても、なあ。お前のエロい声が外に漏れるぞ。ああ、もしかしたらよォ、もう既に誰か帰ってきててよォっ……、玄関の扉の前でお前の声聞きながら、自分のナニしごいてるかもなぁ?……っ誰だろーなぁ?リゾットか?ギアッチョ、メローネ?……それともホルマジオか、プロシュートか……。ふははっ……はたまたペッシか?アイツならきっと秒でフィニッシュしてることだろうぜッ」
は酷く羞恥心を煽られ、とっさに口を右手で覆うものの、尚も激しく打ち付けられる快感に抗うことができず、いまの今まで頭の片隅でまだ少しは働いていた理性は跡形も無く熱に溶けていく。
「ああ、たまんねぇ。、お前がこんな、やらしい女だったなんてよぉ……っ、今の今まで気づきもしなかったぜ……。たまんねぇ、たまんねぇよ」
幾度となく絶頂に追いやられ、力が抜けていくの身体だったが、力が抜けるほどに敏感になってしまい切ない喘ぎ以外、声と呼べるものを発することができなくなっていた。早く、果ててほしい。もう中に出したって構いやしないから、早く、早く射精して、私の身体から離れてくれ。そう懇願しても、もはや弛緩した口元からは唾液以外が出てこない。共用のソファーは、もはや前戯で彼女の尿道から噴出した、十五ミリリットル程度の前立腺液で汚れたどころの話ではないほどに、汗と唾液と結合部分からあふれ出た体液にまみれていた。
「ああっ……そろそろだぜ。どうする?中に出しちゃあ、まずい、よなぁ?でも、これ以上……この共用の、ソファーも汚したかねェ……だろ?」
ああ。やっとか。私は、ここで、こんなことをイルーゾォとしたって事実さえ、隠蔽できれば、それでいい。だから、もう、遅いかもしれないけれど……。
「中に……出してっ……!」
イルーゾォはしてやったりといった表情をちらと見せたが、徐々に今までの余裕綽々といった表情は無くなっていき、最後に一度激しく彼女の奥に雄を打ち付け、そのまま己の欲を吐き出した。はイルーゾォの腕の中で何も考えず、荒い呼吸を整えようと静止する。やがて、ずるりと大きかったモノが中から抜けていく感覚に身を震わせた。どろりとした熱く白い体液が、ゆっくりと膣口から垂れていく。
ああ……バカだ、アタシ……。
いつものラフな格好でいれば、こんなことにはならなかったに違いない。絶対そうだ。なんて日だ。男にフラれた挙句の果てにこの仕打ち。……アフターピルって本当に効果あるのかな。明日朝一番に産婦人科行ってみよう……。
徐々に冷静さを取り戻し、いろいろと考えを巡らせる彼女だったが、もはや後の祭りだ。
「……放して」
駅の改札に設置された回転バーのように、押しのければ胸元に覆いかぶさる腕は簡単に動いたので、彼女は腕を背後に回し、白濁した体液が溢れ出ないよう股に手を当て起き上がる。そのまま近くのティッシュペーパーを二、三枚取って、白濁したイルーゾォの体液を拭い取った。
「なんだ……連れねぇな。普通、オンナの方が余韻にひたりたいもんだろ……」
「いま自分のバカさ加減に絶望してるところだから、それどころじゃあないのよね」
彼女は早くシャワーを浴びたかった。その前にやらなければならないこともある。ソファーだ。ソファーをはやくどうにかしないといけないのだ。幸い誰もまだ帰ってきていないようだし。と、ふと彼女は壁掛け時計を見やる。すると、普通と違うことに気づく。文字盤も、針の動きも、鏡に映ったように、全てが真逆なのだ。
「イルーゾォ。……これ」
「ふっ……やっと気づいたかよ?」
「……じゃあなによ。声も何も、外には聞こえないじゃないのよ」
「ああ。そうだな」
「……もう、やだぁあああああ」
「なあ。。一つ提案なんだがよォ」
「何よ。ふざけんじゃあないわよ。あんたほんと死になさいよマジで」
「お前、オレと付き合わないか」
「……はぁ!?」
「体の相性も抜群、だったしよ。それに――」
イルーゾォはソファーに腰掛けて項垂れるを後ろから抱きしめ、耳元で熱っぽく呟きはじめた。
「――今日のお前、すげぇ可愛かったぜ。オレは、そんなお前をこれからもっと見てみてぇし、それに……そんな表情を、オレだけが知ってるってことにしときてぇ。正直な話、今日のお前のエロい格好を最初に見たのが、オレじゃなくて、他の誰かだったらって思うとよォ。はらわたが煮えくり返りそうなんだよ。オレじゃあなくったって、チームの野郎全員、きっとオレみたいにお前を襲ったと思うんだよ」
「いや、こんな能力持ってるあんた以外、実行はしないと思うわ」
「実行はしなくてもよ、なんとかてめーの部屋に連れこめねぇかって画策はすると思うぜ」
こんなの、反則だ。ダメだ、。思いとどまれ。ここで、この男の言うことを真に受けて、交際をスタートしたところで、ダッチワイフよろしく性欲処理の道具にされて捨てられるだけだぞ。そんなの惨めじゃないか。私にだって、プライドってもんがあるんだ。でも、こんなこと、今更言っても遅いのでは……?
はまたぐるぐると考えを巡らせる。巡らせた結果、この男に抗おうと抗うまいと今の自分が惨めであることに変わりはなく、抗わず誘いに乗って慰めてもらう方がまだ精神衛生上マシなのではないだろうか。という結論に至った。
「あんた、ほんと卑怯よね」
「あ?答えになってねぇだろ。どういう意味だ」
「いいわよ。付き合ってあげる。ただ、ゴムは今度からちゃんとしてよね。妊娠なんて……」
「妊娠したら産休とか取れるか、リーダーに聞いとくか?」
は何を間抜けなことを言っているんだと、とっさに彼の方を振り向き睨みつけるのだが、案外真面目な顔でこちらを見つめるイルーゾォの表情にドキリとする。
「いいか?お前を妊娠させていいのはこのオレ様だけだ。だから、こんなエロい格好、他の男の前で見せるんじゃあねぇ」
こ……この男、どこまで本気か分からない。のめり込むと、ろくなことにならなそう。
がそんなことを考えるのは、彼が持つ色気にあてられて、彼自身にのめり込んでしまいかねないという一抹の不安が脳裏を過ったからに違いはない。イルーゾォは、分かったな?と念押しで呟いて、頷いた彼女の唇に触れるだけの優しいキスを落とす。そんな彼の胸に今は抱かれていたいと思ったのも、他の男にフラれたから、今は慰めて欲しいだけだからなんだと言い訳をして、は頭を撫でようと頭に宛がわれた彼の大きな手のひらを大人しく受け入れた。
彼の鏡の世界から出るのはそんなに急がなくてもいいかもしれないとが思えたのは、彼の胸に抱かれ、彼の体温を感じて心地よいと思えたからであって、それがイルーゾォという男にのめり込む前の第一段階であったことは言うまでもない。